表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵の覇主  作者: aaaa


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/21

第15章 接触

明け方の空が灰白みを帯び始めた頃、ダンジョンへ戻った。


鹿を二頭、野兎を三匹。

夜の四時間を使った成果として、許容範囲に収まる。


```

[ 外部討伐確認:野生獣 × 5 ]

[ 獲得PT:+8 ]

[ 残PT:38 PT ]

```


前室を通ったとき、影狼が床から目だけを持ち上げた。

脇腹の包帯は乾いていた。

コアバットは通路の天井に張り付き、翼を収めたまま動かない。

アラクニアとサンダーウルフは所定の位置に留まっていた。


状態確認は十秒で終わった。

問題ない。


---


昼前、ダンジョン奥の間に腰を落ち着けて、

手持ちの資産を整理した。


核の管理画面を開き、召喚済みの☆モンスターの一覧を引き出す。


ダストゴースト、コボルトスカウト、

スティングビー、ベノムラット、ドレインバット——


維持費ゼロ。召喚コストも既に支払済みだ。


防衛目的で召喚したが、用途はそれだけではない。

外に送り出せば、コストをかけずに稼ぎ続ける。


外部狩猟隊の編成を決めた。


 斥候班:ダストゴースト×2・コボルトスカウト×1

 狩猟班:スティングビー×3・ベノムラット×3・ドレインバット×2


ダストゴーストは視覚では発見されない。

コボルトスカウトは地形情報を全員に共有する。

どちらも斥候に向く。


命令は短く渡した。


「山の北側を周り、獣を狩れ。

人間には近づくな。夜明けまでに戻れ」


九体の群れが静かにダンジョンを出ていった。


---


日が中天に差し掛かった頃、自分もダンジョンを出た。


連れていくのはマインドフレイヤーとシャドウレイスの二体だ。


マインドフレイヤーは知性体として命令精度が高く、

細かい指示が通る。

事前に役割を渡した。


「俺の合図で動け。

ターゲットの精神的な緊張を取り除け。

判断はするな。それだけでいい」


シャドウレイスは暗所でのみ実体化できる。

昼間は存在しないに等しい。

日が落ちてから使う。


外套のフードを引き上げて、山道を下った。


---


感知の首飾りが微かに反応したのは、三時間後だった。


人型の気配。一つ。建物の中にいる。


木立の陰から確認した。

石積みの農家が一棟、草地の端に立っている。

煙突から細い煙が出ていた。

鶏が数羽、庭を歩いている。馬はいない。


出入りする気配は一つだけだ。


独り暮らし。

条件として悪くない。


---


日が落ちてから動いた。


マインドフレイヤーを建物の外、五メートルの位置で止めた。

薄い石壁越しでも、精神干渉の作用は届く。

事前に確認済みだった。


シャドウレイスは実体化させ、建物の裏に回した。

逃げ道を封じる意味よりも、索敵のためだ。


扉を叩いた。


間があった。


「……誰だ」


「旅の者です。道に迷いました。

一晩、休ませてもらえませんか」


鍵が外れる音がした。

扉が開いた。


六十を過ぎた男が立っていた。

肩幅が広く、首から顎にかけて古い傷跡がある。

元冒険者だろうと、一目で分かった。


---


室内に通された。


薪が燃えていた。

テーブルに夕食の食器が残っている。

壁に年季の入った片手剣が掛けてあった。

刃は丁寧に手入れされている。


引退しても、捨てていない。


「遠くから来たのか」


「ええ。北の方から」


男の目の警戒が、会話を重ねるうちに薄れていくのが、

感知を通じてぼんやりと分かった。


マインドフレイヤーが機能している。


戦闘での洗脳は強制的で短時間の干渉だが、

非戦闘状態の、抵抗のない対象への作用は性質が異なる。

信頼感を高め、精神の緊張を取り除く。

それだけで十分だ。


男は自然に話し続けた。


確認したいことを頭の中で並べた。


一つ。ダンジョンマスターについての世界の常識。

人間がなり得るという認識が存在するかどうか。


二つ。モンスターの強さの格付け。

この世界がどの程度まで把握しているか。


三つ。街への入り方。

どんな証明が要るか、抜け道はあるか。


四つ。ギルドの動き。

Bランク失踪の件がどこまで広まっているか。


それだけ取れれば十分だ。


---


「この辺りのダンジョンのことは聞いているか」


男が顔を上げた。

「ああ、東の山に核が出たそうだ。

