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012 護衛任務、盗賊殺害にこの世界の現実を見る

「おい! 止まれ! もうバレてるぞ、立ち去れ! 起きろ! 賊だ!」


 俺はドルトンさんの大声で目を覚ました。天幕の近くに止めてある馬車、その荷箱の一番上に立つドルトンさんは、街道の反対側、草原の方向を睨んでいる。

 俺と同じように目を覚ましたダレンさんはすでに剣を抜き盾を構えている。

 素早い!


「おい、さっさとネーチャンを起こせ!」


 あ、アマンダはまだスヤスヤと寝ている、地面が硬いからか赤ちゃんスタイルではない。横向きに丸まった胎児スタイルだ。これも悪くない。今の状況じゃなければしばらく眺めていたかった。

 俺はアマンダの腸骨の辺りを掴み揺さぶって起こす。なんで肩じゃないんだなんて聞くな。急いでるんだちょっと判断を間違っただけだ。決して感触を楽しんでなんていない。


「ん……何?」


「盗賊だよ、起きて」


 ちょっと寝ぼけたアマンダにひそめた声で伝える。さすがの寝坊助も盗賊という言葉には驚いたようで、すぐに手元に置いてあった槍を持つ。イメルダさんが準備してくれた槍だ。


「おい、こっちは迎え撃つ準備ができたぞ! 無駄なことはするな! 立ち去れ!」


「それともやるか! 死にたいならかかってきやがれ!」


 ドルトンさんとダレンさんが威圧的に対応する。護衛は被害を出さないことが任務だ。戦わずに追い返せるならそれが一番いい。


「こいつら、引かねーな」


「お前ら、戦闘になるかもしれねーから、気を抜くなよ」


 俺とアマンダに指示を出しつつダレンさんも警戒を強める。


「敵は何人なんですか?」


「見えてるのは4人だが……わからねぇ。まだ居るかもな」


「ドルトンさん、驚かないでくださいね、視力を強化します」


 初心者過ぎる俺にはこの状況の危険度が分からない。最大限できることをやってみよう。


( 暗所視力 8 持続時間 1時間で )


「うお! こんな支援魔法があるのか!」


うまくいったみたいだ、荷台の上のドルトンさんは昼のようにとは言わないが、かなり景色が明るく見えてるはずだ。これで敵を見つけやすくなる。5秒待って次はダレンさんだ。


「うおお! なんだ急に明るくなったぞ!」


「あ、すみません、俺がやりました」


 視力強化するって声かけるの忘れてた。ドルトンさんの驚きの声がでかい。

 続けてアマンダと俺にも使用する。


「うわ、前にやってたやつね、こんな風に見えてたんだ」


 アマンダは俺が何をしてるのか分かってくれてたみたいで小さく驚く。


「こりゃ助かるぜケイン! 賊は4人で間違いねーぞ、しかし引く気配がねーな」


 盗賊だって命あっての物種だ。危険度が高けりゃ逃げるのは当たり前らしい。同じ戦力ならリスクを考えて逃げる。積み荷を奪うにしてもその都度犠牲者や怪我人を出してちゃ成り立たない。しかしこの盗賊は引かない、それってどういうことだ? 勝てる自信があるってことなのか?

 距離は50m前後ってところか。

 もうバレてるからか隠れるつもりはないらしく、ゆっくりとこっちに歩いてきている。


「おい、ダレン! 右から二番目の奴を見てみろ!」


 俺もそれを見る。痩せた男だった。だけどその痩せた体に不似合いな長い剣を持ち、防具は一切身に着けていない。なんだか幽霊みたいな男だ。


「あれ、幽霊剣士……なのか?」


「そうとしか思えねーぞ、あいつだけ笑ってやがる」


「話に聞いてた特徴と一致するな」


「どうする?」


「やるしかねーか……おいお前ら、あいつは幽霊剣士だ、注意しろ!」


「幽霊剣士? なにそれ、魔物なの?」


 アマンダがちょっと間の抜けた調子で質問する。


「は? お前ら最近の事件とかチェックしてねーのかよ! 戦闘が目的で人を襲う狂人、積み荷を狙わず命を狙う元Bランク冒険者の成れの果て。それが幽霊剣士だよ、俺も見たのは初めてだけどな!」


 日本で言う辻斬りみたいな感じか? まぁ今の日本だと辻斬りというより通り魔か。


「強いんですか?」


「ああ、何人も護衛が犠牲になってる。あいつが狙ってるのは護衛だからな。戦って人が切りたいだけの狂人だよ。しかしお前ら本当に世間知らずだな!」


「他の三人は?」


「多分、盗賊だが、幽霊剣士の趣味に付き合わされてるんだろうよ。従わなきゃ殺すってな。どちらにしても盗賊は捕まれば死刑だ」


「どうします?」


「私、総合力ならBだし、あいつ倒しましょうか?」


 アマンダが幽霊剣士の相手を申し出た。冒険者ランクBだった幽霊剣士と総合力Bのアマンダ、強さをどう見たらいいのかさっぱり分からない。アマンダの戦いを見たことある俺としては、負ける姿なんて全く想像できないけど、この世界の戦闘なんてあれしか知らないもんな。俺が幽霊剣士を無力化するのが一番手っ取り早いね。


「アマンダのねーちゃんは総合力が高くても経験がたりねーだろ。あいつは俺たちに任せろ!」


 ドルトンさんが積み荷から下りてダレンさんと並ぶ。俺はスキルのことを話して幽霊剣士を無力化することを考えた。まだ敵は遠い。その時間は……! 

