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018 目的地まであと少しで襲われる


「いい感じ! そうそのまま、そのまま続けて、ああ、そうじゃない、もっと、強めにして!」


  だめだ、アマンダに言われた通りにしてるつもりなのに、なかなか上手にできない。しかしこれは俺のせいじゃない、アマンダが魅力的すぎて集中できないんだ。


「ああ、あと少し、もう少しでいけそうなのに、でもちょっとずつ良くなってる、あっああ……」


 俺の集中が途切れ、魔法陣は消える。

 俺の生活魔法の訓練は、アマンダの誰かが聞いたら勘違いしそうな声により今日も安定した魔法陣が出せずに終わった。でもまぁこれはこれで楽しいからいいか。笑

 

 あの町で聖女と勇者を回避してから5日。俺達は明日にはエルナトに到着という場所でキャンプしていた。今日は依頼を受けておらず二人だけだ。携帯食料で夕食をすませ、寝る前に生活魔法の訓練をしていた。

 俺はアマンダから指導を受け、魔法陣を出現させるところまではできるようになった。アマンダと比べても小さい人差し指と親指で作った丸よりちょっと大きい程度の魔法陣だ。

 可愛いぞ俺の魔法陣!

 まぁ魔力量の大きさで魔法陣のサイズが決まるようだから、俺の魔法陣が小さいのはしかたない。ここまでくる中、護衛依頼で一緒になった魔導士が見せてくれた魔法陣は、1mくらいあった。その人の魔力量が< 魔力量比較 11 >で、単純に俺の11倍の魔力ってことだ。となると町で見かけた魔力量比較で20だった人っていったいどんな魔法陣になるんだろう。横に構えたら地面に着きそうだな。


「アマンダ、覚えが悪くてごめんね。魔力量が少ないせいかな、なかなか安定しないよね」


 俺は魔法陣を出現させられるようになったけど、その次に進めないでいた。出現する魔法陣はまるで切れかけた蛍光灯のように明滅して安定しない。安定させられないと次に火や水の意思を組み込む段階へ進めないみたいで、まだ一度も何かをだせたことがない。原因は俺の集中力とアマンダの無意識の妨害だ。


「安定してしまえば次の段階はすぐだから、また頑張ろ」


 アマンダは1日で覚えたらしいが、その中でも魔法陣を安定させることには苦労したらしい。その後火や水を出すことにはまるで苦労せずできたとのこと。火は中学での理科の実験で上方置換や下方置換を行なったことを思い出し、可燃ガスを集めて火をつけるイメージですぐに火が出現したらしく、水も同じく理科の授業で習った水素と酸素の結びつきをイメージしたらすぐに出たらしい。神秘的な魔法とは言え、具体的なイメージがあると具現化しやすいってことなんだろうな。


「ところで、あしたにはエルナトだけど、今後はどうする? 王都より距離を取るってことが優先事項だったけど、どうも熱心に捕まえようとしてる感じ無いよね」


「そうだね、検問とかも無かったし、結局私たちを探してるような人には出会わなかったね。」


「そうなると、一所懸命逃げてきたのがアホらしくなるけど、聖女から見れば、ショボい回復スキルしかない俺と、元勇者の娘とは言え、生活魔法しか使えない娘だもんな。かまってる暇がないのかも」


「でも、私たちあの小屋で兵士を倒して逃げたじゃない」


「あ、そうだった。忘れてた。じゃぁ少なくともアマンダの強さはバレてるね」


「ん~、ケインのスキルもバレてるような気がするけど、嘔吐させたのと、筋力下げて眠らせただけだからもしかしたらバレてないのかなー」


「まぁどちらにしても王都には居られなかったんだから逃げたのは正解だよ。また牢暮らしはしたくないしね」


「逃げるのに偽名まで考えて頑張ったのに、追手がこないってちょっと拍子抜けだね」


「実際、熱心に来られたらこまるって」


「だね、でも偽名、もう慣れたね。私、自分がアマンダって言われても違和感ないもん」


「俺もケインって呼ばれるのに慣れたな。意外と早く慣れるもんだね」


 明日はエルナト、とりあえずの目的地の到着ということもあり、俺たちはなんとなくほっと一息つくような気分で焚火を眺めながら話していた。しかしアマンダが急に周囲を気にし始める。焚火に近づくと生活魔法で水を出し消火した。


 ジュワーーーーー!


