036 再び遺跡にて⑦
(いったい何が起こったんだ?)
ゴブリンメイジは、呆然と戦場を見下ろしていた。
(子供を狙うようにラーキーに指示を出すと、案の定、あの忌々しい魔法使いと、その横の冒険者達は気勢を削がれていた。が、それがどうだ。向かったラーキーともども、ゴブリンシャーマンまで含めて、一撃だと?一体どんな火力だ。その上、その横の仲間達は無傷だと?そんな正確な制御を、あんなガキが出来る訳がない)
戦局の大勢は決した。
増援に来たゴブリンシャーマンとラーキーは全滅し、アルゲリッチはラガとアイルッシュに合流した。
さしもの強化したホブゴブリンであっても、この3人相手では長くはもたないだろう。
『メイジ様、どうしますか?』
ゴブリンシャーマンは不安そうな表情を浮かべて、ゴブリンメイジのそばに歩み寄る。
(ここまでか)
ゴブリンメイジは目眩しの魔法を解き、酒樽に頭蓋骨で出来た盃を突っ込むと、そのまま大きく飲み干した。
そして、ニヤリと笑い。
『人間共!貴様らの顔は覚えたぞ!』
と言うと、両手を頭上に掲げて岩石を落とした。
味方の生死など構っていられない無謀な魔法だ。
そして、すがるようなシャーマンの腕を掴むと、
『ワープ』
と言って、姿を消した。
「おい、みんな無事か?」
「ああ、こっちは大丈夫だ。あのゴブリンメイジ、最後まで悪あがきしやがったな。」
「6つ目の魔法か。」
「えっ、何だって?」
「いや、ゴブリンメイジといえば魔法は五つまでって常識があるから。」
「確かにな。最後はワープまでしたな。」
「忌腐酒の効果かもよ。」
「何?忌腐酒って、どういう事だ?」
「知らなかったか?あの中に忌腐酒造りのスキル持ったやつがいたみたいなんだ。遺跡の中に忌腐酒の工房があったぜ。」
「何だって?そうと知ってりゃ、こんな無茶な作戦たてないよ。そういや、サナックの旦那、大事な認可状はあったのかい?」
「ああ、鞄ごと無事だった。」
サナックは、ゴブリンメイジのいた櫓の上から鞄を持ち出し、大事そうに抱えていた。
「魔物の生き残りはいないな。それじゃ、こんな所早々に退散しようぜ。探索するにしても、まずはゆっくり休みたいぜ。」
「ああ、アタシも賛成。それにしても、ヌブーの最後の魔法凄かったね。」
「障壁の事かい?」
「いや、それもだけど、アタシが言ったのは、あの炎の魔法さ。」
「あれは、アタシじゃないよ。」
「へぇ。じゃあ、誰が?」
「シマノフスキだよ。」
「なんだって?!この子はそんなすごい魔法使いだったのかい?人は見かけによらないね。」
などと、皆が無事を喜んで高揚している。
幸いな事に重傷者もおらず、また、洞窟内の魔物は一掃出来た。
せっかくの遺跡なのに、こんなに岩や死体が散乱していては、とシバケンは心配していたが、魔法で出来た岩は、その魔力が霧散したら砂に変わるという。
大体魔力が消えるのは、丸一日ぐらいだという。
何はさておき、全員が外に出て、比較的安全と思われる場所に野営を設けた。
焚き火を囲んで、ダッカーナはサナックにセッカイクが見つかったことを話すと、サナックは急に慌て出した。
そこから、ラガを交えて打ち合わせが行われ、結局、この遺跡の探索は後回しにされる事となった。
まずは、セッカイクとコンタクトを取るため、一旦街に戻り、しかるべき者を連れてくる、という事で話はまとまった。
ラガとアイルッシュの護衛で、サナックとダッカーナの2人は一旦街へ戻る。
再び戻って来る間、ヌブー、アルゲリッチ、マナカの3人は周囲にゴブリン達の残党がいないかの探索と殲滅。
シバケンとシマノフスキには、魔物の居なくなった洞窟の清掃を追加依頼として言い渡された。
「この規模の遺跡をたった2人で掃除をするのは無理ですよ。」
シバケンは珍しく抗議の声をあげたが、
「全てを綺麗にする必要はない。我々も急いで行って帰ってくる、そうだな4日の間に、やれるところまでやってくれれば、それでよい。ゴブリンどもの汚物だけでも優先して取り除いてくれたら助かる。」
「食糧や水は?」
「そんなもの、冒険者なら現地調達をしろ。」
サナックは面倒臭そうにそう言うと、報酬の話をする間も無く街に向かって帰っていった。
そんな訳で、シバケンとシマノフスキは、遺跡の掃除を請け負う事になった。
残された5人は、サナックの監視が無くなったからか、のびのびと仕事に取り掛かる事が出来た。
何より幸いな事に、マナカが夜営地近くで水場を探し出した事が大きかった。
まずは、5人が心ゆくまで身体を洗った。
そこには、女性3人に囲まれて、という甘い雰囲気は全くなかった。
水浴びの後、明日から仕事をスタートするという事で意見は一致したので、そのまま夕食の準備に取り掛かる事となった。
アルゲリッチは狩りをし、マナカとヌブーは索敵。
シバケンとシマノフスキは野営の設営と、食事作り。
鎧の類も全て洗って乾かしているので、そんなには深入りはしなかったが、周辺に魔物の気配はないという。
「旨そうだな。」
「昨夜の煮込みとかもそうだったが、シバケンは料理が苦じゃないのか?アタシら冒険者はそんな面倒な事はあまりしないぞ。」
「そんな。褒められるほど、大した料理はしてないですよ。」
アルゲリッチが狩りで仕留めた獲物を、シバケンはぶつ切りにする。
一部はそのまま焼くとして、残りはスープに利用する事にした。
丁寧にアクを取りながら、干しキノコと干し野菜とを一緒に煮込み、ほどなくしてぶつ切りの肉を一旦取り上げると骨と身を取り分けながら、身をほぐしていく。
ほぐした肉は再びスープに戻して、今度は鍋に野草を入れる。
味付けは香辛料と塩だけのシンプルなものだった。
スープと肉を焼いただけだが、疲れた体には何よりのご馳走だった。
2023.4.23 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました




