11話 遂にバレた!?直哉の秘密!
ダンジョンの3階と4階の間にある階段で一休みをしている最中、リナ子は直哉へ疑問を投げかけた。
それに対して直哉は、傍から見ても分かりやすい程に動揺してしまうのだった。
「ノリオのスキル、なんか普通と違うよね?何で隠しているの?」
「な、何のことかな……オレのスキルは……あの、その……回避系のスキルだよ?」
明らかに動揺している直哉の姿を見て、リナ子は直哉の異常な強さと隠したいものがスキルなのだと確信した。
「それは嘘よ!どうして本当の事を話してくれないの?アタシの事を信用していないってワケ!?」
「そういう事じゃないよ……」
「じゃあどういう事よ?ねえ……パーティー組んでるんだから、嘘や隠し事は無しにしてよ……」
問い詰めるような強い口調から一転、リナ子は隠し事をされて悲しそうにして今にも泣きだしそうだった。
その顔を見て、直哉は覚悟を決めた。
「ごめん……嘘も隠し事もしてた……これが嘘を付いてまで隠したかったオレの秘密だよ」
直哉は自分のステータス情報をリナ子の探パスに送った。
「これが何?レベル13……あれ?ステータスの表示がないじゃない!」
「これがオレの秘密だよ……。
オレのスキルにはステータスが無くて、これ以上強くなったりしないんだ。
それどころかモンスターの攻撃を一度でも食らってしまうと、ショックダメージが入ってやられてしまうんだ」
「でも……あたしを庇って、モンスターから攻撃を受けていたじゃない?
アレはやっぱり回避系のスキルがあるってことじゃないの?」
リナ子の疑問に直哉は首を横に振った。
これより先は言葉で説明しても伝わらないと思い、直哉は装備していたナイフを自分に突き立てた。
「きゃあっ!いきなり何をしてんのよ!?」
「見て、オレの体が半透明になっているでしょ。この状態だとオレの体に触ることは出来ないから、試してみてよ」
「ええっ!?そんなこと言われても……」
リナ子はおっかなびっくり手を伸ばして直哉の肩辺りを撫でようとするが、貫通して触れることが出来なかった。
今度は半透明になった直哉の胸に何度か手を伸ばすが通過してしまい、触ることが出来なかった。
「3……2……1……はい、そこまでだよ。この状態は長く続かないんだ」
「ウソッ!何これぇ?え、すっご!
何で、これ隠していたの?凄いスキルじゃん!」
半透明になった直哉の体に触れられないと理解したリナ子は、好き放題に直哉の体に手を伸ばし貫通させて遊んでいたが、無敵が切れる前に直哉が手を掴んで終わりを告げた。
それにリナ子はテンションが上がって、直哉に隠し事をされていた鬱憤も忘れてはしゃいでいた。
「凄いスキルだって大畑さんは評価してくれたけど、もう一度オレのステータスを見て欲しい」
「見てって言っても……あれ?レベルだと思ってた数字が減ってる……」
「それはレベルじゃなくて残機なんだ。オレにはステータスどころかレベルもない。
だから他の人のように強くなったり、新しいスキルを覚えたりもしないんだ。
そして凄いって褒めてくれた力も、残機が無くなれば大したことは出来ないんだ……」
「そんな……!」
直哉の告白にリナ子は衝撃を受け、先程まで自分のことのように喜んでいて笑っていたのに、深刻な表情へと変わっていった。
「じゃあ、あと12ある残機が無くなったらノリオは戦えなくなるってこと?」
「いいや?残機はモンスターを百体倒すごとに1つ増えるからそこは問題ないよ」
「なっ……じゃあ、何も問題ないじゃない!
てっきり残機が減ったら回復しないから自分は弱いみたいに言ってるかと思ったら、回復するなら問題ないどころかやっぱり強いじゃない!心配して損しちゃったじゃない」
リナ子は直哉のあまりに卑屈な態度に憤慨して、頬を膨らませた。
「それで、何でこれを隠しておくのよ?何も問題ないどころか、強みになるじゃないの」
「ええっ!?だって新しくスキルを覚えれるなら絶対そっちの方が良いんだよ!?
