第15章 接触
明け方の空が灰白みを帯び始めた頃、ダンジョンへ戻った。
鹿を二頭、野兎を三匹。
夜の四時間を使った成果として、許容範囲に収まる。
```
[ 外部討伐確認:野生獣 × 5 ]
[ 獲得PT:+8 ]
[ 残PT:38 PT ]
```
前室を通ったとき、影狼が床から目だけを持ち上げた。
脇腹の包帯は乾いていた。
コアバットは通路の天井に張り付き、翼を収めたまま動かない。
アラクニアとサンダーウルフは所定の位置に留まっていた。
状態確認は十秒で終わった。
問題ない。
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昼前、ダンジョン奥の間に腰を落ち着けて、
手持ちの資産を整理した。
核の管理画面を開き、召喚済みの☆モンスターの一覧を引き出す。
ダストゴースト、コボルトスカウト、
スティングビー、ベノムラット、ドレインバット——
維持費ゼロ。召喚コストも既に支払済みだ。
防衛目的で召喚したが、用途はそれだけではない。
外に送り出せば、コストをかけずに稼ぎ続ける。
外部狩猟隊の編成を決めた。
斥候班:ダストゴースト×2・コボルトスカウト×1
狩猟班:スティングビー×3・ベノムラット×3・ドレインバット×2
ダストゴーストは視覚では発見されない。
コボルトスカウトは地形情報を全員に共有する。
どちらも斥候に向く。
命令は短く渡した。
「山の北側を周り、獣を狩れ。
人間には近づくな。夜明けまでに戻れ」
九体の群れが静かにダンジョンを出ていった。
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日が中天に差し掛かった頃、自分もダンジョンを出た。
連れていくのはマインドフレイヤーとシャドウレイスの二体だ。
マインドフレイヤーは知性体として命令精度が高く、
細かい指示が通る。
事前に役割を渡した。
「俺の合図で動け。
ターゲットの精神的な緊張を取り除け。
判断はするな。それだけでいい」
シャドウレイスは暗所でのみ実体化できる。
昼間は存在しないに等しい。
日が落ちてから使う。
外套のフードを引き上げて、山道を下った。
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感知の首飾りが微かに反応したのは、三時間後だった。
人型の気配。一つ。建物の中にいる。
木立の陰から確認した。
石積みの農家が一棟、草地の端に立っている。
煙突から細い煙が出ていた。
鶏が数羽、庭を歩いている。馬はいない。
出入りする気配は一つだけだ。
独り暮らし。
条件として悪くない。
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日が落ちてから動いた。
マインドフレイヤーを建物の外、五メートルの位置で止めた。
薄い石壁越しでも、精神干渉の作用は届く。
事前に確認済みだった。
シャドウレイスは実体化させ、建物の裏に回した。
逃げ道を封じる意味よりも、索敵のためだ。
扉を叩いた。
間があった。
「……誰だ」
「旅の者です。道に迷いました。
一晩、休ませてもらえませんか」
鍵が外れる音がした。
扉が開いた。
六十を過ぎた男が立っていた。
肩幅が広く、首から顎にかけて古い傷跡がある。
元冒険者だろうと、一目で分かった。
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室内に通された。
薪が燃えていた。
テーブルに夕食の食器が残っている。
壁に年季の入った片手剣が掛けてあった。
刃は丁寧に手入れされている。
引退しても、捨てていない。
「遠くから来たのか」
「ええ。北の方から」
男の目の警戒が、会話を重ねるうちに薄れていくのが、
感知を通じてぼんやりと分かった。
マインドフレイヤーが機能している。
戦闘での洗脳は強制的で短時間の干渉だが、
非戦闘状態の、抵抗のない対象への作用は性質が異なる。
信頼感を高め、精神の緊張を取り除く。
それだけで十分だ。
男は自然に話し続けた。
確認したいことを頭の中で並べた。
一つ。ダンジョンマスターについての世界の常識。
人間がなり得るという認識が存在するかどうか。
二つ。モンスターの強さの格付け。
この世界がどの程度まで把握しているか。
三つ。街への入り方。
どんな証明が要るか、抜け道はあるか。
四つ。ギルドの動き。
Bランク失踪の件がどこまで広まっているか。
それだけ取れれば十分だ。