ギルドが色めき立っている」


「ダンジョンマスターというのは、

どういった存在がなるものだ」


男は少し考えてから口を開いた。

「魔物だよ。

何でもいい、魔物なら核と繋がれるらしい。

スライム程度でもなれるという話は聞いたことがある。

ただ知性のない奴がなったダンジョンは単純でな、

罠も配置もでたらめで、長続きしない。

発展するダンジョンはやはり知性のある奴が管理している。

でかいところになると、ドラゴンがなっているという例もある。

報告例はすべて魔物だ。

少なくとも俺は人間がなったという話は聞いたことがない」


「現役のころ、そういうダンジョンに入ったことがある。

奥に近づくほど罠が精巧になって、

逃げ道を塞ぐように追い込んでくる。

あれは知性がなければ組めない代物だった」


「人間がなることはあるか」


男は即答した。

「ない。

そんな話は聞いたことがない。

どの本にも書いていない。

ダンジョンは魔物のものだ」


---


記録した。


人間がダンジョンマスターになることは、

この世界のどの文献にも記録されていない。


そういう事態を想定した対処が、どこにも存在しない。

想定外の存在は、想定外の行動を取れる。


---


「モンスターの強さには格のようなものがあるか」


「ある。ギルドが等級を決めている。

低い方から数えて七段階だ」


「それぞれ、どんな魔物がいる」


男は指を折りながら答えた。

「厳密には七段階の下に、等級外の連中がいる。

スライムや野良の鼠みたいな連中だ。

個体で人間を殺せるほどじゃない。

群れてやっと危ない、その程度だ。

一段目は弱いゴブリンや小型の獣。

Dランクの駆け出し冒険者が仕事を覚える相手だな。

二段目——俺が現役でよく相手にしたのがここまでだ。

骸骨の兵士、闇の狼、組織だって動くゴブリンの集団。

単純に強くて、動きに連携がある。

Cランクが四、五人いれば対処できる」


「三段目から上は」


「見たことはあるが、戦ったことはない。

リザードマン、ゾンビ化した騎士、

知性を持って魔法を使う類の魔物がそこに入る。

相手にするにはBランク以上が要る。

四段目になるとオーガやミノタウルスが出てくる。

個体が強すぎて、Aランクが複数いないと正面から削れない。

五段目は竜の成体や、強力な死霊使いクラスだ。

SランクかSSランク級が何人もいなければ、

まず勝てないと思った方がいい。

六段目と七段目は——俺は話でしか知らないが、

冒険者の手に余る。国が動く話だ。

七段目に至っては発見の記録すら少ない。

存在するのかどうかも、定かじゃない」


「国が動く」


「ギルドだけでは手が負えなくなるからな。

俺が知っている例だと、隣の領で軍が出たことがあった。

六段目の魔物が核と繋がったダンジョンでな。

被害が出た集落は三つ。

それで学んで、早い段階でギルドに報告するようになった」


---


「この辺りで一番大きな街はどこだ」


「ダスクホールだな。

ギルドの支部もある。辺境じゃ一番でかい」


「そこに入るには何が必要か」


男が答えた。


「旅人なら昼の間は入れる。

入門時に一日税を払えばいい。

夜間の滞在や複数日の商いには許可証が要る」


「許可証は?」


「ギルドの登録証か、商人の許可証。

なければ地元の者の保証書でも通る」


「保証書は誰でも書けるのか」


「書けるが、書いた側が責任を持つことになる。

見知らぬ者には普通は書かない」


---


「ギルドの動きはどうだ。

最近、何か変わったことはあったか」


男の表情が少し曇った。


「Bランクのパーティが消えたそうだ。

東の山に入って、帰ってこない。

ギルドがそのダンジョンの危険度を上げた。

次に来るのは、もっと上の連中かもしれない」


「いつのことだ」


「先月の終わりごろだったか。

街ではまだ噂になっている」


---


情報を整理しながら、試した。


核への接続を、遠隔から試みた。


ダンジョンまでの直線距離は十キロメートルを超える。

一度も、これだけ離れた状態で接続を試みたことはなかった。


繋がった。


影狼の状態が流れ込んできた。

脇腹の傷の回復具合、体温、呼吸。

コアバットの位置。前室の温度変化。

どれも鮮明だった。


通知が来た。


```

[ 遠隔管理モード — 有効 ]

[ 距離に関わらず、核との通信を維持します   ]

[ ダンジョン状態の確認、および基本命令の送信 ]

[ が距離を問わず実行可能です         ]

[ ※複雑な命令は近接時より精度が低下します  ]

