47話 豊村沙織、社会復帰へのレッスン2
「1階のモンスターからドロップアイテムが出るなんて……これが上位スキルの力か……」
ダンジョンコアによって4階までモンスターのアイテムは超低確率でしかドロップしないことになっている。
コアが求めるものが鍛え抜かれた生命エネルギーであるため、アイテムドロップは奥の階層へと誘き寄せる餌となっているからだ。
「そうですよ。わ、私のスキルでアイテムが作れちゃうんです。
私をお嫁さんにすると、あの、その、とってもお買い得ですよぉ?」
「うーん、でも結婚したらダンジョン探索してくれないんですよね?
だったらアピールポイントとしては成り立たないかなぁ……」
「そんなぁ……」
直哉の素っ気無い態度にがっくりとする沙織だが、本当のところ直哉はかなり興奮していた。
自分と同じくモンスターを一撃で屠れる能力だが、自分とは違いアイテムを生み出せる。しかも余計な手順も必要ない。
もしスキルを交換出来るならお願いしたいほど、魅了されていると言ってもいいくらいに直哉は沙織のスキルの評価していた。
「豊村さんは働きたくないのなら、その力で希少なアイテムを作成して売れば大金を手にして働かなくて済むんじゃない?」
「そ、それがね……わ、私の力はあくまで調合で、モンスターがいないとアイテムを作れないの……」
「それはまあ、スキルだからね。ダンジョン内でしか力を使えないよね」
「うん、それでぇ、モンスターの適正レベルによって出て来るアイテムが決まってるの」
「つまり、良いアイテムが欲しければダンジョン奥深くに行かなければいけない訳だ。
なるほど、これでは他の探索者と変わらないな」
「ううっ……そうなんですぅ……。
更に言えば、中ボスエリアはモンスターが一体しか出て来ないから、私にはそれ以上先には行けないんですぅ!」
直哉が暴走状態のダンジョンに巻き込まれた時、50階でミノタウロスと戦ったが、確かにあのエリアは他のモンスターがいなかった。
モンスターを合体させるスキルであるが故に、敵が少なすぎるとスキルが使えないというピーキーさは、まさに上位スキルと言った所か。
「でも、それならパーティーを作って先を進めばいいのに……」
「学生時代引きこもっていた女にパーティー募集なんて出来ると思いますかっ!?」
「うおっ!大きな声出せるじゃないか……。
今だってオレとパーティー組んでダンジョン潜っているじゃない。
豊村さんなら出来るよ」
「やだぁ!知らない人と喋るの疲れるぅ!分け前取られるのもイヤッ!
でも直ちゃんと一緒なら夫婦の財産だから気兼ねしなくて済むもん……」
「いや、他人なので分け前貰いますけど……」
これ以上沙織の言い分を聞いていても埒が明かないと直哉は判断して、会話を切り上げて沙織の手を握った。
「えっ!?直ちゃん、何だか大胆……」
勘違いしている沙織をそのまま2階へと連れて行く。
今度の相手はゴブリンだ。
「スライムでポーションを作っても大金は得られない。だったら、奥に進むしかないでしょ。
豊村さん、オレに貴方の力をもっと見せて欲しいんだ。それこそ最上階まで上ったらどんなアイテムが出るのかを、オレは見たい」
「と、突然押し掛けた私が言うのもなんだけど、直ちゃんはどうして私のスキルを試したいの?」
「……本心を言うと、二つ思惑があります。
一つはオレはどんなスキルにでも興味があるんです。子供のころからの憧れでどんなスキルも好奇心が湧くんです」
「わ、私にも、もっと興味湧いていいんだよぉ?」
ここぞとばかりに沙織はアピールをするが、直哉はそれを無視して会話を続けた。
「二つ目はオレの代わりにもしエリクサーが作れるようになれば、ギルドがオレの勧誘をやめるかもしれないってことです。
オレはそんな大層な覚悟はないし、巻き込まれるのもご免なんです。
でも豊村さんはお金が欲しいんでしょ?
