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009 装備を整える

 俺はダメ人間なのだろうか。それとも弱い人間なのだろうか。昨日こんなことはやめておこうと思ったばかりなのに、信用に足る者であろうと思ったのに。


 隣のベッドで寝ている、ロシアと日本の良いとこ取り美少女は、今日の朝も赤ちゃんのような寝相だ。指をくわえてるのも昨日と同じだ。ダメだと思いながらも、ついついプリっと突き出した大きな尻に目が向いてしまう。なんて魅力的な寝相なんだ。先に目が覚めたことを神に感謝してしまいそうだ。

 今日も足元のテーブルに移動だ。言い訳をしても仕方がない、この魅力的な景色を絶好のポイントから見たいんだ。俺はテーブルを10㎝だけ静かにそっと魅力的なものへと近付けた。そして心穏やかに大切な時間を過ごす。今この時、俺は今日を頑張るエネルギーを得ている……そう思えた。


「んん……おはよー」


「おはよう、アーニャ」


 俺は努めて穏やかに言う。視線はすでにカーテン越しの外へと向けてある。なんの問題もない。シュルシュルと衣服を整える音がする。今日もめくれてたんだね。俺は見ないよ。昨日一瞬だけ見えた光景だけで十分だよ。


 今日は昼前に起床。イメルダさんが準備してくれたのであろう朝食をとる。俺たちはこんなにのんびりさせてもらってるのに、イメルダさんは朝から働いている。ちょっと申し訳ない気分になる。

 食事を終えたらいよいよ具体的な準備開始だ。昨日装備についても軽く相談していたため、イメルダさんが仕事の合間に色々持ってきてくれた。ギルド長にこんな雑用的なことをさせて申し訳なく感じるが、当のイメルダさんはアーニャの両親への恩返しだとノリノリで動いてくれている。


「アーニャはあの二人の娘なんだから、武器は色々使えるんだろ? 何が得意なんだ?」


 そりゃ剣じゃないかな、騎士3人を同時に相手にして一歩も引かなかったもんな。あの舞い踊るような動きは結構衝撃的だった。


「ほとんどの武器は教え込まれてますけど、一番得意なのは母から教わった薙刀ですね」


 得意なのは薙刀ですか! 剣であれだけ強かったのに、まだ強くなるんですか!


「ナギナタ? ああ、サオリが使っていたちょっと変わった槍のことだね。穂先が随分と重たそうで使いやすそうには見えない武器なんだがな。サオリはあれを自由自在に振り回してたよ。アーニャもあれができるなら、私が思ってる以上に強いんだな」


「お母さんほどは使いこなせていませんけど、前の世界では同年代で私より強い人はいませんでした」


「ほう、そりゃ凄い。一度見せてもらいたいが、残念ながら薙刀はない。サオリの物は確か特注でつくったはずだ。あんな武器を使うのはこの世界にサオリだけだったからな」


「まぁ前の世界でもマイナーな武術でした。無くてもしかたないかな。でも槍で十分応用できると思います。私のメインの武器は槍を準備していただけると助かります。できれば長さは2m、刃の部分がなるべく大きくて長く片刃だとなおいいです。あと短剣もお願いします。鞘は肩に背負える物がいいです」


 そか、この世界じゃ薙刀って存在しない系統の武器なんだな。しっかし要求が細かい。いや自分の命を預ける武器なんだからこれくらいの姿勢は必要なのかも。


「はは、さすがサユリの娘だ。こういうところに遠慮がないのが似てるな。武器や戦いへのこだわりは、あいつも凄かったよ。まぁ要望通りは難しいかもしれないが、できるだけ近い物を探してみよう」


「お願いします」


「ケンジ、お前はどうするんだ? 何か得意な武器とかあるのか?」


 聞かれるよね。俺は素顔に答える。


「無いです。というか元の世界は普通の人に得意な武器なんてないですよ。アーニャみたいな子が特殊なんです。俺は拳法を高校……いや18歳まで習ってましたが、そこから社会人になって12年間、武術にも戦いにも縁がありません」


「そうだったのかい、私はマクシムやサユリみたいな者がゴロゴロいるような世界なんだろうって思ってたよ。しかしそれだと装備はどうする? そのケンポウってのに使う武器は得意じゃないのかい?」


