073 政治には不参加、のんびりからの聖女
王国が魔族と和解し共存の道を選んだ日から数日。ハッキリ言って俺たちは暇だった。俺にしてもアーニャにしても政治的にできることなんてないし、正直そういうのに関わりたくもない。今はマクシムさんとサユリさんとリゲルが中心となって王国の偉い人たちと話し合いが繰り返されてる。
大きな課題は国民へどう発表するか。魔族と交流の拠点はどこにするか。そして魔族から得られる貴重な物の利権についてだ。魔族との交流の拠点だけはあっさり決まった。予想通りイザールの町だ。あそこはすでに魔族のデリーヌさんが受け入れられており、魔族が絶対悪じゃないことをほとんどの者が理解してる。魔族ハーフのベイガードが町を守ってたことも知られているし、魔族を受け入れる下準備は十分できてると言える。後はそこから魔界に向けて街道を伸ばし魔族側の町を作るだけだ。それも大変だろうけど他の問題に比べれば確実に進められそうだ。
問題は国民の意識改革だ。長年の魔族への敵対姿勢は教育にも思想にも影響しており、アルドラの情報を得て魔族の実状を理解している者もいれば、完全に魔族は絶対悪という考えに染まってる者もいる。後者はその思想から王国の方向転換を受け入れられず、友好的な魔族を討伐しようとするかもしれない。まぁ魔族がそう簡単に討伐されるわけないが、国としては無用なトラブルを避けるため情報の周知と法整備など大変な作業になるとのことだ。
さらに利権問題だ。ハッキリ言って俺的にはこれが一番どうでもいいが、地位の高い者ほどこれが気になるらしい。計算高い者たちは、アルドラからの情報で、魔族との交易で貴重な魔界の物資が手に入ることを知っており、どうにかその利益を自分へ誘導しようと躍起になっている様子だ。国の一大事だというのに自分の利益優先とは。そういうのってどこの世界も同じなんだな。利権争いって醜い。
この数日間そういう情報を耳にしながらも特に自分たちに役目が来ることも無く、王都を散歩したり王宮内に準備された部屋でのんびり過ごしたりしていた。そして3日目、冒険者ギルドへ向かう。イメルダさんにきちんとお礼を言うのを忘れてた。王宮から逃げ出した後、イメルダさんの助けがあったからこそここまでたどり着けたんだ。イメルダさんは俺たちが会いに来たことを凄く喜んでくれた。
「気にするな。サユリへの借りを返しただけだ。それよりも王国の問題を解決に導いてくれたことにこっちがお礼を言いたいよ」
ギルド長の立場上、当然情報通だ。昔から王国の魔族敵対視には問題があると思っていたらしく、ずっとマクシムさんとサユリさんを支援してたとのこと。
「これで、この魔大陸もかなり落ち着くだろうね。大昔は世界で最も不幸な暗黒大陸って言われてたこの大陸が、魔族の討伐じゃなく魔族の無気力化が原因で落ち着くとはね」
まだこの世界の昔のこととか詳しくないけど、魔族が人を滅ぼそうとした時代もあったらしいから、その時代から見れば今の状況は予想外な展開なんだろうな。あれ? イメルダさん「世界で最も不幸な暗黒大陸」って言った?
「この大陸以外にも大陸ってあるんですか?」
「もちろんだよ。この世界の大陸の中で最も小さい大陸がこのアルドラ大陸さ」
「交流は? 他の大陸との交流は?」
「あるにはあるが、多くはないね。この大陸を魔大陸って言うことがあるのは知ってるだろ。あれはもともとこの大陸以外の人がこの大陸に向けて言う呼び名なんだよ。簡単に言うと危険な魔族が居る場所ってことで避けられてるんだ」
「他の大陸には魔族が居ないんですか?」
「そんなことはない。魔族は世界中に居る」
「じゃぁなんでこの大陸だけ危険な魔族が居るって言われるんですか?」
結構魔族や魔物についてはギルドの資料で調べてきたけどそういう情報はなかった。いやもしかしたら俺が見ていた資料が偏ってただけかもしれない。
「そりゃこの大陸が他に比べて異常に魔素が濃いからだ。魔族は魔素が濃ければ濃いほど強くなれるからね」
そうだったんだ。まったく知らなかった。でもそうだよな。俺とアーニャはこの王都からアルドラまで旅して、戻ってきたけど元の世界で考えると移動距離は日本国内から出るほどじゃない。大陸の端っこから端っこまで歩いたわけじゃないが、地図で見る限りどちらの国も中心に首都がありだいたい首都間の距離の倍がこの大陸の大きさだと言える。だから大きめに考えても日本よりちょっと大きい程度だ。世界で一番大きな大陸がこれだとは考えにくい。
