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065 レクター討伐後


「これで良かったのかな」


 帰り道、何度も同じことを呟いてしまう。重いわこれ。一人の人生を終わらせるってのは滅茶苦茶重いわ。相手が魔族だって言っても人と同じように息を持った者だ。これまで看護師やってて何人もの死の瞬間に立ち会ってきたけど、自分の手で終らせる経験なんて当たり前だけど無い。倒す必要があって悪者を倒す、これはもう魔物で経験した。ゴブリンやトロールやコボルトとか人型の魔物も何度も倒し、その感覚も覚悟もある。きっとハッキリと敵として現れ、戦ったうえで殺したのなら今の重い感覚は無かっただろう。

 今回みたいな、ハッキリ敵対してるわけでもない相手に、終わらせてくれと頼まれそれを実行するなんて想定外だ。本当にそれで良かったのかなんて答えが出るわけないのにずっと考えてしまう。


「いいんだよ。レクターだって感謝してたじゃん」


 アーニャが何度も声をかけてくれる。


「お母さんもお父さんと出会わなかったら、ああなってたのかもしれないな」


 ベイガードも色々考えてるみたいだ。母親のあんな終わり方は見たくないだろう。でもあんな生き様だったらそもそもベイガードは生まれてないか。

 レクターに会うまで派手に戦いながら進んだので帰り道は静かだ。だからなおさら考えてしまう。


「いやー、見事に討伐しましたね。さすが魔王!」


 オーリンさんがあえて陽気な声で話しかけてきた。気を使ってくれてるんだろうけど魔王って呼ばないでほしいな。


「オーリンさん、あれって討伐なんですかね。あと俺のことはケンジって呼んでください。魔王って呼ばれるのはちょっと」

「間違いなく討伐です。色々考えてる様子ですが、これまで魔族に何度も挑み被害を積み上げてきた王国軍の騎士団長としては、被害なしで討伐してしまうなんてのは夢のような話です。それと私の立場ではあなたを名前で呼ぶなどできませんよ。王国と交渉に来た魔族の代表ですからね、魔王さまと敬称をつけて呼ぶのが正しいでしょう」

「そか、経緯はともかく王に要求されたことはちゃんとやったことになるな。報告的にはどんな感じになるんですか?」


 話すようになって気のいい人だと分かったけど、一応相手側の人だもんな。完全には信用できない。これから王都に戻るとして今後どうなるのか気になる。教えてくれるかな。


「ありのままを話しますよ。脚色が必要なら多少はできますが」

「え? 脚色? それっていいの?」

「まぁ多少はできますね。私としては無駄な戦いが無くなるのは歓迎ですから」

「オーリンさんは魔族を絶対悪で滅ぼすべき敵だって考えじゃないの?」

「言ったでしょ。私は冒険者上がりだって。アルドラにも何度も行ったことがありますし、今更ですが魔族の町への護衛も経験ありますよ」

「え? ってことは魔族に理解がある? じゃぁ王国はそれを知ったうえでオーリンさんを監視役にしたってこと? でもそれだとオーリンさんが魔族よりとか思われたりしない?」

「どうでしょうねー、冒険者やっててスカウトされましたが、アルドラに行ってる時にどんな依頼を受けていたかまでは報告してませんし、純粋に感知能力を買われただけだと思ってますよ」

「じゃぁ、オーリンさん自身は魔族に対してどう思ってるんですか?」


 すっごい気になる。


「友好的な者もいる。そうでない者もいる。共存はすでにアルドラで実現している」


 その通りだ。


「王国では共存ではなく魔族がアルドラを乗っ取ろうとしてるみたいに言われてますよね」

「そうですね、ですが実際に見ればそうじゃないことはすぐわかります。分かっててもそれを口にできない雰囲気が間違った情報を支えてます」

「しかし、良くその考えで王国の騎士団長になれましたね」

「そりゃ損するようなことは口にしませんし、魔族の力を知ってるからこそ強いのからは逃げて生き延びました。そうしてたらいつの間にか出世してました」


 上手に生きてる人だな。


「有能騎士」


 アーニャが評価してる。


「じゃぁまぁできる範囲で共存の方向に向かうようお願いします。最初の交渉がかなり力ずくでしたから今度は今回の成果をなんとかうまく伝えてもらえると嬉しいです」

「基本ありのままに伝えればそうなると思いますよ。それに今回ベイガード君に会って、共存し混じり合ったほうが人間にとって良い結果になることが分かりました」

「どういうことだ?」


 ベイガードも急に自分の名が出てきて気になったようだ。


「ベイガード君、僕は騎士学校で君を見たことがある」

「講師?」

「いや、模擬戦闘の時とかに優秀な者を見に行くのも騎士団長の役目なんだ。そこで君の飛び抜けて高い身体能力が随分と目立ってたからね。そして今回君と行動して分かったんだが、魔物とのハーフの君は、人間より圧倒的な力を持ってるが、純魔族ほどの強さは持っていない。そして価値観は完全に人間側だ」


