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祈りの残響(ECHOES OF PRAYER)  作者: みえない糸
第1章 世界はまだ、正しく壊れている

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番外編 寄生型残響・藤田宏和事件 その1消せる力

最初は、運がいいだけだと思っていた。


藤田宏和(ふじたかずひろ)は自分の手を見ながら、そんなことを考えていた。

タバコの煙の向こうで、薄汚れたテーブルの木目が歪んでいる。


数か月前まではただの下っ端だった。

使いっぱしり。

荷物運び。

威勢だけの脅し役。


それが今じゃ、若頭の席の横に呼ばれる立場だ。


理由はひとつしかない。


——消せるからだ。


最初にそれを知ったのは、夜の路地だった。


敵対組織のチンピラ五人に囲まれたとき、

いつもなら殴られて終わるところだった。


「お前とこ、調子乗りすぎなんだよ」


そう言われて、腹を蹴られた。


その瞬間、

ポケットの中に突っ込んでいたスマホが、勝手に震えた。


誰からでもない。

着信でも通知でもない。


ただ、画面が光った。


そこには——

見覚えのないテキストデータが一行だけ表示されていた。


《EXECUTE》


意味はわからなかった。

でも、指が自然にそれをタップした。


次の瞬間、

囲んでいた男の一人が、突然崩れ落ちた。


痙攣して、

喉を掻きむしって、

そのまま白目を剥いて動かなくなった。


「……は?」


残りの連中が固まる暇もなく、

画面に文字が流れた。


《TARGET CONFIRMED》

《CONTINUE?》


藤田は何も考えなかった。


考える前に、

親指が動いていた。


タップ。


次の男も倒れた。

まるで何かに“内側”から潰されたように。


残りの三人は悲鳴をあげて逃げた。


藤田はその場に座り込みながら、

笑っていた。


怖くなかった。


むしろ、

身体の芯が熱くなっていた。


「……これ、使えるじゃねぇか」


それが始まりだ。


そこからの出世は速かった。


敵対組織の構成員が突然死する。

幹部が精神を壊す。

夜道で誰も見ていない場所で、ありえない形で倒れる。


誰も証拠を掴めない。


でも裏では、

藤田が“何かを持っている”という噂が広がった。


上は気づく。


使う。


藤田は“前に出る役”になった。


——消す役だ。


「藤田、次はあいつだ」


若頭にそう言われるたび、

スマホの中の“それ”が反応する。


アプリでもない。

プログラムでもない。


ただの、

行の集合。


それだけなのに。


藤田はそれを“呪いコード”と呼び始めた。


なぜそう呼んだのかは、自分でもよくわからない。


頭では、便利なツールだと理解している。

だが、どこかでずっとわかっている。


これは、

普通の力じゃない。


次第に、身体に変化が出た。


鏡を見ると、

顔つきが少しずつ変わっている。


頬が落ちて、

目が必要以上に開いている。


クマではない、

影が増えている。


舌の感覚がおかしくなった。


言葉が、

少しだけ滑りやすい。


色が、妙に濃く見える。


肉の色。

血の色。

夜の闇。


「……気のせいだろ」


そう自分に言い聞かせる。


だが心の奥で、

わかっていた。


自分の中に、

別の“何か”が住み始めているのを。


ただ、それでも指は止まらない。


止められない。


だってこの力は、

俺の人生を変えたんだ。


ゴミだった俺が、

今じゃ幹部だ。


金もある。

女もいる。

家もある。


家族もできた。


二年前にできた女と、

その子供。


二人を見るたびに思う。


「もう消される側にはならねぇ」


俺は、

消す側なんだ。


スマホの画面が、

薄暗い室内で光る。


勝手に。


《NEXT TARGET IDENTIFIED》


藤田は笑った。


怖さじゃない。


その感情は、

もう別の名前だった。


——快感だった。

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