オレは……そりゃあ序盤はそこまで足手まといにならないだろうけど、ある程度のレベルになったらついて行けないと思う……。
それで大畑さんがこの事を知ったらパーティー解消されるかもしれないと思ってさ……だからどうしても本当のことが言えなかったんだ……」
「ふーん……」
怒っていたリナ子だったが直哉の本心を聞いて、次第に機嫌が良くなって口元が上がっていく。
「あたしに捨てられると思ったから……隠していたんだ……」
「うん。だってパーティー解散になったら魔結晶を取りに行けないからね」
「んん?」
「実は隠していたんだけど初心者講習に生活費を使っちゃってさ、もう家に食料がないんだよ。
だからここで大畑さんに見捨てられると飢え死にするから、だからお願い!食費を稼ぐまではパーティー解散しないでください!」
直哉はリナ子に頭を下げて頼み込む。
にやにやと笑っていたリナ子の表情がまた変わり、目が吊り上がって不機嫌になった。
「やっぱりこんなスキルじゃダメかな?」
「いいえ……あたしはそのスキルに、2回も危ない所を助けられた訳だし感謝しているの……でもね!秘密にしていた理由が食費を稼ぎたいからって……それ何なのよ!」
「大畑さん……大きな声出してどうしたの?ちょっと落ち着こうよ……」
「正座ッ!」
「えっ?」
「バカなお金の使い方する人はここでお説教します!!」
「ええっ!?ここで?今すぐ!?」
「そうよ!!絶対に許さないんだからねっ!!!」
その後一時間ほど固い階段の上で、直哉は理不尽な説教を受ける羽目になってしまうのだった。
生活費を使い込んだことは悪いと思っているが、それがどうしてリナ子に怒られなければいけないのか訳が分からずも、反論を許さない空気に従ってしまう直哉なのだった。
◇◇◇
「ほら、何も食べていないんでしょ?全部食べていいからね」
「うわぁ……旨そうなお弁当だねぇ……」
説教が終わって警戒しつつダンジョンを進んだが、特に何の問題も起こることなく安全にダンジョンを脱出することが出来た。
帰り道に発動するギミックは4階だけだったようだ。
そして、約束していた通りリナ子は作ってきた弁当を直哉にあげていた。
「ねえ……そんなに食べる物がないなら、これから毎日お弁当作ってあげよっか?」
「いいの!?だって……これでパーティーは解散だろう?」
「誰がそんなこと言ったのよ!
あたしが怒ったのはお金の使い方と、しょうもないことを隠し事にしていたことに対してであって、直哉のスキルに一目置いているんだから解散する気はないわよ!」
「大畑さん……ありがとう!」
「でも、直哉が言った通りドロップアイテムはパーティーで等分に分けるより、ラストアタックの人間の物にした方が良さそうね。
誰かさんはお金を手にしたら、無駄遣いしそうだからね」
リナ子は、誰かさんの部分で直哉をじろりと睨んだ。
直哉はそのキツイ視線から逃げるように早速弁当を頂くことにした。
王道ともいえる弁当の献立だ。
卵焼きに唐揚げにプチトマト、それとご飯にはごま塩が振ってある。
卵焼きから口に入れ、卵の甘さと出汁の美味さで頬が落ちそうになる。
(空腹もあるが本当に美味しい弁当だ。これからこの弁当が毎日食えると分かると、この二日間のゴタゴタが報われていくぞ)
食事が美味すぎて直哉はうんうんと頷くだけで、目の前でリナ子がこれからのことを話しているが全然耳に入っていない。
「それでね……あたしの方も隠し事していたことがあったの……ノリオが正直に話してくれたから、あたしもキチンと話すね。」
「うんうん(唐揚げうめぇー)」
「実はあたしの目的はポーションなの」
「うんうん(プチトマトって苦手だったけど、食べてみると酸味と甘みがいいんだよな)」
「ママ──お母さんがケガしちゃってどうしても治してあげたいの。だから完全に治せる上位のポーションがあたしの目的なのよ」
「うんうん(ごま塩振ってあるだけの白米が食欲を更に掻き立てるぞ!)」
「それが落ちるのが大体50階らしいのよ。
そこまで目指すにはパーティーが必須。
レベルアップも装備の準備も色々いるけど、それまで……付き合ってくれるわよね?」
「うんうん(美味しい弁当だけど、女の子用の弁当箱だから小さくて少し物足りないなぁ)」
丁度リナ子が話し終えると同時に直哉は弁当を食べ終わり、食事に集中していた意識が現実に戻って来た。
「本当に?ありがとう、ノリオ!これからもよろしくね」
「こちらこそ、これからも(弁当を)よろしくね!」
奇跡的に会話が噛み合っているようでいない、そんなすれ違いが二人の間に発生してしまった。
話を聞いていなかった直哉にはこれから大変な目に遭うのだが、まだ本人はそんな事になるとは知らず、食事が安定して食べられることを喜んでいるのであった。




