一騒動、暴かれる嘘
「テウメソスの討伐ですか」
「そう。とりあえずそれを目標にしようと思って」
食事の合間に二人に相談することにした。
「風の能力もそのために手に入れたんですねー」
「機動力の確保にな。かなり足が速いって話だし。二人は戦ったことってあるのか?」
「いえ、私たちもまだ。でも、そうですね。噂は聞きますし、ぶっつけ本番! で勝てる相手ではないと思います」
「だよな。化かしてくるってのも引っかかるし。予行演習でも出来ればな」
「予行演習なら、ちょうどいい相手がいますよー」
「あぁ、あれだね」
「あれって?」
「デュラハン」
§
デュラハンは首のない騎士の姿をしたアンデッド系の魔物。
白馬に跨がり、片手に首を抱え、剣を振るう。
身に纏う鎧は硬く、跨がる白馬は脚がかなり速いとか。
それが本当ならテウメソスのいい予行演習になるはず。
二人の情報を元に次の標的をデュラハンにすることにした。
「よし、そうと決まればもっと上手く飛ぶ練習をしないと」
「では、私もお付き合いしましょうー」
「私もなにかお手伝いできることがあれば」
「二人ともありがとう。じゃあ早速――」
「ふざけるなッ!」
食べ終わった食器を返却していると、怒鳴り声が聞こえてくる。
視線は自然と怒号がしたほうへと向かい、二人の冒険者を発見した。
両方とも知らない顔で怒っている方はボックスを抱いている。
「なんでまだボックスの充電が終わってないんだよ! 頼んだの一時間も前だぞ! これから狩りに出かけないといけないのに! そう説明しただろ!」
「そんなこと言ったってしょうがない。僕にだって食事をとる権利はある。それに言ったはずだよ。間に合うかどうかはわからないって」
「そりゃそうだけど! 大体、なんでそんなに時間が掛かるんだよ! 最初は三十分で充電できてただろ!」
「僕たちがおかれている状況は過酷なものだ。最初は余力があっても毎日こうじゃコンディションだって下がる。僕はこう見えて繊細なんだ」
「このッ!」
「待った」
このままだと喧嘩に発展しそうだったので割って入る。
「誰? キミ。見ない顔だけど」
「ただの部外者。それよりそのボックス、どれくらい充電できてるんだ?」
「部外者? ……バッテリーの半分くらいかな」
「それじゃ困るんだよ! 環境次第でボックスの消耗なんて幾らでも激しくなるんだからさ!」
たしかにその通りで俺の場合も強風エリアでボックスがかなりのバッテリーを食った。
万が一に備えてボックスのバッテリーは最大まで充電しておきたい気持ちはわかる。
「わかった。じゃあ、俺がそのボックスを充電するよ。半分まで充電できてるなら三分か四分くらいで充電できるから」
「ホントか!? 是非やってくれ!」
ボックスを渡され充電を開始。
宣言通りの時間内にボックスをフル充電できた。
「ありがとう! ほんとーに助かった! そこにいるのとは大違いだ」
喜んでくれたのは嬉しいが、一つ火種を残して彼は去って行く。
残された方――恐らくは雷魔法の冒険者は俺を鋭い目付きで睨み付けていた。
長居は無用だな。
「じゃあ、俺はこれで」
「待て」
嫌な予感がする。
「キミの目的はなんだ?」
「目的? そんなものはないけど」
「嘘をつけ。僕の地位を狙っているんだろ」
「はぁ?」
地位ってなんだ?
「とぼけたって無駄だ。お前みたいな奴の考えはすぐにわかる」
そう言うと彼は稲妻を纏う。
それは明確な敵意の証。
「おいおいおい、正気か? こんなところで」
「関係ないね」
バチバチと音が鳴り、閃光が弾ける。
身に迫る雷撃を同じく稲妻で相殺して防ぐ。
だが、一部の雷撃が俺から逸れ、近くの冒険者へと向かってしまう。
幸いなことに怪我人は出なかったが、もう穏便には終わらせられなくなった。
「なにを考えてるんだ。ここに居られなくなるぞ」
「そうはならない。キミが僕の地位を奪わなければね」
繰り出される雷撃を躱して別の被害を出すわけにもいかず同じ稲妻で相殺する。
「僕は必要とされている! 僕がいなければボックスは充電できない! なのにキミが現れた! 目障りなんだよ!」
互いの間で閃光が散り雷撃がぶつかり合う。
止めろと言って止める様子でもなさそうだ。
「ええい、しようがない」
幸いなことに雷撃のせいでほかの冒険者たちは距離を取っている。
これなら巻き添えを出すこともないはずだ。
「吸収」
射程二十メートル。
その範囲内にいる彼の魔力だけを吸い上げて魔法を撃てなくする。
「な、なんだ!?」
吸い上げ、枯らし、どうにか無力化。
彼は息を荒くして膝をつく。
「く、くそ……魔力が……」
俺のことを知らないようで助かった。
「こっちです!」
「おやー、もう終わってしまいましたかー」
咲希と花恋が何人かの冒険者を引き連れて駆けてくる。
どうやら助けを呼びに行ってくれていたみたいだ。
「これはどういうことだい?」
一人の冒険者が俺に説明を求めてくる。
見た顔だ。
たしか最初にこの拠点を訪れた時、言い争いをしていた二人のうちの一人。
出口の捜索を優先していたまとめ役だ。
「俺にも事情はさっぱりで。その人の前でボックスを充電したらいきなり襲われて」
「事実かい?」
問われるも彼は押し黙ったまま答えない。
沈黙は肯定と同じだと、まとめ役の冒険者も理解しただろう。
「黙りか。彼はなにか言ってなかったかい?」
「たしか……必要とされてるとか、充電は自分にしかできないとか」
「なるほど」
察しがついたような表情が浮かぶ。
「鳴坂。キミのことは最近よく耳にするよ。態度が悪いだとか、横柄だとか、充電にやたらと時間がかかるだとか、見返りを求めてくるだとか」
「そ、それの何が悪いって言うんだ。僕にしか出来ないことなんだ、すこしくらいの見返りがあったっていいはずだ!」
「見返りなら十分に用意したつもりだ。キミは狩りに出なくてもいいし、仕事はボックスの充電だけ。テントも一人で独占できる。ほかの皆と比べればそれがどれだけの待遇かわかるはずだ」
「そ、それは……」
「それにこの雷撃の痕はなんだ?」
彼の視線が周囲に向けられる。
焦げた植物、焼けた地面、黒ずんだ石。
どれにも激しい雷撃の痕が残っている。
「これだけの出力の雷撃が放てるなら、なぜボックスの充電に一時間もかかる?」
「こ、これをやったのはそいつの雷で――」
「嘘だ!」
それは周囲の冒険者から投げられた言葉だった。
「俺は見てたぞ! 鳴坂は嘘をついてる!」
「私も見たわ!」
彼に続くように何人もの声があがり、鳴坂の嘘が暴かれる。
「こう言っているが?」
「う、うるさい! だからなんだって言うんだ!」
追い詰められた鳴坂の感情が破裂する。
「ボックスを充電できるのは僕だけだ! そこにいるのは部外者で、人の魔力を吸い上げる危険な奴だろ! いつ死ぬかも知れないし、頼り切りにはなれないはずだ! 僕が必要なはずだ!」
息が切れるほどの絶叫を聞いて鳴坂の心の内を改めて知る。
地位がどうのと言っていたのはそういうことだった。
鳴坂はボックスを充電できるという不動の地位を脅かされたくなかったんだ。
もし地位が揺らいでしまったら、これまでの待遇や優越感が消えてなくなってしまうから。
「もういい。キミはテントに戻っていろ」
「でも!」
「いいから戻れと言っているんだ」
語気の強い言葉に気圧され、鳴坂は俺を一睨みしてテントへと戻っていった。
それを見届けると彼は周囲に目を向ける。
「この件は僕が預からせてもらう。みんな自分の仕事に戻ってくれ」
鳴坂とは違い、彼には人望があるようで誰もが素直に従った。
指示を出し終えると次は俺と目が合う。
「面倒に巻き込んでしまってすまない」
「いえ。俺も俺で部外者が出しゃばりましたから」
「事のあらましは聞いている。キミはボックスを充電してくれただけだ。そんな風に思う必要はないよ」
「そう言ってもらえると助かります。それで、どうするんですか?
「そうだな。厄介なことになったが、どうにかできるように考えよう。僕もあの態度には我慢ならない」
鳴坂が入っていったテントを一瞥した彼の声音は苛立ちが隠れているように聞こえた。
「キミはキミなりの方法で歩んでくれ。互いに助け合おう」
「はい。ありがとうございます」
最後に握手を交わし、彼はこの場を後にする。
それと入れ替わるように咲希と花恋がやってきた。
「災難でしたね。大丈夫ですか? 怪我とか」
「あぁ、大丈夫だよ。傷一つないし」
「突然のことでびっくりしてしまいましたー」
「二人が助けを呼んでくれて助かったよ。ありがとう」
お礼を言うと二人は笑みを浮かべてくれた。
「そう言えばあの人の名前、聞きそびれたな」
「広瀬学さん、ですよー」
「ありがと、広瀬さんか」
憶えておこう。
「じゃあ、今日は俺も拠点に帰るよ」
騒動を起こしてしまった手前、今この場には居づらい。
ここはさっさと退散するに限る。
風の能力の練習は一人でやろう。
「あ、はい。お気を付けて」
「また来てくださいねー」
二人と別れて帰路につく。
「切り替えていかないと」
練習の後はゆっくりと休んで、明日はデュラハンを狩りに行こう。
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