第1話:赤髪メイドと猫
『……ぅいしょっと。』
廃棄袋を肩に担ぎ、あたしは店の裏手のドアを開ける。
「じゃあ、ゴミ出ししてくるぞー」
少し遠くから、雪華の気の抜けた「うぁーい」と言う返事が聞こえてきた。
大方、恋愛ドラマでも見ているのだろう。
あたしにはアレの良さがよくわからんが…。
―――ビュウ
春の夜風は、まだ少しだけ冷たかった。
―――
――
―
「……ほれ。今日の飯だぞ」
ゴミを捨てたついでに、
近所の公園を住処にしている猫に餌をやる。
にゃあ
「……。」
公園は、ほぼ空き地のような寂しい景色だった。
昨今は危険だからと言って、遊具がほとんどが撤去されてしまっている。
あたしは公園のベンチに腰を下ろして、
猫の頭を撫でながら考える。
「……こんな状態で、どう遊べって言うんだろうなぁ」
にゃあ
「…まあ、おかげでお前はここを根城に出来てるんだろうけどな」
猫の頭を撫でながら、物思いにふける。
今日もあんまり売り上げなかったなぁ。
とか
明日の仕込みをちょっとして今日は上がるかぁ。
とか
店に戻ったら、雪華の晩飯作ってやんねえとなぁ。
とか、そんなことを考えていた。
店はお世辞にも繁盛してるとは言えないけど、
こんな平穏な日常が、あたしは案外悪くないって思っていた。
「……うっし。じゃあ、あたしは行くぞ。また明日なバロン」
にゃぁ
――そう言って立ち上がって帰ろうとしたとき、
あたしの視界の端に、妙なものが映った。
「・・・。」
世も末だと思った。
悲しいかな、どうやら昨今の日本の治安というやつはそんなに良い訳ではないらしい。
すぐ向かいの草むらの影から、男がコッチを見続けていた。
「・・・はぁ」
面倒なことになる前に、あたしは急ぎ足で公園から出ることにした。
公園の入り口に向かう途中、男の方をチラリと見たが、
幸い、男の狙いはあたしでは無いらしい。
「・・・。」
むしろ、あたしには興味がないように見える。
男はバロンの方をじっと見ているようだ。
あたしの中で考えが巡る。
…そう言えば、
何年か前に、小動物を虐待する事件があったことを思い出した。
「…まさかその手の輩じゃねえだろうなぁ」
あたしはギロリ。とした視線を男の方に向けた。
―――グゥウウウウウウ
「・・・・。」
それと同時に、
夜の静かな公園に何とも間の抜けた音が響き渡った。
あたしは半ば頭痛を抱えながら、
視線を移したついでに男のことをちゃんと見る。
…どうやら、男はバロンというよりも、
バロンが食ってる飯を見ているようだった。
あと、心なしか涎がたれているように見える。
アレ、一応店から出た残飯だぞ…。
…あたしは再び、世も末だと思った。
「…はぁぁ」
頭を掻きながら、
あたしはでかい溜息を一つついて、
さっきより速足で雪華の待つ「喫茶らぶろあ」へと戻った。
―――
――
―
「……腹減ったなぁ」
俺は夜風をしのぐために、公園の草むらに身を置いていた。
そうすると、風に乗っていい匂いがしてきた。
草むらから顔だけ出すと、
メイド服?を着た赤髪の少女が猫に餌をやっていた。
「・・・・。」
いまこの瞬間、アイツは俺よりも良いものを食っている。
猫は良いなぁ…。
親切な人間が飯を恵んでくれるんだから。
―――あれから俺は、
ずっと拠点になるはずだったこの街を彷徨っていた。
住宅街は似たような道ばかりで、完全に迷子になっていた。
これがうわさに聞く、コンクリートジャングルというやつなのだろうか。
駅前にすら戻れやしない。
日はすでに落ちきっていて、明かりは街灯と車のライトが頼りだった。
結局、半日ぐるぐると歩き回った末に
最初の公園に戻ってきてしまっていた。
…もう足もパンパンだった。
―――ビュウ
昼間はあんなに暖かかったのに、
夜風はまだ冷たかった。
俺は、ベンチから立ち上がり、
草むらの中に身を置き、風よけのために木の近くに体育座りになった。
地面が土ではなく草で覆われていたのが幸だった。
「・・・。」
頭が重い。
一体俺はいつまでこうしていないといけないんだろうか。
『……ぉい。…て。』
スマホの充電も残り少ない。
金も無い。寝るところもない。
『……ぁーもう! バロンお前はさっき食べただろ。これはお前のじゃないから!』
上京して初日で泣きそうだった。
何度も実家に戻ると言う選択肢が頭をよぎった。
『…んでおいって! お前! 聞こえてんのかって!』
涙でぐしゃぐしゃになりそうな顔で見上げると、
さっきの赤髪のメイドが怪訝そうな顔をしながらコチラをのぞき込んでいた。
「うぇえ…?」
『…お、おおう。生きてた…か』
猫の執拗な攻撃をかいくぐりながら、
絶妙なバランスで零れるのが防がれているスープとパンが
赤髪メイドの手にあった。
メイドのさっきまでの怪訝そうな顔は、一転して困惑へと変わっていた。
■あとがき
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