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第7話:縁 26.2.17修正

挿絵(By みてみん)

 人と人との縁というやつの正体は、一体なんなのだろうか。

 一つに、赤い糸という例えがあるように、それは色のついた糸なのかもしれない。


 では、この糸はいつ、どこで、どのようにして張られるのだろうか。

 二人いたとして、先に張られるのはどちらからだろうか。優先順位は?


 糸を張っているのは、はたして誰であろうか。


 おそらく糸を張ったソイツには、糸自体がどのようなものか視覚的に見えているのだろう。

 そうでなければ、自分が張った糸の確認をすることも出来やしないはずだ。


 きっと、それはクモの巣のように張り巡らされて、人々の間で入り乱れ、散り乱れ、そして、咲き乱れているのだろう。


 * * *


 第一章 せっかりょうらん


 * * *


 その日は風が強かった。

 三月もぼちぼち終わりへと近づき、春休みという名の残機が徐々に削られていく感覚を頭が覚え始めていた頃、俺は柚月さんと二人で住宅街の小道を歩いていた。


「――そういえば、いきなりどうしたの?」


 歩きながら、柚月さんが俺の顔を覗き込んできた。


「え……なにがですか?」


「そりゃあもちろん、看板だよ看板! マミヤくん。いきなり変えよう! だなんて」


「ああ……それは如月さんが――」


 俺は軽く経緯を話した。


「はぇー……さっちゃんがそんなこと言ったんだねぇ」


 ……まあ、如月さんは赤字垂れ流し状態をどうにかできないかとは言ったが、看板をどうにかしろと言ったわけではないので、看板を変えよう云々は完全に俺の独断だ。

 ここまで考えて、俺は冷静になった。


「……すみません。来て間もない僕がいきなりこんなこと言いだしてしまって。ちょっと焦っていたかもしれません」


 実際、みんなの役に立ちたい一心での行動ではあったが、いささか性急だったかもしれない。

 俺が少し反省していると、それを見た柚月さんがニコリと笑った。


「ううん! だいじょうぶ! それに、そっちの方が楽しいかもだし。ね!」


 俺は会釈で返した。

 言葉に出来なかったけど、少し救われた気がしていた。


 しばらく他愛もない話をしていると、柚月さんが何かを見つけたようだった。


「――あ! あったよ! あそこが銀さんのお店!」


 柚月さんは駆け出したと思ったら、一つの家屋の前で止まり、看板を指さしていた。

 俺はペースを変えずに、ゆっくりと歩いてその場所まで近づいた。


 たどり着いた先、指さされた看板には、こう書かれていた。


「……油終(ゆじまい)工務店、か」


 油終 銀(ゆじまい ぎん)さん。「喫茶らぶろあ」の看板を制作した大工さんだそうだ。

 他の業者に頼んだ場合、俺ではサイズだとか細かい話で手間取りそうだし、経験者の方にお願い出来るならその方が賢明だろう。

 そう、お願いができれば……だが。


「シャッター、閉まってますね」


「うーん……だね。銀さん、お休みなのかな?」


 しまった。来る前に店のことをネットでちゃんと調べておけばよかった。

 何のために俺は高い金を出して最新のスマホを買ったのだ。

 ポケットを暖めるために十数万も出したわけではないぞ……。


 自分一人で来たのなら、喫茶店に戻って『お休みでした。ガハハ』で、済むかもしれないが、柚月さんまで連れてきてしまった手前、手ぶらでは帰りづらい。

 ……仕方がない。他の入り口を探すとしよう。


「ちょっと待っててもらっていいですか? 入り口を探してきます」


 柚月さんは『いいよ! わたしも探すよ!』と言ってくれたのだが、俺としては『いくないよ!』な気持ちだったので、スマホを渡して適当にゲームでもして待っていてもらうことにした。


 俺はお店の周囲に目を配る。……と、脇道とその先に工務店の二階へと続く階段を見つけた。


――カッカッカッ


 俺の足音と一緒に、カンカンという金属の音が一定のリズムで周囲に響く。

 二階につくと、狭いドアの前が色々とゴチャゴチャしてさらに狭くなっていた。たまに共同通路に私物を置いている家があるが、あんな感じだった。

 要は、ここが住居で間違いなさそうだった。


 しかし、少しドア周辺を見てみたが、インターホンが見当たらなかった。


「……ノックするしかないか」


 正直、小心者の俺からしたら気が進まなかった。

 まず、力加減がわからないし、ノックの音が強すぎて相手を不快な気持ちにさせてしまうかもしれない。

 そう思うと、インターホンというのは素晴らしいものだ。誰が鳴らしても一定のリズム、一定の音量を提供してくれる。


「気が進まねぇー……」


 俺は小声で思ったことを口に吐き出すと、右手で小さくこぶしを作り、少し古びたスチールドア目掛けて軽快なリズムを刻んだ。


「ご……めんくださーい」


――シーン


 反応はなかった。

 再度ノックをする。


「ごめんくださーい」


――シーン


 やはり反応はなかった。


 人間ってやつは、なぜこうも反応がないとわかると強気になってしまうのか。

 最初の気まずさはどこへ行ったのか。俺はだんだんとドアを叩く力が強くなっていった。


――バンバンバン

 