「そうだな。俺ではレクターを討伐することはできなかった。価値観も成人するまで人間と同じように町で生きてきたんだから人の価値観で当たり前だ」

「ということはだ、混血を繰り返せば繰り返すほど人間側に有利になる可能性がある」


 なるほどね。魔族ほどの強さは無くても人間側に着くハーフ魔族が多数になれば絶対数の少ない純魔族の脅威は相対的に下がってくるってことか。


「ハーフ魔族を人間社会がどんどん取り込むということか」

「その行きつく先が、力を得た人間が純魔族を滅ぼそうとしたり……」


 アーニャが怖いこと言い始めた。


「いやいや、そこはマクシムさんたちが政事を上手いことやって平和な世の中にするでしょ」

「魔王さまも協力するんでしょ?」

「協力はするけど。その肩書きの継続は無理」


 勘弁して、ください。すでに結構いっぱいいっぱいです。自分の力を試せるこの世界を楽しんじゃってるアーニャ一家とは違う。俺はエアコン完備の安全な病院で働く看護師だったんだ。早く普通の冒険者くらいの立場で過ごせるようになりたい。


「とりあえず依頼は完了したし王都へ戻りましよ。今後のことは戻ってみないとわかんないしね」

「だな」


 俺たちはまっすぐ森を出て贅沢野営の場所を目指した。そして野営地を中心に冒険者と思われる男たちがあちこちに倒れているのを発見した。

 まさか、ロナとデリーヌさんに討伐隊が送られた? それを返り討ちにした?

 それってやばくない? 状況がややこしくなる。魔族は敵じゃないってわかってもらう必要があるのに。

 慌てて倒れている男たちを観察する。手っ取り早く生命兆候を観察するならやっぱりこれだよな。


< 血中酸素濃度 5 >


 普通だ。下がってない。生きてる。生きてても大怪我で瀕死なら血中酸素濃度が下がってるだろうけどそんな者もいない。とりあえずこの有様がなんなのか野営の焚き火を囲む二人に聞くか。


「あー。おかえり〜。どうらった〜」

「ケンジ〜、これ凄いよ。なんかふわふわする〜」


 聞く前にだいたい分かった。

 二人の様子と俺たちの持ち物にはない酒樽。そして酒の匂い。こいつら思いっきり酒盛りして男どもを酔い潰したな。しかもデリーヌさん色気出しすぎ。サキュバスフェロモン全開なんじゃない? 意識してかたまたまか服まで際どく着崩れてるし。


( 性欲 0 )


 飛びつきたくなる衝動を抑えて強制聖人化。めっちゃ便利だな、俺のスキル!


「何してんだよ」

「なんかね、夕方森から帰っていった皆さんがお酒とか色々持ってきてくれて私の復活祭だ〜って祝ってくれてたの。私、お酒入るとフェロモン制御できなくなるから普段は飲まないんだけど〜、久しぶりてつい飲んじゃったらこんなことになっちゃった。テヘ」

「凄いよ、ふわふわするよ〜」


 それにしても、こんなに見事に全員酔い潰れるか? 俺たちが出かけて戻るまで3時間くらいか、屈強な冒険者たちが全員だ。サキュバスフェロモンのせいで理性が緩んでるところにアルコール入ると簡単にぶっ飛んじゃうのか?

 あとロナ。一応護衛の役目でもあるのに完全に仕上がってるし。「ふわふわする〜」ばっかり言ってる。まったく楽しそうでいいな! 人間社会の食事は味が濃すぎて合わなかったのに酒は大丈夫なんだな!


「このお酒、そんなに美味しいの?」


 アーニャが興味示してきた。まあ20歳なんだから飲んでいいし、この世界のそういうお酒ルールとか知らないけど、今はやめとこうね。あなたもお酒で失敗するタイプだから!


「これはこれは、なんと魅力的なんだ、一つ頂けますかな?」


 オーリンさんが引き寄せられるようにデリーヌさんのもとへ向かい飲み始めた。しまった完全にフェロモンにやられてる。なんなんだこの状況。レクター討伐で色々考えてたのにそんな重い気分を吹き飛ばすためのイベントか? 俺に悩まさない配慮か?


「なんか有能な騎士に見えてたのに。やらしーおじさんにしか見えなくなってきた」


 デレデレしながら酒を飲むオーリンさんを見つつアーニャがつぶやく。

 こりゃレクターさんの話は明日だな。

 俺とアーニャは手分けして後始末に取り掛かった。



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