46話 豊村沙織、社会復帰へのレッスン1
突然結婚を迫られて焦る直哉。
だが、ほぼほぼ初対面の相手と結婚なんてするわけがない。
「ちょっと待って!オレはまだ学生だし17歳だから結婚なんて出来ないよ!」
「私は成人しているから、直ちゃんが18歳になったら結婚できるよ……。
それに籍は後でもいいの……わ、私のことをお嫁さんにして養って欲しいの……」
「おう?」
「あーちゃんとギルドの人が言ってました。直ちゃんとの赤ちゃんを産めば、もう働かなくていいって。
結婚すれば将来安泰、ずっと自堕落な生活をしていられるって……」
「おおう?」
沙織の話は聞けば聞くほど、あらぬ方向へと進んで行く。
つまりあれだ、沙織もまた直哉にエリクサーを作らせようとするギルドから送られた刺客なのだ。
「お話は分かりました」
「わ、分かってもらえたの?えへへ……」
沙織の表情がとても嬉しそうな表情へと変わっていく。結婚できると思い、口元を緩ませてヨダレが垂れていた。
「ええ、お話は分かりました……が、オレが結婚相手に求めるのは共働き出来ることです!
豊村さんがオレと結婚したいなら、きちんと就職して働いてからにしてください!」
「え、ええ―っ!」
結婚して悠々自適な生活を送れると思い込んでいた分、沙織のダメージはデカかった。
「そ、そんなぁ……話が違うよぉ……」
「話?そういえば、ダンジョンコアとギルドから話を受けていたんですよね。
ギルドは分かるけど、ダンジョンコアがなんの話を吹き込んだんですか?」
「そ、それはぁ……上位スキル同士が結婚して子供を作れば、その子供も上位スキルになるかもしれないって……」
「ギルドとは違う方向だけど、ダンジョンコアもスキルの継承が出来るか確認したい訳か……」
上位スキルでも直哉とそれ以外の人間で、コアの対応が違うのは直哉もなんとなく察していた。
直哉から発する生命エネルギーはそれほどに凄いものなのか?
それとも柴犬が他のコアを巻き込むために大口を叩いたのか?
ダンジョンコアではない直哉には正解は分からないが、ギルドの思惑にもダンジョンコアの思惑に乗るのも真っ平御免だった。
「直ちゃーん……ワガママ言いませんから、結婚しなくてもいいので……子供だけでも授けてくれませんか?」
「豊村さんはオレの事が好きなの?」
「はにゃ!?な、な、な、いきなり何ですかぁ……変なことを聞いて来てぇ……」
「大事な事だよ。
好きでもない人と子供を作って結婚するというのはおかしい。
そんな人生を棒に振るような真似をするなら、仕事をした方が絶対に良いよ」
「……し、仕事するのに比べれば、直ちゃんと結婚するのはイヤじゃないよ?」
「うーん……」
恋愛感情があるかは分からないが、一度会っただけの人間にしては沙織に懐かれていた。
呼び名も勝手にあだ名をつけるくらいだ。
「逆に直ちゃんは、今好きな人とか付き合っている人とかいないの?」
「うーん?」
沙織に言われて考えるが、思い浮かんだのはリナ子や麗華の顔。
しかし、好きかと自分に問うと頭を傾げてしまう。
「付き合っている人はいませんね、今の所。……ぐっ!自分で口にするとダメージが……」
「ほらほらぁ、特にいないならぁ……わ、私と付き合っちゃおうよぉ?
学生時代に恋人がいないって、寂しいんだよぉ……ううっ、私も言ってて悲しくなってきちゃった……」
互いに自分の言葉でダメージを受けている二人。
「で、でもでもぉ、だからこそ私達が付き合えばそんな寂しさも消えるんだよ!
そ、それって素敵なことだと思うよ?」
沙織は自分のトラウマを思い出しても引き下がらず、更にアプローチを続けた。
沙織がどれくらい本気かは分からないが、直哉はこれっぽっちもその気はない。
何とかして諦めて帰ってもらいたいが、どうにも自分一人の考えではないので言葉で伝えても引き下がってくれるとは思えなかった。
そこで直哉は名案を思い付く。
「そうですね。いきなり結婚と言われてビックリしたけどすぐに断るのは失礼ですし、お互いを知るためにデートをしませんか?」
「う、うん!いいよぉ、前向きになってもらってうれしいなぁ……くふふふふふ」
そうして直哉は沙織を連れてダンジョン内へと入って行った。
「あ、あれ?どうしてダンジョンなんかに入っちゃったの?デートするんじゃないの?
あっ!もしかして……このダンジョンのあーちゃんにご挨拶、したいとか?」
ダンジョンに入って沙織は狼狽え始めるが、直哉は気にしない。
何しろこれから始めるのはデートなどではないからだ。
「違いますよ。
今から行うのはニートを更生して社会復帰させるトレーニングです」
「えっ!?」
「結婚したら働かなくていいなんて幻想を抱いている、人生舐めている女性をいっぱしの探索者に仕立て上げる。それが今日行う事です!」
「やだー!いやっいやっいやっ!働くのはイヤなんですぅ―!」
「ほら、ダンジョンデートは始まっているんですから、奥に進まないとデートの思い出を作れませんよ?」
「ヤダッ!始めたくない!直ちゃんの意地悪!」
「労働の辛さを耐えられない人が、出産や育児の大変さに耐えられるわけないでしょう!
ほら、嫌々しても無理に引っ張って行きますからね!」
「そんなぁー……やめて―……」
ダンジョンに沙織の声がこだまするが誰も助けはしない。
探索者は自己責任。命がかかったダンジョン内で助けを呼んでも誰も手を貸す余裕などない。
それと基本的に1階には誰もいない。
スライムなんて狩っても一円の得にもならないからだ。
「ほら、スライム相手なら攻撃もしてこないし簡単でしょう?
いきなり強いモンスターと相手させる訳じゃないですし、何よりもお互いを知るのにスキルも知っておきたいじゃないですか」
優しく沙織に言い聞かせて、沙織に戦闘を促す直哉。
それとスキルを知りたいというのは嘘でもなく、それは直哉の本心だった。
「わ、私のスキルが気になるの?」
「ええ、オレは強いスキルに憧れて探索者になったんで、スキルが使われる所を見るのが好きなんです」
「へ、へぇ……じゃあ、わ、私が格好いいお姉ちゃんて分かれば惚れちゃったりする?」
「……そうですね!豊村さんの格好いい所みたいですね!」
「じゃ、じゃあ私頑張っちゃおうかなぁ……」
(チョロいな)
豚も煽てりゃ木に登る。
スキルをいくら見た所で恋愛感情は生まれないが、沙織を社会復帰させるため直哉は鬼となって嘘を付いた。
その気になった沙織は鼻息を荒くしてスライムを向き、手を伸ばしてスライムにその手を向けた。
15メートルほど離れており、直接攻撃では無いのは分かった。
(調合系のスキルと言ってたけど、それを戦闘に応用しているのか?)
沙織自身に興味は無くとも、直哉は沙織のスキルには興味深々。どうなるのか静かに見守っている。
そして沙織は更にもう一つの手を、別のスライムに向ける。
二体のスライムに手を向けたと思ったら、それを突然に手を合わせた。
すると手を向けられたスライムが手の動きと同じように動き出し、二体のスライムも体が合わさった。
合体したスライムがいた所にはアイテムが落ちていた。
ガラス瓶に入ったそれは探パスで調べるとポーションと鑑定されていた。
「こ、これが私のスキル……モンスター調合だよ。
……惚れちゃった?」




