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祈りの残響(ECHOES OF PRAYER)  作者: みえない糸
第1章 世界はまだ、正しく壊れている

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第3話 受胎型残響・左眼連続殺人事件 その5 残された人格

精神領域は、静かに裂けていた。


梓の祓詞(ふつし)が織った修正構文。

そして、結衣の削除構文。


二つの論理が衝突しているのではない。

ただ世界の扱い方が違うだけだった。


「……止めて」


梓は言う。


「まだ、分離層に余地がある」


結衣は目も向けない。


「余地は不安定要素」


「残せば、再発する」


「それは統計の問題です」


梓は一歩踏み込んだ。


「対象者の人格消失のリスクは、高すぎます」


結衣の視線が、初めて梓に向く。


感情はない。

ただ、評価だけがある。


「すでに六割汚染されている」


「残すほうが不確定」


「私は不確定を消す」


影が、嘲るように歪む。


「ほら」


「やっぱりそっち側だ」


梓は構え直す。


「私は……」


「修正する側です」


その瞬間、

結衣の端末が起動した。


梓とはまったく違う構文。

祝詞(のりと)というより 切断命令 に近い。


空気が真っ白に凍った。


「——削除」


結衣の声は、低く、それだけだった。


構文が走る。

受胎型残響は抵抗すらしない。


「……また育つよ」


影はそう言って、静かに解けた。


次の瞬間、精神領域が崩れ、

梓の意識は現実へと引き戻された。



「……梓!」


名前を呼ばれて目を開ける。


薬品棚。床。蛍光灯。

理科準備室の冷たい空気。


高峰がすぐ傍にしゃがんでいた。


「起きられるか」


「……ええ」


ゆっくり体を起こす。


「対象は?」


梓の視線が、部屋の隅へ向く。


椅子に座る高校生。

生きているが、焦点を結んでいない。


「命は助かった」


高峰は短く言った。


「だが、意識の整合は取れてない」


「今は保護者に連絡して、

 医療機関に引き渡す段階だ」


医者の診断は、まだ出ていない。

今はあくまで警察としての初期対応。


「……人格は?」


高峰は少し間を置く。


「自我の反応が弱い。

 断片はあるが、連続性がない」


「今のところは“重度の解離状態の可能性”として扱う」


梓は目を伏せた。


命は助かっても、

人格は帰ってこないかもしれない。


それが、受胎型残響の結果。


「……結衣は?」


思わず、口に出る。


高峰は首を振った。


「消えたよ」


「入ってきた形跡も残ってない」


「映像にも、ログにもな」


梓は静かに息を吐いた。


やはり、痕跡を残さない。

まるで削除する側の人間だ。


その時、端末が振動した。


【中森さん】


通話を繋ぐ。


「……派手にやったわね」


『だろ?』


「結衣の祓詞で終わりました」


『あいつはそういうやつだ』


少しだけ間。


『…なあ梓』


「何」


『あれと同じタイプを、あいつは追っている』


『お前が今見た残響と』


梓の視線がわずかに上がる。


「……そうなんですね」


そこまで言って、言葉を止めた。


深くは聞かない。

まだ、その権限はない。


『いまは詳しくはまだ渡せん…

 だが、覚えておけ』


『受胎型は、ひとつ潰しても終わらん』


静かに通話が切れた。



事件は、表向きこう処理された。


「模倣犯による連続女性殺人」

「容疑者行方不明」

「捜査継続中」


だが真実は違う。


犯人は、もう消えた。


ただ、

人の中の何かを削り取って。


夕暮れの校門前。

学生たちの笑い声が流れていく。


梓はひとりで歩きながら、小さく呟いた。


「……受胎、か」


次は、どこで育っているのか。


それだけが、気にかかっていた。

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