表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/92

007 ギルドにて、この世界ついて学ぶ

 俺たちはあの後とくにトラブルなくギルドへ辿り着いた。ギルドの裏手に回り勝手口を見つけるとアーニャがそれを叩く。


ドンドン……ドンドン……


「一応警戒しといて、大丈夫と思うけど」


 しばらく待つと、勝手口の小窓に灯りが見えた。近づいてくる様子が分かる。扉越しに女性の眠そうな声が聞こえる。


「誰だいこんな時間に……用があるなら明日の朝来な。ギルドは日の出から開いてるよ」


「アーニャ・イヅモといいます。母からここに逃げるように言われました。助けてください」


 アーニャの苗字ってイズモっていうのか、漢字だと「出雲」かな?

 少し間があり、ガチャっと鍵を開ける音が聞こえた。


ギギギ……


 勝手口がゆっくりと開かれる。開いたのは10cmほどで、それ以上開かないようにしている鎖が見える。

 ドアチェーンってこの世界にもあるのね。

 中から女性が顔を出す。アーニャを観察するように見る。


「母親の名前は?」


「サユリです」


「そうかいサユリの……もう死んでるのかと思ってたよ。さぁ中へ入りな」


 俺たちはギルドの応接室のような場所へ通される。タオルを渡され雨に濡れた体を拭くとソファーに座り女性と向き合う。

 年のころは50前後? でも見るからに健康そうな小麦色の肌をしたおばさんだ。穏やかな目をしているがその目はしっかり俺たちを観察してるのが分かる。ローブを着てるけど魔法使いなのかな。でもイメージしやすい細身で貧弱な魔法使いじゃない。俺と同じくらいの身長もあったし、よりよっぽど俺より戦えそうな力強さがある。


「イメルダさん……ですよね、ギルド長でここに住んでるって言う」


「サユリから聞いてるんだね」


「はい、聞いてます。父と母が討伐任務で何度も共闘した信頼できる相手だと」


「はっはっは、そりゃ嬉しいね。あの脳筋夫婦もいいとこあるじゃないか」


 両親脳筋なんだ。まぁアーニャの両親だしね。ていうか、脳筋って表現、この世界にもあるんだ。笑

 

「しかし、あいつらが姿を消してからもう一年近くになるね、私はあんたが来たら助けてやってくれって頼まれてはいたが、あんまりいつまでも現れないから、もう王宮内で始末されちまったんじゃないかって思ってたよ」


「私が始末されるかもしれないようなことになってたんですか?」


「そうだね、見様によってはあんたの親は魔王の仲間になったって思われただろうからね。とは言え判断がつかないからこそあんたが生かされていた、もし魔王の手先になっていたとしても人質として利用しようとした、そんなところだろうね」


「何があったんですか?」


「魔物の討伐中に出会った、知性のある魔族と意気投合して魔王の所へ行っちまったんだよ」


 うは、そりゃ人類の敵って言われそうな行動だな。魔族って人を滅ぼす存在って言ってたし、見てた人が居たなら裏切者扱いされてもしかたないかも。あれ? アーニャを見ると意外にもショックを受けている様子が無い。親が国も人間もを裏切ったかもって聞いたらもう少し動揺しても不思議じゃないけど……。


「そうですか」


「おや、あまり驚かないね、何か聞いてるのかい?」


「お父さんとお母さんは、人に害をなす魔族や魔物は討伐すべき対象だけど、魔族や魔王の全てを否定するのはおかしいって言ってました」


「言ってたね。価値観が違う存在ではあるが、決して絶対の敵ではないってね」


「特に消息不明になる前、アルドラ皇国から帰ってきた時には、知性の高い魔族は人間となんら変わりが無い。魔族との衝突を解決するためには魔族と手を結ぶべきだって言ってたんです。そして次の遠征を最後に消息不明になりました……そっか魔王に会いに行ったんですね」


「そうさ。そこまで知ってるなら隠す必要もないね。あんたの両親は大したもんだよ。魔王と手を結ぼうなんて考えはなかなか持てるもんじゃない。友好的な魔族を受け入れてるアルドラですら、魔族に対する偏見の目は少なくない。もし魔王と手を結ぼうって奴が現れたとしても、そいつは人間の社会から弾き出されちまうからね。私が生きてきた時代で魔王自身が人間の領地へ攻めてきたことは一度もないけど、魔族や魔物の犠牲になった人間は数えきれないから、簡単な話じゃないんだ」


「魔王って人を滅ぼそうとか憎んでたりとかしないんですか?」


 話がぼんやりとしか分からず、つい質問してしまった。この世界に来て即投獄された俺は無知だ。アーニャとの会話でこの大陸には大きく、人間の大国が二つと魔王の治めるエリアが存在することは聞いてるけど、それぞれの詳しいことまでは聞いていない。できれば詳しく教えてほしいな。


「ん? そういえばあんたは誰なんだい? アーニャを護衛してきたのかって思ったが、どうもあんたはアーニャより弱そうだね」


 すんません、アーニャより間違いなく弱いです。アーニャに勝てる男なんて、元の世界には存在しないんじゃないかな。


「こっちはケンジです。私と同じで勇者の召喚に巻き込まれてこの世界に来て、私の時と違って勇者と縁がなかったせいで、すぐに投獄されてたんです。そこで私と意気投合して一緒に脱獄しました」


「ああ、この前の召喚された勇者と一緒に来たのかい。しかも二人とも投獄されてたとは、そりゃ災難だったね。あの聖女は目的のことしか考えてないからね、あんたたちはその目的に邪魔な存在だったんだろう」