```


初めて来た通知だった。


物理的な距離は、核との接続に影響しない。


ここから命令を出しながら別の行動が取れる。

ダンジョンに縛られる必要はない。


試しに影狼へ命令を送った。


「立て」


二秒の遅延があった。

その後、感知の中で影狼が起き上がるのが分かった。


使える。


---


男に向き直った。


「世話になった。一つ頼みたい」


男が顔を上げた。


「旅の商いをしているが、

ダスクホールに知り合いがいない。

保証書を一枚書いてもらえないか。

宿を取るためだけに使う」


男はしばらく間を置いた。


「それくらいなら」


立ち上がり、棚から羊皮紙を取り出した。

インク壺に筆を浸して、迷わず書き始めた。


---


農家を出たのは夜が更けてからだった。


羊皮紙がポーチに収まっている。


書かれた名前は「ライ」——

外国人の通称として通じる、短い名前を選んだ。

男の文章には、北の地方から来た商取引の旅人で、

信用できる人物であると記されていた。


それで十分だ。


マインドフレイヤーとシャドウレイスを引き連れ、

山道を戻り始めた。


男は翌朝、旅人に保証書を書いたことを覚えているだろう。

不自然な記憶の空白もない。

ただ、理由を深く考えることはないはずだった。


---


ダンジョンに帰り着いたのは深夜だった。


入れ違いに、狩猟隊が戻った。


```

[ 自動計上:維持費 ]

[ 影狼 × 1        :-1 PT ]

[ アラクニア × 1     :-1 PT ]

[ サンダーウルフ × 1   :-1 PT ]

[ ゴースト・ガーディアン × 1:-3 PT ]

[ 残PT:32 PT ]

```


続いて、狩猟隊の報告が上がってきた。


```

[ 外部討伐確認:野生獣 × 20 ]

[ 外部討伐確認:魔物 × 18 ]

[ 獲得PT:+50 ]

[ 残PT:82 PT ]

```


野生獣だけでなく、近隣に出没していた魔物も狩ったようだった。

スティングビーの群れ攻撃と、ベノムラットの毒が効いたのだろう。


一日で五十二PT積み上げた。

維持費を差し引いても黒字だ。


収益の仕組みは動いている。


---


ダスクホールへの入口は確保できた。


問題は次だ。


ギルドの様子を見る。

Bランクの失踪がどの程度まで広まっているか、

次の討伐隊がいつ来るかの見当をつける。

核の外部感知がどこまで届くかを確認する。


次にやることは三つある。


それだけだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【ダンジョン構造(変更点)】


変更なし


【経路】

 入口

  ↓ 通路(5m)

 入口の間(10m×10m)

  ↓ 通路(5m)

 前室(10m×10m)

  ↓

 ダンジョンマスターの間(10m×10m) → DM生活区画(3×4m)

 前室

  ↓ 通路(5m)

 空き部屋(10m×10m)


【配置詳細】

◇入口の間:暗闘罠×2 / 落とし穴×2 / 毒霧散布罠×1

◇通路(入口⇔前室):コアバット×1(右翼重傷・療養中)

◇前室:影狼×1(脇腹裂傷・回復中)/ アラクニア×1 / サンダーウルフ×1 / ゴースト・ガーディアン×1

◇空き部屋:未設置

◇ダンジョンマスターの間:ダンジョン核


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【戦力配置(変更点)】


変更なし(外部狩猟隊は☆モンスターで維持費ゼロのため配置扱い外)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【PT収支】


 章開始時PT:30 PT

 凪の夜間狩り帰還:+8 PT(鹿×2・野兎×3)

 維持費(1日) :-6 PT

 外部狩猟隊成果 :+50 PT(野生獣×20・魔物×18)

