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017 お疲れ聖女の自然治癒力強化、だけど仕返しもするよ


 宿に連泊、今日で3日目。

 聖女が隣の町からこの町へ向かってるとの情報が、食堂の噂話から聞こえてきた。朝から歩いても日中に到着できる距離だ。聖女一行は馬や馬車だからそう待たずに現れるだろう。


「結構待ったね」


「そうだね、でも久しぶりにゆっくりダラダラできた気がする。まぁ牢でもゆっくりだったけどあれはリラックスできるゆっくりじゃなかったもんね」


「でもそのおかげで魔法の訓練もできたし、トレーニングもできたからよかったじゃん」


 この3日間、俺とアマンダは生活魔法の訓練と筋トレに励んだ。まぁ俺は普通の人の半分くらいしか魔力が無いのが原因なのか、生活魔法をまだ使えていない。だけど魔力を感じることだけはできるようになった。モヤモヤっとした何かを感じるってレベルだけど。アマンダは教えてもらった初日に水が出せたって話だから、普通はそのくらい簡単なんだろう。


 トレーニングに関しては、俺が以前考えた超効率的筋トレを実践してみた。やり方は単純だ。まず骨格筋を強化し筋力の使用限界を高くして腕立てやスクワットなどの筋トレを行う。そうするとすぐに筋肉痛の状態となる。これは骨格筋を強化したダレンさんとドルトンさんがすぐに筋肉痛になったのを見て思いついた。そして自然治癒力を高めたうえで、眠気も強化して3時間ほど寝る。それだけだ。

 普通だったら時間をかけて筋トレ、次の日筋肉痛になり2日ほど超回復を待つのが1サイクルの筋トレが、4時間1サイクルほどで可能となる。

 おかげでこの3日間で8サイクルくらいはできて、胸板が厚くなった気がする。ちなみに最初は交代でやってたけど、アマンダは結局2サイクルしかしなかった。こんなトレーニングしてたら、筋肉ダルマになっちゃいそう……とのことだ。十分脳筋タイプだが、そういうのは気になるんだな。

 眠ったアマンダは毎度素敵な寝相を見せてくれるから結構楽しみだったのに……。


 俺たちは聖女がもうすぐ現れるとのことで出発の準備に取り掛かる。この町で装備を追加して徒歩での移動でも困らない準備ができた。一番大きな変化はザックだ。徒歩での移動となると野営の道具は自前だからな。そして野宿用の天幕にするシートと寝るための敷物と被り物、あとは簡単に食べられる携帯食料。登山してた時のことを思い出して、小さい鍋や調理道具も欲しくなったが、まぁ今は充実した旅行装備よりも身軽さが優先だな。


 宿の窓際で大通りを眺めていると、昼過ぎに聖女一行が到着した。町の正門の方向より総勢30人ほどの一団が現れる。大通りは聖女や勇者を一目見ようとする人であふれかえっている。

 そんな中、騎士に囲まれた馬車に乗った聖女が現れる。そしてその前を馬に乗った岡田さんだ。聖女や岡田さんに対し周囲から「聖女様」「勇者様!」「ハヤト様!」など、黄色い声が飛ぶ。

 岡田さんすでにかなり人気者だ。なんかいいな。うらやましいぞ! 馬に乗った姿がカッコいいぞ!

 しかし情報の伝達速度が速いな。この世界に来てまだ2週間くらいだけど、勇者が召喚されたって話はしっかり広がってるんだな。やたら早い段階に感じる遠征は、前線での戦いが目的じゃなくて、新たな勇者が召喚されたことを知らしめるため、国民を鼓舞するためってところか。


「あの人が新しい勇者なんだ。想像してたより細い感じね」


  アマンダのお父さんはどれだけがっちりしてるんだろう……ロシア人格闘家って聞いただけで結構凄いものを想像してしまうんだけど、あの10年間無敗だった男とか。


「あの人って剣道やってる人だったよね」


「そうだね、警察剣道で優勝経験もある人だよ。俺が働いてた病院に十字靭帯の断裂で入院してたんだ」


「その怪我は? あ、召喚されてから聖女に治してもらったんだね」


「そう、聖女が膝に手を当てただけで治した時にはビックリしたよ」


 アマンダと話しながらカーテンの隙間から様子を見る。ちなみに俺は岡田さん、いや勇者ハヤトの体調を観察していた。体調って漠然とした観察では多分健康状態を全体的に見て評価されるみたいで普通な状態なら< 体調 5 >と表示される。ちなみに< 体調管理 >の熟練度が上がったおかげか、有効範囲が10mほど広がってて、今は30mほど離れた相手でもスキルが発動する。

