番外編2)拾物
麗姫がその猫を拾ってきたのは、彼と出会う前日のことだった。
「ねぇ、剋?お願いよ、この猫、城のそばに捨てられていたのよ?」
「だめですよ、麗姫さま。そうやって同情心だけで動物を拾って飼い始めたらキリがないですよ」
「いいじゃない。別に場所はいくらでも余ってるんだし」
「そういう問題じゃなくてですね・・・・・・」
「じゃぁ、剋は困っていたり、捨てられた動物を拾うことがないっていうのね?!薄情者~!!」
麗は言うだけ言うと、その猫を抱きしめて、剋の前から猛ダッシュで走り去った。
「まったく、剋ったらひどいわ!!こんなに小さな子猫も飼っちゃだめなんて」
この猫だって好きで孤独になったわけじゃないのに。
麗は城の近くの森まで歩きながら、ぶつぶつとつぶやいていた。
まだ母猫が恋しいのか、にゃぁにゃぁ鳴きながら、子猫は麗にすり寄ってくる。
「わたくしもあなたも同じ親なしね。剋がいくらだめだと言っても、わたくしが必ずあなたを守ってあげるから」
ぎゅっと麗は子猫を抱きしめてそう決意する。
こういうことは、初めてじゃない。
麗はよく城の周りを散歩すると、猫や犬、鳥や果ては浮浪者まで発見しては城に拾って帰ってくる。
剋はそのたびに反対する。
でも結局は麗の意見が通るのだ。拾われた動物は剋が里親を探し、浮浪者は城内で働くようにしつける。
無条件でただ拾われたものたちを甘やかすようなことは、剋はしない。
「どうして、剋はあんなに冷たいのかしらね」
「・・・悪かったですね」
「か、剋?!」
突然背後から剋の声が聞こえて、麗は驚いて振り向く。すると、剋の腕の中には、また違う猫が抱かれていた。
「・・・それは?」
「親猫ですよ。その猫の」
すると、本能で親だと察知したか、麗の腕の中の猫が暴れだした。同じように剋の中の親猫も暴れて、彼の腕から逃れる。
「・・・あら、あなた、親からはぐれただけだったのね」
苦笑しながら、麗は子猫を床にそっと放した。すると、子猫は甘えるように親猫に擦り寄って、にゃぁにゃぁ鳴き出す。
そして、二匹の猫は、そのままこちらを見向きもせずに森の中に消えて行った。
「・・・知ってたの、剋?」
「いいえ、偶然です。・・・麗姫さまが城をよくお散歩されるように、オレも同じように巡回してますからね」
「それであの二匹の猫のことは知っていたのね?」
「まぁ、そうですね」
「でも今まで拾ってきた動物が、みんな親とはぐれたわけじゃないわ。なんで剋はそんなに冷たいの?困ってる者を助けるのは当然ことでしょう?」
むっとした様子で尋ねる麗に、剋はただ苦笑を返した。
「それは当然のことですが、ただ無条件に甘い汁だけを吸わせれば、その者を助けるどころか、堕落に貶めるだけになりますよ」
「・・・・・・でも、困ってるのよ?」
「困っているからといって、なんでもすぐに助けていいわけではないです。どん底から這い上がってこその強さもある。あなただって、それは知っているはずです、麗姫」
敵国に両親を殺された麗姫。
幼くして女王となった彼女もまた、絶望というどん底から這い上がって今がある。
「オレだって鬼じゃないですよ。死にそうなヤツだったら助けますよ」
「・・・だったら、剋がなにかを拾ってきたら、わたくしは真っ先に反対することにするわ」
くすっと意地悪く笑って、麗はそう言った。その言葉は全然本気ではないことはわかっていたから、剋も笑って返した。
そして次の日の夜。
彼は任務の帰りに、国境傍の崖下でひとりの青年を拾った。
瀕死の状態の青年。
・・・おそらく、敵国の。
「・・・麗姫になんて言おうか・・・・・・」
おそらく、彼女は昨日の会話など忘れて、心配そうにこの青年の看病をするに違いないだろうけど。
剋は青年を担ぎあげながら苦笑を洩らした。
剋が助けて城に『拾って帰った』青年。
その青年こそ、麗と剋の運命すらも動かした、敵国の「守人」である蒐だった。
番外編2作目は、麗と剋のふたりの話でした~。
番外編も書き始めると色々と浮かんでしまうのですが、ちゃんと選定しないとだめですね(笑)
たぶん、番外編は10作品書くことになると思います。
それまでお付き合いいただければと思います。