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013 価値観や常識の違い。そして酔っぱらいアマンダ


「いやー大物を討伐しちまったな!」


「幽霊剣士の賞金っていくらだったか覚えてるか?」


「ちょっと覚えてないが、かなり良かったよな」


「今日はいい酒がのめそうだぜ! 痛ちちっ」


 馬車の上でダレンさんの傷を確認する。暗い中で行なった応急処置に何か問題がないかの確認だ。とりあえず大きな問題はなさそうなので、包帯を巻きなおす。包帯はイメルダさんが渡してくれた荷物袋の中にもあったが、ダレンさんたちも持っていた。冒険者の標準装備なのかも。

 俺たちは幽霊剣士を倒し盗賊を追い返した後、すぐにダレンさんの応急処置をすませた。それが終わると夜明けまでそう時間が無いってことで、準備をすませ早めの出発となった。そのおかげで今日の行程はすでに半分以上進んでいる。


「ダレンさん動かないでください。包帯が巻きにくい」


「おお、すまねぇ、しっかしケインの魔法はすげーな、傷の割に痛みがほとんどねーぞ」


「痛みがないからって適当にしてたら傷が悪くなりますよ」


 そりゃそうだ、傷に対しては自然治癒力を高めるしかできないけど、痛みに関しては完全になくすことだってできる。今のダレンさんの痛覚を見てみると。


< 痛覚 1 操作中 持続時間 19時間 >


 痛覚は極力下げてある。0にしないのは痛覚がないってのも色々危ないんじゃないかって考えてだのことだ。

 あ、5時間減ってる。そか出発からもう5時間もたったんだ。ちなみに傷が感染しないように、免疫力も少しだけ上げた。


< 免疫力 7 操作中 持続時間 20時間 >


 ちょっとしか上げてないのは、大きく上げて予想外な免疫疾患とか発症するのが怖いからだ。とは言えこの世界での感染症とか免疫疾患とかが俺の世界の理屈と一緒かどうかも分からないから気休めだけどね。

 ダレンさんの幽霊剣士に斬られた肩は、運よく腕の動きに影響がなかった。このまま清潔にして様子を見るだけでも自然治癒を高めてるから治るだろう。


「ケインの魔法、支援魔法とか補助魔法とかってのは、高度なわりに役割は裏方って感じなのに、まさか動けなくなるまで弱体化できるとか、びっくりしたぜ。おかげさんで命拾いしたし、賞金も手に入る。賞金は当然山分けだが、今晩は美味いもんを御馳走させてくれよ!」


 ドルトンさんが上機嫌で、袋詰めされた幽霊剣士の頭をポンポンしている。そうあの袋の中は人の頭だ。賞金首はその討伐の証拠として頭を切り取って証拠とするらしい。

 ドルトンさんは気楽に扱ってるが、正直俺はかなり気持ち悪い。今はまだ明るくなっただけマシだ。暗い中で首を切り取って袋詰めする様子は、しばらく忘れられそうにない。

 俺は手術室に配属されてたこともあるんだけど、人間から切り取られたパーツってなんであんなに不気味に見えるんだろうな。糖尿病で腐りかけた足、乳癌で切り取られた乳房。そんなのを何度も見てきたけど、切り離されたとたんに不気味に見える。

 ちなみに内臓だとなんとも思わない。腸が切り取られたって「ホルモンだー」って思う程度だ。まぁそれが仕事だからいちいち怯えてたりしたら話にならない。


 アマンダは武門の娘って感じでそんな様子を堂々と見ていた。だけど口数は減ってたから実は気持ち悪かったりするのかな。でも夜の戦闘とかノリノリだったし冒険者になる時、いろいろ覚悟を決めてたのかもしれないな。


 昼時となり携帯食を取るとなんだか眠くなってきた。俺が最初の見張りで、三番目のドルトンさんの時にあんなことがあったから一番寝てなかったのかも。へへ、寝てない自慢ができそうだ。

 町が近づいてきたのか馬車だけでなく街道を歩く人も増えている。ここまでくればもう危険はないだろう。俺がウトウトしていたらいつの間にか町の入口を通過していた。


「ありがとよ、これを……」


 御者がダレンさんへと紙を渡した。依頼完了の書類らしい。この後全員でギルドへ向かって報酬を受け取る。もちろん幽霊剣士の頭も届ける。俺はその前にダレンさんに頼みがあった。


