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守り人  作者: 紫月 飛闇
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守れぬ、守り人。
















壮絶な爆音は、糺国と椎国、両国の人々にも衝撃をもたらした。




関所近くに控えていた衛人はもちろん、それぞれの国城で突然消えた王を捜し回っていた臣下たちもこの爆音に血相を変えた。




なにせ、爆発音は国境からしたのである。


敵国の襲撃だと思い込むのは当たり前の勘違いだった。












「さて、用は片付いたな」






『朱石』と『蒼石』。


ふたつの『宝石』を焼き尽くした炎が消えたのを確認したあと、趨が明るくそう言った。




両国の運命を揺るがす国宝を葬ったあととは思えないほど、あっけらかんとした態度だった。








「今日がお天気で本当によかったですわね。爆発日和でしたね」


のほほん、とそう返したのは麗。








蒐はその瞬間、悟った。










趨と麗は、考え方が似ているというよりは、同じ人種なのかもしれない、と。


とりあえず、蒐には彼らの清々しいほどの開き直りができない。




周りを見れば、剋も、渫や籥も両国の王よりは複雑な表情を浮かべている。








ふと、蒐は笑いたくなった。


こんなに蒐たちが様々な思いや憂い、心配をしていても、当事者である趨と麗は実に晴れ晴れとしているのだ。








おそらく、蒐たちが心配している『未来』と、趨と麗が目指していく『未来』への覚悟と決意が違うのだろう。












「さて、うるさいじじぃどもが来る前に退散するか」


趨が渫と籥に言う。


また、蒐はふたりと離れなければいけないのだろうか。










「今度は、正式な会合でお会いしましょうね」


麗が趨に言い、そして蒐に向き直った。






「蒐、あなたは糺国に帰るのでも、椎国に一緒に戻るのでも構わないわよ。わたくしたちはもう、争う必要がないのだから、いつでも会えるのですし」


麗にそう言われ、答えに窮している蒐に麗はさらに小さな声で言い加えた。


「・・・でも、わたくしは、できたら蒐と一緒に椎国城へ帰りたいわ」


「麗姫さま・・・」






「蒐」








蒐を呼ぶ声。


それは、今日再会して初めて彼に向き合った、渫だった。






「蒐、今は椎国へ戻りなさい。あたしたちはいつでもまた会えるから」


「姉さん・・・」


「それに、オレたちは蒐という人質がそっちにいないと趨太子を援護しないかもしれないしな」








にやっと笑いながら籥が言う。


そこまで言われては、蒐も他に言うことなどない。










「じゃぁ、とりあえず椎国に戻ろうかな」


それは今日のような暖かな陽のような笑顔で。


蒐は渫と籥に笑い返した。


その傍らで、麗も剋も笑っている。










「正式な会合の日程についてはまた追って連絡する。また6人で再会しよう」










「…へ?」


意気揚揚とした趨の言葉に、蒐がきょとん、と問い返す。






また6人で再会する?


正式な会合の場で?!










「なんだ、蒐。おまえは麗姫からなにも聞いてないのか?」


呆れたように趨が尋ねてくるが、蒐はわけがわからずただ頷くだけだ。




「趨太子のお呼びがまさか今日とは思わなかったものだから」


くすっと愛らしく笑いながら麗がそう言った。


趨は肩をすくめると、燃え尽きた『宝石』を指差した。








「『朱石』も『蒼石』もなくなっただろ?」


「・・・はい」


「と、いうことは、王という存在はいらなくなった。そうだろ?」


「はい・・・って、え?!」








「王なんて存在がいるから、玉座なんてものがあるから、それを奪い合って争う。『朱石』と『蒼石』はそのきっかけに過ぎない」


「だから、わたくしと趨太子が王となったら、王政制度を廃止しましょうって話をしていたの」








趨の説明を継いで、麗が笑顔でさらりと言った。


ものすごいことをあっさりと。










だから、蒐は自分の聞き間違えだと思ってすぐには反応できなかった。


だが、趨も麗も平然とした態度で蒐がなにか言うのを待っている。










「・・・え?」












「だから、麗姫の言った通りだ。王政制度を廃止し、民主制度を導入させる。国を統べるのは王ではなく、民たちに委ねるんだ」


「えぇ?!」


もはや蒐の想像をはるかに越えた趨の発言に、救いを求めるように渫と籥を見る。






ふたりは苦笑しながらも頷いた。


「オレたちは趨太子に麗姫の手紙を見せてもらって知ったんだ。それでも、最初は目を疑ったよ」


「でも、麗姫さまがとても細かいところまで民主制度の導入を練っていらっしゃるのを見て、これは現実なんだと思い直したわ」


籥と渫も蒐に頷きながらそう言った。






そして、剋が蒐の後ろで告げる。


「ふたつの『宝石』を破壊したところで、今すぐ戦が止んで平和が来るわけじゃない。それでも、確実に平和への道を歩んでいけるんだ」










漠然とした『平和な世界』。


けれど、麗と趨の間では、それは確かな形として存在しているのだ。












「・・・でも、この6人で再会というのは?」


「王政制度を廃止して、民主制度を導入しても、指導者がなければ国は道を失ってしまうだろう?だから、民に選ばれた6人を中心にして、国を動かしていくんだ。・・・民主制にしてもまたひとりだけを頂点に据えるのでは、またその座を巡って争うだろ?ふたりであってもまた同じ。どちらがより高い地位につくか、いつかは揉める」






