if 2002年
10/19 更新
完結したのに投稿してもいいのだろうか。
「PTSD……と、私は判断します」
「それは――多重人格、という症状ですか?」
「ええ、それもあります。人間は強い衝撃を受けるとそれを緩和させるため、人間の機能が一時的に麻痺を起こし、一時的に現状に適応させようとします。そのため事件前後の記憶を失ったり、記憶の捏造――といったものを人間は無意識に行なってしまいます」
「陽子は……いや、お嬢様今……」
「はい。陽子様にとって、鷲様が亡くなった事実がとても大きかったのでしょう。ですからあのように男言葉を使って真実を補っている――と考えます」
「鷲様がいない世界など、想像できないのかもしれませんね」と医者は付け加えて言った。
坂城由衣人。2002年時で17歳。
彼は浅倉家の執事――付き人である。体格は、そう大柄ではということでもないが、それでいてがっしりと鍛えた、一八〇センチという身長を所持している男だ。
坂城家は代々浅倉家の使用人を務めてきた。
それはもう、ざっと五百年間は続く大きな系譜だ。そして、由衣人は次期十七代目浅倉家当主、浅倉陽子の付き人である。
坂城家と浅倉家は五百年前からお互いの子を許嫁――として婚姻させてきた。
浅倉家の当主は代々女性。
坂城家の当主は代々男性。
当主同士が婚姻し、子を生み、その子が女ならば浅倉家が育て、男ならば坂城家が養子とし、生まれた男の子を浅倉の付き人として教育し、奉公させる。
わかりやすく言うと、浅倉陽子の兄である由衣人が陽子の付き人となるわけだ。
これは浅倉と坂城の秘密であり、当主になるまで秘密である。
また、坂城家の当主は望月家の女と契、能力の優れた男の子を坂城の当主としてきた。
望月家も浅倉、坂城と並ぶ由緒ある家系だ。
「治る見込みは――」
「その必要はいらん」
由衣人は驚き振り向く――と同時に圧倒的な体術によって組み倒され、腕や脚からは《ゴギュ》という鈍い音が響く。
「……痛っ!!」
由衣人を倒したのは坂城家当主、坂城総二郎。
「うむ。何も問題はない」
隣には浅倉家当主、浅倉陽央美が控え。
「私たちの代で完成とは……僥倖、と言えるでしょう」
二人から少し後ろに離れて望月家当主、望月鷲之介がいる。
「当主様方! 一体それはどういうことですか!!」
由衣人は床に叩きつけられながらも叫んだ。
「五月蝿い、下郎が。命令だ……口を開くな」
「……!!」
暗示。
浅倉家の暗示はとても強く、ただならぬ命令力を持つ。並大抵の人間なら、思考が停止するほどの威力だ。
「当主候補が死んだ事は現当主にとって悲しいことですが……まぁこの結果なら良しとしましょう。さて――先生、陽子ちゃんにもう治療は必要ありません」
「あ、あ……あ」
「ですから、あなたももう、必要ありません」
医者はもはや何も言うことはできない。由衣人もただただ身動きが取れず、口も開かず、見ていることしかできない。
「それでは御退場願います」
「「………………!!」
それを阻止することも「やめろ」とも言うことができずにそれは行われた。
望月家の当主が指を振るっただけ。
ただそれだけで医者の首から上は血が吹き荒れることとなった。
誰かのため息一つ。そして携帯電話を押す音。
「私だ。今から指定する。そこを場所を焼き払え。……ああ、建物が崩れるぐらい大きな火事にしてやれ」
中年の軽い声。
「陽子は今どこにいる」
貫禄のある野太い声。
「浅倉の屋敷だ。今は幽閉しているところだが……直に外に出せるだろう」
女にしては低い声。坂城の当主は頷いただけだった。
「…………由衣人、お前は坂城の人間となった。勝手な行動は許さん」
「……はい、当主様」
ドン!
文字にするとこんな感じの衝撃が彼の体を襲う。
蹴られた体が家具を壊しながら数メートル飛び、壁にぶつかる。衝撃で壁は砕けた。彼の体は呼吸を欲しがり、喘ぐ。
「証拠隠滅の為、これからここを燃やす。私たちはもう出るが、由衣人、お前も後から脱出しろ。出来なければ死ね。坂城の家に役立たずはいらん」
「浅倉を守れぬ者に付き人は必要ないからな」
クツクツと笑いながら三人は去っていった。
そうして坂城由衣人は自身の無力さを嘆き、騒がしい音を聞きながら意識を手放した。
2002年
誰かの過去話です。
あくまでもifですのでさらっと読まれることをおすすめします。