「ダレンさん、その幽霊剣士の件ですが」


 俺はちょっと血の染みてきた袋を見る。


「おう、どうした、山分けは不満があるっつってもダメだぞ。パーティーでの討伐は山分けってのが決まりだ」


「いえ、そんなことは言いません。賞金はほしいですが、報告はダレンさんとドルトンさんの二人で討伐したってことにしてほしいんです」


「なんでだ? この首はかなりの評価が期待できるぞ? 俺たちだってもしかしたらBランクになれるかもしれねーんだ。みすみすチャンスを逃がすぞ? お前らだったら確実にCランクになれるだろうに」


「俺たち、ちょっと事情があって目立つことは避けたいんです。詳しくは言えませんけど」


「なんだ、訳ありか?」


「……そうです」


「……そうか、まぁそうだろうな、おまえらの力が普通じゃないってのは気付いてたさ。なぁドルトン」


「ああ、弱体化の魔法で剣も握れなくなるとか聞いたことがねーしな、アマンダのあんな踊るみたいな戦い方も見たことがねーよ」


「それを含めて秘密にしてほしいんですが……もし約束してくれるなら賞金は差し上げてもいいです」


 俺たちの最大の目標は王都から安全に離れることだからな。その妨げになる要素は少しでも減らしたい。

 俺の言葉に少し考える二人。アマンダも静かにその様子を見ている。


「ケイン、俺たちを見損なうなよ。賞金は当たり前の山分けだ。そしてお前らのことは誰にも言わない」


「面白い経験ができたうえに大金が手に入るんだ。それにお前らとまた一緒に護衛することだってあるかもしれないんだ、心配すんな。秘密はまもるぞ」


 ふぅ最初に思った通り本当に気のいい人たちでよかった。場合によってはスキルで記憶をなんとかできないかと考えてたけどその必要はなさそうだ。


「よかったね、ケイン、秘密にしてもらえて」


「アマンダも当事者だろ、なに他人事みたいに言ってんだよ」


「あ、そうだった」


「じゃぁ、ダレンさんドルトンさん、申し訳ありませんが、そういうことでよろしくお願いします」




-------------------------




 ギルドへの報告からダレンさんたちと俺たちは別行動となった。夕食の時間になったらギルドの正面にある酒場に集合する予定だ。俺とアマンダは早起きの疲れもあり、ウロウロせず近くの水路脇にあるベンチでのんびり過ごした。


「アマンダは平気?」


「何が?」


「夜のあれだよ、首を切り取るところ……見てどうもない?」


「どうもないわけないじゃない。すっごく怖かったよ、強い相手に対面したときの怖さとかじゃなくて、価値観の違いとか常識の違いから感じる怖さね」


「アマンダでもそんな風に感じるんだ」


「あ、酷い! 私だって5年前までは平和な日本の普通の高校生だったんだから、それにこっちに来てから王宮暮らしよ、あんなの見る機会なんてなかったわよ」


「同年代で自分より強い人はいなかったって言ってなかった? それって普通の高校生?」


「そんなのは別問題でしょ。もうわざと言ってる!」


「はは、ごめん……でも……すっごい光景だったね」


「そうね、誰かさんがよく見えるようにしてくれてたからね、細部までみえちゃった」


「はははは……それもごめん」


「冗談よ……私はあれを見て改めて覚悟したわよ。幽霊剣士の首が切られてるのを見て、常識の違いに恐ろしさも感じたけど、よく考えたらそうされるだけのことをしてるんだよね。何人もの護衛が切られててそれを悲しんだり恨んだりしてる人が居て、幽霊剣士が倒されるのを心待ちにしてる人もいるんだよね」


「そうだね」


「だから、あれは正解なんだと思う」


「正解?」


「そう、正解。正しい……じゃなくて正解。この世界での正解なんだよ」


「……そうか……この世界での正解か……うん、そうだな」


「受け入れましょ! この世界で生きていくんだから。少なくとも元の世界に還るまでは」


「ああ、受け入れよう」


「自分の手で命を奪う時が来て、それで自分が保てなくなったりしたら、その時は支えてね」


「ああ、その時は支えるし、俺がそんなときも頼むよ」


 こうして俺たちは、夜の出来事から気持ちを切り替え、この世界の常識を一つ学んだ。




--------------------------------




 今晩の宿を確保しころあいを見てギルド前の酒場へと向かう。ギルド前ということで冒険者風や傭兵風の者だらけだ。アマンダは変装の意味もあるので装備はそのままで槍だけは置いてきてる。もし追手が来た時に少しでも気付かれにくくするため、顔を隠せるシールド付きの兜は手放せない。

