応援の力って本当にすごいですわね!
左腕と右足をツルに巻き付かれながら、オーガの女の子は恐怖に確かな絶望に混じった表情をこちらに向けた。そして彼女は叫ぶのだ。助けてと。
それはそう。俺もそうする。この魔物を倒してくれなどという贅沢は言わない。そっちから何らかのアクションを起こして頂いて、とんずらこけるかもしれないきっかけを生むチャンスを下さいと。そのくらいは要求をしていきたい状況ではある。願わくば即刻無償で。
襲い掛かる植物系の魔物は、いよいよフィニッシュと言わんばかりに、女の子を丸呑みにしようと、最上部にある口を大きく開いた。
「いやああぁぁっ!!」
オーガの女の子は、悲痛な叫び声を上げる。体を拗じられるように締め付けられ、自由が利かない。俺の方に向けた顔は涙やら何やらでグシャグシャだ。
これが、サキュバスやハーピィ、エルフの女の子ならば、この身を犠牲にして助けに行くのに。オーガはまあ、ちょっとね。
とか、そういう話ではない。
もうひと押し。もうひと押しかもしれない。
俺が両手を口に当てる。
「絶対に諦めるな!俺がついてる!心に炎を灯せ!!命ある限り、足掻き続けろ!君は汚れなきオーガの子!その筋肉に熱き魂を宿すんだ!!」
俺の力いっぱいの応援がまた森中に響き渡る。
その時だった。
少し離れた位置からでも分かるくらい、女の子の肉体は瞬発的な力強さを宿したのだ。
体に巻き付いたツルを押し返す程に、腕や太ももの筋肉がみるみる発達。魔族特有のオーラ。闘気をその身に宿し始めた。
「ウオオオォォォ⋯⋯」
そのオーラが、魔族としてのプライドが。恐怖を押し退ける。
「グググ⋯⋯」
恐らくは、本能しかないであろう、ツルをうねうねさせた魔物が攻撃を思わず躊躇してしまった。今、繰り出せばまだ勝機があった丸呑み攻撃を止めてしまい、反撃を許す隙が生まれた。
これは、覚醒と呼んでしまっても、差し支えないだろう。まるで魔王の息子からにでも、計り知れないパワーを分け与えられたような。そんな変わりようだった。
「うおりゃああぁー!!」
その雄叫びは成人したオーガの戦士にも引けを取らない。粗悪な鉄を粗悪な木柄に、粗悪な麦紐でくくっただけの粗悪な斧。しかし、持ち主の闘争心とその少女らしからぬ肉体に加え、怯えた魔物にクリティカルヒットを決める幸運が重なれば勝負は一瞬だった。
オーガの少女が繰り出した小斧の一撃。体をいっぱいに回しながら斧を持った腕も振り回す。体重と遠心力が十分に乗った攻撃は、だらんとして無防備な魔物の口腔部分に直撃。
魔物はツルや幹をシナシナとさせながら後ろ向きに倒れ、煙になり砂になり地面と同化するようにその姿をこの世から消したのだった。
それを見て、すぐ側の地面にへたり込む少女。そうなってからようやく、俺は彼女の元へ駆けよった。
「キミ、すごいじゃないの。あれは会心の一撃というやつだね」
「さっきのおにいちゃん⋯⋯」
過ぎ去った恐怖からの安堵と今持ちうる力以上のものが出た反動。それのせいで、いわゆる女の子座りのまま、火照ったような顔を少しだけこちらに向けるのが精一杯という様子だった。
「おにいちゃんのがんばれってこえをきいたら、からだのなかからちからがでてきたの。お腹とかが、ボコボコって。にんにくをたくさんたべたときみたいに⋯⋯」
「少女らしかぬ、くせー例えだな。もっと何かなかったのかね」
旅の少女。
というわけではなさそうだ。綿と麻が半々ずつで編み込まれたシャツと短パン。染色がされていないねずみ色の安物。それの襟や裾がヨレるまで着込まれている。その上から、何の動物や魔物の物が分からない薄いなめし革に、これも結った麦紐で胸元をくくっている。
それと先ほどのトリプル粗悪素材の小斧。後は、小さな背負い袋を所持しているだけ。中身は何も入っていない。若干の立派なオーガ臭がするだけ。この年齢の少女にして、ガッ!っと来る感じ。少々マニア向けではある。
それらから推理するに、食べ物か薬でも探しに森へ入ろうとしたところを魔物に襲われてしまった。そんなところだろう。しかも、オーガの少女。同年代の他魔族と比べると、体は重たい筋肉で覆われている。住処から、そんなに遠くへは1人で行けないだろう。