「それで・・・6人に?」


「ま、ちょうど俺たちが6人ってこともあるけどな」






あっけらかん、と笑いながら言う趨の言葉は、どこまでが本気で冗談なのかが判別がつかない。


それでも、そこに嘘がないのはわかる。












「民主制度が落ち着いて、民が選ぶ新たな6人の指導者が選ばれるまで、わたくしたちの力になってほしいの」


麗が蒐に真摯な瞳で告げる。


必ず戦を終わらせる。いつだったか、蒐にそう言い切ったあの瞳と同じ瞳で。








「俺で、いいのですか?」


「蒐と・・・そして剋や渫、籥だからこそ手伝ってほしいのよ」


「麗姫、『手伝う』じゃない。『共に築く』だ。俺たちの間に、もはや王や女王、ましてや『守人』なんて地位はないんだからな」


趨がにやにや笑いながら言う。








さすがにそれには剋も困ったように首を傾げた。


「王政制度を廃止するってことはそういうことですよね・・・・・・でもまだ慣れそうにないな・・・」


「大丈夫だ。すぐに慣れる」


糺国の王である趨が、椎国の女王の護衛である剋の肩をからかうように叩く。






そしてそのまま、片手を差し出した。


「今までありがとう、剋。おまえがいなければ、これは実現しなかった。これからも、まだまだ頼むな」


「・・・光栄の至り、と申し上げたいですが、まだまだこき使われそうですね」


にやっと剋も笑い返して趨の手を握り返した。








そして趨は、蒐にも手を差し伸べる。


「糺国のため、椎国のために多くのものを守ってくれたことを感謝する。渫と籥、そして蒐が共に平和に暮らせる世界を目指していこう」


蒐は、趨に突然差し伸べられた手に戸惑ってしまう。






まさか、糺国の王となった趨と気安く手を握り合うことがあっていいのだろうか。








「これは誓いの契りだ。蒐は拒むのか?」


挑戦的に趨が笑いかける。それを受けて、蒐も同じ表情を浮かべていた。


「まさか。ここまで来て知らぬふりはできませんよ」




そして、趨の手を固く握り返した。


ふと、視線をあげれば、そこには蒐を暖かく見守る渫の顔があった。








大切な大切な姉。


共に『守人』への道を歩んだ。


これからは、『平和』に向かって共に歩いてゆける。










「・・・またね、姉さん」








また、すぐに会える。


隔てるものは、なくなったから。








「うん、またね」






渫も籥も、笑顔を返してくる。


あの夜に対峙した、辛そうに泣いていた渫ではない。


今はとても綺麗に笑っている。










「さて、じじぃどもに『朱石』を壊したことを話したときの反応を見るのが楽しみだ」






ひらひら、と軽く手を振って、趨は背を向けて歩きだしてしまう。糺国城に向かって。








「・・・趨太子、じゃない、新王陛下。・・・あんまり臣下をからかいすぎるとうまくいくものもうまくいかなくなるんですから、ほどほどにしてくださいね」




籥が蒐に視線だけで別れを告げて、趨を追いかける。




そして渫が最後にもう一度だけ蒐に笑いかけたあと、籥のあとを追いかけた。










その場に残されたのは、蒐と剋、そして麗だけ。






「わたくしたちも椎国城に帰りましょうか。先ほどの爆発で、城のみんなが心配しているでしょうし」


「うちの『じじぃども』が、目を白黒させる姿を拝めるでしょうしね」




剋のいたずらな物言いに、思わず蒐もくすりと笑んでしまう。










そして、青く澄んだ青空を仰ぎ見て、大きく深呼吸をする。












全ては終り、そして今、始まったばかりなのだ。






















それからの趨と麗の対応は、慌ただしいことこの上なかった。


なにせ、国宝を爆破させたのだ。






両国の臣下たちは、気絶する者が続出するくらいに、泡を吹いて驚いた。






そして往生際悪くいつまでも敵国との和平を渋る者や、王政制度の廃止を反対する者が続出し、なかなか両国の会談の日程が定まらなかった。










それでも、趨も麗も諦めずに根気強く彼らを説得した。


もちろん、城にいる臣下だけではなく、それぞれの国で暮らす民たちにもそれは告げられた。










何度も何度も繰り広げられた会談と説得。












そして、『朱石』と『蒼石』、ふたつの石を爆破させてから2年経って、糺国と椎国の国境は壊された。


両国の和平が結ばれたのだ。




同時に、王政制度も廃止され、民主制度が導入された。












当初の予定通り、その中核には趨たち6人が選ばれた。


争い続けた両国が、和解し、平和な世の中へと移り行くための制度や方針を次々と定めていった。












新たな6人の統治者が選ばれるまで、という約束だったにも関わらず、彼らは両国の民に望まれ、5年もの任期を全うさせた。














その後、彼らがどこでどう暮らしているのか、知る者はない。






かつて、糺国にいたという、伝説の存在『守人』たちもまた、噂と共に消えてしまった。












全ては終り、そして、新たな国が、開かれようとしていた。
















そこに関わった6人の「英雄」たちの話は、今もまだ、民の間で語り継がれている―――――……。










最後までお読みいただき、ありがとうございました。


本編はこれにて完結、となります。

ですが、番外編を用意してますので(笑)、そちらもお読みいただければ、と思います。



すっごいシリアスを書きたくて書き始めたお話だったのですが、まさか51話までいくとは正直思いませんでした(汗)

番外編を合わせればもっとってことですもんね…(汗)



言いたかったこと、書きたかったことはたくさんあるのですが、今はただ、ここまでお読みいただいた方々に感謝です!!



感想等いただけましたら、今後の作品や番外編の執筆の励みになります♪



それでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!!

番外編も近々更新しますので、よろしくお願いします~。

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