表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぶれいぶすとーりー!2 ~佐藤唯は勇者です~  作者: なつみん
4:清帝国編
38/40

9:清武祭 2

この度はぶれいぶすとーりー!2 ~佐藤唯は勇者です~ 9:清武祭 2を読んで頂きありがとうございます。

 清の野に武勇を競う祭典、転じて清武祭(せいぶさい)

 崖上から眺めて分かるが言いえて妙か、だだっ広い荒野が広がっていた。

 清武祭のためにか正方形の舞台がずらっと等間隔に敷き詰められていた…。


「…なるほど、清の野ですか…。確かにこれは壮観ですね」

「だろう?ここから酒飲んでわちゃわちゃしてるの眺めるのがくそ面白いんだよな…! くっくく……」

「…アリアさんなんか悪い楽しみ方してますね? でも確かに面白そうですね」


「そんで…、あっこ見えるか? あのぽつんと建ってるあれが清の皇帝の御所で、あっこから皇帝が清武祭を眺める事で清の最強であると皇帝から認可される…。まぁ~形式だわな?」

「へぇ~立派な建物ですね……? 装飾とかばぁーって派手ですね?」

「ユイさんよく見えますね……。距離がありすぎて僕には小指の先ぐらいにしか見えませんよ…」


 セイラは眉間にしわを寄せ目を凝らししばらくして、疲れますねと笑っていた。


「……まぁざっと1.5キロ弱……。お嬢にどう映ってるかは知らんが、よく見えてるのは事実だな…?」

「お前らの目がいいのは分かってる。参加するって息巻いて聞くのも変な話なんだか、開催日っていつなんだ?」

「明日だ」

「…それって参加大丈夫なんですか?」


「何とかなるだろう? 知らんけど?」

「……」



 開催日当日、なんとかなった。


 もちろん事前から参加者受付は行っていたらしいが、清武祭の起源は乱闘らしく、飛び入りで参加し相手を殴りまた飛び入りに殴られる。

 もちろん今は乱闘ではなくなり、予選は10数名が壇上に登り最後の一人が決勝に進み、決勝はリーグ式になっている。

 乱闘を起源に持ち、文化として予選にそのテイストを組み込み、大切に引き継いでいるらしい。


『レディースエーーーンッ! ジェットルメェーーン! 清武祭だぁ!! 盛り上がってるかぁ!!』


 そんな説明を受けている最中、銅鑼と共に実況席みたいなのが各所に現れた。


 お国柄地域柄に似合わないナレーションのお兄さんが、ハイテンションな巻き舌でオーディエンスを盛り上げるべく、マイクパフォーマンスを披露していた。


『ルールは簡単! 切った張ったなんでもアリ! 腕の一本や二本切り落としちまいな! ルール無用のデスマッチとぉ! 武器意外はなんでもアリの体魔術の部門ッ! 奮って参加待ってるぜぇ!』


『我こそは強者なりぃ! と勇乗り込んできた大馬鹿野郎共ォ! おのが武勇を清の野に示せぇ! ひぃーやぁあ!』


 会場が人の熱量で賑わっていくのが分かる。

 出場選手としてアップに励んで居る人、会場スタッフらしき裏方、土産物や買い食いなんかに興じて祭を楽しむ観光客。

 右を見ても左を見ても人ヒトひと……。


 それだけ多くの人が大なり小なり関わり()()()()大盛況だとそう思う。


 そう思った一方で、粛々と技術や強さを競う大会というよりは、経済を動かす祭としての価値や意味合いの方が高く、形骸化しているのではとそうも思っていた。



「ひゃぁ……、人が多いですね……」

「こうも人が多いと歩くだけでも大変ですね……。あまり人混みとか苦手じゃない僕でも辟易してしまいそうです……。ユイさんにはキツくないですか?大丈夫ですか?」

「匂いとか音が……、どうしても……。すびびっ……。もともと人が多い土地柄ですけど、さらにキツいですね……」


 人を感じる臭いやガヤガヤとした纏まりのない喧騒、過敏であろうと無かろうとどうも苦手に思ってしまう性分だ。


「将来は人がいない場所でのんびりして過ごしてみたいと、そう思います……」

「いいですね。お茶でも飲みながら、朝焼いたスコーンでも食べましょう。それから夜には何を食べるか相談する、なんてのもどうですか?」


「……お前ら若いのにジジババ臭いな……。んな事よりセイラ私とユイは体魔術の部門で出っからさ! お前はなんでもアリの方でも出ろよ?」

「ユイさんはともかくアリアさんも体魔術の部門で出場されるのですか?」

「気が変わった、んな事よりはよ行ってこい」

「分かってますよ。ではまた後程」


 唯が体魔術の部門に出場する事は事前に決まっていた。


 ざっくりとしたルールは一応事前にロウから説明を受けていた。

 武器使用の有り無しでクラス分けされていて、事前の話し合いで対武器に馴れる為に有りに出ようという話になっていた。


 実力も経験も、剣や槍といった武器も多様な対戦相手。

 対武器のこれ以上ない実戦訓練なのだが、大きな問題を抱えていた……。


 唯の技のすべては人間を壊すことに特化しすぎていた。

 上手く手加減してやればそれこそ強力無比な突きや蹴りで済むが、力が入らない病み上がりですら力加減を間違えて床板を踏み抜いてしまう程だ。


 強さも武器も多様で、相手の経験すら未知数。つまり弱い相手も居れば唯が力加減のしにくい武器もあるかもしれない。

 対戦相手と唯を守るためにも、殺しに発展する可能性はなるべく摘んだ方がいいと、そうアリアとロウが判断した。


 たとえばもし対戦相手全員がロウ程実力があれば、セイラ程器用なれば、それはそれで熱くハイレベルな戦いになるのだが……。


「わたしがもう少し武器に馴れていればよかったんですけどね……ははっ。はぁ~」

「冒険者なんてやってれば、武器持ったゴロツキに襲われる何てのは普通に経験するもんなんだかなぁ……。運が悪かった……、ん?良かったのか?」


 アリアが腕を組み、眉間に軽く皺を寄せむむっと唸っていた。


「人死にを出した事のないような大会じゃないし、ある程度は仕方ないで済むんだが……。まぁ、ヤッちまわねぇーのが一番丸く収まるわけだしな」


 武器を突き付け遭うのだから、多少は仕方ないとロウも言ってはいた。


 しかしだからと言って、殺してしまって良いわけでは決してない。

 さらに近年では、悪質な犯罪に清武祭を利用して、見せしめのように殺しが起こる事もあったらしい。


 そのため相応のペナルティーとして、不慮の事故で情状酌量の余地有りと判断された場合のみ、寛大にそれでも緩い刑罰がある。

 そして、皇帝の御前試合ともなるある種神聖な場を殺しに利用し、更に悪質と判断された場合は即極刑。


 そのようにこの大会は守られて来たらしい。


 もちろん唯が悪質に人を殺す理由もなければ動機も無い為、悪質と判断される事はないだろう。

 しかしそんな後味の悪い事をする意味がなく、殺しのリスクを被ってまでした経験にそこまでメリットもない。


「……んじゃ、俺は観戦させて貰うからここでな?頑張れよお嬢にアリア。セイラにも伝えといてくれ」

「まぁ、せいぜい盛り上げてやるから見ときな!」


 ヒラヒラと手を振って人の居ない方居ない方へとロビンは消えていった。

 たぶん目的地としてはアリアが教えてくれた崖上を目指しているのだろうが、人を避け遠回りするのだろう。


「千里眼の兄ちゃんも難儀な性というか……。嬢ちゃんら尖ってんなぁ……」



 大会は先にロウに教えて貰った通りにクラス分けされ、勝ち上がりの大会の様相だった。

 そして盛り上りを泊していた……、のは武器アリのデスマッチの方だった。


「わたし的には別に盛り上がってなくても盛り上がっててもどっちでもいいんですけどね……。こうも寂れた雰囲気になるものかとビックリしますね……」

「確かになぁ~。あたしは盛り上がってる方が気分上がってやる気も出るんだかなぁ……。あーあ、あたしもあっち出れば良かったかもな」

「もともとアリアさんは武器アリの方に出られるというお話だったでしょうに……」

「わたしは春さんがこっちに出る事に驚きました……」

「……。はぁ~……、呪いみたいなもんですよ……」

「ノロイ? 呪い? ですか? ……ん?」


 春の苛立った呟きは唯に向けられているようで、そうでもないような曖昧さに唯も少々困惑してしまう。

 思えば唯は、この少女の苛立ったどこか焦っているような不機嫌さ意外の表情というものを、見たことがなかったかもしれない。


「はぁ~……、始まりますよ。毎回こっちの方は人数が少ないらしいですから、トーナメントが貼り出されたら順次ぱっぱと試合して終わりになるらしいです。面倒なんで適当にやってしまいましょう……」

「あーあ……、なんだかなぁー……。やる気がなぁ~……」

「前座感が確かに否めませんね……」


 三者三様の反応を示すなか、トーナメントが貼り出される。

 大会の規模から見たらごく少数な30人居るか居ないか、確かに盛り上がりに欠けてしまうのも仕方ないのかもしれない。


「あっ、わたし初戦ですね……、行ってきます」

「あっそ、いてらー」

「……行きましたね……。私ずっと気になって言おうか言わまいか迷ってたんですが……、あの仮面なんでしょか……?」

「さぁー? 知らね?」


 唯は台上に駆けていく胸の高さ程に盛られた土の上に敷石がされ、近くで見ると意外と高さがある。


『清武祭の盛り上がらない方!始めていくぜぇ!!数少ないオーティエンスは……、そのーあれだ!手拍子でもして盛り上げてくれ!』


『前々前回? 忘れたぁ!! ぐれぇに優勝しているドラゴン・タナカ! ヴァーサス!! えぇ~なになに? 美少女戦士、謎の美少女仮面……? なんじゃこりゃ? の試合だっ!』


「「ぶっーっ!!」」


『お互い盛り上げていけよぉ! ……銅鑼! おーい銅鑼係!』


 試合開始の合図として少し遅れて銅鑼が鳴る。


「俺は、ドラゴン・タナカ! 俺様の蹴り主体の体魔術お嬢ちゃんに見きれるかなぁ!!」

「ムエタイ調の構えですねか……、ローキックに警戒って所でしょうか……!」


 唯の知識をベースにするなら、ムエタイには蹴り技の他にも肘や膝といった、人体でも硬く鋭利な部分を使った攻撃が多い。

 最も警戒すべきなのは唯の間合い外からチクチクとローキックで責められる事だろう。

 とかなんとか考えていたが試合展開はそうはならなかった……。


『ドラゴン・タナカ! 小刻みなステップから出るかお得意の高速連打ぁ!』


「ひぃやぁ! いくぞぉ! 龍・神・一・坤! ほわたぁ!」


『出るぞ必殺の一撃ィ! 謎の美少女仮面あまりの迫力か動けず仕舞い! これは一撃で試合が決っちまうかぁ!』


 長い手足をピシピシと動かし、格好いいポーズを決める。

 なんとももどかしい時間に、手を出して良いものか考えあぐねていた。


『出ぇたぁ! 龍神一坤! 小柄な謎の美少女仮面なら星の果てまでぶっとっじまうかもしれねぇ!』


「……え~……、せいっ!」


 ドラゴン某から見れば小柄な唯になら当たるとでも思ったのか、格好いいポーズから放たれたのは隙だらけな右ハイの背面回し蹴り。

 一回左手甲で防ぐことも考えはしたが、あまりにも大きい隙につい足が出てしまった。


『なっ! まさかまさかの勝者美少女仮面ッ! これはビックリ場外にぶっ飛んじまったのはドラゴン・タナカの方だッ!』


 体を足の下を潜らせる様に捻り、ドラゴン某の右足その更に外から右肩を右足で蹴り飛ばした。

 音と感触から肩が外れ顎に痛みがはしる位の軽少と思われ、力の抜けた良い蹴りだったと唯は自負していた。

 それでも肩を嵌めてもしばらくは痛みでろくに右手は挙がらないだろうが……。


 しかし躰道は直接師事した事は無かった為に、綺麗に決まった事には素直に驚いた。


「ふぅ……。わーっ……、勝ちましたー」


『おっ、おう!? まさかのブラックホースに会場がどよめいちまってるがっ! 次の試合だっ!』


「……っと。ふぅ~……」

「お疲れ~。なんか不満そうだな? どした?」

「……ん~……」


 色々思うところがないとは言わない。

 身近で言えばアリアやセイラ、アーサーのように身体能力が高く更に技も持った人間はごくこぐ一部である。

 ロビンやライトニングは身体能力は高くないが、突出した技を持っている。

そういった人間はごくごく一部なのだと、改めて知る機会になった。


「……まぁ、こんなものなのかな? でしょうか? 向こうと比べて盛り上がらないのも頷けるといか……」

「体魔術って分野そのものが比較的浅いんだよな……。第一人者何て呼ばれるよな強い奴も居ないし、冒険者ってなるとまずみんな剣を持つ。魔術が使えれば杖を持つ。酔狂な奴か、剣も槍も魔術も何にも上手く使えない奴がなあなあで体魔術やってたりとかな?」


 もし何でもアリの方に出ても、上手く行っても優勝どころか良いところにすら登れないからハードルの低いこっちに出ている。

 といったところか……。


「でもアリアさんはドラ……、ドラ……。ドラ某より明らかに出来ますよね?」

「あたしは実益を兼ねた趣味だ。昔から何でもある程度出来たし、体を動かすのも嫌いじゃなかった。だから昔地龍という体術の道場に居た事があった」

「そうですか……」


 魔物が居て魔術があって、冒険者とくれば腕っぷしに多少の自信があって。


 剣や槍、魔術に比べこの世界では、実用性や魔物に対しての殺傷性が低いと思われているのかもしれない……。


「もったいないとわたしは思います」

「そうですか? 私にはカッコつけの無駄としか映らないですね……。あなたも含め」


 春は基本的誰に対してもあまり柔らかい態度で接する事は少ないが、しかして当たりがキツイ訳ではない。

 生真面目故に融通が利かない所もあるが、みんなそういう春にお世話になっているから、その事でいさかいが起こっているのは見たことがない。


 しかし唯に対しては、初日からかなりキツイ態度を崩さなかった。

 そして今、明らかに刺を持って唯に怒りのようなものをぶつけていた。


 さっきの試合で思うところがあり微妙に虫の居所も悪く、唯もついまくし立てるように言い返してしまう。


「……じゃあなぜ春さんがこっちに出ているんですか? お好きなら刀を振って向こうに出れば良かったんじゃないですか? 前から言おうか迷ってましたが、わたしは春さんに何かしましたか……っ?」

「……呪いみたいなものです」

「……またそればっか……! それで何を分かれと言うんですか……!」

「次は私ですね……」


 そう言って春は唯の二の句を無視して、壇上に登っていった。


「……わたしが何したって言うんですか……」

「お前なんかしたの?」

「初日からずっとこうでしたし、わたしは春さんに避けられてたので何もしようがないです……!……っふぅ!」


 それもそだなと適当な相槌だけして、そこから会話なくアリアと唯は春の試合を見ていた。


『スマートとは離れた肉体だが、重量級から放たれるプレスは一堪りもねぇ! スマートキングVSッ! 刀鍛冶ロウさんの一番弟子っ! 因幡春! 今大会で最も重量、身長差のあるマッチッ! どうなるか見物だぁ!』


『お互いに盛り上げていけよぉ!』


 今度はちゃんと銅鑼が鳴り、重く響く音と共にスマート某がプロレスラーかヒグマ位しか取らないような構えで、じりじりと春に詰めていった。

 対して春はスタスタと普通に歩いて距離を詰めていった。


 スタートでお互いの距離がそこまで離れている訳ではないので、すぐに2人の間合いに入る。


『スマートキングの掴み攻撃ぃ! ひと堪りもないそこれはっ! ……んっ?』


「んがぁ!!」


『スマートキングが手を離して悶えているそっ! どういうことだっ!?』


 春は自身の胴程ありそうなスマートキングの太い腕を、小さな手で握り潰すように掴んでいた


『なっ! おっ、あっあっあーーー!』


 春は掴んだ腕を起点に回すように振り上げ、頭の上に持っていった。


『あのスマートキングが少女に軽々持ち上げられているっ……!? 何が起こっているんだ? 理解がおっつかねぇな!?』


 そのまま場外にポイっと捨て勝利した。


「……軽いんですよ……、あなた達は……」


『大波乱が起きているっ! 美少女仮面に続き二回戦出場はまたもや女っ! ほんとどうなってんだ? そんで次!』


「あれは……合気道? ……いや、薙刀とかに近い……、部屋に飾ってあった長刀……。なるほど……」

「あたしも薙刀は確かに近いもん感じたな……。にしても……、いややっぱりよくよく考えなくても、あの筋力がこんなのに詰まってる因幡ってのはチートだな」


 親指と人差し指で摘まむようにしてアリアが誇張していた。


 薙刀の振り方は腕の力で振るのではなく、大きく円や弧を描く様に振るものだと聞いたことがある。


「面白いですね……。いいじゃないですか」



 その後は2試合後にアリアが戦い順当に勝っていき、本当につつがなく、つつがなく試合は流れていった。


 唯や春の一発KOやアリアの壇上でのパフォーマンス込々の華のある戦いがきっかけとなり、徐々に観客がこちらにも流れてきた。


 そして唯とアリアが対戦が始まる。


「やぁ~……、はははっ……どうもどうも」

「おう! 見とけよ? 派手にやるぞ!」


 観客に見られやや腰が低い唯と、魅せる戦いは舞台に登る前からと言わんがばかりに派手な登壇をするアリア。


「この大会一番の見せ場かもしれないですね……! なんだか見てる僕の方が緊張してきました……」

「あら……? セイラさんはどうしてここに……? ……それに師匠も。まさか負けて……?」

「そう露骨に嫌そうな顔しなさんな。まぁ、予選が終わったから出揃うまでこっちにな。もちろん俺たちは決勝に残ってる」


 予選は数名の選手が登壇し、残った一名が決勝リーグに残るという方式を取られていた。


 その場かぎりの徒党を組んだり、漁夫を狙ったり、模擬戦争といった具合で、セイラにとってなかなか経験しえない貴重な体験になった。


「……いやぁ、うん。あぁいうのも意外と楽しいもんですね。今まで僕に稽古をつけてくれるのもアリアさんだけだったので、知らない事を知る機会になりました。……本当に清に来て良かったです」

「さよか……。んで剣の方は馴れたか?」


「やっぱり重いですね……。何か掴めそうなそういう感覚はありますが」

「……若いからか? 飲み込みの早さが凄いな……」


 そんな話をしている最中に銅鑼が成り試合が始まった。



 今まで2戦、唯は一撃で場外。

 対照的にアリアは、長い手足を大きくそしてゆっくり動かし、華のある演武のような戦いをあえてしていた。


 唯との戦いに向け会場から整えできたといったどころか。

 そして実際それは唯が腰を低く登壇する理由でもあった。


『これまで一撃の下に数々の猛者を沈めてきた剛力の仮面女子! そして! 今大会屈指の美形にして、柔らかい立ち回りで大会に華を添えた、パーフェクトヒロイン! アリア・リーベルト!』


『柔と剛! アリアが剛拳に沈むのか! はたまた、仮面を優しく剥ぐのかぁ! 見てみてよなぁ! オーディエンス!

  だって、美少女仮面だぜ? ちったぁそっとじゃあ納得しねよなぁ!?』


 プロレスのヒールとベビーフェイスとまではいかないが、観客はアリアに傾倒している事がよく分かるマイクパフォーマンスだった。


「唯さんはめっちゃかわいいに決まってるじゃないですか!」

「そこか?」


「わたしが試合を終える度にさっと消えてる間にこんなことになってたんですね?」

「にひひ! 実力でやり合ったら十中八九あたしが負ける。それじゃあつまらないからな。多少はやりづらさを感じて貰うさ!」


 してやられたとは思わない。

 怪物狩りには入念な準備が必要なのは、唯も大怪我を死にかけて、文字通り痛い程理解した。


「受けて立ちます」


 試合の流れは今までのような一方的な展開や、派手さのあるものにはならなかった。

 アリアの派手な試合に期待があっただけに、会場は多少のざわつきがあった。


 しかし、彼女らの実直で淀みがなく、一挙手一投足全てに意味がある戦いに、この世界に今まではなかった新しい価値観を産んでいた。


 魔術に頼るでもなく、かといって使わないわけでもなく。

 それは剣や槍に劣るマイナーな戦い方とされてきた武術が、体魔術として新しく産まれた瞬間だった。


『なっ……あっ、なっ! ちくしょう! 何が起こっているか理解して解説する前に次の新しい事が産まれていて! だっぁ!! くそっ、なんかすげぇ事が起きてるのは間違いねぇ! 死んでも目に焼き付けろ!』


 先程まで選手の特徴や技までも、丁寧に解説していたお兄さんも全く口を挟めないほどだった。



震脚(しんきゃく)ですね……? 地面を蹴る力を全部攻撃や防御に使える……! いい技です……っぃ!」

「そりゃっ! どうもっ!」


 防御では攻撃は地面に流し、攻撃では地面を蹴る力を余すことなく伝える技。

 事実純粋に力比べだけをしたなら、唯には絶対にアリアは勝てない。

 その唯に力負けしていないのだから、それはかなり強力な武器だ。


「守りの剣だって言っていましたが、この場にないのが悔やまれますね!」

「あっ? もう勝った気かよっ! っあぶね!」

「そうじゃないですがっ……! ドラゴンに使ったあれは剣があればこそでしょう」


「……その通りだ……っ!」


 唯の看破に少しアリアの攻めが雑になり、その隙を逃すほど甘くはない。


風流(かぜながせ)風拳(ふうけん)・裏!」


 派手で大味な上段から中段にかけての三段蹴りを左腕一本で受けきり、最終段をそのまま脇から後ろへ反らした。

 そのまま一歩踏み込み、体勢が唯の後ろへ流れるアリアの胴に右の裏拳を叩き込む。


「なっ……、あぶねっ……!」


 体勢を崩されながら、唯の容赦ない攻防一体の反撃にアリアは反応していた。


 裏拳に対して右腕をクッションとして咬ませ、自身は崩された体勢に逆らわずに更に低い体勢になることで、ダメージをほとんど抑えていた。

 地面を擦りながら、間左腕で強引に唯の方向へ向き直った。


 すると唯は深く沈み込み左足を放り出したような、全く新しい構えを取った。

 特に右の爪先にひどく重心がかかり、右膝は太ももとふくらはぎがくっつきそうなほど曲がっていた。


(……あたしのリーチの方が長い……、いける!)


 その構えを見た瞬間、アリアはいけると判断した。

 クラウチングスタートのような低い体勢から、その健脚で地を蹴り本気の加速を得た。


「しゅ……! 地龍一閃」


 技名通り地面を龍が走る様な突撃。

 そこから凄まじい速さの一蹴は、長い足が鞭のようにしなり先端は更に速く鋭い。


「がっ……!」


「空気椅子……。見せたこともなければ、今思い付いた不意打ちみたいな技です」


 唯の構そのものがブラフだった。


 右足には大した重心はかけておらず、びっちりと地に足ついた左足と、風を操り空気の塊座るように体を預けていた。


 一見でないと判断したアリアにとって、右足からの一撃は、重かった。


 唯の瞬発力はアリアの地龍一閃でも同等かそれ以上で、狭いステージとはいえ機動力勝負では圧倒的に負けてしまう。

 そのアドバンテージを捨てた構えに、アリアは急いてしまったのかもしれない。


「……」


 会場には沈黙が流れていた。

 一切ピクリとも動かないアリアと、見下ろすように見つめる唯の硬直に、生唾を呑むことさえ躊躇われるそんな雰囲気だった。


「……痛ってぇ……」


「……わたしも大概ですが、タフですね……」


 さすがの唯でも冷や汗が流れた。


 今の一撃は、アリアの巧妙な受けに上手く攻めが通らなかった唯が、焦れた結果の不意打ちだった。


 不意打ち更に手加減も出来なかった。

 顎から頭蓋骨にかけて粉々になってもおかしくなかい、そんな殺人的な威力だった。


「あぁっ~……、くっそ痛ってぇ……、あたしじゃなけりゃ死んでるな。実際顎は粉々だったし、首も折れてた」


 そう言いながら何事なかったように首を鳴らすアリアに、更に恐々とした。


「……それって死んだってことですか?」

「ばーか、生きてんだろうが。即死意外なら死なねぇよ。何せあたしは神に愛されてんだよ……へっ」


 アリアのギフト“寵愛”の、真に恐ろしい能力を垣間見た気がした。

 なるほどただただ便利なギフトと勝手に思っていたが、()()()()んではなく、()()()()のだ。


「第2ラウンドだ……! 消耗戦といこうか?」

「いえ……、残念ながらそうはなりませんよ? 場外です」

「……なっ!」


 壇上からでは物理的にどうしたって見下ろす形になるのだ。


『なっ、確かにぃ! 残念ながら今回も仮面の下は覗かせなかったっ! 美少女仮面の勝利ッ! バチバチの熱い戦いに手に汗握っちまったが、はいっ! 次ィ!』


 もし場外やルールなしでやり合ったらなら、アリアの無尽蔵の魔力は即死意外ならすぐに治してしまう。


「うぅっ……、考えただけで寒気がしますね……」


あとがきです、なつみんです。

前回のあとがきかどこかに、清武祭はあと1,2回の更新で終わり、次の章に入ります。とかなんと書いたような書かなかったような……。

ぶっちゃけ無理です!

本当は唯とセイラそれぞれの戦いとして、2回と思っていたんですが、今回が長すぎた……!

なので、次回VS春さん、次次回セイラ予選乱闘とVSロウ、最後にVS次の章に絡んでくる青年。

こんな感じでいこうと思います。

はい、次回予告でした。

半年以内更新を目標にアデュー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