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if 2000年

12/10 更新

12/10 誤字修正

「お母様、暗いです。何も見えないです。怖いです。ここから出してください」


「何を言っておる、蔵に鍵はかけておらぬと言っておろうが」


「そんなのはおかしいです! ではどうして――」


  少女の叫び声。それを相手にする大人はその子供の母親だ。


「ええい、開かぬなら無理やり開ければいいであろう? 何を簡単なことを――」


「無理です。陽子には開けられません!」


 そう少女が言った直後、頬に鋭い痛みが走った。


「痛い、痛いですお母様……、どうして……」


 今、浅倉家次期当主である浅倉陽子は屋敷にある蔵に閉じ込められている。浅倉陽央美には理由は簡単な話で、陽子にはわからない。


 そして、蔵に閉じ込められている自分がどうして外(・)に(・)い(・)る(・)母親に平手で頬を叩かれたのかもわからない。


「何故わからぬッ……!」


「え?」


「何故、何故あのような子と戯れる! そなたは浅倉の当主、浅倉陽子であるぞ!!」


「…………はい」


「何故だ……答えろ」


 短く、小さく問いかける声はもはや癇癪を起こした子供と何ら変わらない。けれど自身の子の親として、なにより浅倉の当主であることが彼女をそこに踏みとどめていた。


「……苦し……いです、お母様……。首が――」


「当主様、おやめくださ――」


 女中の引き止める声は、途中で色を無くした。


 代わりにここ、地下の蔵周りに死体が一つ出来ただけである。


「早く答えぬか、陽子!!」


 陽央美の声が空間に滲む。怒鳴り散らした声は威圧となって死体を壁に叩きつけるほどだ。


「…………楽しいからです」


 ジャリ。


 途端、陽子の声とともに陽央美の後ろで何かが動いた。


「陽海ちゃんと遊ぶのが楽しいからです、いけませんか?」


 陽子が言い切ると、事切れた肉体が獣のような動きで春央美に詰め寄る。それに対し陽央美は。


「ふん、呑気に遊び、それで自己を高められば良しとしよう。だが……そなたは完全にできなければならない! なぜならこの私の後継者だからだ!!」


 彼女、浅倉陽央美は歴代浅倉の中で最強。彼女の操る能力、世間一般で呼ばれる超能力は伊達ではなく、振り返りも一歩たりとも動かない。


 風か、空気かわからない。もしかしたらもっと別の何かかもしれない。向かってきた死体を、陽央美は吹き飛ばし、そして文字通り叩き潰した。


「さて、駒がなくなったところで問おう。何故、何の能力も力もない小娘と遊ぶ? そなたは頭がいい。気分転換もあるやもしれん。だが、言っておこう、それは間違いだ。そなたは次期当主だ。浅倉は常に威厳を持ち、上の位置にいなくてはならない。わかっているか?」


「……わかり、ました」


 我が子の反応に満足したか、陽央美はにこやかに笑う。


「よろしい、では――」


「しかし」


「うん?」


「陽子は負けません」


 一言。


「…………今、なんと?」


「陽子は、私は負けません」


 この一言で陽央美の頭には赤く燃え盛る怒りの業火が灯った。怒りは徐々に現実世界に実体化し、その勢いを増す。


「母に逆らうのか、陽子」


「……はい」


「そんなに、あの出来損ないといたいと?」


「出来損ないなんかではありません、私の友達です」


 陽央美は思う。何故理解してくれないのかと。しかし決まり事を破るわけにはいかない。陽央美のこの気持ちはどこにぶつけることも叶わず、空っぽな場所へゆく。


 浅倉、坂城には決まりがある。兄弟、姉妹は揃って当主候補には教えない。由衣人が陽子の兄であるように陽(・)海(・)が(・)陽(・)子(・)の(・)妹(・)で(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)を。


 当主は一人だけ。


 受け継がれた優秀な才能がある女子に後を継がせる習慣のある浅倉家で、女子二人というのは非常に稀な存在であった。


 事実、陽央美には姉も妹もいず、弟が一人いただけ。そしてさらにやるべきことがある。女子が二人以上生まれ、当主にならなかった女子は望月に出されるか……もしくは。


「殺すことになるぞ、その友達とやらを」


「……守り抜きます」


「出来るのか? そなたに」


「……出来ます」


 浅倉家当主、浅倉陽央美は、人がいないことを嬉しく思った。


 当主である自分が泣くなど許されることではないからだ。



if 2000年

なんやかんや言いたいのに言えない時ってありますよね。

ifなのでちょろんと読むことをおすすめします。

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