 ダレンさんとドルトンさんが少し遅れて来ると真っ先に報酬を渡してきた。


「遅れてすまねぇ! いやー英雄になった気分が味わえたぜ! 報告はすぐに終わったんだけどよ、その後詳細を教えろだのなんだの時間かかっちまった」


「時間かかっちまったって、お前が気持ちよく喋ってたからだろ!」


「ハッハッハ、そこは言うなよ」


 二人は上機嫌に酒をあおる。受け取った報酬はかなりの額だった。これならエルナトまで客車の定期便で移動しても余裕で余るだろう。とは言え客車で移動するより護衛任務で移動したほうが自然だってイメルダさんも言ってたからな。まぁそこは明日ギルドに行って依頼を見てから決めよう。

 しかし、ダレンさんとドルトンさんはよく飲むな。俺は酒がそんなに得意じゃないからダレルさんから注がれた酒をちびちびやってた。アマンダは酒が初めてだと言いながら美味しい! って言いつつすでに3杯は飲んだか。初めての酒だ、無茶な飲み方をしないように見張っておかなければ。とは言え楽しそうなのは何よりだ。5年も王宮だけで暮らしたんだ。きっとアマンダも俺と同じで、この世界を今まさに満喫してるんだろうな。


「おまちどうさまでーす、本日のお勧めメニュー、 <マウンテンラビットの丸焼き> でーす」


 ウエイトレスが次の料理を持ってきた。紹介された名前の通りウサギの丸焼きだ。いい匂いがしてるがウサギの姿がそのまんまなのは、なかなかインパクトがある。どうやら腹の中には野菜が詰め込まれてるようだが、その穴を下にして、まるで座っているように盛り付けられていた。


「お、美味そーじゃねーか。お勧めだけはあるな」


「いいねー、今日の賞金首討伐の祝いにバッチリじゃねーか!」


 ダレンさんとドルトンさんはその姿にテンションを上げている。

 まぁこういうのは元の世界でもあるな。

 アマンダの目もこの豪快料理に釘付けみたいだ。


「アマンダ、遠慮すんな! お前が最初に好きなところを食べな」


 ドルトンさんが切り分けようのナイフとフォークをアマンダに渡そうとした。


 バシィ!   カシャン


 ナイフとフォークが弾け飛ぶ。アマンダがドルトンさんの手を叩いたみたいだ。そのアマンダはウサギを見たままワナワナと震えている。何事かと周囲の目が集まる。


「嫌ァーーーー! うさちゃんがーーーーうさちゃんがーーーーー!」


「どうしたんだよ、アマンダ」


 突然叫びだすアマンダ、驚く俺、周囲も同じだ。手を叩かれたドルトンさんも呆気に取られている。


「なんて酷いことを!うさちゃん!うさちゃーーーーん!」


「え、アマンダ、そんなにウサギが好きだったの?」


「誰よ、誰がうさちゃんをこんな姿にしたの! 出てきなさいよ! 私が同じ目にあわせてやる!」


「アマンダ? 何言ってるの? ちょっと落ち着こうよ!」


 俺の声はアマンダに届かない、アマンダは丸焼きのウサギを胸に抱きかかえ号泣している。強く抱きしめすぎて、腹の中から野菜が絞り出される。周囲にその野菜が撒き散らされる。もうすっかり注目の的だ。俺たちの目立たないように行こうって計画はアマンダによって崩壊した。


「酔ってるな」


「ああ、完全に酔ってるな」


 逆に冷めちゃってるダレンさんとドルトンさん、あなたたちのせいですよ! 初めて酒飲むアマンダに面白がってどんどん飲ませただろ!


「ケイン、あとはなんとかしてくれよ。俺にはアマンダは止められそうにない」


 俺も無理だよ、どう考えてもアマンダの方が強い。


「ここは俺たちが払っとくから、な!」


「またいつか一緒に組もうな、だから早く宿へ連れて言ってやれ、な!」


 な! じゃない!


 結局俺は興奮状態のアマンダを筋力低下状態にして宿へと運んだ。


 結構大変で印象深い護衛任務だったのに、しみじみ別れを惜しむこともできず、残念な最後になってしまった。まぁ冒険者してればまた会うこともあるかな。その時にはアマンダに酒を飲ませ過ぎないように厳しく言おう。







 GW最後の投稿になります。書きためていたものを1話ずつ確認しつつ投稿しましたがこれで打ち止めです。予想より多くの人に見ていただけ本当にうれしく思っています。明日から仕事ですが、なるべく投稿頻度高めで頑張って行きたいと思っています。

 ここまで読んで面白いと思って頂けた方、続きが読みたいと思って頂けた方、私のモチベーションを助けると思って、ブックマークや評価を頂けたら嬉しいです。

どうかよろしくお願いします!


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