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「この辺りのダンジョンのことは聞いているか」
男が顔を上げた。
「ああ、東の山に核が出たそうだ。
ギルドが色めき立っている」
「ダンジョンマスターというのは、
どういった存在がなるものだ」
男は少し考えてから口を開いた。
「魔物だよ。
何でもいい、魔物なら核と繋がれるらしい。
スライム程度でもなれるという話は聞いたことがある。
ただ知性のない奴がなったダンジョンは単純でな、
罠も配置もでたらめで、長続きしない。
発展するダンジョンはやはり知性のある奴が管理している。
でかいところになると、ドラゴンがなっているという例もある。
報告例はすべて魔物だ。
少なくとも俺は人間がなったという話は聞いたことがない」
「現役のころ、そういうダンジョンに入ったことがある。
奥に近づくほど罠が精巧になって、
逃げ道を塞ぐように追い込んでくる。
あれは知性がなければ組めない代物だった」
「人間がなることはあるか」
男は即答した。
「ない。
そんな話は聞いたことがない。
どの本にも書いていない。
ダンジョンは魔物のものだ」
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記録した。
人間がダンジョンマスターになることは、
この世界のどの文献にも記録されていない。
そういう事態を想定した対処が、どこにも存在しない。
想定外の存在は、想定外の行動を取れる。
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「モンスターの強さには格のようなものがあるか」
「ある。ギルドが等級を決めている。
低い方から数えて七段階だ」
「それぞれ、どんな魔物がいる」
男は指を折りながら答えた。
「厳密には七段階の下に、等級外の連中がいる。
スライムや野良の鼠みたいな連中だ。
個体で人間を殺せるほどじゃない。
群れてやっと危ない、その程度だ。
一段目は弱いゴブリンや小型の獣。
Dランクの駆け出し冒険者が仕事を覚える相手だな。
二段目——俺が現役でよく相手にしたのがここまでだ。
骸骨の兵士、闇の狼、組織だって動くゴブリンの集団。
単純に強くて、動きに連携がある。
Cランクが四、五人いれば対処できる」
「三段目から上は」
「見たことはあるが、戦ったことはない。
リザードマン、ゾンビ化した騎士、
知性を持って魔法を使う類の魔物がそこに入る。
相手にするにはBランク以上が要る。
四段目になるとオーガやミノタウルスが出てくる。
個体が強すぎて、Aランクが複数いないと正面から削れない。
五段目は竜の成体や、強力な死霊使いクラスだ。
SランクかSSランク級が何人もいなければ、
まず勝てないと思った方がいい。
六段目と七段目は——俺は話でしか知らないが、
冒険者の手に余る。国が動く話だ。
七段目に至っては発見の記録すら少ない。
存在するのかどうかも、定かじゃない」
「国が動く」
「ギルドだけでは手が負えなくなるからな。
俺が知っている例だと、隣の領で軍が出たことがあった。
六段目の魔物が核と繋がったダンジョンでな。
被害が出た集落は三つ。
それで学んで、早い段階でギルドに報告するようになった」
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「この辺りで一番大きな街はどこだ」
「ダスクホールだな。
ギルドの支部もある。辺境じゃ一番でかい」
「そこに入るには何が必要か」
男が答えた。
「旅人なら昼の間は入れる。
入門時に一日税を払えばいい。
夜間の滞在や複数日の商いには許可証が要る」
「許可証は?」
「ギルドの登録証か、商人の許可証。
なければ地元の者の保証書でも通る」
「保証書は誰でも書けるのか」
「書けるが、書いた側が責任を持つことになる。
見知らぬ者には普通は書かない」
---
「ギルドの動きはどうだ。
最近、何か変わったことはあったか」
男の表情が少し曇った。
「Bランクのパーティが消えたそうだ。
東の山に入って、帰ってこない。
ギルドがそのダンジョンの危険度を上げた。
次に来るのは、もっと上の連中かもしれない」
「いつのことだ」
「先月の終わりごろだったか。
街ではまだ噂になっている」
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情報を整理しながら、試した。
核への接続を、遠隔から試みた。
ダンジョンまでの直線距離は十キロメートルを超える。
一度も、これだけ離れた状態で接続を試みたことはなかった。