 火にかけられた水が水蒸気になり立ち上り、周囲は一気に暗くなる。


「ケイン、視力!」


「わかった」


 ( 暗所視力 8 )


 アマンダにスキルを使い、5秒待ち自分にも使用する。すぐに周囲が明るく見えるようになる。

 夜間何かあったときの行動はこの逃亡の旅の中で相談して決めてある。気配に敏感なアマンダが何かに気付いた時は、すぐに火を消して暗所視力をスキルで高める。それでたとえ襲いかかろうとする敵がいても、焚火のためにこちらだけ一方的にみられる状況から、こちらからだけ相手がハッキリ見える暗さをアドバンテージにした状況を作れる。


「あっちの岩陰に数人、その隣にもいるね。囲まれてはいないみたい」


 視力を高める前から気配を感じてたアマンダは、暗所視力を高めた状態となり、すぐに怪しい気配の位置を特定した。

 気配って正直俺にはよく分からないんだよな。


「ちょっと実力みてくるね! 実戦訓練だよ」


 そう言うと槍を持って何かが隠れてると言った場所へ向い歩き出す。


「え? 今から実戦訓練? まじで?」


「そうよ、まぁ様子見て決めるから待ってて」


 そう言うと、怪しい気配に対して、気付いたけどよくわかってませんよーって感じで進む。


「誰かいるの?」


 アマンダが指摘していた岩陰に近づくとその岩陰から二人の男があらわれた。抜き身の剣をもちニヤニヤしている。そしてその手に持つ剣は黒塗りだ。もし暗所視力を高めてなくてあんな真っ黒な剣を振り回されたら、すっごく対処しにくそうだ。うん、どう見ても盗賊だな。夜襲うことを前提に準備してるし。


「大当たりじゃねーか。こんな別嬪さんがいるなんてよ。もう一人はどうだ?」


 一人の男がそう言うと、もう一つの岩陰からの一人の男が出てくる。


「大したことなさそうな男が一人、それだけだ」


 く! 大したことないって酷い。まぁそりゃ現代っ子の看護師ですからね、荒事ができるような風貌ではありませんよ。そんなことは分かってるけど、男としてのプライドって意外とチクっと来るもんなんだな。チクショウ!


「なに、あなたたち、なんなの?」


 驚いた様子で後ずさりするアマンダ。相変わらず役者だな。ここまで何度か見知らずの相手と戦闘になったが、アマンダは実力を隠す……いや弱いフリをする。結果を見ても圧倒的にアマンダが強い時であってもだ。それについて聞いてみたら「戦いは出会った時点で始まってるんだから、相手に強そうだと思われて警戒されるより、弱そうに見せて油断させるのなんて当たり前」的なことを言ってた。やっぱりアマンダはそういう部分、変な育てられ方をしてるみたいだ。そんな当たり前は現代日本にはあまり無いと思う。


「へへ、よーしお前ら、俺がその男を始末するから、その女を逃がさねーよにしとけよ。久しぶりの上玉だ。しっかり楽しんだ後に高値で売るぞ」


「へい、了解です!」

「分かりました!」


 なんか親分風の男が俺に向かって歩いてきた。他の二人より体格が良く180は楽に超えてそうなガッチリした強面の男で、刃渡りだけで1mを超えそうな大剣を持ってる。俺はアマンダを見ると、コクコクと頷いている。俺に戦えって合図だ。


 実は昨日終えた護衛依頼で、俺は危ない目に遭った。

 護衛する荷馬車が先を急ぎたいからと暗くなっても進んでいた時、すれ違った荷馬車から突然襲われた。あれは偽装した盗賊団だった。その時俺はまさか襲われるなんて思ってなくて、あっさり斬られそうになり、怪しい気配を察知してたアマンダに助けられた。そこからは俺もスキルで無力化しつつ、アマンダと他の護衛によりその襲ってきた盗賊は倒したんだけど、その後アマンダにはこってり絞られた。怪しいさに気付くこと警戒し油断しないことの大切さを、それはそれは厳しく指導された。


