第0話:プロローグ
「……いままでありがとう。さよなら。」
机の上に母親への置き手紙を残し、
俺は実家と呼ぶにはあまりに狭い、ワンルームのドアを閉めた。
―――カツカツ
階段をゆっくり降りながら、
スマホの画面に表示された住所をもう一度確認する。
せこせこバイトして金を貯めて、
ようやく、俺の初めての一人暮らしが始まる。
「計画は練ったし、準備も十分した。我ながら完璧なはずだ。」
俺は、
新天地で俺の新しい人生を始めるんだ…!
「…よし、いくか!」
空を見上げると、
昼下がりの空はまだ明るく、澄んだように蒼く、綺麗だった。
季節は春。
心地よい暖かな日差しと風が肌を包み込み、
俺の新生活を祝福しているかのように感じられた。
―――
――
―
「―――はっ?」
俺はしばらく、
向かいに座っている相手の言葉が意味が理解できなかった。
『ですので…、申し訳ないんですが、
そちらのお部屋については、すでに別の方が入居されておりまして…。』
不動産屋のカウンター越しに告げられた言葉に、
俺の頭が追いついていない。
俺は、今日から住む予定の新居のカギを受け取りに来ただけのはずだった。
「え? いやいや…、ごめんなさい理解がおいついてないです。
え、だって俺、契約しましたよね…? 敷金も礼金も払いましたよね…?」
『はい。そちらについてはこちらでも確認ができております。
ですが…、その…こちらの手違いで、二重契約となってしまっておりまして…』
「二重…? え、つまり俺、今日から住めないってことですか?」
『今日からといいますか…、まあ、はい。そう…なりますね。』
「いや、いやいやいや…。お金はどうなるんですか…?」
『ご返金につきましては、手続きの方は現在進めておりますので…』
「えぇ…」
―――
――
―
実家を威勢よく飛び出してきた時の晴れ晴れとした心とはうって変わって、
ものの数時間たらずで俺の心はボロボロに打ちのめされていた。
俺は、上京初日にして、
今日寝るところすら失ってしまったのだ。
「あぁー…。ありえねぇー…。」
住宅街の中にある小さな公園のベンチにもたれながら、
天を仰いだ。
「あー…、ありえねー…。ほんとありえねえあの不動産屋…、まじありえねぇ…。問合わせたときはまだ空き部屋だったじゃん…」
3月末頃入居可。って、ぜっ…たい書いてあったじゃんさぁ…」
…問い合わせたときは、確かに空室だったはずだ。
三月末入居可って、賃貸ページにもそう書いてあったはず。
そうだ。俺は完璧だった。
計画も準備もして、何度も新生活を脳内でシミュレーションしていた。
「あー、どうすっかなぁ」
いまから空いている所と契約しようとしたとして、
今日の寝床がない問題は解決しない。
なにより、敷金が返ってこないと新しく契約する金もない。
「……詰んでんなぁ」
何度再考しても、妙案すら浮かんでこない。
おかしいなぁ…。今頃俺の想定では、
古くて狭いけど、横になってワクワクしながら天井を眺めていたはずなのに。
―――グゥウウ
「……」
空腹だけが、やけに冷静だった。
「…そう言えば、家でなにも食ってこなかったな。。」
しかし、昨今の物価高騰を考えると、
いまの自分の手持ちを考えると、
コンビニに金を落とすのはコスパが悪い。。
今後のことを考えると、躊躇してしまう。
…前は大きめのチョコチップメロンパンが100円ちょいで買えたのになぁ。
「・・・・。」
季節は春。
穏やかだった日差しはすっかり傾き始め、
まだ冷たい夜の風が吹き始めていた。
いまのところ多難しかない
俺の新生活はこうして幕を開けたのだった。
■あとがき
毎週日曜20時頃に更新予定です。
よろしければブックマークなどしていただけますと励みになります。
※「らぶろあ(Love Lore)」本編をRPGツクールMZで制作中です。
※イラストは「AI一部利用作品(Stable Diffusion)」となります。
毎日22時にキャラのイラストを投稿しています。
https://x.com/yz_lovelore




