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祈りの残響(ECHOES OF PRAYER)  作者: みえない糸
第2章 殺すことを選んだ祓い

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第17話「救われる側の席」 その3 手を差し伸べる声

 真名井梓は、集会所の前で足を止めた。


 昼間だというのに、建物の周囲だけ光が鈍い。

 影が、濃く沈んでいる。


(……呼ばれている、というより)


 胸の奥が、微かに引かれる。


 嫌悪ではない。

 恐怖でもない。


 むしろ、

 「入ってもいい」と言われている感覚。


「……厄介ですね」


 独り言は、自然と敬語になる。


 八鍵を起動すると、波形は安定していた。

 暴走も、侵食もない。


 それが、逆に異常だ。


 梓は、静かに中へ入った。


 中は、がらんとしている。

 椅子は並んでいるが、埃は少ない。


 最近まで、

 人が座っていた痕跡。


 だが、

 “荒れ”がない。


 恐怖で逃げた形跡も、

 暴力で連れ去られた形跡もない。


(……自分で、座っている)


 中央に立つと、

 空気が、ふっと柔らかくなる。


 誰かが、

 すぐ後ろに立った気配。


 振り返る必要はなかった。


《……疲れていませんか》


 声は、優しい。


 責めない。

 問い詰めない。


 ただ、

 気遣う。


 梓は、深く息を吸った。


「……お気遣い、どうも」


 落ち着いた声。

 感情を乗せすぎない。


「ですが、

 私はまだ、立てています」


《……無理をしているように見えます》


「仕事ですから」


 即答だった。


 その瞬間、

 空気が、ほんのわずかに揺れた。


 拒絶された。


 それだけで、

 この残響は“梓を対象外”と判断した。


《……あなたは、選ばれていません》


 声が、少しだけ遠のく。


「……選ぶ、という言い方は」


 梓は、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「誰かを、

 置き去りにします」


《……救えない者は、救わない》


 その言葉に、

 梓の眉が、ほんの僅かに動いた。


「……それは、救済ではありません」


 静かな否定。


「都合の良い、隔離です」


 空気が、冷えた。


 声が、複数に重なる。


《……戻らなくていい……》


《……ここにいれば……》


《……評価される……》


 梓は、視線を落とした。


 床に、

 薄い影が、幾重にも重なっている。


 座っている人間の影だ。


 だが、

 本体はいない。


(……精神だけ、ここにいる)


 身体は、現実世界のどこかで、

 眠っているか、

 動かなくなっている。


 梓は、唇を噛みしめた。


「……戻れます」


 声は、はっきりしていた。


「戻って、

 また失敗して、

 また否定されて」


 一拍、置く。


「それでも、

 生きている限り、やり直せます」


 影が、ざわめいた。


《……それは、残酷だ……》


《……もう、傷つきたくない……》


 梓は、首を振る。


「……はい。残酷です」


 逃げない。


「ですが、

 ここに留まる方が、

 もっと残酷です」


 その瞬間、

 空間が、わずかに歪んだ。


 残響は、

 “説得されかけている”。


 だが、

 同時に、

 別の気配が割り込んでくる。


 鋭く、冷たい。


 切断の気配。


(……来ましたね)


 梓は、目を閉じた。


 次に来るのは、

 “手を引く者”ではない。


 “席を壊す者”だ。

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