国の問題山積みだねぇ
「話しておくれ。この国で、何があったんだい?」
ドカッと椅子に腰掛け、立っている陛下を見上げた。陛下は深く息を吐くと、ポツリポツリと話し出した。
「……この国は元々、粟や根菜類は乾燥させた物を輸入していて、生産はされていませんでした。」
「ん? じゃあ、なんで王妃様は生産が盛んとか言っていたんだい。」
「数年前に他国で召喚された勇者が、「他の国でも沢山出来ている。この国でもきっと元が取れる。」と言って、沢山の種をくださいました。」
なんとなく話が見えてきた千代子は、頬杖を付きながら耳を傾けた。
「確かに、元が取れる程、粟と根菜類は出来ました。ですが、この国は他国と離れており、近隣の村や町へ行くにも、数日掛かる程の辺境地。それに伴い初級レベルの魔物が沢山潜んでおり、冒険者を雇いながら行商に行かなければならないので、労働も金銭も馬鹿になりませんでした。それに、他の所でも流通していたので、単価は低かったのです。」
「……はっ、他国で召喚された勇者様もクズだった訳かい。」
どうもこの国は、勇者に恵まれなかった様だ。自身達で召喚した勇者は他人を見捨てるクズ。他国で召喚された勇者も、自分の所が出来てたからこの国でも大丈夫と、状況判断が出来ないクズだった。苛立ちを覚えた千代子は眉間に皺を寄せた。
「元々は何が栄えていたんだい? 結構大きな城下町だ。一度の行商でそれなりに稼げる様な物を作っていたんだろ?」
「……はい、元々は魔法の木の実を生産し、特に他国へと売りに出しておりました。」
「まじっくふるーつ?」
「魔力の元となる木の実です。一口でも齧ると、魔力の無い人間でもその実に宿った属性の魔法が使えるのです。魔力量が少なかった王妃も、その木の実を食し、国の為に魔法を使っていました。」
「ほぉ、そりゃあ一個でも買ってもらえたら大儲けだ。でも、そんな良い代物があるんだったら、クズに貰った種なんて捨てときゃ良かったじゃないか。」
最もな事を言う千代子に、陛下は首を横に振った。どういう事だろうと首を捻ると、陛下は頭を抱えた。
「需要が無い事が分かった時、勇者様には申し訳なかったのですが、種も葉も根っこも引っこ抜き焼いて捨てましたっ。ですが、一度実った粟も根菜類も、私達が計り知れない程に地中深く、そして広範囲に根を張り、至る所で実ったのですっ。」
これには千代子も驚いた。普通の粟や根菜類は、一度実ったら次に種を植えなければ実る訳がない。だが、ここは異世界。恐らくその種にも魔力が宿っており、例え焼いたとしても、根っこが少しでも生きていれば何度でも成長し、実を付けるのだろう。
「……実りに実った粟達は他の作物を枯らし、魔法の木の実の栽培場の近くまで侵食し、次第に魔法の木の実の量も質も悪くなっていきました。」
「それじゃあ、国も廃れちまうって訳だ……。」
「その通りで、ございます……。」
肩を落とす陛下に、千代子は考えた。この国は多方面から攻撃を受けている。魔物だけではなく、人間や植物からも。それらをどうにかしない限り、この国はどんなに支援しても崩壊していく未来しか見えない。それならばーー……。千代子は勢いよく立ち上がった。
「……ねぇ、ちょっくら連れってって欲しい所があるんだけど……。」
ーーガラガラとスーツケースを引きながら陛下に連れて行って貰った先は、城下の外れにある畑だった。魔物の攻撃を受けたのか、まだ焦げ臭い。よく見ると、土の中から根菜らしき実が覗いている。試しにと近寄り、その実を抜いて見ると、とても綺麗で形の良い人参が抜けた。割ってみると断面が瑞々しい。とても、この劣悪な環境で育ったとは思えない程だった。辺りを見渡すと、他にも実が顔を出しているのが見受けられる。千代子は立ち上がり、スーツケースの所へと戻った。そして、スーツケースを開くと、光の中に手を突っ込んだ。
「な、なんですかっ、その鞄は!?」