 その時、今後はチャンスがあったら実戦経験を積もうとなったんだ。そして今、この盗賊を相手に実戦経験を積めってことなんだろう。まぁアマンダが頷いてるってことは、俺が頑張れば対処できるって見抜いてのことなんだろうけど、大丈夫か? 俺って籠手しか装備してないから防御だけなんだけど。いざとなれば、スキルで盗賊を無力化すればいいんだけど、初めての実戦訓練の相手があんな大剣を持った大男とか想像してなかったぞ。


 ギン! ガン……キン……ガシ


「キャ!」


 あっちは戦闘が始まった。アマンダがどう見てもいつもの動きと違う弱者のフリりをした防御に徹してる。サクっとアマンダが蹴散らしてくれてもいいのに、この盗賊たちが敵わないと判断して逃げないようにわざとやってるな。


「さぁ色男のにーちゃん、あのねーちゃんは俺たちが頂くから、お前はサクッと死んでろ!」


 近づいてくるなり大振りの一撃で俺を頭から真っ二つにしようとする斬撃。


「うおお!」


 思わず声を出してしまい、なんとかサイドステップで躱す。

 こ、こえーよ! あんなのこの籠手で受けられるの? 籠手ごと俺の腕が無くなるんじゃないの? さらに斬撃を繰り返す盗賊の親分から必死で逃げる俺。いやいや実戦訓練って言ってもよく考えたら俺、攻撃手段がないじゃん? 籠手で攻撃する体術って言っても、それもう12年も前にやってた高校時代の拳法だぞ。そんなにこの大剣に通用するの?


「前に出て、ケイン!」


 アマンダが器用に盗賊の攻撃を受けながら近くに来た。逃げ避けしてる俺に前に出ろと言う。


「おい、色男、ねーちゃんに言われてるぞ。さっさと前にでて真っ二つになりやがれ!」


 おい、親分、気付けよ、お前の子分アマンダに遊ばれてるぞ。俺をかまってる場合じゃないぞ! 俺は必死に回避してて疲れてきたけど、お前の子分は、攻撃疲れしてるぞ。

 アマンダが俺に助けを求めたとでも勘違いしたのか、上機嫌に俺を挑発する盗賊の親分。


 ドガ……ドス 


 焦れたのかアマンダが、盗賊二人に一撃ずつ加えて倒すとこっちに向き直る。


「もう! 勢いがつく前に出て受ければいいの! あとは力いっぱい殴れば勝ち!」


 滅茶苦茶言うなよな。そんな簡単にできねーよ。まずこの大剣に向かっていくのが怖いし! アマンダが仲間を倒したことに驚く親分。だが、アマンダが俺と二人がかりで攻撃してこないことを不思議そうにみていたが、アマンダの言葉に腹を立てはじめる。


「ほう、お前は、このなさけねー逃げてばっかりの男が俺を倒せると思ってるのか」


 親分はアマンダを睨みつける。うん、怖いな。怖さ2割り増しになったぞ。アマンダのせいだ。そんな親分を無視してアマンダは俺に話しかける。


「私たちって、こっちに来た時にいろいろ強化されてるの。ケインは自覚が足りないけど、筋力とか反射神経とかね。それをちゃんと使いこなせば、盗賊程度の雑魚なんて余裕なの!」


 その言葉に怖さがさらに割り増しとなる親分の顔。

 おいおい俺にこれを相手させるつもり?

