12話 裏切者、大乗直哉ヲ処刑セヨ!
休日が終わり今日から学校が始まる。
直哉はいつも通りに登校したのだが、校門に見知った顔がいた。
しかし彼女はこの高校の生徒ではない。まず制服が違うからだ。
「あっ、ノリオやっと来たね!」
「大畑さん、どうしてうちの学校に?」
不思議がる直哉にリナ子は手に持ったお弁当を見せて来た。
「これから毎日お弁当作ってあげるって言ったじゃない。でもノリオの家を知らないからここで待ってたんじゃん」
「それは……わざわざ、どうもありがとう……」
食事を確保できてうれしい直哉だが、別の学校の制服を着た金髪の女子に弁当を貰う姿はとても目立つ。
登校中の生徒は多く、多くの生徒が足を止めて直哉達を見つめていた。
「あ、あの……弁当はありがたいんだけど、学校遅刻しちゃうんじゃない?」
「ああ、それは大丈夫。あたしのガッコ、ここから近いから。
でものんびりもしてられないんで、夕方にダンジョンへ行くから待ってて。
詳しい話はその時に……それじゃあね」
注目を集めるだけ集めて去って行くリナ子。
朝から青春を送る直哉とリナ子。そんな二人を睨みつける二人の男子生徒がいたが、直哉はこの時二人の視線に気付かなかった。
その目は憎しみと嫉妬が入り混じった、邪悪な炎を宿した瞳だった。
「許さねぇ……絶対に許さねぇ……」
「一人だけ彼女を作りやがって……地獄を見せてやるぞ……」
二人の名前は高桑蓮次に水木徹平と言った。
蓮次は身長そこそこの太っちょの男子生徒。徹平はひょろがりメガネの男子生徒。
どちらも直哉の友人だった。そう、昨日までは友人だったのだ……。
事件は昼休み時間に起こった。
弁当を食べようとした直哉の腕を、蓮次と徹平が掴んでそのまま空き教室へと連れて行く。
「昼食の時間は急遽変更となった。
容疑者大乗直哉よ、この度の時間は貴様の罪を裁く為の裁判を執り行う!」
「えっ?突然なんだ?」
「黙れぇっ!貴様は友人を裏切って、女人と交際している疑いがあるっ!
もしこれが事実だとすれば、執行猶予なしの即日処刑だぁっ!」
「ええっ!?」
いきなりの事でびっくりする直哉。
そもそも直哉がリナ子と交際していようとも蓮次と徹平には関係ない話なのだが、男の嫉妬は醜く冷静な判断力を奪ってしまった。
「いや、朝の子はパーティーメンバーだよ。言っただろ?オレが探索者になった事を」
「貴様ぁ……魔法に憧れてダンジョンに潜ったと思いきや……やってることは出会い系かぁっ!許せん!」
「ただのパーティーメンバーが、弁当作って持って来てくれるわけねえだろっ!
恋愛フラグおとぼけクラッシャーなのか?あまり贅沢なこと言ってると、今すぐ処すぞっ!」
「そ、そんな……理不尽じゃないか……」
被告である直哉の主張は一切取り入れられことなく、蓮次が机をたたいて裁判長の真似事をする。不条理な判決が下ろうとしていた。
「判決、被告人大乗直哉は男女交際には至っていないが、甘酸っぱい青春の一コマを送った事によりリア充爆発の刑と処す!」
「罰として、この弁当は我々が頂くとする!」
「なっ!?お前らっ──それはダメだっ!」
二人掛かりで直哉から弁当を奪おうとするが、直哉は本気で抵抗した。
「オレが金がないって言った時に、お前らは飯を分けてくれないどころかバカにしていたじゃないか!