「はは、まったく災難でした。おかげでまだこの世界のことがほとんど分かりません。できればこの世界のこととか魔族や魔王のこと、教えてもらえませんか?」


 俺はこの親切なギルド長からこの世界のことをしっかり教えてもらうことにした。アーニャも実際に王宮から出たことがなく、周囲から耳にした話を知ってるだけだ。俺たちにはまず情報収集が必要だ。


「そうだね、まぁ夜は長い、あんたたちがこれから生きていくにの必要な情報だ。ゆっくり説明してあげるさ。それがあんたの母親、サユリから頼まれてたことでもあるしね……」


 イメルダギルド長は、明け方になるまで俺たちの疑問に答えてくれた。


 まずは俺が質問した魔王についてだ。

 魔王は単純に最も強い者に与えられる称号とのこと。極端な話、人間が乗り込んで魔王を倒せばその人が魔王になることができるほど、力こそすべての存在らしい。そして時の魔王の考え方が魔族、特に知性のある魔族全体の動きに影響している。現在の魔王は人間に友好的とまでは言わないが好戦的ではないことが分かっている。その理由は古い時代には人間と魔族の大戦争もあったが、現在の魔王になって100年以上、魔族、特に知性を持つ魔族が組織的に人間を襲うようなことがほとんど無いからだ。


 次にこの大陸の主要な勢力についてだ。

 この大陸は大きな勢力が三つ。一つはこの国「ミラ・カーフ王国」で、ミラ・カーフの一族が500年以上王位を守り続けている伝統のある国だ。特徴としては強く魔族を否定していること。亜人は受け入れてるが魔族は徹底して排除の姿勢をとっている。

 最近の動向としては教会勢力の強大化が目立っている。現在の教会のトップはなんと俺やアーニャと同じ異世界から召喚された者で、命さえあればどんな大けがからでも回復させる回復魔法の持ち主らしい。そしてその娘が同等の回復魔法が使えると言われる聖女だ。ちょっとびっくりだ。意外と異世界から召喚されてるのな。聖女の名前、たしか「メグミ・ホウジョウ」とか言ってたよな。間違いなく日本人、きっと「北條恵」とかそんな漢字の名前だろう。となると教会のトップって人も日本人だよな。

 不思議だ。日本から召喚された人ばかりだ。アーニャは半分ロシア人だけど、召喚された場所は日本だし。まぁ考えてもわかんないけどこの世界と日本って何か縁があるのかもしれない。


 もう一つ大国が「アルドラ皇国」だ。国の大きさはミラ・カーフより少し小さいが歴史はさらに古い。皇国と言うだけに千年近く血筋を守った皇族が存在している。国の政治は日本で言う民主制で選挙で国の代表を選んでいるらしい。その影響なのか多様な考え方が共存する社会となり魔族に対しても批判や偏見があっても受け入れることができている。

 なんとアルドラのギルドでは、魔族でありながら冒険者登録を行い人気者になった魔族もいるとのこと。その魔族は偏見や差別に負けず、しっかり人間社会に適応しているんだろう。凄いな。


 そして最後に魔族のエリア。国と言わないのは国としての機能は持っていないからであり、魔王という存在に対し知性のある魔族が従う。それが嫌なら距離を取る。そんな世界だ。人間よりも文明が劣るが、それを補って余るほど魔法が発達しているとのこと。そもそも魔族が魔素の濃い場所であれば食事もほとんど必要とせずに生きていけるため、農業や医療、その他インフラの整備すら必要としないらしい。

 イメルダギルド長も実際には行ったことがないため、詳しくは分からないそうだが奥に行けば奥にいくほど知性の高い魔族が住んでいるとのこと。

 そこにたどり着く前には、かなり広い範囲で本能で生きるような魔物が住むエリアがあり、そのエリアが人間と知性の高い魔族とを分断する壁となり、人間と魔族・魔物の衝突の場となっているようだ。


 他にも小国が存在し、代表的なものはエルフやドワーフなどの亜人の国があるとのこと。獣人については国を持っておらず、大陸全土に分散して生きているようだ。うーん、亜人か……さすがファンタジーな異世界だ。いつか会ってみたいな。この国にも亜人はいるらしいからすぐに見られるかもしれないな。


「さすがに話し疲れたね、今日はこれくらいにしよう。あんたたちはここのゲストルームで休みな。ギルドは治外法権だからね。国王の騎士でも勝手に調べには来られない。安心して寝てな。また夜になったら続きを話そう」


 そう言って席を立つと、欠伸をするイメルダギルド長。夜中からこんな朝方まで付き合ってくれて本当にありがたい人だ。


「イメルダギルド長、ありがとうございます。ここに来てもし助けてもらえなければ当てのない逃亡生活になるところでした。本当に助かりました」


 アーニャが立ち上がり、深く頭を下げる。体育会系のキリッとしたやつだ。俺も慌ててそれに並び「ありがとうございました」と頭を下げる。


「イメルダでいいよ。今でも現場に出るんだ。皆ギルド長なんて言わない。あと、助けられたってことを気にする必要はないよ。むしろ来てくれてよかった。私はあんたの両親に命を救われてるからね。正直あんたが来てくれなかったら恩返しをするチャンスを失ってたところだよ」


 イメルダさんは俺とアーニャにゲストルームと利用していい範囲を教えてくれた。この範囲なら他の人に見られることなく夜まで過ごせるだろうと。


「あともう一つ、焦る必要はないが、あんたたちがこれからどうやって生きていくか、それを考えておくんだよ。私はアーニャに協力する。アーニャと行動するケンジにも協力しよう。だけど何をするかはあんたたち自身が決めるしかないからね」


 そういってイメルダギルド長は自分の寝室へと消えていった。眠そうな欠伸をしながら。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