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カルラディアの空から  作者: 天音 樹
第二章 未来からの来訪者
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第二十七話:盗賊との遭遇

パイオニア11号の料理が、皆の胃袋を満たし、今後の不安材料が一つ取り除かれた頃、

長瀬は空を見上げながら話し始めた。


「……さて。そろそろ本題の話をしておくか」


ニューホライズンズが首を傾げる。


(本題?)


「君たちを捕捉した時、上空に“異常な因果”が発生していた。

 ブラックホールの余波だ。

 つまり――」


長瀬はツィーラ達を見回した。


「君たち二人は、この世界にとって“異物”だ。

 私の知っている二つの探査機はヘリオポーズを越えていない。

 “超空洞に発生したブラックホール”からダイブした君達とは、位置座標が決定的に違う。

 まず聞いておきたい。君たちは何処のブラックホールから来た?」


長瀬からの問いに、表情は見えないが困ったような声でニューホライズンズとパイオニア11号は答えた。


(うーん……そういわれても、はっきりとした座標は示せないなぁ)


(そうさねぇ、色々計器も故障していたし、何年……何百年もスリープ航行していた時もある)


二人の回答に、長瀬は深く頷きながら自分の考えを口にした。


「やはり……か。

 恐らくは存在した時間軸そのものが、私の知っている情報と違う。

 結論から言うと、君達は私の知る探査機の未来だ。

 しかし……この世界の何かが、時空をも超えて君たちを呼んだ」


パイオニア11号が静かに言った。


(呼ばれた……ねぇ。誰にだろうね)


ニューホライズンズが笑う。


(まぁ、面白そうだし、いいんじゃね?)


ツィーラは胸に手を当てた。


「……あなた達が来てくれて、私は嬉しいです」


パイオニア11号は、ふっと微笑んだ。


(あんた、いい子だねぇ)


ツィーラの言葉は的確だった。

この部隊はたしかに仲間を求めていた。

しかし、この二人は、ただの仲間ではない。

普通の人間ではなく、ツィーラたち精神生命体の仲間だ。

その存在は、この上ない頼もしい仲間の誕生であり、かつ実利面でも潤いをもたらす必須的な存在でもあった。


平和な雰囲気で長瀬達、精神生命体の会合が行われていた。

その時――。


草原の向こうから、馬の蹄の音が響いた。


ツィーラの兄であり、プリムスの寄生主でもあるアルドが剣に手をかける。


「……来たか。盗賊か?」


長瀬は目を細めた。

直感が告げる。


「いや……これは偶然じゃない。

 “因果”が動いている」


慌ただしくなりつつある状況を察して

ニューホライズンズが嬉しそうに拳を握る。


(お、戦いか? 面白そうじゃん!)


パイオニア11号はため息をつく。


(あんたはすぐそうやって騒ぐ……)


ツィーラは深呼吸して号令を発した。


「みんな、構えて!」


この日――

ツィーラ陣営と“未来からの来訪者”は、

初めての共同戦線を迎えることになった。



私達が暗闇を観る時、暗闇もまた私達を視ている。

ホライズン達二人を呼んだ因果と、二人を異物として排除しようとする因果がせめぎ合っていた。



朝の空気が澄み渡る草原に、

ドドドドド……!

と、重い蹄の音が響いた。


アルドが剣を抜く。


「来たな……!」


ツィーラの弟ノヴァが弓を構え、妹のホラは背中の短剣を握りしめる。

ツィーラは二人を守る様に正面に立ち、魔力を巡らせた。


長瀬は冷静に状況を分析する。


ツィーラを本陣として、数人の兵を携えたアルドがやや右前方で構える。

残りの左後方に、同じく数人の弓兵とアルフレッド。

部隊がそれなりの人数がいれば斜線陣といった陣形に近い。

ただ、残念ながら兵士10名とツィーラ、アルド、アルフレッドだけでは陣形としての機能は発揮できない。

少し距離を取った密集陣形といった感じだ。


せめて、もう一翼。

左翼前衛を埋められれば双翼で迎え撃てるのだが……


「敵数は……十数名。

 装備は軽装、馬の質からして――盗賊だ」


上空から長瀬が敵方の情報を読み取り警告を促す。

その声に反応して、ニューホライズンズは拳を握った。


(よっしゃ! 初戦闘だな!)


パイオニア11号がため息をつく。


(あんたはすぐそうやって騒ぐ……

 戦いより朝ごはんの片付けを手伝いな)


(いや今それどころじゃねぇだろ!)


漫才を繰り広げる二人の影をよそに、草原の向こうから、

粗末な革鎧を着た盗賊たちが馬に乗って現れた。


「おいおい……なんだぁ? 旅人にしては人数が多いなぁ?」


「女がいるじゃねぇか。運がいいぜ、今日は」


下卑た笑い声が響く。


アルドが一歩前に出た。


「ここは通さない。引き返せ」


盗賊のリーダーらしき男が鼻で笑った。


「はぁ? たった数人で俺たちを止めるつもりか?」


その瞬間――。


(なぁ、殺っちゃっていいのか?)