 勇者ハヤトの< 体調 6 >だ。状態良好でよかった。この世界からの召喚に俺を巻き込んだ人だけど、そこに恨みはない。おかげでアマンダと出会えたしね。むしろ俺は心配してる。すっごく真面目そうだからこの世界に順応できるのかなって。でも今のところ、心配なさそうで安心した。

 聖女を観察すると< 体調 4 >だった。ちょっと疲れてる? この町に来て神官とシスターに聖女の過去を聞いたおかげで、この人も召喚に巻き込まれた人だし、色々苦労してるんだろうなって同情の気持ちが湧いてくる。

 聖女の回復魔法は外傷や病気には圧倒的な力を持つみたいだけど、疲労には効かないのかな。まぁ現代日本の女性が馬に乗って長距離移動なんてすればそりゃつかれるだろうな。と言っても聖女は異世界経験10年の大ベテランか。純粋に忙しくて疲れてるのかもな。


 ( 自然治癒力 8 )


 俺はなんとなくちょっとだけ気の毒になり、聖女の自然治癒力を高めておいた。


「通り過ぎたら、すぐ出発しよ」


「わかった」


 俺は目の前を通過する聖女を見る。正に聖女といった優し気な表情だ。その表情をみてるとなんだかムカついてくる。やっぱり俺は聖女の過去を聞いたからって、牢に入れられたり、逃げたからって殺されそうになったりしたことを綺麗さっぱり水に流せるほど人間が出来ていない様だ。さっきは自然治癒力を高めたけど、また何か仕返しがしたくなってきた。

 さてどうする? さすがに前回の尿意10はやり過ぎた。あれはちょっと人としてどうかと思う。女性を周囲の目のあるところで辱めるような真似はやり過ぎだった。しかし突然なにかしようと思ってもおもいつかないな。んーだけどなにかやりたい。俺に対する冷酷な態度は思い出したら腹が立つ。

 そうこう考えていたら、スキルの有効範囲か聖女が離れてしまいそうだ!


 ( 尿意 8 )


 結局これか! 引き出しの少なさに悲しくなる。

 聖女が馬車の上でブルっと震える。突然の尿意に驚いてるみたいだ。そして周囲をきょろきょろと見回す。前回もこういうシーンで突然の尿意だったから、もしかしたら誰かに何かされてるって感づいた? 微笑みを浮かべつつも探るような目で周囲を見ているが、宿の二階の俺に目が向くことはない。

 まぁ今回はこのくらいで許してやろう。教会まで我慢してトイレに駆け込むがいい。牢に何日も閉じ込められた仕返しとしては、優しいもんだろ。

 時折ブルっと震える聖女を、俺は優しい気持ちで見送った。


「よし行こうか!」


 聖女が進み、大通りが静かになったところで、宿をチェックアウト。俺たちは依頼を受けることなく徒歩で西へと出発した。

 この時間から徒歩で進めば到着は夜中か。まぁ待機して聖女をやりすごしたんだから焦る必要はない。せっかく買った装備があるんだから、晴れてることだし野営を楽しむのもありかもね。結構好きなんだよね、キャンプ。標高の高いキャンプ場で見る星空って、何度見ても飽きないんだよな。


「今日はせっかくいろいろ買ったから、キャンプしない?」


「いいよー、宿に籠もりっぱなしだったしね!」


「じゃぁ決まり、何か美味い物買っていこう!」






 主人公のショボい仕返しは、悪い人間ではないからこそです。苦しめようと思えばいくらでも選択肢があるにも関わらず、大したことが出来ないのが今の主人公。今後この世界に適応し成長していくなかで厳しい現実も学び、幅広い選択肢を持つ頼れる男と成長していきます。


 ここまで読んでくれた皆さま。ありがとうございます。ブックマークが増えるたびに読んでもらえる喜びを感じています。

 読むだけで我慢できなくなり書き始めた素人ですが、今後とも頑張っていきますので、ここまで読んでくれ、気に入って頂けた方は是非ブックマークをよろしくお願いします。


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