 無視され、しかも雑魚扱いされた盗賊の親分は真っ赤な顔になりワナワナと大剣を握る手を震わせる。


「わけの分からないこと言いやがって、俺を雑魚だと! なめやがって!」


 俺を見て自分を見もしないアマンダに対し、親分が大剣を振るう。普通の剣なら届かない距離だが、親分の踏み込みが意外なほど速く深いことと、大剣の大きさでアマンダに届いたように見えた。


 バキン!……トサ……


 しかし、その大剣を槍が叩き落とす。大剣は横っ腹を叩かれ、見事に折れた。宙を舞い落ちる刀身。


「「あ!」」


 アマンダと親分が同時に声を出す。盗賊はもちろん驚いての声だろうが、アマンダは俺と戦わせたかったのに剣を折っちゃった! って感じの顔だ。


「ち! 逃げるぞお前ら!」


 そう言い走り出す親分、しかし当然ながらアマンダに一撃を受けた二人は全く動く気配がない。そんな子分など振り返りもせず逃げようとする親分が数歩走ったところで、アマンダが槍で足を払った。


 バキャ!


「ぐあぁぁあぁ!」


 すっころぶ盗賊の親分。

 痛そー。あれ絶対折れただろ。足関節あたりの骨、砕けてるだろ。

足を抱えのたうち回る親分に同情する。する必要ないけど。


「あーあ、丁度いいって思ったのにな、手加減間違っちゃった」


 いえいえ、俺にはハードモードすぎですよ、アマンダさん。あなたの感覚で訓練させないでください。


「もうギャーギャーうるさいし、どうする? ケイン。 この人賞金首かなー、明日エルトナに首持ってったら賞金もらえたりするかなー。」


 アマンダの言葉にピタッと静かになる親分。


「た、頼む、捕まるのはいいが頼むから命だけは!」


「え、でも捕まったらどうせ死刑なんじゃないの?」


「いや、俺たちはまだこの国で前科がない、人も殺しちゃいない」


 そう言って親分が兜を脱ぎ土下座姿勢となる。

 ん? そこには厳めしい顔の親分には似合わなすぎる猫耳があった。

 獣人! ここまで来て一度も見かけなかった獣人なの?


「俺たちはこの国に来たばかりなんだ。襲って悪かった。この通りだ、どうか命だけは!」


 命乞いをする親分の耳がシュンとなりピクピク動いている。実に似合わない。

それにわざわざ盗賊するために国を越えてきたってこと? それなら助けたってまた同じことするだけじゃ? でも俺にはまだ人を殺すような覚悟なんてないしな。殺す気なんてさらさらない。

 命乞いをする親分を尻目にアマンダは他の二人を槍で突いて起こした。


「あなたたちね、すっごく弱いわ。そして才能もないわ」


 そして説教タイムが始まった。

 アマンダは最初の護衛任務の時もそうだったが、盗賊を倒すと説教をする癖があるようだ。癖と言ってもあの時が最初なんだけど。

 でいつも言い分は同じだ。


 あなたたちは弱い、そのうえ才能もない。

 相手の実力も見抜けない盗賊なんて長生きできない。

 どうせすぐ殺される、だから私がここで始末してやろうか。

 それが嫌なら二度とこんなことはするな。

 次に会って同じことしてるなら、私がその命を終わらせてやる。


 と、時には槍で小突きながら説教する。

 でもこれ、効き目あるの? 20歳のスタイル抜群の美少女にケチョンケチョンにやられて、確かにプライドはボロボロになるだろうけど、盗賊みたいな連中が改心するなんて思えないんだけどな。説教するアマンダにそんなこと言ったら、俺が説教されそうだから言わないけど。


「じゃぁケイン、眠らせて」


 しかし、最初の護衛任務の時と違い、さすがに逃がしはしない。アマンダも最初の時は考えてなかったみたいだけど、逃がした盗賊がまた悪事を働けば、それは少なからず自分のせいでもあると理解したみたいで、ちゃんとギルドや騎士団に捕えてもらうようになった。


「じゃ街道にでも寝かせといて、明日エルナトのギルドに通報しましょ」


 丸一日はスキルで寝るから、ギルドがすぐ動いてくれれば目を覚ます前に捕まえてくれるだろう。運が良ければ賞金とかもらえるかな。道に放置してて野生動物とか魔物に襲われる可能性もあるかもしれないけど、もうそこは自業自得だ。抱えて町までなんて無理なんだからしかたない。

 俺たちは三人の盗賊を街道の端に並べる。野営場所に戻り静かさを取り戻した夜をのんびり過ごした。





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