表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/92

003 スキルを理解する

「アーニャ、ちょっと鉄格子まで来てくれないか? できるだけ近くに」


 体調管理スキルの説明を読み終わった俺は、アーニャに声をかける。


「アーニャ、俺には回復系のスキルがあるんだ。主流じゃない過去のスキルだって感じに言われたけど喘息の症状を少しは軽くできるかもしれない。今説明を読んだばかりなんだけど、使ってみてもいいかい?」


「どんなスキルなの? 一般的なヒールとかと違うの?」


「体調管理ってスキル名なんだけど、神官みたいな人が言うには、自然治癒力を高めるような古いタイプの回復魔法らしいんだ」


 説明を読んで、単純に回復魔法って感じじゃないことは分かったけど、俺はとりあえず神官の説明を引用して伝えた。詳細に伝えるとちょっと気持ち悪がられそうなスキルだったから。でも喘息になら効果がかなり期待できると思う。いや、改善させることができる。


「それなら危険なものじゃなさそうね。楽になるなら助かるわ。やってみて」


 アーニャが鉄格子に近づいてくる。鉄格子越しにアーニャが見える。あ、王宮の中で見かけた女中さんの服を着てるのね。

 俺は気道を意識してアーニャを見る。喘息は気道が狭くなって呼吸の症状が出る。それを俺のスキルで操作してやろうって考えだ。

 あれ? 何も見えない。さっきの汚い騎士はそう意識しなくても「嘔気」の状態がみえたのに。そういえばスキル発動の条件に相手を視認できることってあったけど、もっとハッキリ見えないとだめなのか?


「アーニャ、もう少し見えるようにぎりぎりまで近づいてくれない?」


 鉄格子は頭を出せるような幅は無いが、アーニャがぎりぎりまで近づいてくれたおかげで、なんとか顔がハッキリ見えた。

 あれ? 可愛くない? すっごい可愛くない? しかもブロンド! そか、ロシアハーフだもんね!


< 気道狭窄 5 >


 あ! 見えた。もしかして顔が見えないとだめなの? 相手を視認できるって条件は顔が認識できるって意味か? でもさっきの酔っぱらい騎士の時は背中を睨んでた時に見えたよね。一度顔を視認できた人は背後からでもいけるとか? まぁそういう確認は後回しだ。

 近づいてくれたアーニャからはハッキリとヒューヒュー音が聞こえてきた。

 これって結構酷い状態じゃない? 喘息になって長くなると、症状があっても、ちょっとくらい血中酸素濃度が下がっててもその状況に慣れてしまって、そう苦しいと感じなくなるってケースがあるけど、アーニャもそんな状態?


「じゃぁやってみるよ」


「うん」


( 気道狭窄なし、気道狭窄解除、苦しくなくなれ! )


 色々念じてみた。効果あったかな?


< 気道狭窄 0 > 


 数値的にはばっちり変更できてる。このスキルは状態を10段階で表現してくれる。0ってことは一応症状が無くなってるってはずだけど・・・。


「あれ……あれ?……いきなり楽になったんだけど」


「効果あった?」


「あったもなにも、まったく苦しくなくなったわ、何したの?」


「えっとね、気道を拡げたんだよ」


「なにそれ、どういうこと?」


「いや、まだ俺も自分でよく分からないけど、そういう体調の操作ができるみたいなんだ」


「凄いね、回復魔法でもここまでスッキリ楽にならないよ。もしかして凄い回復魔法なんじゃない?」


「そう、なのかな……」


 多分違うと思う。根本的に回復とかそういうのじゃない気がする。効果が出る時に聖女がやったみたいに光が出るわけでもない。結果だけが起こる。なんか魔法って感じがしない。他の魔法を見たことないからなんとも言えないけど。言うなれば設定を変更、ゲームで言うとコンフィグで色々いじるみたいな?