「ん? あぁ、まぁ、四次元ポケット的なもん……かな?」
「四次元……? アイテムボックスの様な物ですかな?」
「ああ、そうそう。そんなもんだよ。」
ゴソゴソしていると、作業をしていた女子供が千代子達の所へと集まってきた。皆んなに見られながら、千代子は目的の物をイメージしながら探る。そして、手に当たった物を引き抜いた。
「な、何あれ!?」
「巨大な……布?」
出てきたのは、防根シートだった。確かにこれを敷けば、どんなに根強い根っこも成長出来ない。昔、敷地内に自生してきた竹の根っこの侵入防止の為に、旦那が重機やドリルを使って施工してくれた事があった。もう一度、手を入れて探る。アレがなければ、根っこの問題は解決しない。そして、手に当たった物を引き抜くと、思っていた通りの物が握られていた。
「おぉ、これこれっ。除草剤。」
「ジョソウザイ? 薬ですか?」
「そうさ。これを振り掛けると、根っこまで枯らしてくれるんだ。」
「素晴らしいっ。早速使いましょうっ。」
陛下も町の人々も、これで問題が解決すると嬉しそうにしているが、千代子は待ったをかけた。どうしてだと言わんばかりに眉を顰める人々を尻目に、千代子は顎に手を当てて考えた。このまま除草剤と防根シートを使って、強すぎる根っこを根絶やしにすれば良いが、元々の収入源である魔法の木の実の原木が元通りになるまでは、何かで補わなければ国が滅ぶ。その為にはどうすれば良いか……。うんうん唸っていると、陛下が声をかけてきた。
「……チヨコ殿。貴女様は、我々の身勝手な理由でこちらへと来られた。なので、これ以上、我々のために頭を抱えないで下さい。」
「いや、だってねぇ……。」
「貴女様は、もう十分な程に我々に尽くして下さいました。他の勇者とは違い、我々を見捨てなかった。ご覧下さい。皆、以前にも増して活き活きしています。」
言われて見遣ると、最初に見た絶望に満ちていた顔が、今はやる気に満ち溢れている。皆の顔を見ると、どうすれば良いのか一人で悩んでいたのが、少しだけ晴れた気がした。
「……そうかい。分かったよ。」
「ご理解頂けてなによりです。では、今日はもうーー……。」
「でも、もうちょっとだけ頭使わせておくれ。」
「……えっ?」
「さっき分かったって言ったよね!?」と聞こえてきたが、千代子はその声を無視した。その代わり、瓦礫に腰掛け、先ほど出した物に手をかけた。
「この国の土壌問題、並びに、魔法の木の実の原木が元通りになるまでの間の収入源確保。この二つが解決するまで、アタシの頭、使わせてもらうよっ!!」
ドンっと漫画の様な効果音が出る位、その時の千代子からは気迫が溢れていたと、のちの歴史書に書かれていたとかいなかったとかーー……。何はともあれ、千代子は旦那から教えて貰った技術と、この国の魔法と住民の力を駆使し、枯れ果てていた土地を回復、そして改善させた。至る所に根を張っていた根菜類は、必要最低限を残して薬で根絶やしにし、街の一角へと移した。根っこ問題として、耕した土地にはしっかりと防根シートを敷いている。更に畑には、千代子のスーツケースから出した数種類の葉野菜の種を蒔いた。そして時は流れて、一ヶ月後ーー。
「……いやはや、あっという間に問題解決しちまったねぇ。」
千代子は、城のベランダから城下町を見下ろしていた。一ヶ月前には見れなかった活気が溢れ、皆が皆、綺麗になった街の中を行き来している。笑い声が絶えない。千代子はそんな風景を見ながら、微笑した。
END
おはようございます、こんにちは、こんばんは、九十九です。
誤解がない様、後書きを書かせて頂いております。
今回のエピソードで、粟や根菜類は他の野菜等に影響がある様な表現をしておりますが、あくまでこの表現は「異世界」であるからで、「現実世界」では一切、この様な事はありません。
ややこしい言い回しではありますが、ご理解頂ける事を切に願っております。




