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らぶろあ ー君とはじめる愛(love)の伝承(lore)ー  作者: Yz
第一章 せっかりょうらん(上)
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第1話:赤髪メイドと猫

挿絵(By みてみん)

 * * * * * * *


 第一章 せっかりょうらん(上)


 * * * * * * *


「――は?」


 不動産屋の綺麗な女性スタッフの口から出た言葉に、俺の頭はついていけなかった。


「ですので……、そちらのお部屋については、すでに別の方が入居されておりまして……」


 春休み。

 学生の身分であれば、誰もが等しく享受するであろう、この10日余りのスクールライフの余白。

 俺、真宮孝一も、この春から私立聖北学園に転籍するために新居となる部屋のカギを不動産屋に受け取りにきていた。

 それだけのはず……だった。


「え? いやいや――え? だって俺、契約しましたよね……?」


「はい。そちらについてはこちらでも確認ができております。ですが……、その……、こちらの手違いで、二重契約となってしまっておりまして……」


「二重……? って俺、住めないってことですか……?」


「まあ、はい。そう……なりますね」


「まあ、はいって――え、お金は……?」


「ご返金につきましては、手続きは進んでおりますので、おそらく近日中には……」


「えぇ……」


「あ! でもこちらの物件なんかもおススメですよ!」


「えぇー……」



* * *



「はぁ……」


 ぶらぶらと、不貞腐れながら街を歩いた。

 実家を飛び出した時は、新居周辺をマッピングしてやろうと息巻いていたのに、いま見えるのは数歩先の地面だけだった。


 どれくらい歩いたのかわからない。ただ、中心街から離れたところまで来てしまったことだけはわかった。

 見上げると、一軒の町家風の建物が目に入った。

 俺はそろそろ足も痛くなってきたので、休憩がてらに道路の縁に尻を預けた。


 ふぅ。と足を崩して呆ける。


――カランカラン


 すると、後ろの方から戸口の鈴が聴こえてきた。


「――雪華ぁ。先行くぞー」


 町家風とは全く縁がなさそうな、メイド服を着た赤髪の子が出てきたかと思うと、そのままスタスタと歩いて行った。

 そういうコンセプトのメイドカフェだったりするのだろうか。


「ま、待ってー! さっちゃんイマいくから!」


挿絵(By みてみん)


 かと思えば、今度はメイド服でも何でもない、黄色いパーカーを着た青髪で悩ましいボディをした子が慌ただしく出てきた。

 その子と目が、チラリと合った気がした。

 しかし、すぐにメイドのあとを追いかけて行ってしまった。


「……珍しいコンビだな」


 そんなことを呟いた。



* * *



 ――数時間後。

 俺は住宅街の中に、ぽつねんとある小さな公園のベンチにもたれながら天を仰いでいた。

 上京初日にして、今後の生活拠点を失ってしまったことを改めて体感していた。


「……いや、そもそも得てすらいないか。この場合はなんていうんだろうな」


 不動産屋からの金が返ってこないことには、新しく空き部屋の契約をする金もない。

 なにより、いますぐにでも必要なのは今日の寝床だ。

 一応、住み込みで働けそうなところを探してみたものの、結果はご覧の有様だった。


「詰んでんなぁ……」


 だんだんと暗がりが広がっていく。

 学生手帳を持ってるような年齢の人間が、こんな人目のない公園に夜一人でいたらどうなるのだろうか。

 おそらく、事件の理由なんてあとからどうとでも付けられるであろうことだけはわかる。

 俺は想像しただけで、体の一部が縮み上がる感じがした。


―――グゥウウ


 叱られた犬のような情けない音がする。


「腹減ったなぁ……家で何か食ってから出てくればよかった」


 ……その時だった。

 風に乗って、なにかいい匂いがしてきた。


 匂いの方を見ると、昼頃に見かけたメイド服を着た赤髪の子が猫に餌をやろうとしていた。

 どうやら先ほどの町家風(?)メイド喫茶の近くまで戻ってきてしまっていたらしい。


「……アイツはいま、人間の俺よりも良い待遇を受けているんだな」


 猫は良いよな。

 可愛いってだけで、あんな美少女メイドからご飯をもらえるんだから。


―――グゥウウウウウウ


 情けない音が静かな公園に響く。

 おそらく公園の端まで聞こえただろう。いままでで一番大きい音だった。


「腹、減ったなぁ……」


 財布の中には千円と小銭が少しあるだけだった。

 実家に帰るには金が足りない。何より、あの家にはもう帰りたくなかった。

 この小学生のお小遣いみたいな全財産が、俺の生命線だった。


 俺は地面を見てうな垂れた。

 家もない。

 金もない。

 飯もない。

 無いものだけがたくさんあった。


 途端、腹の音以上に情けなくなって、地面が霞んだ。


「――ぉい。……おいて」


「うぇえ……?」


 見上げると、先ほどのメイドさんがコチラを覗き込んでいた。

 自分で思っていたよりも顔はぐしゃぐしゃだったようで、メイドさんは若干引いていた。


「……お、おう。やべえ顔してるな」


 メイドさんはその手にスープを持っていた。

 猫が取り返そうと執拗に絡んでいたが、スープの雫は落ちることなく皿の中で踊るだけだった。


 最近のメイドさんは一芸に秀でてないとやっていけないのかもしれない。

 とりあえず、俺はその姿に拍手を送ることにした。


2026/4/12 改訂

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