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祈りの残響(ECHOES OF PRAYER)――都市怪異を修正する祓屋の記録  作者: みえない糸
第3章 修正できなかった世界
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第27話 奪う者と狩る者 その6 水谷真、狩る理由

 封札を内ポケットに収め、水谷真は歩き出した。


 別件の残穢は処理済み。

 中森からの新件座標は頭に入っている。


 真刀徳次郎。


 寄生型。


 快楽殺人者。


 水谷はゆっくり息を吐いた。


 狩る対象が変わるだけだ。


 やることは同じ。


 奪う者がいれば、狩る者がいる。


 それだけの話だ。


 震災で歪んだ街は、夜になると別の顔を見せる。

 停電区域。

 仮設灯の死角。

 誰も近づかない暗がり。


 残響は、そういう隙間に滞留する。


 水谷は屋上へ跳び、そこから現場方向を見渡した。


 遠くに、赤色灯が瞬いている。


 もう始まっている。


 胸の奥が、わずかに軋んだ。


 あの断片。


 雨。


 背中。


 残響を憎む執念。


 水谷は目を閉じる。


(……関係ない)


 狩る理由に、物語は要らない。


 自分は中森の刃だ。


 残穢を回収し、封じ、渡す。


 なぜ中森がそれを必要としているのか。

 深くは聞かない。


 だが、知ってはいる。


 薬。


 進行を止めるだけの抑制。


 完全な修正ではない。


 延命。


 時間稼ぎ。


 水谷は自分の掌を見つめた。


 黒い粒子がまだ微かに残っている。


 残穢。


 濃いほど価値がある。


 強い個体ほど、濃度は高い。


 真刀徳次郎。


 質は、確かに良い。


「……狩る」


 小さく言う。


 それ以上の感情は乗せない。


 だが足が止まった。


 路地の壁に、亀裂がある。


 斬撃痕。


 浅い。


 だが角度が綺麗すぎる。


 遊んでいる。


 試している。


 切れ味を確かめている。


 水谷は眉をわずかに動かした。


 快楽殺人者。


 同情の余地がない。


 むしろ、狩りやすい。


 理屈では動かない。


 説得も効かない。


 だから迷わない。


 ふと、胸の奥にまたノイズが走る。


 今度ははっきりしている。


 紫の閃光。


 空気が裂ける感触。


 誰かの呼吸。


 斬る前の、刹那の躊躇。


 水谷の指が止まる。


(……誰だ?)


 だが身体は理解している。


 踏み込み。


 刃筋。


 重心の移動。


 知らないはずの感覚。


 水谷は壁を拳で叩いた。


 鈍い音が響く。


「……雑音だ」


 自分に言い聞かせる。


 自分ではない誰かの記憶。


 それが何を意味するのか、考えない。


 必要ない。


 狩る者に過去は不要だ。


 水谷は跳躍する。


 屋根から屋根へ。


 音を立てず、影を滑る。


 遠くで悲鳴が上がった。


 女の声。


 すぐに途切れる。


 徳次郎は速い。


 水谷は着地し、血の匂いを辿る。


 そして、ようやく思う。


 なぜ自分は狩っているのか。


 命令だからか。


 残穢が必要だからか。


 それだけではない。


 狩る瞬間、

 胸の奥のノイズが静まる。


 あの背中の残像が、薄くなる。


 だから狩る。


 理由は、それで十分だ。


 水谷真の銀髪が夜に溶ける。


 刃を構える。


 奪う者がいる。


 ならば、狩る者がいる。


 それが自分だ。


 そう思うことで、

 自分の輪郭を保っている。


 真刀徳次郎。


 次は、お前だ。


 水谷は闇へ踏み込んだ。

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