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珍味、魔物肉


 ラストダンジョンの出口は消失した。

 ほかに出口がある保証もない。

 もっとも確実な手段はラストダンジョンを攻略して権限を持つこと。

 ダンジョンの権限を有すれば出口を作り出せるはず。

 少なくとも消えたものを元に戻すことくらいは叶う。

 一塊になった冒険者たちも出口が見付からなければそうせざるを得ない。

 出口の捜索は彼らに任せて俺は攻略のほうに専念しよう。

 たった一人でどこまでやれるか、という話ではあるが。

 何もしないよりはずっとマシだ。


「さて、なにから始めたもんか」

「長期に渡る滞在を予想。推奨、衣食住の確保」

「あぁ、そうか。まずはそれからだな」


 日本で初めて攻略されたダンジョンは、それを達成するのに十年という月日が費やされたという。

 その十年で魔法技術の確立や魔道具の普及などがあり、冒険者という職業が公的に認められた。

 ノウハウを培った今ならそれほど掛からないだろうが、なにせここは難攻不落のラストダンジョン。攻略には年単位の時間が必要になると見たほうがいい。


「ここに、こんなところに、あとどれくらい居ればいいんだろうな」


 家が恋しい。ベッドが恋しい。シャワーが恋しい。


「いかんいかん」


 悲観していても何も始まらない。

 まずは自分にできることをやらないと。


「差し迫った問題としては食糧と寝床か。特に食糧だな、弁当は食っちまったし」


 あるのは空箱だけ。


「食うなら魔物ってことになるけど、魔物かぁ」


 たまに市場に出回るくらいで、ほとんど珍味扱い。

 好き好んで食べる物好きもいるけど、俺はそうじゃない。


「でも、えり好みもしてられないか。ほかに何かあるか?」

「推奨、森林エリアへの移動」

「森林エリア……あぁ、果物があるかも知れないのか。なら、決まりだな」


 当面の目標は決まった。


「やることリストその一。食糧確保だ」

「ルート検索。森林エリアまでナビゲートします」


 動き出したボックスに導かれて通路を進む。

 森林エリアまではすこし遠く、徒歩ではすこし時間がかかる。

 長い通路を歩いていれば、それだけ魔物に出くわす確率も上がるもの。


「警告。魔物が接近」

「食糧の目処が立つまで戦闘は避けたいけど」


 そうも言ってられない。

 腰に手をやり剣を抜くと、通路の暗がりに灯火を見る。

 まだ騒動を知らない冒険者かと思ったが、近づくに連れて違うと気付く。

 燃え盛る火炎と火の粉を纏う、一体の魔物。

 火の息を吐く四足獣、ヘルハウンド。


「グルルルルルル」


 群れを成した奴らは低く唸り、火炎の毛並みを靡かせて駆ける。

 火炎を纏う以上、剣で斬れば溶けるかも。

 武器を失う訳にはいかない。

 一番槍を担う一体が真正面から跳び、身に迫る炎の牙を鉄の鱗がへし折った。


鉄鱗スケイルアーマー


 燃え盛る火炎でも、鉄の鱗は溶かせない。

 鋭利な爪でヘルハウンドを返り討ちにし、火炎ごと血肉を引き裂いて命を奪う。

 鎮火した死体が地面を跳ねた。


「囲まれたか」


 たぶん、群れの中でも一番地位が低い個体だったんだ。

 上位の個体に逆らえず、捨て石になった。

 より確実に俺を仕留めるために。


「けど」


 ヘルハウンドたちを睨みつつ、姿勢を低くして死体に触れる。


吸収エナジードレイン


 抜け殻に残留した魔力を吸い上げて、その能力を得る。

 魔力が体に浸透すると同時に燃え上がる皮膚。

 左手から這い上がった火炎は全身を覆い尽くした。


「熱くない」


 戦闘服も焼けない。

 炎で刃をコーティングすれば剣が溶けることもないか。

 燃える手で柄を握り、炎の剣を抜く。


「命名。火衣ファイヤーファー


 ヘルハウンドはこちらの変化に動揺する素振りを見せたが、すぐに立て直す。

 活を入れるようにリーダー格の個体が吠え、それに従って他が動く。


「鱗で受けて、剣で斬る!」


 鉄鱗スケイルアーマーでヘルハウンドの爪牙を遮断し、炎の剣でその身を裂く。

 十はいた群れは、瞬く間に半分にまで減る。

 複数体の死体が地面に転がると、リーダー格の個体がまた吠えた。

 それは撤退の合図。

 群れが半分も減れば諦めるのは当然。

 逃げる背中を追うことはせず、炎の剣を鞘に押し込めた。


「ふぅ、新しく炎をゲットっと……んんん」


 火炎の掻き消えた右手から、地面に横たわる死体へ目が移る。


「……食えるかな?」

「チェック」


 ボックスから生えたアームから針が伸び、死体に刺さる。


「分析中。食用可能と判断」

「魔物肉か……背に腹は代えられないな」


 死体に手を駆け、皮を剥がし、骨から肉を剥がす。

 解体の手順は冒険者になる過程で必ず習う。

 ダンジョンで遭難したときのためだが、こんな形で役立つとはな。


「よーく焼いて」


 岩の上に置いた肉に火炎を吹き付け、じっくりと焼く。

 味付けは腰に巻いた雑嚢鞄から。

 収納スペースを圧迫するだけの無用の長物かと思っていた非常時の備えがありがたい。

 備えあれば憂いなし、だ。


「いただきます」


 熱した岩の上で肉を一口台に斬り、口へと運ぶ。


「うん……うん……まぁ、悪くないな」


 味は淡泊だけど臭みも少ないし食べやすい。

 時々、口の中がざらつくのは砂じゃなくて血が蒸発したものだ。

 血抜きが上手く出来てない証拠、次はもっと上手くやろう。


「ボックス、魔物は?」

「確認できません」

「そりゃよかった。続けて巡回よろしく」

「了解」


 右へ左へと巡回するボックスを眺めつつ、また肉を口の中へ。

 食べ終わると移動の邪魔にならない程度に解体した肉を雑嚢鞄に詰めた。

 同じようにじっくり焼いたから、ある程度は日持ちするはず。

 やることリストその一、食糧の確保は一時的に達成。

 この食糧が尽きないうちに森林エリアに辿り着きたい。

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