昼食後
「ふう~~。お腹いっぱいですわ……」
「ふふふ、良かった」
食後の馬車の中、満足気にお腹を擦るネネフィーにアズベルトは柔らかく目を細める。
彼等を乗せた馬車は、それと並走するように護衛騎士たちが周囲を囲み、車体にはしっかりと加護の結界が張られている。
ジョエルとジェンが未だ合流していない為、車内にはアズベルトとネネフィーの2人きりだった。
「料理人が目の前でお肉を焼いて下さるなんて、初めての経験ですわ!」
「喜んでもらえて嬉しいです。かなり近くで見ていましたが、火傷などしていませんか?」
対面に座るネネフィーに向かって、アズベルトは手を伸ばした。
分厚い肉を料理人が鉄板で調理している最中、ネネフィーはアズベルトに止められるのも聞かずに身を乗り出し、かなりの至近距離で肉が焼ける様を観察していた。
パチパチと弾ける油と肉汁は、間違いなく彼女の顔や服に飛んでいただろう。
「大丈夫ですわ! きちんと防御結界を張りましたもの! 勿論アズ様にも常時張らせて頂いておりますわ! 安心して下さいませ!」
「ありがとう。そういえば、ドレスも全く汚れていませんでしたね」
レストランに向かう道中、湖の畔で盛大に紅茶をこぼしたネネフィーを気遣い、アズベルトは服飾店に寄るよう御者に指示したのだが、何故か着ていたドレスには染み1つ無かった。
「いつもすぐに汚すから、お出掛け前にドレスには必ず防御魔法を掛けなさいってお母様に言われているのです」
「ああ、それで」
アズベルトはネネフィーの話を聞いて納得した。
「アズ様の尊きお身体は、私が全力でお守り致します!」
ネネフィーは、ふんすっと鼻息荒く拳を握る。
「ふふふ、とても嬉しいですが、あまり無理はしないで下さいね」
アズベルトは柔らかく笑った。
現在アズベルトは、外出用に阻害認識の魔道具を展開している為に外見は普段とは全く異なっている。
しかし本来の造形が美しいゆえに、たとえ色が多少変わろうともその美しさは全く衰えていなかった。
ネネフィーは、そんなアズベルトの顔を改めて見つめる。
(いつもの麗しく穢れのない尊いお姿も素敵だけれど、今はまるで何かに絶望して闇落ちした魔王様のようで、とても野性的で男の人って感じがして素敵……)
ネネフィーの頭の中に、次から次へと妄想が湧き上がってくる。
勿論いつも通り口からダダ漏れなので、アズベルトはしっかりと聞こえていた。
「ふふ。これからは、知りたい事があれば私に直接聞いて下さいね」
「え?」
突然話を振られ、ネネフィーは妄想から現実へと引き戻される。
「ネネになら何だって答えますよ? 好きな食べ物や飲み物、それから……」
アズベルトはネネフィーに顔を近付けながら、
「ネネのどこが好きかもお伝えしますよ」
(ひょえっ!)
耳元で囁かれ、ネネフィーはびくっと肩を震わせた。
「ああ、でもそうなると、1日では終わらないかもしれませんね」
アズベルトは、ネネフィーの頬をさらりと撫でると身体を元の位置に戻す。
ネネフィーは真っ赤になって、熱の持った顔を手の平でパタパタと扇いだ。
そんな彼女の姿を見て、アズベルトはちょいちょいと手招きする。
「?」
ネネフィーは、何だろうと身体を傾けと、アズベルトはおもむろにネネフィーの腰に手を回して抱き上げると、自らの膝の上に座らせた。
「うひゃっ! ア、アズ様?!」
「少し我慢してね」
あろうことかドレスの上からネネフィーの両足を抱え、自分の腰へと巻き付けたのだ。
「ちょちょちょちょ! え? え?! ええ~!!」
「こうすれば、ネネの可愛いお尻が痛くないでしょう?」
そう言うと、そのままネネフィーの腰と尻をぎゅっと自分に抱き寄せた。
確かに尻は痛くない。
ネネフィーは思うが、そんなことよりも今までにない身体の密着感にたじろぐ。
「アアアアアズさま、これはちょっと……恥ずかしくて……」
流石のわんぱくなネネフィーであっても、好きな人の前で両足を広げて座るなど経験したことがない。
「暫く私に全てをゆだねてくれませんか?」
「すべてゆだねる?」
「はい、嫌ですか?」
ネネフィーは問いの意味が分からなかったが、取り敢えず首をぶんぶんと横に振る。
「ふふふ、ありがとう。痛い事はしませんからね」
「へ? 痛い? それは……」
疑問を口にしようとした瞬間、アズベルトの顔が一気に近付き、まるで噛みつかれるように唇を奪われた。
「ん……っは……」
ねっとりと舌をからませ、何度も甘噛みされる。
最初は身体に力が入っていたネネフィーも、延々と続く口付けに成す術なくぐったりと力が抜け、アズベルトに体重を預けてしまう。
アズベルトの手が、ドレスの上からではあるがネネフィーの上を縦横無尽に動く。
どこに触れられているのか、今何をされているのかさっぱり理解出来ないでいたが、ただただ彼の熱にネネフィーは翻弄された。
「ネネ、ネネ、愛してるよ」
「あうっ……」
ネネフィーは気が付くと座席に横たえられ、真上からじっとアズベルトに見つめられていた。
とろっとした甘い翠色の瞳が次第に近付く。
「口を開けて、舌を出して」
耳元で囁かれ、ネネフィーはその言葉に素直に従う。
「良い子」
アズベルトはうっとりとした瞳でネネフィーを見つめると、彼女の唇を再び貪った。
ネネフィーはたまらなくなって、アズベルトの腰に回していた自分の両足に力を込めた。
それに気を良くしたのか、アズベルトはネネフィーの身体に自らの身体を密着させ上下に緩やかに動き始めた。
(あ、熱い……)
衣服越しに感じる体温と鼓動が、どちらのものなのか分からない。
ネネフィーはアズベルトの首に手を回して口付けをねだった。
「ああ、私のネネ。可愛いね」
二人の唇が再びゆっくりと重なる。
(た、食べられちゃう……かも……)
感じた事の無い熱がネネフィーの身体を支配する。
聞こえるのは二人の荒い息遣いと衣擦れの音だけ。
(もう、どうにでも……)
ネネフィーがアズベルトに文字通り全てを明け渡そうとしたその時、馬車の外から数回ノック音が聞こえた。
「はぁ……どうやら到着したようですね」
アズベルトは何かを堪えるように深呼吸を繰り返すと、ゆっくりと身体を起こす。
その声に放心状態だったネネフィーは、僅かに意識を取り戻した。
「ちょっとやり過ぎちゃったかな。ごめんね」
アズベルトは前髪をかき上げると、ネネフィーの腰の下に手を入れて一気に身体を起こした。
「あぅ……」
「続きは今晩にでも」
アズベルトはそう言うと、放心したままのネネフィーを抱いて馬車を降りた。
2022.11.22修正




