035 再び遺跡にて⑥
水場へと向かうアルゲリッチは異様な気配を感じ、歩みを若干落とした。
顔に緊張が走る。
シバケンもただならぬ雰囲気を感じて、一層身を低くする。
「なかなか、ヤバい瘴気だね。こりゃ気合を入れていかないといけなさそうだ。シバケンとシマノフスキは先生を守りながら、ヌブー達がいたら合流して。」
「分かりました。だけど、ヌブーさん達がいなかったら?」
「その場合は、アタシが指示を出すから、一目散にこの遺跡から撤退さ。いいね?」
全然よくない作戦だが、アルゲリッチもヌブーが心配なのだろう。
出たとこ勝負のようなこの作戦に、今にも飛び出していきそうな気色だった。
「私も大丈夫です。多少の魔法なら使えますから。」
「先生、ありがとよ。シマノフスキ、お前にも期待してるぜ。」
アルゲリッチはシマノフスキの肩を叩く。
シマノフスキは笑みを浮かべて頷く。
この旅を通じてコミュニケーションは取れるようになったようで、シバケンは胸が熱くなる。
最後にアルゲリッチはシバケンの顔を見る。
シバケンも金棒を握る手に力を入れて、アルゲリッチを見返して頷く。
「よし、行くよ。」
アルゲリッチは慎重に進み、水場の様子を確認すると、シバケンには目立たないように壁伝いに進むように指示を出した。
そして、自分は鬨の声を上げて腐鳥の集団に斬り込んだ。
『何事だ。』
『メイジ様、人間です!』
虚をつかれたゴブリンは逃げ惑い、それが伝わったのか腐鳥もパニックを起こす。
はぐれたゴブリンに、シバケンは金棒を叩きつける。
骨の砕ける感触が手に伝わる。
虚をつかれたのはヌブー達も同じだった。
「アルゲリッチだ!」
マナカが喜びの声を上げ、壁伝いに歩くシバケン達の姿を見付ける。
「先生達、こっちだ。みんなここにいるよ!」
シバケンはマナカの姿を認めると、ダッカーナとシマノフスキの2人を障壁の中へと誘導する。
が、シマノフスキはシバケンの側を離れようとしなかった。
ダッカーナと入れ違いに、障壁の中からラガとアイルッシュの2人が飛び出してきた。
すれ違い様に、ラガは「先生を無事に連れてきてくれて助かったぜ」とシバケンの背中を叩く。
シバケンはシマノフスキを背にして、はぐれたゴブリンと腐鳥に金棒を振るう。
既に五体ぐらいは倒したか、腕が疲れてきた。
「シバケン、ご苦労さま。ラストスパートいくよ。」
ヌブーが身体をよろけさせながら出てきた。
辛そうな顔だが、かろうじて笑みを浮かべている。
「シバケン。あんたに心配されるほどじゃないよ。安心しな。」
そう笑って、ヌブーは戦場の真ん中に進む。
その視線の先にはゴブリンメイジがいた。
(増援はまだか。味方の数は減らしたくないから、この中で岩を落とすわけにはいかんか。)
両手を上に掲げる。
『目眩し』
ヌブーはすかさず反魔法で対抗する。
その後方で、シバケンは魔物の気配を感じて振り返る。
ラーキーを連れたゴブリンの集団がやってきた。
先頭を歩くゴブリンシャーマンは、入ってくるなり石礫を放つ。
敵味方関係なく無数の石礫に襲われ、動きが遅くなったところに、新手のゴブリンが襲い掛かる。
ラーキーも視神経を阻害する魔法を唱えつつ、粘液を放つ。
(もったいなかったが、あいつらに酒を飲ませておいてよかったわ。)
ゴブリンシャーマンは引き続き能力向上の魔法を全体にかけており、更にホブゴブリンは自身でも忌腐酒を飲み強化されていたので、驚くほどの強さになっていた。
ラガと狂化したアイルッシュの2人を相手に取って、立ち回りを繰り広げていた。
「ラーキーの分は抑えられない。各自で何とかしておくれ。」
ヌブーの声が響く。
さすがに皆の動きに疲れが現れ、軽快な足捌きも見られなくなった。
1人、アイルッシュだけは変わらずにホブゴブリンを翻弄している。
アルゲリッチはヌブーの方に戦場を移していた。
2人はチラッと目を見かわせただけで、特に言葉は交わさない。
アルゲリッチは、ラーキーの群れに襲い掛かろうとするが、ゴブリンシャーマンの放つ石礫の集中砲火を浴び、更にはラーキーの粘液に手を焼いていた。
(悔しいが、オレの魔法をあの魔法使いが防いでいる限り、奴らの手助けは出来ん。逆に、あの厄介な魔法使いを足止め出来たのを上出来と考えるべきか。ん?あそこにコソコソ戦っている人間がいるかと思ったら、その後ろに子供か。ふふふふ。人間は女子供を守ろうとする弱点がある。あんなガキでも少しは戦力になるかと思ったんだろうが、それを逆手に取ってやるわ)
ゴブリンメイジの指示を受け取って、ラーキー3匹が群れを離れ、シバケンの方に向かっていく。
シバケンは、急に足がふらつくのを感じた。
と、同時に周囲が歪んで見え始め、平衡感覚が失われていくのを感じた。
それは目を閉じても変わらず、頭の中がグラグラ揺られる感覚が襲い、そのまま膝を突いた。
シバケンは何がなんだか分からずに金棒を振るうが、虚しく空を切る。
音でラーキーが迫っているのが分かる。
シバケンは慌てて障壁の中に逃げ込もうと、シマノフスキの手を探るが見つからない。
「シマノフスキ、逃げるよ!」
と、シバケンの悲痛な声と同時だった。
凄まじい熱量の風がシバケンの身体の脇を抜けていった。
2023.4.23 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました
2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました




