プロローグ
「君は『縁』について、どう思うかね?」
目の前の男が、とつぜん突拍子もないことを口にしてきた。
「切れるときは糸のように驚くほどよく切れるのに、切れないときは――そうだな、路上に吐き捨てられたガムのようにひどくこびり付く。そんなふうに思わんかね」
……さて、どうだろうか。
俺から言わせれば、そんなものは錯覚だ。まやかしや気の迷いと言い換えてもいい。
糸だと言うなら、この世に生まれた者で、これまで誰一人として、その糸に触れたことがある奴がいるだろうか? ――いいや、いないね。触れてみればいい。手汗でベタつくだけだ。
つまり、そういうものだ。
「なるほど。君はアレだ。いささか頭でっかちというかなんというか、ロマンに欠けるね」
男が中傷気味に笑う。
まさか、この男は赤い糸だのなんだのと言いだすつもりなのだろうか? それこそ幻覚に酔いしれて、現実が見えていないヤツの戯言だ。水を飲んだあとでちゃんと見てみるといい。それはきっと、ソイツの生命線だ。
「――そういう君の手は、すでに手汗でベタベタのように見えるけどね」
今度は言い返さなかった。
ただ、目を伏せて、自分の手を握った。
……最初の問を、自分の中で反芻する。
もし、そんなことを無自覚で無作為に無責任のまま、笑顔で結びつけているヤツがいるとしたら。どうだろうか?
そんなヤツのことを気持ちが悪いと、気味が悪いと、思うのだろうか? それとも――。
俺はもう一度自分の手を、今度は強く、握りしめる。
確かにあったはずのものを思い出すように。
――これは、そういう物語だ。
2026/4/12 改訂




