第28章 野営 〔冒険者視点〕
ダスクホールの城門を出たのは、朝早くだった。
十数人の列だった。
荷運びと予備を含めれば、それなりの規模になる。
だが、実際にダンジョンへ踏み込むのは、その中の一握りだけだ。
ガルドは先頭近くを歩きながら、後ろを一度振り返った。
ロウェンが軽い足取りでついてくる。
セリアは荷の重さを気にする様子もなく、涼しい顔をしている。
ダンとミラは並んで何か話している。
最後尾近く、ノアが緊張した面持ちで足元ばかり見ていた。
「そんなに硬くなるな」
ガルドが声をかけると、ノアはびくりと肩を上げた。
「……すみません」
「謝ることじゃない。初めての大遠征だろう」
「はい」
「緊張してるうちは、まだ大丈夫だ。慣れきった頃の方が危ない」
ノアは小さく頷いたが、表情はほとんど変わらなかった。
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列の少し離れた位置を、一人だけ違う歩調で歩く男がいた。
大剣を背負った長身。誰とも言葉を交わさない。
ロウェンがガルドの隣に来て、声を落とした。
「あれが、噂の」
「ああ」
「一緒に組む気は、なさそうだな」
「最初からそういう男らしい」
ガルドは前を見たまま言った。
「向こうがどう動くかは、向こうの勝手だ。俺たちは俺たちの仕事をする」
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昼過ぎ、一度休憩を挟んだ。
荷運びの一人が水を配って回る中、ミラがガルドのそばに来た。
「道案内の彼女、大丈夫でしょうか」
視線の先に、リサがいた。
少し離れた岩に腰掛け、地図を広げている。
「一度、生き残ってる」
ガルドは短く答えた。
「二度目の方が、きついこともあると思いますけど」
「本人が申し出た話だ。無理にとは言えない」
ミラは頷いたが、納得しきった顔ではなかった。
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休憩の終わり際、ダンがリサに近づいた。
「入口までの道、覚えてます?」
「……覚えてる」
短い返事だった。
「無理にとは言いません。俺たちだけでも行けるところまでは行けます」
リサは地図を折りたたんだ。
「入口までは、案内する。約束したことだから」
それ以上は、何も言わなかった。
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日が傾き始めた頃、隊列は森を抜けて岩場に出た。
先を歩いていた斥候が戻ってきて、ガルドに報告した。
「この先、開けた岩棚があります。今夜はそこで」
「距離は」
「山頂まで、あと半日。明日の朝には着けるかと」
ガルドが頷いた。
「野営の準備だ」
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火を囲んだのは、六人だった。
支援と予備の者たちは、少し離れた場所に別の火を起こしている。
セリアが焚き木に手をかざし、小さな炎を作って火をつけた。
「毎回思うけど、便利よね、これ」
「お前がやると早いからな」ロウェンが言った。「マッチより速い」
「魔法をマッチ扱いしないでよ」
軽い笑いが起きた。
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食事を終えた頃、ノアがぽつりと口を開いた。
「あの……聞いてもいいですか」
「なんだ」
「未確認拠点って、本当にそんなに厄介なんですか。前に潰した奴らも、結局は……」
「消えたわけだ」
ガルドが遮った。
ノアが口をつぐんだ。
「潰した、じゃない。返ってこなかった」
火を見つめたまま、ガルドが続けた。
「捜索隊も、それより前の奴らも、痕跡すら残さず消えた。理由は分かっていない」
「……だから、今回はBランクが三人」
「だからだ」
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セリアが話に加わった。
「未確認にしては、育ちが早いって話でしょ。ヴァン副所長が言ってた」
「そうらしいな」
「短期間でここまで育つダンジョンって、あんまり聞いたことない」
ロウェンが肩をすくめた。
「育ちが早い分、まだ層は薄いはずだ。中堅ダンジョンほど手強くはならない——理屈の上では」
「理屈の上では、ね」
セリアが火に小枝を放り込んだ。
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ミラが、少し離れた場所に座るリサへ視線を向けた。
「あなたが見た範囲だけでも、教えてもらえます?」
リサは、しばらく黙っていた。
「入って、すぐの部屋に罠がある。暗くなる罠と、落とし穴」
「それだけ?」
「……次の部屋には、獣がいた」
「獣」
「詳しくは、見ていない。仲間が、そこで」
言葉が途切れた。
誰も、それ以上は聞かなかった。
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ダンが場をほぐすように、軽い口調で言った。
「まあ、今回は装備も編成も違いますからね。前回とは別物ですよ」
「その通りだ」
ガルドが頷いた。
「俺たちは前回の情報を持っている。向こうは持っていない前提で来る。それだけでも、優位は取れる」
「……はい」
ノアの声が、少しだけ落ち着いた。
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夜が更けて、火の番を交代することになった。
最初の番は、ロウェンとダンが引き受けた。
残りの者は、荷物を枕に横になった。
ガルドは眠る前、少しだけ離れた場所に座るゼインを見た。
火にも当たらず、壁に背を預けて目を閉じている。
眠っているのか、そうでないのか、分からなかった。
「……あんたはどうする気だ」
小さく聞いてみたが、返事はなかった。
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風が、岩棚の上を通り抜けていった。
火が、小さく揺れた。
ノアの寝息が、少しずつ規則的になっていく。
明日には、山頂へ着く。
そこから先は、誰にも分からない道だった。
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夜明け前、ガルドは一度目を覚ました。
火はまだ小さく残っていた。
見張りの位置に、リサが座っていた。
眠らずに、地図を膝の上に広げたまま、闇の先を見つめていた。
ガルドは、何も言わずに目を閉じた。
■ あとがき — 第28章 ダンジョンレポート
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【ダンジョン構造(変更点)】
変更なし(人物視点章・ダスクホール出発〜野営のみ)
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【戦力配置(変更点)】
変更なし
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【PT収支】
変動なし(人物視点章のため)
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【新規登場人物】
■ 討伐隊本隊(全員、第26章で全滅済み・凪視点では氏名不明のまま処理済み)
ガルド :Bランク・盾持ち・本隊リーダー
ロウェン :Bランク・双剣使い
セリア :Bランク・攻撃魔法(火)使い
ダン :Cランク・弓/斥候
ミラ :Cランク・補助魔法(風)
ノア :Dランク上がりの見習い剣士・最年少
■ 道案内(第21章生存者、既出人物に氏名を追加)
リサ :Cランク・後衛(魔法使い系)・第21章の生き残り。第26〜27章の唯一の生存者。
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【重要イベント】
■ ダスクホール出発・山中を一日行軍・岩棚で野営
ガルドの統率、リサの重い沈黙、ノアの緊張、ゼインが誰とも組まず単独行動を貫く様子を描写
ゼインの離脱(本隊とは別行動で先行する布石)を、本隊側の視点からも示した
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【通貨変動】
変動なし




