092 二人の冒険の旅は次のステージへ
「この、化け物め!」
失礼な! 体調を操作してるだけです。
すでに総攻撃の合図がかかってるが、総攻撃にはならず、傭兵たちは判断に迷ってる。以前騎士団に襲われた時は見事な総攻撃だったけど、基本個人行動が多い傭兵たちはそのあたりの統率が難しいのか? おかげで俺はやりたい放題だ。
突撃をためらう傭兵とは別に、魔法が使える者が魔法陣をこちらに向け始めた。
「ケンジ、魔法」
「わかってる」
ばらけてるから各個撃破になるけど。
( 魔力 0 )
一人の魔法陣が消えた。オロオロする様子を見てる暇もなく、別の方向から魔法が放たれる。両手で抱えるほどの大きさがある火の玉が俺たちに向かって飛んできた。反応速度を上げたからその動きは余裕で認識できる。アーニャも自分で躱すだろう。と思ったら俺の腹に手が回し、凄まじい力で横っ飛びするアーニャ。
うえぇ、食べた物でそう。激しすぎ、地味にダメージ受けた。
「馬車から離れよ? 荷物燃やされそう」
確かに! それは困る。でも先に魔法使いを無力化したかったのに、地面に降りたことで見えなくなった。さらに俺たちが飛び降りたことを切っ掛けに、リーダー格の指示からかなり遅れての総攻撃が始まる。
だけど、それは俺の恰好の的だ。総攻撃ってことは嫌でも密集してくることにある。
( 筋力 0 )
ドサドサドサドサ
一度のスキルで突進してきた4~5人が倒れる。1秒のクールタイムなんて無いも同じ。
主に前方から来た集団は2回スキル使った時点で総崩れ。足が止まったところで、左右から隙を狙っていた傭兵も無力化。
「おい、聞いてねーぞ! なんなんだよ! 何もしてねーのにやられてんじゃねーか!」
傭兵の一人が大声を出す。ほとんどの者が俺のスキルがはじめてだろうから、驚いても仕方ない。光もしなけりゃ身振り手振りもない。念じるだけの俺のスキルって、初めて見た人は不思議で仕方ないだろう。それに俺のスキル、以前王宮で見せた時からかなり成長してるからね。その大声を出した傭兵も周囲の数人をまとめて無力化。
敵が減ってきて、姿が見えた魔法使いも無力化。
「俺、上から確認するね」
「う……ん」
俺はまた馬車に駆けあがり、周囲を見渡して真っ先に残ってた魔法使いを無力化。もう7割がた無力化した。でもまだ終わりじゃない。無力化無力化無力化、1秒ごとに弱体化し続け、大した時間もかからずリーダー格だけを残し全員を無力化。
「よし、おしまいかな。アーニャ、隠れてる人とか居そう?」
「……」
「アーニャ?」
「いないと思うけど……もう、デタラメ、やり過ぎ、私の出番ないし」
出番が欲しかったのね。
「まぁまぁ、もっと普通な時にね」
「ケンジ、そのスキルやっぱりおかしいよ、もう戦闘にすらなってない、無双が過ぎる!」
「俺は決めたからね、俺たち、いやアーニャに危険が及ぶようなら一切遠慮しないってね」
「そ、それは……嬉しいけど」
うん、いい感じだ。きっとこの旅で俺たちの関係は大きく進展するはず。二人っきりっていいね! ちょっと恥ずかしいことも周囲の目を気にせずに言える!
「お、お前! なんなんだ! なんなんだその力は!」
あ、周囲の目……まだあったね。
狼狽えるリーダー格の戦士は、俺から距離を取るように後ずさる。とは言え今の俺のスキルの有効範囲は100mだから、ちょっと距離をとっても意味はない。
「心配しなくていいですよ。全員、眠らせたか筋力を低下させただけだから」
「そういう問題じゃないだろ! お前の力はおかしすぎる」
確かにそうかも。だけどまぁその辺りをこの人と語り合うつもりはない。
「そういうことは置いといて、もう一度言いますが、俺たちというか、魔族やマクシムさんたちは王国を乗っ取るような野望は持ってません。そこだけは分かってもらいたいです。そんで、あなたたちについての処遇は国王に任せます。できるだけ寛大な判断がしてもらえるように伝えときます。傭兵の抱えてる心配事についてはなんとなく理解しましたから、その辺りも伝えときます。ですが、とりあえず俺たちの旅立ちに邪魔なんで、あなたも眠ってください」
( 眠気 10 )
バタ
徐々に距離を取っていたリーダー格の戦士はその場に後ろ向きに倒れイビキを書き始めた。
「よし終わった。まったく……せっかく出発したのにこの人たちのこと連絡しないと」
「はぁ……私、この先出番あるのかしら」
「ごめん、張り切り過ぎたかも」
「私を守るって気持ちは嬉しいんだけどね」
「まぁまぁ、とりあえずこの人たち邪魔だから道の端っこに動かそうか。どうせ明日までは動けないだろうから、連絡はその後で」
