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祈りの残響(ECHOES OF PRAYER)  作者: みえない糸
第2章 殺すことを選んだ祓い

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第17話「救われる側の席」 その1 選ばれた夜

 夜中に目が覚めたのは、

 誰かに呼ばれた気がしたからだった。


 名前ではない。

 声ですらない。


 ただ、

 「こちらだ」という確信だけが、

 胸の奥に残っている。


 男は、布団から起き上がった。


 時計を見る。

 午前三時。


 いつもなら、

 眠りが最も深い時間だ。


 だが、

 頭は冴えている。


 身体も、軽い。


(……行かなきゃ)


 理由は分からない。

 だが、行くべきだと分かっている。


 男は、静かに家を出た。


 街は、眠っていた。


 コンビニの明かり。

 遠くの信号。

 風に揺れる街路樹。


 だが、不安はない。


 むしろ、

 奇妙な安心感があった。


(……迎えに来てくれる)


 誰が、とは考えない。


 考えなくていい。


 歩いているうちに、

 見覚えのない道に入っていた。


 だが、

 迷ったという感覚はない。


 むしろ、

 「やっと着いた」という感覚に近い。


 古い建物の前で、

 足が止まる。


 廃業した教会。

 あるいは、

 集会所だったのかもしれない。


 扉は、

 最初から開いていた。


 中に入ると、

 暖かい。


 誰かが、

 そこにいる。


 複数の人影。


 全員が、

 同じ方向を向いて座っている。


 中央には、

 何もない。


 壇上も、

 十字架も、

 像もない。


 ただ、

 “場所”だけがある。


《……よく来たね》


 声が、

 頭の内側に直接届いた。


 優しい声。


 否定しない声。


 責めない声。


《……ここは、

 選ばれた人だけが来られる》


 男の胸が、

 熱くなる。


(……選ばれた)


 その言葉だけで、

 これまでの人生が、

 すべて肯定された気がした。


 失敗。

 後悔。

 誰にも評価されなかった努力。


 それらが、

 一瞬で意味を持つ。


《……君は、十分に苦しんだ》


《……もう、

 現実に戻らなくていい》


 周囲を見ると、

 他の人間も、

 同じ顔をしている。


 安堵。

 救済。


 涙を流している者もいる。


 男は、

 ゆっくりと座った。


 ここにいれば、

 比べられない。


 否定されない。


 役に立たなくてもいい。


(……救われる)


 その瞬間。


 床が、

 わずかに沈んだ。


 気づいたのは、

 ほんの一瞬だけ。


 次の瞬間、

 男の意識は、

 柔らかい闇に包まれた。

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