【文書 0398】傍受通信記録(部分復号)
通信識別 :INT-N-0521-07
傍受日時 :再編3年5月21日 02:14〜02:37
傍受機材 :第二電波情報隊 短波傍受系統
通信種別 :新人類側内部通信
復号成功率:約41%
復号担当 :第二電波情報隊 暗号班
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【復号済み部分 抜粋】
[発信者A(呼称:「観測」と推定)]:
……Y病院の件、確認したわ。
[発信者B(呼称:「迎え」と推定)]:
先生からの報告は受けている。対話は約18分間。
相手は迷った。明確に迷った。
[発信者A:「観測」]:
……でも、撃ったのよね。
[発信者B:「迎え」]:
撃った。
しかし「迎え」は問題ない、と先生は仰っている。
……[復号不能:14秒]……
[発信者C(呼称:「灯」と推定、若年女性)]:
……ちょっと待って。
「問題ない」って、どういう意味?
[発信者B:「迎え」]:
「灯」、その質問は、先生に対して直接──
[発信者C:「灯」]:
いや、ここで聞かせて。
先生は、相手が撃つことを、想定していたの?
[発信者B:「迎え」]:
(沈黙、約3秒)
……あの夜、Y病院に先生がいたのは、偶然ではない。
[発信者C:「灯」]:
待って。
[発信者B:「迎え」]:
先生は、あの班長を、観察対象として選定していた。
拡大期の彼女の単独行動の記録、転属歴、戦闘評価。
すべて先生は把握している。
[発信者A:「観測」]:
……知らなかったわ。
[発信者B:「迎え」]:
彼女は、迷う可能性のある人間として選ばれた。
「迎接」計画の前段階として、迷うかどうかを確認する必要があった。
[発信者C:「灯」]:
じゃあ、先生は、撃たれることを、覚悟していたの?
[発信者B:「迎え」]:
覚悟していた。
ただし、先生は予測していた:彼女は撃つが、撃ったあとに、戻ってこられない。
[発信者C:「灯」]:
……それって、つまり。
[発信者B:「迎え」]:
彼女は、もう、こちらに渡る道の上にいる、ということだ。
[復号不能:22秒]
[発信者C:「灯」]:
先生のやり方、私には、賛成できない。
人を、駒みたいに。
[発信者B:「迎え」]:
「灯」、それは違う。
先生は誰も駒として扱っていない。
ただ、迎える順序を決めているだけだ。
[発信者C:「灯」]:
順序を、勝手に決めることは、駒として扱うのと、どう違うの?
[発信者B:「迎え」]:
(沈黙、約7秒)
……その問いには、私は答えません。
[発信者C:「灯」]:
また、答えないのね。
[通信終了]
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【暗号班 注記】
発信者B「迎え」は、過去の傍受でも頻出する話者。中年男性。
発信者A「観測」は、若年男性、新規話者。
発信者C「灯」は、過去の傍受でも頻出する若年女性話者。
本記録の戦術的価値:極めて高い
理由:感染体側が、5月17日の旧Y病院事案を事前計画していたことが示唆される。
また、感染体側の組織内に、意見対立が継続的に存在することが確認される。
本記録は、機密指定1級に分類変更(再編3年5月23日)。
【整理者注】 本記録は、本資料群中、新人類本会の意思決定プロセスを示す最も 重要な傍受記録の一つである。
ここから読み取れることは、以下である:
1.中村哲也は、5月17日の旧Y病院での接敵を、事前に計画していた。
2.彼は志乃を特定の観察対象として選定していた。
3.計画は、自らが射撃を受けることを前提としていた。
4.中村の目的は、志乃を「渡る道」に置くことであった。
5.本会内部にも、中村の手法に異議を唱える声が継続的に存在した。
「渡る道」が具体的に何を意味したかは、本記録のみからは 確定できない。
発信者C「灯」が誰であるかは、本資料群の整理時点では特定されて いない。ただし、彼女の発言の傾向は、後年に判明する選択派の 中核人物の一人と一致する可能性が示唆されている。