そう考え俺が近くに倒れるよ兵に近づき肩を掴もうとすると、俺の足元から伸びる影から骸骨が浮き上がってきた。
「うわぁぁぁわああ」
どっから出てきてんだよ! めっちゃ悲鳴がでた。
「ワシが連絡しようか?」
「メイガス! 突然影から出てくるのやめてくれ! 魔力0にして消すよ!」
「それは勘弁してくれ」
「そもそもなんで俺の影にいたんだよ」
「いや面白そうだったからの。ワシも一緒に他の大陸に行ってみようかとおもっての」
「魔族は魔素の薄い他の大陸はダメなんじゃないの?」
「弱くはなるが、別に戦いに行くわけではないからの。お前の影の中に居れば安全に世界が見れるであろうから」
「いや、ダメだから。せっかくアーニャと二人で旅するのに、絶対連れていかないから」
「ケチじゃのう。せっかく手伝ってやろうと思ったのに」
「それは手伝って」
「連れていってくれないのに手伝いはさせるのか」
「いや、驚かされたお詫びとして手伝いをしてもらうんだよ!」
「やれやれ、新魔王は魔族遣いが荒いのう」
そう言ってちょっとしょぼくれた感じにメイガスは王都方向へフワフワと向かっていった。
「傭兵たちのこと、なるべく寛大な判断を頼むって伝えてくれよ! あと姿消せよ! 大騒ぎになるだろ!」
メイガスは死神姿のまま、軽く手を上げて行ってしまった。
「まったく、旅に出て半日も経ってないのに」
「まったくって、あきれるのはこっちだよ。私はこの先活躍できるか不安になってきた。ケンジは控えめに活躍してもらわないといけないかもね」
傭兵を道端に並べ終った俺たちは、また馬車に乗り込み東を目指す。この国を出る港までは10日ほどかかる。もう待ち伏せに会うようなことは無いことを祈るけど、アーニャは次は私が頑張るって息巻いてる。
しかし俺のスキル、本当になんなんだろうな。元の世界の経験がスキルになってるのは皆が持ってるスキルから何となくわかるけど、ちょっと間違っちゃった感あるよな。召喚されるとスキルを得られる。そんな仕組みがあるにしても、どういう判断でそのスキルが与えられてるのかとかは全く分からない。
もしこの異世界に来ることに、よくある異世界転生物語のように神さまが関与してたとしたら、俺のスキルって「体調管理」なんて無害そうなスキルだから、適当に設定したらとんでもないことになっちゃった! みたいなスキルだと思う。今のところ神さまみたいな存在とは遭遇してないから勝手な妄想だけどね。
とは言え、皆みたいに戦う力が無い俺がアーニャと肩を並べて旅ができるのはこのスキルのお陰だ。まだ(未進化)ってあるし、この先もっと凄いスキルに進化する可能性もある。
魔素の薄い大陸じゃ、魔法が珍しい存在になり、純粋な戦闘力が重視されるらしい。その点俺とアーニャならデメリットがない。依頼内容すら分からないけど、基本それを終わらせれば自由だ。異世界でやっと自由になり、しがらみも無い場所へ行く。なんかワクワクするな。
「アーニャ、なんか俺、今やっと異世界の冒険が始まるって感じがするよ」
「ははは、今まで流されまくりだったもんね、私もケンジも」
「うん」
「私も同じだよ。凄く楽しみでワクワクしてる」
さっきのドタバタが嘘のように穏やかな街道を進む。
「でもケンジ、1人で無双はだめだからね。私も活躍したいんだから」
「わかったよ。まだ港のまで時間があるしね、戦術とかゆっくり考えよっか」
「やった! 私前衛! ケンジ後衛で援護ね!」
「単純だな!」
「ケンジが前にでたら、私仕事がなくなるじゃん!」
「まぁいいけど……アーニャ、あらためて今後ともよろしくね」
「うん!」
ガタゴトと気持ちいい音と振動に揺られながら、異世界にきてからの出来事を思い出す。色々あって楽しかったな。もちろんこれからもっと色々経験することになるだろう。異世界の旅はまだまだ続くけどアーニャと二人ならきっとなんだってどうにかなるはずだ。
完結まで読んでいただき本当にありがとうございます。
旅立ったケンジとアーニャがこの先どうなるのか作者自身も気になっては居ますが、ここで一旦物語を完結させていただきます。初めての作品で右も左も分からず、半ば流されるように予定と違うストーリーが出来上がりました。本当はもっと早い段階で無双する物語になるはずだったんです。やっと最後で無双とか本当に予定外。
今回の挑戦で書くことの楽しさ、読んでもらえることの嬉しさ、評価されることの難しさを学びました。でもやっぱり楽しさが一番だったから最後まで書けたかなと思います。なのでまた懲りずに違う物語を書いてみたいと思います。
初作品です。今後の参考としますので評価・感想を頂けたら嬉しいです。
どうか、よろしくお願いします。




