表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈りの残響(ECHOES OF PRAYER)  作者: みえない糸
第1章 世界はまだ、正しく壊れている

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/93

第6話「影の消える交差点」  その3喰われる輪郭

 最初は、「疲れているだけだ」と思っていた。


 高校二年の**佐伯悠斗さえき ゆうと**は、

 夜の塾帰り、いつものようにイヤホンで音楽を聴きながら歩いていた。

 その日はテスト前で、帰りが少し遅くなっていた。


 駅前の明るい広場を抜け、

 繁華街を過ぎ、

 それから例の交差点の近くへ差し掛かった時だ。


「あれ……?」


 違和感に、悠斗は立ち止まった。


 街灯の下を歩いているのに、

 “自分の影がどこにも見えない”。


 足元を見ても、

 横を見ても、

 周囲をぐるりと見渡しても──影がない。


「は……?」


 スマホを取り出し、カメラを起動する。

 画面の自分は普通に映っている。

 けれど、画面下の地面には影が落ちていなかった。


 まるで、切り抜かれたように、白い。


(おかしい……

 加工? 故障? いや、現実に影がない……)


 血の気が引く。

 頭の奥が急に冷え、

 背中を汗が伝う。


 その時だった。


「見つけた……」


 どこからともなく、声がした。

 低い男の声。

 しかし、聞こえた方向は“前”でも“後ろ”でもない。

 頭の内側で、直接響いたような声。


「……誰?」


 振り返った。

 誰もいない。


「よく来たな……生きている者……

 影のない者よ……」


 足元を見た瞬間、

 地面に“何かの黒い指先”が触れた。


「っ……!」


 悠斗は飛び退いた。

 その指先は地面の影から伸びてきたように見えた。

 光が当たっていないのではない──影が“裏側から”めくれているのだ。


「影を……返せ……

 いや……奪わせろ……

 おまえの影……重い……甘い……」


 足元のアスファルトがざわりと揺れる。


 影が、動いている。


(逃げなきゃ……!)


 悠斗は走り出した。

 イヤホンが外れ、スマホが手から滑り落ち、

 コンクリートにぶつかって跳ねた。


 背後から“ザザ……ザザ……”と何かが擦れる音。


 振り返れない。


(助けて……誰か……!)


 息が切れ、視界が揺れる。

 人通りはまばらだ。

 深夜の大通り、コンビニの看板だけが浮かび上がる。


 その時──


 追いつかれた。


 走っている最中なのに、

 目の前の路面が“影”に染まる。

 道路標識や街灯の光が歪み、映像のノイズのように滲む。


 影が、足元に吸い寄せられてくる。


「ま、待って──やだ……やだやだ……!」


 喉が詰まり、声が裏返る。


 身体が硬直する。

 膝が勝手に折れ、地面に手をついた。


「影……くれ……

 影を……くれ……!」


 影の塊が、悠斗の足首に触れた。


 触れた瞬間、意識が遠のく。

 視界の端から色が抜け、白黒の世界に変わる。


「ひ……っ……!」


 涙がこぼれた。


(影を……喰われる……

 消える……

 俺、いなくなる……?)


 その時だ。


 影が、一瞬だけ動きを止めた。


 目の前の影が、揺れる。

 影の奥に“誰かの顔”が浮かぶ。


 江戸期のような髷。

 黒衣。

 無表情──だが、目だけが異様に鋭い。


こうべを差し出せば……

 影は返そう……」


「いや……いやぁ……!」


 もう声にならない声。

 呼吸が乱れ、喉が痛む。

 世界がぐらぐらと揺れる。


 その時、耳元で“パチッ”と何かが弾ける音がした。


 影が弾かれた。


 まぶしい光が、悠斗の顔に降り注ぐ。


「大丈夫。

 あなたはまだ、生きています」


 聞いたことのない女性の声が、柔らかく響いた。

 次の瞬間、意識がぷつりと途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