 急に幽霊剣士が走り出した、まっすぐじゃなく、回り込むようにだ。俺のスキルが届く距離は20mくらいだ。まだ全然届かない。


「動いた、来るぞ! ケイン、俺たちに強化を頼む!」


 引き付けてくれさえすれば俺が無力化するつもりだけど、どうも状況がどう動くのか分からない。これが経験不足ってやつか。俺は急いで二人の筋力を強化する。


( 骨格筋 筋力 7 持続時間 1時間 )


 最初にダレンさんだ。数値は悩んだが、一度体を動かしたことがある7がいいだろう。

 5秒待って……ドルトンさんも同じに!


( 骨格筋 筋力 7 持続時間 1時間 )


「きたきたきたーーー! 負ける気がしねーぞ!」


「ケインが居てラッキーだったぜ! 賞金は山分けだ!」


 二人が駆け出した。幽霊剣士を無力化するため俺も向かおうと思ったが、今度は残りの三人が俺とアマンダに向かってくる。幽霊剣士の動きといい、この感じ、戦闘の経験なんてないけどきっとこっちを分散させようとしてるんだろう。


「アマンダ、こっちの3人相手できる?」


「ん……余裕っぽいよ、なんか大して訓練してない動きだし」


 さすがアマンダ、突進してくる様子だけで実力が分かるのね。脳筋両親の英才教育の賜物だ。


「強化はいる? 使ってみる?」


「いらない。急に力が強くなっても動きが悪くなるだけな気がする」


 なんとも説得力のある生粋の武道家みたいな意見だ。そもそも鉄格子をひん曲げる怪力スキルがあったもんね。俺の心配は必要なかったみたいだ。


「じゃぁ俺はあの幽霊剣士を無力化するよ、危なくなったら大声だしてくれ」


 俺は剣がぶつかる音に向かって走る。さっきのアマンダの考え方だと、ダレンさん達が心配だ。筋力が強くなっても、それが馴染んでなければ、かえって技のキレとか悪くなるかも。もしそれで怪我でもしたら俺の責任だ。

 見えた! けど遠い。夜間視力を高くしてるおかげですぐに見つけられたが、思った以上に遠くまで離れてる。なんだあの幽霊剣士、笑いながら戦ってるぞ。

 ダレンさんとドルトンさんの斬撃ををヒラリヒラリとかわす様子は本当に幽霊みたいだ。回避に自信があるから防具を一切つけていないのか。

 その逆に、ダレンさんとドルトンさんは流血している。幽霊剣士の攻撃を受けこなせなかったのか?

 やっぱり筋力強化は失敗だったか!


「ダレンさんドルトンさん、引いてください! 俺がなんとかします!」


 俺の声に反応して幽霊剣士が距離を取る。こっちを見るとニヤリと笑う。ターゲットが俺に変わった? 好都合だ。もう少しで20m内に入る。それでおしまいだ。


「お前に対処できるわけねーだろ! こういうのは役割ってのがあるんだ! 離れてろ!」


 俺に目を向けた隙を突いて、ダレンさんが幽霊剣士を切り付ける。しかし当たったように見えた斬撃もゆらりと躱され返しの剣で肩を切り付けられた。


「うがぁぁああ!」


「このやろう!」


 それを見たドルトンさんが怒声を上げ幽霊剣士に斬撃を放つ。しかし、それまでひらりと躱し返しの一撃が放たれそうになる……が、そこで体調操作の有効距離だ!


( 骨格筋 筋力 1 )


 頼む! 間に合え!


 ガザッ


 幽霊剣士の振り降ろそうとした長剣が、力なく地に落ち。


  ドザァ


 糸が切れたように幽霊剣士自身も地に倒れ伏した。

 間に合った! ゼェゼェ……ゼェゼェ……

 必死に走ってなんとか幽霊剣士を無力化できたけど、もう息が上がって大変だ。スキルをどうにか応用して楽にできないかと考えるも、頭が働かない。


「なんだ! ケインか? ケイン、何かしたのか?」


 ドルトンさんは目の前で突然幽霊剣士が倒れ、困惑している。

 ここまでのスキルはできれば隠しときたかったな……ゼェゼェ……


「なにしてる! 止めだ!」


 え? 終わりじゃないの?