繋がった。
影狼の状態が流れ込んできた。
脇腹の傷の回復具合、体温、呼吸。
コアバットの位置。前室の温度変化。
どれも鮮明だった。
通知が来た。
```
[ 遠隔管理モード — 有効 ]
[ 距離に関わらず、核との通信を維持します ]
[ ダンジョン状態の確認、および基本命令の送信 ]
[ が距離を問わず実行可能です ]
[ ※複雑な命令は近接時より精度が低下します ]
```
初めて来た通知だった。
物理的な距離は、核との接続に影響しない。
ここから命令を出しながら別の行動が取れる。
ダンジョンに縛られる必要はない。
試しに影狼へ命令を送った。
「立て」
二秒の遅延があった。
その後、感知の中で影狼が起き上がるのが分かった。
使える。
---
男に向き直った。
「世話になった。一つ頼みたい」
男が顔を上げた。
「旅の商いをしているが、
ダスクホールに知り合いがいない。
保証書を一枚書いてもらえないか。
宿を取るためだけに使う」
男はしばらく間を置いた。
「それくらいなら」
立ち上がり、棚から羊皮紙を取り出した。
インク壺に筆を浸して、迷わず書き始めた。
---
農家を出たのは夜が更けてからだった。
羊皮紙がポーチに収まっている。
書かれた名前は「ライ」——
外国人の通称として通じる、短い名前を選んだ。
男の文章には、北の地方から来た商取引の旅人で、
信用できる人物であると記されていた。
それで十分だ。
マインドフレイヤーとシャドウレイスを引き連れ、
山道を戻り始めた。
男は翌朝、旅人に保証書を書いたことを覚えているだろう。
不自然な記憶の空白もない。
ただ、理由を深く考えることはないはずだった。
---
ダンジョンに帰り着いたのは深夜だった。
入れ違いに、狩猟隊が戻った。
```
[ 自動計上:維持費 ]
[ 影狼 × 1 :-1 PT ]
[ アラクニア × 1 :-1 PT ]
[ サンダーウルフ × 1 :-1 PT ]
[ ゴースト・ガーディアン × 1:-3 PT ]
[ 残PT:32 PT ]
```
続いて、狩猟隊の報告が上がってきた。
```
[ 外部討伐確認:野生獣 × 20 ]
[ 外部討伐確認:魔物 × 18 ]
[ 獲得PT:+50 ]
[ 残PT:82 PT ]
```
野生獣だけでなく、近隣に出没していた魔物も狩ったようだった。
スティングビーの群れ攻撃と、ベノムラットの毒が効いたのだろう。
一日で五十二PT積み上げた。
維持費を差し引いても黒字だ。
収益の仕組みは動いている。
---
ダスクホールへの入口は確保できた。
問題は次だ。
ギルドの様子を見る。
Bランクの失踪がどの程度まで広まっているか、
次の討伐隊がいつ来るかの見当をつける。
核の外部感知がどこまで届くかを確認する。
次にやることは三つある。
それだけだ。
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【ダンジョン構造(変更点)】
変更なし
【経路】
入口
↓ 通路(5m)
入口の間(10m×10m)
↓ 通路(5m)
前室(10m×10m)
↓
ダンジョンマスターの間(10m×10m) → DM生活区画(3×4m)
前室
↓ 通路(5m)
空き部屋(10m×10m)
【配置詳細】
◇入口の間:暗闘罠×2 / 落とし穴×2 / 毒霧散布罠×1
◇通路(入口⇔前室):コアバット×1(右翼重傷・療養中)
◇前室:影狼×1(脇腹裂傷・回復中)/ アラクニア×1 / サンダーウルフ×1 / ゴースト・ガーディアン×1
◇空き部屋:未設置
◇ダンジョンマスターの間:ダンジョン核
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【戦力配置(変更点)】
変更なし(外部狩猟隊は☆モンスターで維持費ゼロのため配置扱い外)
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【PT収支】
章開始時PT:30 PT
凪の夜間狩り帰還:+8 PT(鹿×2・野兎×3)
維持費(1日) :-6 PT
外部狩猟隊成果 :+50 PT(野生獣×20・魔物×18)
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章終了時PT:82 PT
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【外部狩猟隊(第15章編成)】
