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異世界に巻き添え召還されました。魔女認定され隣国に追い出されました  作者: りな


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9/29

沙羅、エルンストに会う

修正しました

討伐隊が解散し、町に静けさが戻る頃、日はすっかり傾いていた。

 ガルディスは沙羅を連れて宿へ戻ると、玄関で軽く肩を回し、深い息を吐いた。


「……無茶をさせたな。怪我はないか?」

 彼の問いかけに、沙羅は首を振った。

「はい、大丈夫です」


 安堵の笑みを浮かべながらも、ガルディスの眼差しにはどこか思案の色がある。

 ガルディス沙羅に部屋に入る許可を貰う。


「さっきの話……もう一度聞かせてくれ。俺の“数字”が減った、と」


 沙羅は頷き、手を胸に添える。

「戦いの前は、740でした。でも、魔法を使ったあと、690になっていました。」



 ガルディスは腕を組み、しばし沈黙する。

 やがて、低い声で言った。

「……その“数字”は、魔力か、それとも体力か。あるいは命そのものを示しているのか。だが少なくとも、俺が魔法を使った時に減ったなら、無関係ではないだろうな」


 沙羅は俯き、唇を噛む。

「わたしにも……わからない。ただ、見えてしまうんです」


 その不安げな声に、ガルディスは目を細めた。沙羅に寄り添うように優しい声音を落とす。


「安心しろ。お前の見ているものが何であろうと、俺は無闇に否定はしない。……ただ一つ、覚えておけ。自分にしか見えない力は、ときに他人を遠ざけもする。慎重に扱うんだ」


 沙羅は胸の奥が少し軽くなるのを感じた。

「……はい」


 ガルディスは頷き、今度は穏やかな笑みを浮かべる。

「詳しいことは、俺も調べてみよう。お前が一人で悩む必要はない」


 その言葉に、沙羅は小さく「ありがとうございます」と頭を下げた。

 心に巣くっていた不安が、ほんの少しだけ和らいだように思えた。



翌日。

 ガルディスは沙羅に「少し調べてくる」と言い残し、町の知己を訪ね歩いた。

 冒険者仲間、文献を扱う書庫、司祭を名乗る者──沙羅の存在を隠し、噂話を聞いたのだが……、と。いずれも「人に数値が見える」という力については首をかしげるばかりだった。


 数日後。

 戻ってきたガルディスは、宿の父親に肩をすくめて言った。

「……やはり例はなかった。戦闘での魔力消費や体力減少は確かに理屈は合う。だが“数値として見える”などという話は、一度も聞いたことがない」


 その時、傍らにいた沙羅の胸は強く締めつけられた。

「やっぱり……おかしいんですね、わたし」


 沈んだ声に、ガルディスは少し困ったように笑った。

「いや、おかしいかどうかは決めつけるな。新しい可能性とも言える」


 すると父親が思い出したように口を開く。

「……そういえば、一人心当たりがある。都で魔術研究をしていたが、人間関係に嫌気が差して逃げてきた学者がこの町に住んでいる。変わり者だが、知識は確かだ」


「学者?」と沙羅が顔を上げる。


「名は《エルンスト》。まだ若いが頭は切れる。……人付き合いは苦手でな。町のはずれで半ば隠居のような暮らしをしている」


 ガルディスは腕を組み、短く頷いた。

「エルンスト、か。そういえばこの町にいたな。いや、難しいか……。しかし、彼なら何か掴めるかもしれん。俺から話を通そう」


 沙羅は不安と期待が入り混じった心地で小さく息を呑んだ。



町の中央から少し外れた細い路地。その奥に、埃をかぶった本と巻物で埋め尽くされた小さな家があった。

そこに暮らすのが――エルンスト・ハーヴェイ。


長い前髪の奥に光る灰色の瞳。痩せているが、容貌は整っており、町の娘たちが時折ちらりと視線を投げるほど。しかし、彼は人との関わりを避け、ほとんど外に出ることはない。かつては中央の都で学者として名を馳せたが、政治的な争いや人間関係に嫌気が差し、ここへ逃げてきたのだった。


そんなエルンストのもとに、ガルディスが足を運んだ。

「お前にしか頼めないことがある。……奇妙な娘でな。数字が見える、と言う」


その言葉に、エルンストの灰色の瞳が鋭く光った。だがすぐに表情を戻し、興味を隠すように肩をすくめる。

「また面倒事を持ち込む。私はもう、学者ではない。ただの厄介者さ」


そう口では突き放す。けれど、心の奥に湧き上がる知識欲を抑えることはできなかった。



後日、沙羅はガルディスに連れられてエルンストの家を訪れる。


扉を開けた先に現れたのは、整った容貌をした男だった。長い灰色の髪を後ろに束ね、どこか影をまとった微笑を浮かべている。


「やあ、ガルディス。待っていたよ」

「お前なら、興味を持つと思ったんだ」


二人のやり取りを横で聞きながら、沙羅はそっと視線を向けた――その瞬間、頭の中に数字が浮かぶ。


69/920。


あまりに大きな差に、思わず眉が動いてしまった。

すると男はすぐにそれに気づいたように、静かに口を開いた。


「……見えたんだね。数字が」


「え……」沙羅はうろたえる。だが彼の灰色の瞳は好奇心の光を宿し、問いを重ねた。


「教えてくれないか。私には、いくつに見えた?」


逡巡ののち、沙羅は小さな声で答えた。

「……上が69、……下が920……」


一瞬、部屋の空気が張りつめる。

けれど、彼は声を立てて笑うでもなく、眉をひそめるでもなく――むしろ楽しそうに口角を上げた。


「やはりか。実に面白い」


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