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第二十三話 お前は何者なんだ

 

「――う~~んっ! おいし~~っ!」


「………」


 そう満面の笑みを浮かべて次々と魔物料理を口に運ぶ彼女に、俺は疑いの眼差しを向けることしかできなかった。


 今から何時間か前(時間は時計が壊れたので分からない)。


 腹が……減った……などと言う彼女をしょうがないので横たわらせ、俺自身も白ムカデを喰って枯渇しかけていた魔力の回復に努めた。


 とはいえあの量、食べ尽くすのにはかなりの時間が掛かった。

 さらに一定量食するたびに激痛が走る。


 喰っては気絶、喰っては気絶、喰っては気絶。


 これを三十回ほど繰り返して、ようやく食べ終わったほどだ。


 ……あれを食べ終えられてる時点で、俺ももうだいぶ人間辞めてるような気がするけど……。


 そして今から少し前(時間は時計が以下略)。


 彼女の横で何とかあの激痛を乗り越えた俺は、彼女が隣で頬をむくーっとさせていることに気付いた。


『お腹空いたって言ったのに!』


 駄々をこねる子供のように、はたまた無職の穀潰しのように怒る彼女に「なんて女だ……」と思いながらも、見てられないので晩飯(?)の探索をした。


 そしてそして今からほんの少し前(時間は時計)。


 骨兎や黒犬を見つけては討伐し、知っている香草や薪になりそうな木の枝を収集した。

 ついでに彼女に水場も教えてもらったが、鍋のようなものがないのでスープ等は諦め、水筒に水を入れるにとどめた。


 いつもなら魔力補強のために血抜きも行わず生肉を喰らうが、さすがに他人にそれを強要するわけにはいかないだろう。

 あと、適切な調理を行ったらどんな味になるのかも気になって、料理をすることに決めた。


 といっても、器具もないので簡単なものだ。


 ①殺してすぐに血抜きを行い、剣で毛皮を剥ぐ。

 ②そのまま肉を部屋に持っていき、

  内臓処理を行って中に香草を入れる。

 ③あとは焼くだけ


 である。


 剣にぶっ刺して焼こうとしたが、見当たらなかったのと、それを口にしたら女が必死に拒絶したので、使い勝手のよさそうな野太い木の幹を折って刺して焼いた。


 しかしてその味は――?


「……まぁ、食えなくは、ないかな……?」


 俺は切り分けて口にした骨兎の肉について、そう評する。


 何と言うか、保存期間を無視してとっくに腐りかけた肉を、必死に食える状態までした感じ。

 香草で誤魔化そうともエグみはヤバイし、積極的に食べようとは思わない。というかこのレベルのやつは食べたら一週間は腹を壊すやつだ。


 だというのに……。


「ん~~~~っ!」


「ホント美味そうに食べるのなお前……」


「だって本当に美味しいんだもんっ! やっぱり人に作ってもらったごはんは最高ね!」


 はにかみ、ショートカットの銀髪を揺らす彼女。

 言ってることは最低だが、どうにも偉そうな猫のような……幼い頃の背伸びしていたティナに似た可愛さがあって憎めない。


 ……まぁ、その二つの膨らみは全然まったく、これっぽっちも幼くなんかないのだけど。


「地上にはもっといいものあっただろ。高級レストランとか」


 彼女が纏っているのは喪服のような漆黒のドレス。

 だが、その生地は服に明るくない俺から見ても相当上等なものに見えた。


 そして明るい笑みを振りまくものの、どことなく感じ取れる高貴な佇まい。

 おそらくどこかの有名貴族出身だと、そう思ったのだが……


「あー、私、地上って出たことないのよねー。あと、自分で料理作ったこともないわ!」


 えっへん、と豊満な胸を張り上げる彼女。


 後半の、ヒモ人間的なセリフは置いておくとして。

 前半のセリフは聞き捨てならなかった。


「何者なんだ、お前……?」


 俺はてっきり、どこかの貴族が怪し気な宗教的儀式を行って彼女を剣に閉じ込めたとか。

 実は超強力な異能を持った吸血鬼の末裔で、迷宮の底に封印されたとか、そんな風に思っていた。


 だが……「地上に出たことがない」?

 それはつまり、もっと別な世界に生きた神話レベルの存在か、そもそも男を惑わす迷宮に棲んでるただの魔物かの二択なわけで。


「……ごくり」


 俺は緊張の面持ちで、彼女を見た。


「ふふ……あなた、もしかして私のこと警戒してる? したって無駄なのに」


 彼女はくすりと笑い、混じりけのない高潔な紅血の瞳で見つめ返してくる。


「う~ん、そうねー……」


 それは見下ろすような、されどやはり男を誘い込むような怪しげな微笑みで……


「私の銘はレーヴァティン・フォン・アウレンベルク……レーヴァって呼んでくれて構わないわ。今のところは、一人では何にもできない、ただの一振りの剣と思ってくれればそれでいいわよ」


 けれど、そう零した彼女の瞳は、俺の眼にはほんの少しだけ寂し気に映った。




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