斥候班:ダストゴースト×2・コボルトスカウト×1
狩猟班:スティングビー×3・ベノムラット×3・ドレインバット×2
維持費:0PT/日(全員☆)
成果:野生獣×20・魔物×18 / +50PT(初回出撃)
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【新規システム解放】
■ 遠隔管理モード(初登場)
ダンジョンから約10km離れた地点で核への接続を試みたとき初通知。
距離に関わらず核との通信・状態確認・基本命令送信が可能。
複雑な命令は近接時より精度が低下。
凪が農家でモンスターに遠隔命令(影狼「立て」)を試し、機能を確認。
■ 農家潜入に使用したモンスター
・マインドフレイヤー:建物外5mで待機。石壁越しに精神干渉を実施
・シャドウレイス :建物裏で実体化。逃走防止・索敵担当
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【情報収集結果(マインドフレイヤー活用)】
■ ダンジョンマスターに関する世界常識
・魔物なら種類を問わず核と繋がれる(スライムでもなれるという話がある)
・知性のない個体がなったダンジョンは単純で長続きしない
・発展するダンジョンは知性のある魔物が管理している
・大型ダンジョンはドラゴンがDMという例も報告あり
・報告例はすべて魔物。人間がDMになった事例は存在しない
・対人間DM用の対処プロトコルも存在しない
■ モンスター強さ格付け(ギルド七段階等級)
情報提供者:元冒険者の農家男性(三段目まで現役で経験)
ギルド等級 │ 代表的な魔物・特徴・対処目安
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☆なし │ スライム・野良の鼠など。脅威として等級外。
│ 個体では人への害はほぼなく、群れて初めて危険になる程度
│ 冒険者ランク目安:登録前の一般人でも対処可
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☆ │ 小型の獣・弱いゴブリンなど。
│ 武装した成人ひとりで対処できる。冒険者の入門域
│ 冒険者ランク目安:Dランク(新人・駆け出し)
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☆☆ │ 骸骨の兵士・闇の狼・組織だったゴブリン集団など。
│ 単純な強さに加え連携がある
│ 冒険者ランク目安:Cランク4〜5人編成が基本
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☆☆☆ │ リザードマン・ゾンビ騎士・魔法を使う魔物など。
│ 知性・魔法・耐久が揃い始める
│ 冒険者ランク目安:Bランク以上のパーティが必要
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☆☆☆☆ │ オーガ・ミノタウルス・トロール級など。
│ 個体の戦闘力が突出しており、小規模パーティでは正面から勝てない
│ 冒険者ランク目安:Aランク複数名、または大規模編成での討伐が基本
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☆☆☆☆☆ │ 竜の成体・強力な死霊使いなど。
│ 広域への被害が発生しうる。長期戦・消耗戦は避けられない
│ 冒険者ランク目安:SランクまたはSS級の伝説の冒険者が複数名でなければ
│ まず勝てない。国が動く規模
──────────────────────────────────────
☆☆☆☆☆☆以上 │ 伝説を超えた存在。古竜・神話級の魔物など。
│ 冒険者では対処不可の領域。国家連合・英雄級の介入が必要
│ 発見例がほぼなく、記録より口伝が多い(今後実装予定)
※ DMがなっているモンスターのランクがダンジョン危険度に直結する
■ ダスクホール入市条件
・日中の短期滞在:一日税を払えば入城可能
・夜間滞在・複数日の商い:ギルド証 or 商人許可証 or 地元保証書が必要
・今回取得:農家男性(元冒険者)による保証書(凪の偽名「ライ」宛)
・偽装設定:北の地方から来た商取引の旅人・信用できる人物と記載
・農家の男は翌朝も保証書を書いた記憶を持つ(精神干渉による記憶の空白なし)
■ ギルドの動向
・Bランクパーティ失踪の噂が街に広まっている
・ダンジョン危険度がギルドにより引き上げ済み
・次の討伐隊は上位ランクの可能性あり