これがオレの生命線なんだ。渡してたまるかっ!」
弁当を奪い取ろうとした二人の手から、直哉は何とか死守することに成功。
奪い取れないと理解した二人は、それぞれ伸ばしていた手を引っ込めて別のものを直哉に突き付けた。
「なら、俺の弁当を代わりにやろう。それならば腹は空かんだろう」
「俺は金を出す!一万円、持っていきやがれ!」
代わりの弁当と交換するつもりはさらさらないが、現金を見て直哉の目の色が変わった。
(これだけあれば、しばらくは食べていける……)
そう一瞬直哉は考えてしまうが、リナ子の顔が思い浮かんで思い直した。
「何と言われてもこれはオレの為に作られた弁当だ。オレが全部自分で食う!」
「ああっ!……そんな……」
「ううっ……裏切り者ー!」
直哉は弁当箱を開けて一気に口に放り込んだ。その姿を見て悔しそうに唇を噛む蓮次と徹平……。
女子高生の手作り弁当が直哉の腹に収まっていく姿を見ていられなくなり、蓮次と徹平は空き教室を逃げ出すように出て行った。
「お前なんか、もう絶交だもんねー!」
「バーカバーカ!どうせ振られるに決まってるしー!不幸になれーっ!!」
捨て台詞を残して去って行く元級友たち。その目からは涙を流していた。
「結局何をしたかったんだ……あいつらは?」
直哉は走り去った級友たちを見送ると、そのまま空き教室で落ち着いて食事を堪能することにしたのだった。
◇◇◇
学校が終わり、直哉はすぐにダンジョンへと向かう。
携帯でリナ子へダンジョンで残機を増やす作業をしていることを連絡しておき、その通りにダンジョンでスライムを狩っていた。
一方その頃、リナ子は病院にいた。母親のお見舞いだ。
事故が起こってから今日で十日目、母親の容態もかなり安定した。
リナ子の母親は建設現場で鉄骨が落ちる事故に出会い、巻き込まれそうな子供を助けて大怪我を負ってしまった。
その時に両足へ鉄骨が落ちて、命を守るために切断するしかなかったのだった。
命に別状は無かったのだが、手術の後が酷かった。
まさか意識を失っている間に足が無くなっているとは思わず、リナ子の母親はその事を受け入れることが出来なかった。
事故から日も経ち、母親は回復して表向きは笑顔も見せるが、娘から見れば空元気なのは丸分かりだった。
元気のなくなった母親を助けたい、その想いでリナ子は探索者になったのだ。
「お姉ちゃん最近は何かしているの?」
「え、どうしたのママ?突然そんなこと聞いて来て」
入院していて顔を合わせるのは学校帰りの見舞いくらい。
それなのにリナ子のいつもと違う何かを見つけたのか、母親は話を投げかけて来た。
「最近、私の事で苦労かけてて申し訳ないなって思ってたんだけど、リナちゃん何だか楽しそうだから」
「楽しそう?あたしが?」
てっきり探索者になった事がバレたのかと焦ったリナ子だったが、話が思いもよらない方向に進んで行く。
「悠ちゃんから聞いたけど、今日はなんか多めにお弁当作ってたそうじゃない。もしかしたら男の子に渡すんじゃないかって……」
「あ、あれは……その、お礼というか……困っていたから助けたみたいなもので……」
「えっ?本当に男の子にだったの!?」
歯切れの悪いリナ子の言い方に、恋バナの匂いを嗅ぎつけた母親。ケガのことなど忘れて身を乗り出してくる。
「どんな子のなの?年齢は?出会ったきっかけは?」
「どうでもいいじゃん、そんなこと!……それよりも、やっぱり無理なの?」
「やっぱりって……ああ、うん。保険屋さんの話じゃ、私の加入しているプランだと用意出来てもハイポーションだって……」
直哉の事を話すと探索者になった事がバレてしまうので、リナ子は思いっ切り話題を変える。それはポーションの話だ。
リナ子の母は保険に加入していたが、そのプランで用意出来るのがハイポーションまでだった。
これで治せるのは骨折や指の切断など、重いケガで後遺症も残る可能性があるが自然に治るものだ。
勿論ポーションを使えば傷跡や後遺症など残らない。
リナ子の母のように足が無くなった場合は、その一つ上のエクスポーションが必要となる。
これは四肢の欠損を即座に治し、ダンジョンで使えばHPが全回復するという優れものだ。
お値段なんと末端価格一億円。
殆ど市場に出回らず、買えるのはプロスポーツ選手かトップ探索者か大金持ちくらい。
手に入れるにはダンジョンへ取りに行くしか方法はない。
「リナちゃん、私のことはもういいのよ。命は助かったんだから、気にしないで!
それよりも……リナちゃんの好きになった彼の事を聞きたいわぁー?」
「だから……別に好きとかじゃないから……。
何と言うか……困ってる所助けてくれたから、お返しにお弁当作ってあげただけだから!」
「あらー?リナちゃんのピンチにさっそうと駆けつける彼は、どうやら白馬の王子様みたいな人みたいね」
探索者になった事を秘密にするため、やむなく直哉の情報を母親に吐いてしまったがお陰で茶化される羽目になったリナ子。
少しからかわれたくらいで、もう顔が真っ赤になっていた。
「だからそんなんじゃないって!……相手も生活費を落としたみたいで困っていたから恩を返しただけだよ……」
「ふーん、そう……でも娘を助けてもらったのは本当なんだから、いつか会ってみたいわね」
「……会いたいんだったら、リハビリを頑張って退院しなくちゃいけないね!
お医者さんに早く退院したいからリハビリメニュー三倍でもいいって言ってこようか?」
「ううっ、娘が厳しくてお母さん悲しいわ……やっぱり恋をしたら家族よりも彼氏なのね……」
「だーかーら!彼氏じゃありません!」
からかわれるのは恥ずかしかったが、直哉の話をしている時の母親は本当に心の底から笑顔になっていた。
それは事故が起こってから初めて見た笑顔だった。