 そんなことを二分程度続けていた頃だった。

 いきなりドアがバンッ! と勢いよく開いて、家の前に散らばっていた色んなものがバンッ! と飛び散った。


「うるせぇーーーー!!」


「うわああびっくりした!!」


 なんかめっちゃキレてる爺さんが出てきた。


 もしかして、この人が大工の銀さん……か?


「あ、あの。すみません私、真宮と申し―――」


「ドアをバンバンバンバン叩くなってんだろ! 居留守なのがわかんねぇのか!」


 居留守ならわかるわけないだろう……。

 というか、この爺さん、いままで気づいていて無視していたのか。


「あ、あのですね――」


「今度ドアをバンバンバンバン叩くやつを見かけたらな! ワシ直伝の油を内臓にしみ込ませてやる!!」


 はい。俺じゃないです。


 ……ダメだ。話を聞いてくれそうにないな…。

 これだからノックは嫌いなんだよなぁ。


「――おい坊主」


「は、はい! なんでしょうか!」


「ここいらでワシの家のドアをバンバン叩くやつを見かけなかったか?」


「いえっ! まったく! ぜんぜん!」


「……そうか。逃げ足の速いやつだ。それで――誰だ坊主」


 老齢の男性が俺のことをギロっと睨みつけた。


「あ、はい! あの! 私は真宮といいます。あなたが銀さん……で間違いないでしょうか……?」


「おぅ。イカにも。大工人生六十余年。人呼んで『油仕上げの銀』とはワシのことよ」


 ……どうやら、この人が銀さんで間違いなさそうだな。


「銀さん、その、今日はあなたにお仕事のご依頼をさせて頂きたくてきました」


「仕事だぁ? ……帰ってくれ」


「え! ……ま、まだ仕事内容も何も言ってないんですが」


「ワシはもう隠居の身なんだ。すまねぇが、仕事なら他に頼むんだな」


 そういうと、老人はあくびをしながらドアノブを握りしめ、部屋の真ん中に敷かれている布団へと戻ろうとしていた。


 ……まいった。

 まさか断られるとは思っていなかった。しかし、引退していると言っていたな。仕方がないか…。


「――あ! 銀さん! こんにちは!」


 スチールドアが閉まりかけたその時、ゲームに飽きたのかいつの間にか柚月さんが隣まで来て声を上げていた。

 柚月さんにはすでに申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、仕事を受けてもらえなかったという事実を伝えなければならない。