「とにかく助かったわ。ありがとう。これなら私の不安の一つは解消されたかも、ねぇケンジ、逃げる時は絶対にケンジも一緒にいくわよ。私、発作の心配さえなけりゃ、こんな所いつだって出られるんだから」


「ああ、それは是非よろしくお願いするよ」


 しばらく話をしていると、薄暗い牢がさらに暗くなってきた。夜になったんだろう。騎士が前回もらったのと同じパンを持ってきた。食べ終わって間もなく、スースーと気持ちよさげな寝息が聞こえてきた。もしかしたらずっと症状があって眠れてなかったのかもしれないな。しっかしちょっとだけ見えた顔、可愛かったなー。早くちゃんと見てみたいな。

 

 



--------------------------





 翌朝、昨日と変わらないパンが与えられ、それ以外には何もなかった。拷問とかあっても困るけどね。俺は持て余した時間を利用してスキルをあれこれ試していた。観察や操作ができる項目がどれくらいあるのか自分の身体で試した。


 分かりやすいところでは「骨格筋」、骨格を動かすための筋肉だ。観察すると数値が5だったが、どうやらそれが筋力の数値の通常時の値のようで、そこから下げると力が入らなくなった。逆に上げていくと力が普段よりも入るが、無理をすると痛みが走った。使用後の筋肉痛を覚悟すれば火事場のクソ力をいつでも使える。

 面白いところでは体毛だ。髭剃りが欲しいな、髭が伸びたなと思ったら< 髭 成長 5 >と出た。なので鬱陶しくならないように、髭の成長は0にしておいた。しかしこういうの、もみあげと髭が繋がってる人とかはどうなるんだ?


 あと効果の時間も1日までなら設定できた。これは説明にも書いてたが、自分に対する操作の有効時間を24時間までなら決められる。他人であっても直接触れて操作すれば時間設定ができる。

 正直、このスキルなんでもありだ。俺は看護師だから普通の人より多く観察項目は思いつく。解剖学的にも生理学的にもだ。だけど色々ためした全てが観察可能で操作可能だった。


 試すことができなかったのは、もしこれを戦闘で使うとして考えた場合のケースだ。複数相手に可能なのかとか、体調操作できる距離とかだ。

 それでも一対一なら問答無用で無力化できるはずだから、このスキルは回復系とはもう言えないな。


 アーニャとも色々話せた。俺のスキルについてはぼんやりと伝え詳細は伏せたが、それ以外はなんでも話した。15歳でこっちの世界に来たらしく、元の世界の話を色々聞きたがった。俺はアーニャの両親の話が一番気になった。


「私のお父さんは、ロシア人だけど日本の武士道に傾倒してて、日本で武術を極めたいって若い時に日本に移り住んだの。その後、色々な武術を習って自分の道場を持つようになり、その中で出会った薙刀の名手だった母と恋愛結婚して私が生まれたの」


 そして、異世界に召喚されて手に入れたスキルが「武王」で、どんな武器もどんな武術も高いレベルで使いこなせるってスキルだったらしい。お母さんも巻き込まれてきたにもかかわらず、元々の薙刀の名手であったことが影響したのか「槍術達人」のスキルがあったらしい。

 さらにはその二人に子供のころから武術を仕込まれていたアーニャにも戦闘スキルがあったけど、2人はアーニャを戦に巻き込むことを嫌い、そのことを家族の秘密とした。結果アーニャは牢に入れられる直前までは勇者の娘として王宮で大切にされてきた。


「なんで急に扱いが悪くなったんだろうね」


「うーん、色々考えてみたけど、確かなところはわかんないんだよね。単純に新しい勇者を召喚するのに元勇者の関係者に合わせたくない、都合が悪いとか……お父さんとお母さんが消息不明になって随分と経つけど、ここに入れられる直前に、聖女にしつこく居場所を聞かれたから、もしかしたらお父さんとお母さんが国王や聖女の敵に回ったとか……」


「なんか、聞いた感じだと後者な気がする」


「私も感覚的にはそう思う。だってお母さん私に脱出方法とかその後のこととかも教え込んでたから、きっとこうなることも予測の範囲だったんじゃないかな」


「アーニャが突然牢に入れられたってのに落ち着いてるのは、そういう前準備があったからか」


「そうだね」


 そうなると、アーニャは脱出してもその後の生活をどうするかノウハウを持っているってことか。俺はこの世界にきて即投獄だもんな。こりゃなんとしてもアーニャと一緒に脱出する必要がありそうだ。





--------------------------





 牢屋生活3日目、4日目、特に何事もなかった。アーニャにいつ脱出するのかと聞くと、激しい雨の夜がねらい目だと教えてくれた。


 そして牢屋生活5日目の朝、俺は牢から出され、尋問された個室へと連れていかれた。俺が椅子に座らされると直ぐに聖女が入ってきた。


「なんの用だ」


 俺はこの聖女に敬語を使うつもりはない。騎士にまた殴られるかもしれないけど、そこはすでに対策している。左右に立つ騎士の筋力を2に下げ、自分の痛覚も2に下げた。


「貴様!」


ポカ!