 拳法が通じてないな。この世界はそういうのをなんて言うんだろう。


「えっとですね、拳法ってのは素手で戦う武術でして、基本武器は使いません」


 武器術がある武術もあるけど、とりあえず今は説明のためのその辺りのことは無視だ。


「ああ、それだとこの世界で言う体術だね。マイナーだが達人級になると武器なんて関係ない強さの人もいるが、普通は武器の訓練と並行してある程度身に着けるような予備的なものだな」


 おお、こっちでは体術って言い方が主流なんだ。覚えておこう。


「それだと、籠手なんてどうだい? ケンジはスキルで支援するのが役割になるんだろ? それなら無理に武器を持つんじゃなくて、防具として籠手を装備しとくといい。いざとなればそれで殴ることもできる。指が自由になるものを選んでおけば、不便も無い」


 なるほど、それはいいかもしれない。いきなり武器を持って攻撃を受けろって言われても正直無理だ。だけど籠手なら昔の経験が役に立つ。突き蹴りを受ける感じで剣を受ければ……いや……怖いな。そんな簡単に受けられると思えない。

 まぁ選択肢はなさそうだし俺の装備は籠手でいいだろう。あと多目的用に丈夫なナイフでも頼むかな。


「それでお願いします。防具としてなら籠手を使いこなせるかもしれません、あと丈夫なナイフも一本頂けると助かります」


 イメルダさんは快く引き受けてくれた。ちなみに俺のスキルについては、補助魔法のようなスキルだと伝えている。相手の能力を下げる系だと。デバフってやつだな。この世界にもその手の魔法はあるみたいで説明に困ることはなかった。

 武器の要望を確認するとイメルダさんは仕事へもどった。いろいろ運んできてくれた防具に関しては、実際に着けてみて選ぶなり別なものを要求するなりしてくれとのことだった。


「防具ってどう選んだらいいんだろう。俺の場合は防御用に籠手を装備って感じだから、体への防具は動きやすさ優先でいいのかな」


「私は薙刀の防具をいつも身に着けてたからなんとなく分かるわ」


 俺たちは客のいないファッションショーを開催した。

 結局俺は革製の胸当てと脛当てを選び、アーニャは籠手と腰当と脛当てを選び、顔の上半分を覆える革製の兜も追加した。5年もこの世界で過ごしたアーニャは王宮の中だけで過ごしてきたと言っても俺よりもはるかに多くの人に顔を見られている。王都から遠く離れるまでは顔を隠すのも必須だろう。

 アーニャが胸当てを選んでいないのは言うまでもない、ロシア製にちょうどいいものが無かったからだ。これについてはいずれオーダーメイドの装備を作るしかないようだ。この異世界、少々洋風に偏っているみたいなんだけど、それでもアーニャのロシア製は……もう言うまい。


 装備の選択を終え俺たちはのんびりと過ごした。二日目にしてここでの過ごし方に慣れた気がする。焦っても仕方ないって悟っただけだけどね。

 暇を持て余していた俺は久しぶりにスキル画面を確認してみた。もう一通り読んだ説明だけど、少し変化していることに気付いた。スキル名の横に数字が追加されていた。


< 体調操作 2 >


 この数字はなんなんだ? もしかして熟練度?


「アーニャ、スキル名の横に数字が追加されてるけど、これって何?」


「熟練度よ、成長すると能力が追加されたりさらに上級のスキルに変化したりするスキルもあるわ」

 

 へー、能力が追加されたり上級のスキルに変化したりか。このスキルが上級のスキルに変化したりするんだろうか、あの言い方だとするものもしないものも有りそうだな。

 説明の内容にも変化があった。以前は書いてなかったクールタイムのことや、複数に同時には効果が出ないことなど、俺が経験したことが説明に追加されていた。

 説明って事前に読むから意味があるのでは? 経験しないと書かれない説明って……。


 そうこうしていると今日も夜中だ。イメルダさんが仕事を終え、槍と籠手など頼んだものを持ってきてくれた。それぞれ自分の頼んだものを確認する。

 それが終わるとイメルダさんが俺たちをギルドのロビーへと連れていった。


「これからギルド登録を済ませるよ。ギルドカードができたらあんたたちはもう、そのカードに載る名前を名乗るんだよ。普段からやってないといざって時に失敗するからね」






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