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さぁ、じゃんじゃん食いなっ!!

「ーー……よし、こんなモンかね……。」


 湯気が発つ鍋を覗きみ、柄杓(ひしゃく)で中の物を掬い取り加減を見る。トロッと流れるソレは、香ばしい穀物の香りがして、食欲を誘った。隣に立っていたリリアンの口端からは涎が見え隠れしており、千代子達が作っている間に持ち直した王妃は、目を輝かせている。


「失礼致すっ!! 国中の被災者を広間に集めましっ……あ、良い香り……。」

「おぉ、良いタイミングで来たねぇ。さぁ、飯の時間だよっ!!」


 大鍋を動ける者皆んなで広間に運び込んだ。広間と言っても、ほぼ半壊状態で、瓦礫の山がそこら中に出来ている。屋根も壊れており、曇り空がこちらを見ていた。広間に集まっているのは、服がボロボロで傷だらけの女子供、そして老人だけだった。だが、チヨコはもう臆する事はなく、堂々としていた。用意してもらっておいた机に鍋と器と小さな木製のスプーンを置いていき、一つ咳払いをすると口を開いた。


「……アンタ等は、よく頑張ったよ。いきなり魔物がやってきて、痛い思いをして、愛する人が傷ついて、平和だった日常を壊された……。」


 静かに言う千代子の言葉に、広間に居た皆が耳を傾ける。中には、辛かった事を思い出し、啜り泣く人も居た。


「だがっ!! アタシが来たっ!!」


 瓦礫に足を勢いよく乗せ、喉が潰れそうになるまで大声を張った。


「今まで来たクズ勇者共とは違うっ!! アタシはっ、アンタ等を助けるっ!! ……絶対にね。」


 ニカッとチヨコが白い歯を見せながら笑うと、悲しみに沈んでいた広間が一気に湧き上がり、歓声があがった。その盛り上がり様に、陛下と王妃は涙を流した。今まで何度か勇者を呼んだが、ここまで民が湧いた事はなかった。他所の国に居ても、不評は風に乗って直ぐに皆の耳に届く。特に、召喚された勇者とあれば一段と。それだけ、今までの勇者がクズであり、民から信用されていなかったと言う事だ。だが、今回召喚された千代子は、今までと違う。千代子が発する言葉の重み、行動力、全てにおいてどこか信頼出来る。そう感じさせる存在だった。


「さぁさぁ、演説は終いにして、年寄りから順番に鍋の前に並びなっ。でも、直ぐに食べちゃダメだよ。食べる前に、する事があるから、それが済むまで我慢しておくれっ。」


 兵士やメイド達が皆を誘導し、鍋の前に整列させる。そして、順番に温かい粥を手渡ししていった。その度に「ありがとう、ありがとう。」と、涙を流しながら言われ、思わず千代子も涙ぐんだ。ーーそして、皆に粥が行き渡った時、千代子はまた大声を張った。


「よぉしっ、皆んな貰ったね!? じゃあ、食べる前に、手を合わせてっ!!」

「「「いただきますっ!!」」」


 その言葉を皮切りに、皆が皆、一斉に粥へ齧り付いた。肉や魚みたいに、ガッツリした物ではないのに、全員が「美味しい、美味しい。」と呟きながらスプーンを進めている。その光景を見ながら、千代子は旦那の事を思い出していた。

 ーー「いただきます」は、魔法の言葉。

食に感謝し、作ってくれた人に感謝する。

食べれた事に感謝し、食べさせてくれた事に感謝する。

こんなに素敵で、皆が幸せになれる魔法はない。ーー


「……旦那の口癖だったね。」

「どうされましたか、チヨコ殿?」

「いや、こんなに嬉しそうに食べてもらえて、良かったと思ってね。」


 自身も一口粥を啜る。プチプチした粟の食感とホクホクの緑豆が、なんとも面白い。特に味付けはしていないが、素材の甘みをほんのり感じる、体に優しい粥だ。そして何よりーー……。


「このスープ……、なんだか体の中から染み渡るわ……。」

「しょっぱいのと、よく煮込まれた根菜類(ルートクロップス)の甘みが、美味い……。」


 粟粥と一緒に配ったスープ。根菜類をしっかりと煮込んで旨味を出し、更にはスーツケースから出てきた煮干しと昆布で出汁を摂った、具沢山けんちん汁だ。調味料である醤油や味醂、料理酒もスーツケースから出てきた。しかも、使った側からどこからか補充される仕組みになっており、これには千代子だけでなく、その場に居た王妃とリリアンも驚いていた。皆がちゃんと食べているのを見て、満足そうに目を細めていると、不意に喪服の裾を引っ張られた。


「……あの。」

「ん?」


 見遣ると、幼い男の子と女の子が空になった器を持ってモジモジしている。千代子は二人に合わせる様に屈んだ。


「どうしたんだい?」

「あ、あの……。」

「なんだい? 言いたい事は、はっきり伝えないと伝わらないよ?」

「お……、おいしかったです……っ!! お……、勇者様!!」


 勢いよく頭を下げながら大声で言った言葉に、広間全体が静まり返った。かく言う千代子も面食らった様に固まっている。だが、その静かになってしまった広間に響いたのは、他でもない千代子の笑い声だった。


「おぉおぉ、そうかいそうかいっ。美味かったかっ。ありがとうねぇ。でも、これを作ったのはアタシだけじゃない。ここに居る王妃様や城の皆んなが作ってくれたんだ。だから、皆んなにお礼を言ってあげな。あと、アタシの事は「勇者様」じゃなくて、「チヨコ婆ちゃん」て呼びなっ。」

「う、うんっ!! チヨコおばあちゃん、王妃様、国王様、みなさん、ありがとうっ!!」

「ありがとう、ございます……!!」


 子供達の感謝の言葉を皮切りに、他の民達もこぞって陛下や王妃達の所へ行き、感謝の言葉を述べていった。


「「「ごちそうさまでしたっ!!」」」

「はいっ、お粗末さんっ!!」


 しっかりと食べれたのか、皆満足そうにしていた。使い終わった食器や鍋を洗っていると、リリアンがやって来た。


「あの、チヨコ様は、本当に凄いですね……。」

「? はぁ? 何の事だい?」


 唐突に凄いと言われ、よく分からず顔をしかめた。するとリリアンは、焦った様に忙しなく手と頭を振った。


「い、いえっ。私どもでも上手く扱えていなかった食材を半分以上残した上で、皆が満足する食事にし、活力を取り戻した事が、凄いのです。」


 そう言われて窓から外を覗くと、ご飯を食べる前まで、皆が皆、座り込み、絶望の表情を浮かべていたのが、今では瓦礫の撤去や畑の再構築をしている。その様子に千代子は嬉しくなったが、リリアンの言葉に疑問を抱き、眉をしかめた。


「この国では、粟と根菜の生産が盛んなんだろ? なのに、なんでアンタ等が上手く扱えないんだい? 生産元がそんなんじゃあ、売れないだろ。」

「……そ、それは……。」

「その事に関して、私からお話致します。」


 千代子の質問攻めに、答え辛そうに口を濁していたリリアンの後ろから現れたのは、広間の片付けを済ませた国王陛下だった。






END

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