ならエリクサーを作れるようになれば、ほとんど働かなくていいんじゃないかな?」
「ヤダッ!直ちゃんが嫌がっているっていうことは、絶対に碌なことにならないもん!
わ、私はお嫁さんが良いよぉ……」
「でも豊村さんの願い通りに話が進んでも、結局奥さんである豊村さんも巻き込まれるの確定ですよ?」
「……その時は、旦那さんである直ちゃんが助けてくれるもん!」
「オレがその直ちゃんで、助けられないって言っているんですけど?
って、ゴブリンが来ましたよ!ほら、早く構えて下さい!」
二人で話し込んでいると、奥からゴブリンがやって来た。
直哉が指示を出して沙織が構えるが、ゴブリンは一体しかいない。
「む、無理だよぉ!説明したよぉ、さっき説明したの!
一体だと……わ、私のスキルは、発動出来ないって……」
「くっ、仕方ないな……ファイアリング!」
迫り来るゴブリンに魔法の腕輪の呪文を叫んで、腕輪から火の輪が出現する。
直哉の意思通りに、火の輪は真っ直ぐにゴブリンへと射出された。
ゴブリンが火の輪に触れると、塵も残さずにゴブリンは消滅した。
あっという間の出来事に沙織は呆気に取られて、反射的に拍手をしていた。
「凄い……直ちゃんすごーい!
直ちゃんってエリクサー作成がスキルじゃなかったんだね」
「……知らない相手と良く結婚しようなんて思いましたね」
「?直ちゃんのことは知っているよ。
知らない部分もあるけど、それはこれから見つけて行けばいいよね。
それってこれから楽しめることが沢山あるってことだもん」
「……じゃあゴブリンが調合されると何になるか知りたいんで、ゴブリンが集まっている場所に移動しましょう」
「ヤダー!これ以上の探索は虐待だよぉ……」
嫌がる沙織に有無を言わさず直哉は手を引っ張って行く。
最初は嫌がっていた沙織だが、直哉が手をしっかりと握ると頬を赤く染めて素直に付いて来た。
「直ちゃんったら、素直にお姉ちゃんと手を握りたいって言えばいいのに……えへへ」
手を握っただけで一人で盛り上がる沙織。
直哉は否定するのも面倒なので沙織の言わせたいようにさせた。
デートだと思わせた方がスムーズに探索が進むので、幸せな勘違いに浸らせておくのが吉だ。
「あっ、ゴブリンのパーティーがいましたよ。
相手は四体、二体はこちらで処理をするので残りの二体をお願いします」
「あっ……手を繋ぐの止めちゃうの……やだ……」
「言ってる場合ですか?まだ2階とはいえダンジョン内ですよ!?
後で手ぐらい繋いで上げますから真面目にやってください!」
「う、うん!わ、私頑張るよ!」
気合が入った沙織は、早速ゴブリンに手を向けてターゲットをロックした。
そして別のゴブリンも同じように空いた手を向ける。
その間に直哉もゴブリンに手を向けた。
一体は先程と同じように火の輪で倒すつもりだ。
しかしファイアリングは一つしかない。
そこでもう一つの魔法アイテム、ショックウェーブの魔法を試してみることにした。
同時に魔法を起動させ、左手からは火の輪が現れた。
その間にショックウェーブは発動しており、魔法が当たったゴブリンは倒れていた。
雑魚モンスターならどんな攻撃でも一撃で倒せる直哉の攻撃なのに、消滅しないのは興味深い。
もう一方のファイアリングで攻撃された方は、先程と同じく火に触れただけで消滅した。
そして沙織が調合を行うと、ゴブリンが合体した場所にはすりこぎが落ちていた。
探パスで鑑定するとこん棒(小)と表示されていた。
「これでは億万長者は程遠いな……」