「行くことはできますか?」
「無制限に交流できるわけじゃないが、冒険者としてなら可能だ。行きたいのか?」
「行きたいです!」
アーニャが元気に答える。俺も興味ある。この大陸が他から魔大陸と呼ばれる特殊な場所ならば、俺たちはまだこの世界のほんの一部しか見てないことになる。自由になってこの世界を旅したいという思いは前より強くなってる。
「そうか、じゃぁ行くときは私に言いな。それなりに手続きが必要だからね。魔大陸出身の者はしっかり身分証明ができるようにしとかないと入国拒否されかねないからね。まぁその辺りは任せときな」
イメルダさんにお礼しに行ったら凄くこの世界について勉強になった。アーニャは今日の夜にでもマクシムさんたちに相談するつもりみたいだ。俺もなんか凄くワクワクした気分だ。やっと追われる立場も魔王の立場も終わりにして異世界を楽しめるようになるかもしれない。
だけどロナだけは元気がない。王宮への帰り道、トボトボと俺たちの後ろをついてくる。
「私、この大陸を出たら役立たずかも」
「なんで?」
「魔素が少ない土地じゃ魔力の回復ができないし、こういう風に羽の形にして貯めこむこともできなくなる」
「魔法が使えなくなるの?」
「そこまではならないけど、魔力を貯めこめなくなったら普段使ってる魔法一発で魔力が枯渇するかも」
「じゃぁロナは俺たちがこの大陸を出るってなったらどうする?」
「絶対についていく!」
「大丈夫?」
「私の目標はケンジの妻。妻になれなくてもケンジの子どもを産むこと!」
「な、なに言ってんのよ、こんなところで!」
ロナの強い言葉にアーニャが顔を赤くして注意する。うん、ここ大通りだしね。アーニャはその容姿から目立つ。そして俺は地味だし、ロナは真っ赤な髪と羽を隠すようにフードを被っている。周囲から自然とアーニャに視線が集まる。なおさら恥ずかしそうだ。
「私を置いていったりしないでくださいよ」
「はは、別にそんなつもりはないけど、リゲルが許すかな」
「お兄さまは関係ありません」
「アーニャは?」
「わ、私は別に、ロナの自由じゃないの?」
ちょっとだけ迷った感じで答える。そういえば俺、アーニャに告白してからまともにアーニャと二人っきりになれたことが無いな。おかげでなーんにも進展がない。大陸を出る時が二人っきりでの旅に持ち込むチャンスかもしれない。だけどこれまで結構世話になったロナを捨てていくのもな。まぁ今すぐ大陸を出るわけじゃないし、ゆっくり考えよう。
王宮へ戻り俺たちの部屋へ向かう途中、聖女に呼び止められる。
「ケンジさん、お話があります。少しよろしいでしょうか」
聖女の顔には表情がない。いや少しだけ遠慮がちにも見える。俺は聖女を避けてる。と言うのももう俺のスキルのことがバレバレだからね。体調操作で変な仕返ししたこともきっとバレてる。ハッキリ言うと少々変態っぽい仕返しをしちゃったからそれをアーニャの前で言われたくない。もしそれを言いそうになったら全力で謝って止めるつもりだ。
「え、えーと、聖女様、どんな用件で?」
「今は聖女ではなく、日本人のホウジョウ・メグミとしてお話がしたいのです」
「かまいませんが、ここで?」
「ここでは……ちょっと。もうしわけありませんが、ケンジさんだけで一緒に来ていただけないでしょうか?」
以前の高圧的な聖女とは違い、かなり下からのお願いだ。すっごく違和感があるけど悪意があるようには見えない。
「ケンジ、1人で大丈夫? 私が護衛で行こうか?」
アーニャが心配してくれるが、護衛が必要そうには見えないし今この国の状況で俺に危害を加えても何もメリットがない。一応魔王の肩書があるけど魔族じゃないし、リゲルが事実上の魔族の代表として活躍してるしね。
「大丈夫だと思う。ちょっと行ってくるね」
「わかった。何かされそうになったら速攻スキルつかって逃げてね」
「はは、大丈夫だって。この状況でそんなことしないって」
「ではお願いします」
そう言って進み始めた聖女の後を追う。
「ケンジに何かあったら、私がこの王国を滅ぼしますから」
ロナが恐ろしいこと言ってる。前を歩く聖女が一瞬ビクっとする。ロナの魔法は半端ないからな。未だ本気の一発を見たことがないけど防御魔法であれだからな。なんとしても無事に戻らないと大勢死ぬことになりそうだ。洒落にならん。
そして俺は王宮の奥にある一室へ案内された。




