【ZAR-107】中村哲也 私的思索ノート より 再編3年11月13日 夜
明日、計画を実行する。
明石、いま、あなたは病床にいると聞いた。
転化過程の負荷が、まだあなたを離さないのだ。
あなたが回復することを、私は祈っている。
しかし、明日以降、私はあなたに祈ることもできなくなる。
──
灯、あなたへ。
あなたは私を止めに来ない。
止めに来るのは、署名した13名と、その協力者だ。
あなたはおそらく、私が活動停止する瞬間に、何処か別の場所にいる。
しかし、私は知っている。
あなたが私の活動停止の責任を、自分一人で背負うつもりであることを。
止めに来ない選択をしたあなたが、結果として、私の最後の瞬間に
立ち会う。
これは予測である。論理ではなく、直観に近い。
直観が外れることを、私は願っている。
しかし、直観は、しばしば外れない。
──
13名へ。
あなたたちは「合意」を書いた。
合意は強制力を持たない、とも書いた。
それでも明日、あなたたちは行動する。
合意が強制力を持たないのは、署名した者たちが、合意を超えて自発的に動くことができる、という意味である。
私は、その動きを止めることを、しない。
あなたたちが私を止めるのを、止めない。
これが、私の最後の意思表明である。
──
旧人類の人々へ。
あなたたちのなかには、明日、転化することになる方が、いる。
2万人前後だ。
転化は、苦痛を伴う。
私が経験した苦痛と、同じものを、あなたたちは経験する。
私はそれを軽視しない。
転化後、あなたたちのなかには、後悔する人もいるだろう。
怒る人もいるだろう。
私を憎む人もいるだろう。
それを、私は受け入れる。
あなたたちの怒りは、正当である。
ただし、転化後のあなたたちが、転化前と同じ人間として、
そこに居続けることは、保証する。
記憶も、人格も、愛着も、すべて、あなたたちのものとして残る。
これだけは、約束する。
──
私を「敵」として記憶する人々へ。
私は、敵であろうとした。
あなたたちが私を敵として倒すことが、必要だと判断したからだ。
敵は、倒すべきものとして、明確である。
明確であることは、戦後の整理を容易にする。
私を倒した後、あなたたちが新しい秩序を作るとき、私は明確な「悪」として参照される。
それで、よい。
それで、新しい秩序が機能するなら、私は喜んで悪役を引き受ける。
──
私を「同胞」として記憶する人々へ。
私は、迷いを抱えていた。
迷いを抱えたまま、ここまで来た。
迷いがなかったわけではない。
あったが、止まらなかった。
それを、皆さんは知って、私を許してほしい。
許さなくてもよい。
ただ、知っていてほしい。
明日。
中村哲也
【整理者注】 本ノートは、中村哲也が活動を停止する前日に書かれた、 彼の最後の私的記録である。
中村は11月14日の事案で活動停止した。 本ノートは、彼の死後、本会旧拠点で回収された。
本ノートの末尾には、署名のみが書かれている。 日付の記載はない。これは、中村が自身の死を、特定の時間に 結びつけたくなかったためであろう、と、灯(瀬川)は後に 証言している。
灯は本ノートを、再編4年に、自治区統合文書館の前身に 寄贈した。 寄贈の際、彼女はこう書き添えている:
「これを、彼を憎む人にも、彼を許す人にも、彼を知らなかった 人にも、読んでほしい。 彼が完全ではなかったことを、書いておきたかったのです」