「お、おう!」


 ドルトンさんが困惑の表情から、覚悟の表情へと変わる。そして俺のスキルで動けなくなった幽霊剣士に剣を突き刺した。刃を水平にし肋骨の隙間を通るようにして、明らかに心臓を狙った一撃だった。俺にはそれがやけにゆっくり見えた。


< 呼吸数 0 >

< 心拍数 0 >


 俺は動かなくなった幽霊剣士を見ていた。体調観察のスキルで確認すると当たり前だが死んでいる。ドルトンさんは躊躇うことなく幽霊剣士を刺した。結局3回は刺してたと思う。

 俺は動けなかった。はっきり言って衝撃的だった。異世界にきて冒険者となり、護衛任務をするとなればこういうことだってあるだろうと想像はしていたが、実際目の前で人が殺される様子は想像以上の衝撃的な出来事だった。まして自分で動けなくした相手に対する止めだ。まるで俺が殺したような気分になる。


「おい! ケイン! ぼーっとしてんじゃねーぞ! アマンダの所にいくぞ!」


 ダレンさんの怒声が響く! 俺は3人を任せて置いてきたアマンダを思い出す。遠くで武器がぶつかる音が聞こえる、少なくともまだ戦ってるみたいだ。アマンダ、余裕って言ってたのになんで!


「行くぞ!」


 ダレンさんとドルトンさんが走り出す。それを追うがすでに息が上がっていて思うように走れず引き離される。

 アマンダに限って負けるなんてことは無いと思うけど、先程の光景に心が動揺してて妙に焦る。

 さっきは任せるって判断したけど、もし怪我でもしてたら!

 悪い方向へ思考が向く。

 戦闘の音が大きく聞こえ始め、なぜか立ち止まっているダレンさんたちに追いついた。なんでアマンダを助けないんだ?


「おい、アマンダは何をやってんだ?」


「いや、戦ってんだろ?」


「踊ってる……じゃなくてか?」


「しらねーよ、本人に聞け」


 俺は二人の前に出てそれを見る。そこでは2mの槍を重さを感じさせない速さで振り回し、舞い踊るように戦うアマンダの姿があった。


「ほら、もっとよく見て! 穂先ばっかり気にしない! 全体を見るの!」


ズガ!


「スネは弱点なんだからね、脛当てがあっても本気で振った武器が当たれば痛いんだから!」


ドガ!


「ほら下見た! 頭ががら空き! 目だけで追わない!」


ドス!


「振り回してるから突きが来ないって思ったでしょ、油断しちゃだめ!」


バキ!


「「「すみませんでした! 勘弁してください!」」」 


 三人の盗賊は心を一つにして土下座した。

 なんか、さっきの現場も衝撃的だったけど、こっちも凄かった。ダレンさんとドルトンさんも動きが止まったままだ。土下座する盗賊の前に仁王立ちのアマンダから目が離せない。


「あの、この三人には止めは刺さないんですか?」


 俺は気になったことを聞いてみた。盗賊はどうせ死刑、ならば現場で止めを刺す。さっきはそれに衝撃を受け呆然としたが、冷静に考えればそれは当たり前なのかもしれない。生かしておけば新たな被害者がでるのだから。


「いや、なんかな、あの三人をどうこうする権利は俺たちにはない気がする」


「そうだな、アマンダに任せよう」


 それは俺も思う。

 男三人の意見は一致したようで、アマンダに視線を向けどうなるのかを見守る。


「あなたたちはなんで盗賊なんてやってるの? そんなに弱いのに」


土下座する盗賊三人に話しかけるアマンダ。


「え、えーと、なんとなく流れで……そのいつのまにか道を外れて」


「そんな覚悟でやってるの? その程度の力で!」


「「「すみません!」」」


「すぐ死ぬわよ、このまま続けたって間違いなく誰かに斬られて死ぬわ! 弱すぎるもん!」


「「「!!!」」」


「あなたたちには戦いの才能がないのよ! どうせ死ぬんだから私がここで止めを刺してあげる!」


「「「ひぃぃいぃぃいぃ!」」」


 なんだこれ?



「死にたくないならここに誓いなさい。二度と盗賊はしない。悪行はしないと」


「「「誓います!」」」


「本当に? 私は貴方たちの顔、覚えたわよ?」


「「「誓います!」」」


 割けんばかりの声で返事をする盗賊、頭は地面に叩き込むかの如く下げられる。


「よし、じゃぁ行きなさい。そして善行を積みなさい。だけどそれで許されると思っちゃだめよ。もし次に悪さするようなことがあれば、私がそのつまんない命を切り刻みに行くから! わかった!」


「「「分かりました!」」」


 仁王立ちのアマンダが見送る中、解放された三人は何度も振り返り頭を下げながら草原に消えていった。

 なんなんだこの茶番は! 人が死ぬ現場を見た衝撃が吹っ飛んだぞ! それに逃がしていいのか? あいつら改心する? いや盗賊なんてやってる奴らだ。根っからの悪人だろ! 絶対改心なんてしねーぞ? 


「いいんですかね? あれ、改心するなんて思えないんですけど……」


「「すげーな、アマンダ」」



……ダメだこりゃ。






 私の初めての作品に目を通していただきありがとうございます。作者的にはやっと書くことに慣れてきてひと段落といったところです。ここまで読んでいただけた方、ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、皆さんありがとうございます。それらを励みにこれからも頑張ります。

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