 ──────────────────────────

 章終了時PT:82 PT


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【外部狩猟隊(第15章編成)】


 斥候班:ダストゴースト×2・コボルトスカウト×1

 狩猟班:スティングビー×3・ベノムラット×3・ドレインバット×2

 維持費:0PT/日(全員☆)

 成果:野生獣×20・魔物×18 / +50PT(初回出撃)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【新規システム解放】


■ 遠隔管理モード(初登場)

 ダンジョンから約10km離れた地点で核への接続を試みたとき初通知。

 距離に関わらず核との通信・状態確認・基本命令送信が可能。

 複雑な命令は近接時より精度が低下。

 凪が農家でモンスターに遠隔命令(影狼「立て」)を試し、機能を確認。


■ 農家潜入に使用したモンスター

 ・マインドフレイヤー:建物外5mで待機。石壁越しに精神干渉を実施

 ・シャドウレイス  :建物裏で実体化。逃走防止・索敵担当


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【情報収集結果(マインドフレイヤー活用)】


■ ダンジョンマスターに関する世界常識

 ・魔物なら種類を問わず核と繋がれる(スライムでもなれるという話がある)

 ・知性のない個体がなったダンジョンは単純で長続きしない

 ・発展するダンジョンは知性のある魔物が管理している

 ・大型ダンジョンはドラゴンがDMという例も報告あり

 ・報告例はすべて魔物。人間がDMになった事例は存在しない

 ・対人間DM用の対処プロトコルも存在しない


■ モンスター強さ格付け(ギルド七段階等級)

 情報提供者:元冒険者の農家男性(三段目まで現役で経験)


 ギルド等級 │ 代表的な魔物・特徴・対処目安

 ──────────────────────────────────────

 ☆なし   │ スライム・野良の鼠など。脅威として等級外。

       │ 個体では人への害はほぼなく、群れて初めて危険になる程度

       │ 冒険者ランク目安:登録前の一般人でも対処可

 ──────────────────────────────────────

 ☆     │ 小型の獣・弱いゴブリンなど。

       │ 武装した成人ひとりで対処できる。冒険者の入門域

       │ 冒険者ランク目安:Dランク(新人・駆け出し)

 ──────────────────────────────────────

 ☆☆    │ 骸骨の兵士・闇の狼・組織だったゴブリン集団など。

       │ 単純な強さに加え連携がある

       │ 冒険者ランク目安:Cランク4〜5人編成が基本

 ──────────────────────────────────────

 ☆☆☆   │ リザードマン・ゾンビ騎士・魔法を使う魔物など。

       │ 知性・魔法・耐久が揃い始める

       │ 冒険者ランク目安:Bランク以上のパーティが必要

 ──────────────────────────────────────

 ☆☆☆☆  │ オーガ・ミノタウルス・トロール級など。

       │ 個体の戦闘力が突出しており、小規模パーティでは正面から勝てない

       │ 冒険者ランク目安:Aランク複数名、または大規模編成での討伐が基本

 ──────────────────────────────────────

 ☆☆☆☆☆ │ 竜の成体・強力な死霊使いなど。

       │ 広域への被害が発生しうる。長期戦・消耗戦は避けられない

       │ 冒険者ランク目安:SランクまたはSS級の伝説の冒険者が複数名でなければ

       │          まず勝てない。国が動く規模

 ──────────────────────────────────────

 ☆☆☆☆☆☆以上 │ 伝説を超えた存在。古竜・神話級の魔物など。

       │ 冒険者では対処不可の領域。国家連合・英雄級の介入が必要

       │ 発見例がほぼなく、記録より口伝が多い(今後実装予定)


 ※ DMがなっているモンスターのランクがダンジョン危険度に直結する


■ ダスクホール入市条件

 ・日中の短期滞在:一日税を払えば入城可能

 ・夜間滞在・複数日の商い:ギルド証 or 商人許可証 or 地元保証書が必要

 ・今回取得:農家男性(元冒険者)による保証書(凪の偽名「ライ」宛)

 ・偽装設定:北の地方から来た商取引の旅人・信用できる人物と記載

 ・農家の男は翌朝も保証書を書いた記憶を持つ(精神干渉による記憶の空白なし)


■ ギルドの動向

 ・Bランクパーティ失踪の噂が街に広まっている

 ・ダンジョン危険度がギルドにより引き上げ済み

 ・次の討伐隊は上位ランクの可能性あり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