「ごめん柚月さん。実は――」


 再びドアがバンッ! と勢いよく開いて、今度は俺の横顔にバンッ! とぶち当たった。


「ぐっ――ほッ!!!」


 俺はその場で頬を抑えながらうずくまった。

 ものすごい衝撃だったが、それと同時に、俺は飛び散るものが無くてよかったと思っていた。


「せ、雪華ちゃん! なんじゃもう~! 来ておったのか~! ジジイ寂しくて死んじゃうところじゃったよぅ~!」


 ほ……頬が痛い。

 ……そして、なんか今度はめっちゃデレてる爺さんが出てきた。


「そ、それに! また! その、一段と……! そ、そろそろその特選メロンの収穫時期かもしれんなぁ……んん?」


 そう言った爺さんの両の手は、何かを摘まむような仕草をしていた。

 柚月さんは笑顔のまま頭にはハテナが浮かんでいた。


「……ぁあ」


 その時俺はうずくまりながら、喫茶らぶろあで如月さんが『あたしじゃだめだ』と言ってイラっとしていた事を思い出して、一人で納得していた。



* * *



「――なるほどな。それで店の看板をワシに作り替えてほしいと」


 俺たちは銀さんの家に入れてもらうことができ、話の続きは中ですることにした。

 銀さんはさっきのエロ爺からは想像ができないほど、職人の顔つきになっていた。


 部屋の中は木屑と湿布の匂いが混じっていた。


「そうなんです。おねがい、できないでしょうか……?」


 俺は痛む頬を抑えながらお願いした。


「銀さん! わたしからもおねがい! ね!」


 柚月さんが俺に続いて畳みかける。

 それは戦闘力高めの飛び切りウィンクだった。

 ……たかが知人爺に向けられた笑顔があれならもう恐ろしい人だ。


「この油終銀(ゆじまい ぎん)――雪華ちゃんの頼みとあっちゃ断るのも忍びない」


「そ、それじゃあ……!」


「……と、いいたいところなんじゃが。スマンな、無理じゃ」


「え――ど、どうしてですか?」


「そんなぁ……」


「スマンな……。でもワシも意地悪で言ってるわけじゃなくてな。その……ほれ」


 そう言いながら、銀さんが手首を見せた。

 手首には湿布が張られていて、赤く腫れているようだった。


 なるほど。さっきからしていた湿布の匂いの正体はこれだったようだ。


「痛そう……銀さんどうしたの? これ」


「うむ……。実は雪華ちゃんたちが来るちょっと前に……ちょいと、やってしまってな」


「そう……なんだ……」


 ショックだったのだろう。

 柚月さんは目をそらしながら、胸に手を当てていた。


 俺に関して言えば、知人の爺さんにまで心を痛められるほど、優しい心は持ち合わせていなかった。

 一回、俺も彼女の爪の垢……というかもう正直どこの部位の垢でもいいから、飲み込んだ方が良いのかもしれない。


「それで安静にして寝ていたんだが……。どこぞの馬鹿タレに叩き起こされてしまってな……」


「ひどい! 誰がそんなこと! ね! マミヤくんもそう思うよね!」


「そう……すねぇ」


 全く! 世の中にはお年寄りに優しくできない酷い奴もいるもんですね!

 こうですか。わかりません。


「マミヤくん。そう言うのは心の中じゃなくて言葉にした方がいいと思うな」


 言えないからせめて心の中で言ったんだよ。

 というか、心読めるなら心中も読んで欲しいもんだ。


 しかし、困った。結局、過程が変わっただけで、結果がまるで変わっていない。

 最初からいまの今まで、看板を作ろう。という目的だけがそこに鎮座している。これはいつになれば看板を作った。に変わるのだろうか。

 ここに来て分かった事といえば、柚月さんの胸がまだまだ成長していることと、銀さんがエロ爺であることと、ほぼ引退済みで手首を負傷していて、いまは仕事ができないということだけだ。


「残念だけど、仕方ないよね……」


「そうですね……」


 一応、俺の責任で看板が作れなくなった。というわけでは無いので、このまま喫茶店に戻っても俺の評価が下がることはないだろう。

 むしろ、改善しようとして実際に行動を起こしたことに対して、加点されても何ら不思議ではないんじゃないのか?

 うん。そうだよ。俺はよく頑張ったじゃないか。今日の所は喫茶店に戻って、今後の作戦を立て直すことにしよう。うんそうしよう。


「――黒板看板くらいなら。ワシが作り方を教えれば坊主でも作れるかもしれんな」


 銀さんがボソッと何かを言った。


「……黒板看板、ですか?」


「そうだ」


 黒板看板とは、喫茶店やレストランなどの店の前に設置されているスタンド型の看板の事だ。

 確かに、らぶろあには黒板看板なども出ていなかった記憶がある。

 そもそも、どうやって客寄せしてるのかという疑問が浮かんだが、いまはそれが本題ではないのでいったん忘れることにしよう。


 ただ、確かにアレもあった方が良いかもしれない。

 品質的にも、ネットでポチポチして二千円も出せば比較的のいいものが翌日には配送される。

 わざわざ俺が作るまでもないだろう。うん。


「ううーん。そうですねぇ……。まあ、でもそれくらいならいまネッ――」


「すごーい! そんなの作れるんだ! ね、一緒に作ろうよ! マミヤくん!」


 柚月さんが俺に畳みかける。

 それは戦闘力高めの飛び切りスマイルだった。

 ……たかが俺に向けられた笑顔がそれならもう恐ろしい人だ。


 しかし、さっきも言ったように、俺なんかが作るよりもずっと品質が良いものが二千円も出せば手に入るのだ。

 俺が作ったところで、時間と丹精込めて作ったゴミが完成する可能性だってある。

 それに、疲れるし? 俺の疲労対効果に見合っていないし? いま若者に流行りのタイパだってきっと悪いに決まっている。


 だから、申し訳ないけど、俺は恩人である柚月さんにこう、ビシッ! と言ってやったんだ。




「……はい」




 ってな。


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