 痛て。案の定殴ってきやがった。でも小学生低学年くらいに叩かれた程度か、まぁ痛みも無いわけじゃないが、我慢できる範囲だし「貴様!」とか言いながら、ポカ!と優しい一撃でなんか笑える。俺が体調操作したころから体が重いのと、思ったような勢いで殴れなかったことに困惑しているようだが、聖女の手前必死で取り繕っている様子だ。

 そんなやりとりも、聖女は興味が無いのか用件を言い始めた。


「ハヤト様が王宮を出られます。あなたにはそれを見送っていただきます」


「どこに? しばらくは王宮に滞在してこの世界について学ぶって話だったんじゃなかったのか?」


「貴様!」


 また短気な兵士が殴ろうとするが、それを聖女が手を挙げただけで制止する。しかし俺の質問には答える気がなさそうだ。


「ハヤト様を見送る時、異変に気付かれたらどうするのですか?」


 騎士はその言葉にハッとし聖女へ謝罪する。

 俺に謝れよ!


「しかし、汚らしいですね。なんですかその変な服装は」


  そういえば俺の服装は仕事着のままだ。ポケットに入ってた筆記用具やペンライトは全て没収されたが服装はこの世界に来た時のまま看護師用の白衣だった。その白衣が5日間の牢屋生活で確かに汚くなってる。


「これより沐浴を行い、食事を与えます。まともな姿になったら城門に来なさい。ハヤト様の見送りが終わり、態度を改めれば待遇の改善を考えましょう」


 なんなんだろう、この聖女。目的以外興味ないっていうか、一方的で俺のことを一人の人間として見てないってのが伝わってくる。騎士たちの態度から求心力はあるみたいだけど今一つ何がしたいのか分からない。でも風呂とまともな食事を貰えるなら、そんなことは今は流しておこう。







 俺は騎士の宿舎らしき場所へ連れていかれ、風呂を済ませ衣類が与えられた。黒いポロシャツにゆったりしたベージュのズボンだ。これはこの世界の一般的な服装なんだろうか。そして食事はパンとハムと野菜とスープだ。なんか凄く久しぶりにまともな食事を食べた。やたら美味く感じる。時々騎士に「早くしろ!」と急かされるが、聖女の注意の後は殴られることはなかった。


 そして俺は城門へ連れていかれ、その外側で並ぶ人の列に立たされた。

 すげー街並みだな。真っすぐだ。これどこまで真っすぐなんだ?

 初めて見る王宮の外は、想像以上に整った街並みだった。建物も立派だ。大きな建物は5階建てくらいはありそうで、王城から真っすぐ続く道は整備された石畳、街路樹、花壇などもある。


「キョロキョロするな。ハヤト様が現れたら手を振れ。何か話しかけられても余計なことは言うな」


俺があちこち見ていると騎士に注意される、騎士は周囲に見えない角度で俺に短剣を突きつけている。さすがに刃物を向けられるのは怖いな。この状態からじゃあのスキルでもどう対処していいか分からない。

 そんな状態で待っていると王宮の方向から岡田さんが馬に乗って現れた。その横には聖女が並ぶ。召喚された時に居たもう一人の神官も一緒だ。後方には10人ほどの騎士も追従している。

 城門の外の人だかりは100人を軽く超えそうで、その誰もが身なりがいい。ここでこうやって出待ちできる人には身分の制限でもあるんだろうか。

 聖女に気付いた人々が騒ぎはじめる。


「聖女様だ!」


「聖女様、ああ、お姿がみれて幸せだ」


「あの方が新しい勇者様? 凛々しい方ね」


「なんて素敵な2人なんでしょう」


「前の方の荒々しさも素敵だったけど、新しい勇者さまは本当に素敵ね」

 

 口々に聖女と岡田さんをほめたたえている。聖女は中身が冷徹な嫌な奴だが、岡田さんは本当にカッコいいな。もともと和製ベッカムだからカッコいいんだけど。

 その姿は白を基調とする服の上に動きやすそうな鎧を着て腰には剣を差し、片手に手綱、その反対には兜を抱えていた。

 聖女の方は尋問室の表情と全く違い、微笑みを浮かべた正に聖女って表情だ。なんか腹立つな。ちょっとここで今日までの仕返しをしてやろうか。近づいてくる聖女と岡田さんを見つつ、俺は全力で意地悪な思考を働かせた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