(そうさねぇ。生かしておいても害しかなさそうだしね)


盗賊たちは固まった。


「……今、空から声が聞こえなかったか?」


「お、おい……なんだあれ……!」


二つの影――ニューホライズンズとパイオニア11号が、

盗賊たちの頭上をふわふわ漂っていた。


(なぇ姉貴、あいつら悪い奴だよな?)


(そうさねぇ悪い奴だね。顔が悪い、だから頭も悪いさね)


(なんでも顔で判断すんなよ!)


盗賊たちは混乱した。


「な、なんだこの化け物は!!」


(しめた!二人が動揺を引き出してくれた!!

 そうか、こういう運用もありなのか)


奇しくも、新たに仲間に加わったホライズンと11号の漫才コンビが遊撃となって陽動になった。

すぐに長瀬が指示を飛ばす。


「ツィーラ、左翼前衛に出ろ!

 ノヴァ、その位置から射撃!

 ホラはノヴァと共に動くな。

 アルドは右翼から!

 エルドレットは後方射撃と警戒支援!」


矢継ぎ早に飛ぶ長瀬の指示は、まるで熟練の将軍のようだった。

普段の彼らしからぬ高度な戦術理論に、

アルドは一瞬「……ん?」と首を傾げたが、迫る盗賊を前に考えるのをやめた。


「わかった、右からだな!」


ツィーラも頷き、魔力を纏う。


「行きます!」


盗賊が、上空に気を取られながらツィーラの急襲を受け、慌てて剣を振り下ろす。


ツィーラは軽やかにかわし、軽馬の横腹に掌を突き出した。


「《魔力衝撃》!」


ドンッ!


馬もろとも盗賊が吹き飛ぶ。


ノヴァの矢が武器を持った盗賊の腕を貫いて無力化し、

ホラが足を払って転ばせる。


アルドは剣を構え、堂々と前に立つ。


「俺達に手を出した事を後悔するんだな!」


盗賊たちは完全に押されていた。



ニューホライズンズが興奮して叫ぶ。


(よっしゃ! 俺もやるぜ!)


パイオニア11号が止める。


(よしときな、物理的に戦うのは無理さね!)


(いや、少しならやれるって!)


少年の影は盗賊の前に飛び出した。


盗賊が叫ぶ。


「ひ、ひぃぃ! 影が動いた!!」


(おらぁ! くらえ!)


バシィッ!


影の拳が盗賊の顔面に直撃し、盗賊は白目をむいて倒れた。


(やべっ、かげがすっごい薄くなった!?)


パイオニア11号が呆れた。


(あんた……影のくせに殴れるのかい)


(俺、意外と万能なんだよ!)


(万能じゃなくて無茶苦茶なんだよ)


程なく……

戦闘は数分で終わった。


盗賊たちは全員地面に転がり、

武器は散乱し、馬は逃げ出していた。

この世界の馬は貴重だ。ある意味、人間より価値がある。

すぐにエルドレッドは数名の兵士を引き連れて、馬の後を追った。


対峙の敵を制圧して、アルドが剣を収める。


「……ふぅ。なんとかなったな」


ノヴァが肩をすくめる。


「なんとかなったというか……

 影の二人が引っ掻き回しただけだったけどね」


ホラが頷く。


「うん……あれは反則……」


ツィーラは影の二人に向き直った。


「あなた達……すごいです!」


ニューホライズンズが胸を張る。


(だろ? 俺、強いんだよ!)


パイオニア11号が小言を言いながら呆れたように両手を広げた。


(強いんじゃなくて、無謀なだけさね)


本来、精神生命体は物理的な干渉は出来ない。

11号も料理をする過程で、物理干渉はしているが、それは魔法の力を拠り所にしている。

人間を物理的に殴り飛ばすエネルギーは、それだけ消耗が激しいのだ。


(あぁー、でも、ちょっと疲れたかな……)


ホライズンたちが、駆け引き漫才に興じている最中、

長瀬は、倒れた盗賊たちを見下ろしながら呟いた。


(……おかしい。

 馬を何頭も所有するほどの盗賊が、なぜたった数人の旅人を狙ってこんな雑な襲撃をしてくる?

 収支が合わない。)


「……やはり、因果が動いている」


ツィーラが首を傾げる。


「因果……?」


「ホライズンたちが来た瞬間から、

 この世界の“流れ”が変わり始めている。

 盗賊との遭遇も偶然ではない」


馬を所有しているような盗賊が場当たり的に押し寄せた状況が、そも不自然なのだ。

パイオニア11号が静かに言った。


(奴等も呼ばれた……ってことかい?)


「そうだ。

 この世界が、お前たちを必要としている反面、排除しようとする力も生まれた。

 そして、その力を今打ち破った。認められたと言っても良いだろう」


ニューホライズンズが笑う。


(じゃあ……俺たち、ここで生きていいのか?)


ツィーラは微笑んだ。


「もちろんです。

 あなた達は、もう仲間ですから」


影の二人は、しばらく黙っていた。


そして――。


(……悪くないね)


(悪くないねぇ)


二人は、カルラディアの空に溶けるように笑った。



ツィーラを取り巻く、大いなる因果。

そして、それが生み出す矛盾にも気が付かぬまま、ニューホライズンズとパイオニア11号を加えたツィーラの一団は、一時的な平和に、そして和やかに大団円を迎えるのだった。

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