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たった一人の決断


「なにがどうなって――」

「おいおいおい、どうなってんだよ」


 近くで見ていた冒険者が駆け寄って壁を何度か叩くも結果は同じ。

 出口は消えたままだ。


「なんで出口が消えた!? おい! ちょっと下がってろ!」


 手で押し退けられるようにして壁から距離を取る。

 それを確認してから彼は手の平に火炎を灯して投げつけた。

 放たれた炎は火球となって着弾。同時に爆ぜて轟音を響かせる。

 かなりの火力があり、通常の岩ならどろどろに溶けるような威力だった。

 けれど、ダンジョンを構成する壁の耐久は通常とはほど遠い。

 爆炎が消えると、そこには無傷の壁がただそこにあった。


「嘘だろ……こんなことあるかよ!」


 更に火球を投げつけるも、それが意味のある行為には思えない。


「出せ! ここから出せよ! おい!」


 怒号が響き、火炎が盛る。

 途中から別の冒険者も何人か参加したけれど、壁が壊れる気配はない。

 何色もの魔法が飛ぶ光景を視界に映しながらも俺は考えざるを得なかった。

 なぜ出口がなくなったのか?

 考えられるのは――


「誰かが攻略したのか?」


 口をついて出た言葉が、彼らの魔法を止める。


「攻略したってこのラスダンをか?」

「いや、ありえる。ダンジョンの権利は攻略した者に与えられるからな」

「ダンジョンから魔物を排除できるし、ワープもできるとか。それなら出口を塞ぐことだって――」

「なんだよそれ!」


 真っ先に火球を放った冒険者が烈火の如く怒る。


「誰だ! 今日、ここに来てて攻略できそうな奴は! そいつが犯人だろ!」


 響いた怒号の後に沈黙が流れる。

 それが数秒続いた後に、小さな声が響いた。


「そ、そう言えば、赤崎さんのところパーティーが息巻いてたよね? 必ず攻略するって」

「た、たしかにそうかも。あそこのパーティーは評判だし。さ、最強だって」


 赤崎さんパーティーなら、たしかに可能かも知れない。

 現状、最強の冒険者パーティーでもっともラストダンジョン攻略に近いとされている人たちだ。


「じゃあそいつが!」


 可能性はある。

 あるけど、あの赤崎さんがこんなことをするはずがない。


「――いや、違う」


 そう言ったのは血だらけの冒険者だった。

 戦闘服は血で真っ赤に染まり、手足や胴に酷い傷を負っている。

 彼一人のようでパーティーメンバーと思しき冒険者はいない。


「赤崎は死んだ……」

「死んだ!?」


 周囲に動揺が走り、俺も心底驚いた。

 冒険者がダンジョンで命を落とすことなんて珍しくない。

 だけど、だって、あの赤崎さんだ。

 それがたったの三文字で片付けられてしまうなんて信じられない。


「ほかのパーティーメンバーも……生き残ったのは俺だけだ」


 なにがあったのかは生き残った彼しか知らない。

 それでも壮絶な死闘があったことは、その身に受けた傷から窺える。

 そんな彼の言葉を疑う余地はなく本当に赤崎さんがここで散ったのだと思わせた。


「あぁ、クソ。なんでこんなことに……」


 体力も底を尽きたのか膝から崩れ落ちてしまった。

 意識を失った彼の元に近くの冒険者が数名駆け寄る。

 賢明に介抱しているあたり命までは落としていないみたいだ。


「じゃあ、いったいなんなんだよ!」

「落ちつけ、騒いだってどうにもならない」

「とにかく固まって行動しようぜ。ほかに出口があるかも知れないし」

「あるかどうかもわからない出口を探せってか? 冗談じゃない。くそッ」

「みんな、聞いての通りだ。ここに居ても埒があかない。ひとまず固まって行動しよう」


 呼びかけられた冒険者たちは異論を唱えることなく同調する。

 赤崎さんのパーティーですら壊滅するほど、このラストダンジョンの深部は危険だ。

 並みの冒険者では太刀打ちできない。

 その提案がベストだと、誰もがわかっていた。


「推奨。提案への参加」

「……いや、俺はいい」


 一塊になろうとする冒険者たちに背を向けて歩き出す。


「警告。単独行動は死期を早めるため危険」

「わかってる。でも、俺があそこに混じるとみんなを危険に晒すんだ」


 こんな状況だ。誰もが戦いを強いられる。

 魔物から得た能力で戦い抜ければいいが、そうならなかったら?

 吸収エナジードレインでほかの冒険者の魔力を吸い、そのせいで死なれたら?

 それだけは絶対に避けないといけない。


「大丈夫だ。一人は慣れてる」


 できるのか? 俺に。

 駆けだしの冒険者に。

 あの赤崎さんですら散ったこのラストダンジョンで。

 自分に問いかけるのは、そんなネガティブなことばかり。

 しかし、同時に思い出したことがある。

 かつて赤崎さんがインタビューで答えていたことだ。


「やらずに後悔するよりやって後悔したほうがいい、という言葉があります。僕はこれを座右の銘にしているんですよ。何故かって? やらないことは停滞で、やることは前進だからです。僕は前へ進み続けていたいんです。だから冒険者になった。攻略不可とされたラストダンジョンに挑戦するのも同じ。たとえその先で散ることになっても、最期まで足を前に出していることでしょう。死ぬなら前のめりに死にたいんですよ、僕は」


 その言葉の通り、赤崎さんは前のめりになって死んだ。

 このダンジョンで果てた。

 なら、そんな彼に憧れた俺も諦めずに前進し続けよう。


「死ぬなら前のめりに」


 進み続ければ見えてくるものもあるはず。

 死中に活を求める。

 俺は俺のやり方でダンジョンから脱出してみせる。

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