追放
かつて絶大龍という名の邪な龍がおりました。
彼は、肉欲に溺れ人間の女を娶りました。
彼は女を大変に愛し、自らの持つ癒しの力の全てを貸し与えました。
勇者と呼ばれた男が女を救出する為、龍に挑みましたが、龍はそれを返り討ちにしました。
その後、龍の生活に平穏が戻ると、女は身罷り、男児を授かりました。
男児の名はジークフリート。
ジークフリートは産まれてたったの5年で人間の大人と同等の肉体と知能を得ました。そして、更に5年後ジークフリートは絶大龍を討ち取ってしまいました。
ジークフリートがその亡骸に触れると、
龍の脾臓は、猛り、鎮まることのない雷に、
龍の肺臓は、荒び、淀むことのない風に、
龍の腎臓は、湛え、枯れることのない水に、
龍の肝臓は、盛り、消えることのない火に、
そして龍の心臓は、流れ、留まることのない純粋な力となりました。
自らが引導を渡していながら龍の死を悼んだジークフリートは金匠に龍の五臓を鍛えさせ祭器としました。
ジークフリートはそれらを野道具に三日三晩に渡る葬式を催しました。
ジークフリートがありし日の思い出に暮れ涙を落とすと、五臓を抜かれた龍の亡骸が輝き出しました。そして、ジークフリートは龍の遺志を知りました。なんと、亡骸は瞬きの間に城塞と化したのです。
——魔王国勃興記 第一章 第一節より。
「——キサマは今日でクビだ」
背中に投げられた言葉に、俺は振り向かずナイフを動かした。魔物の死骸から耳を切り取り、ため息を1つ。
「……なんで?」
「気付いてないとでも思ったか? 3日前のジグムントとの戦いから明らかに動きが悪くなっただろう」
男の声は冷たかった。まあ、自覚はある。加護が封じられた。ジグムントが死に際に掛けた呪いのせいだ。
「……足手まといは連れて行けん。ここでお別れだ」
大昔。
絶大龍と、龍から癒しの力を借り受けた初代聖女が残した忘れ形見は、龍以上の脅威となって人類を脅かした。
やがてその男は魔王と呼ばれ始め、本来、龍を倒す為に現れた筈の勇者は、魔王と対峙するものへと認識されるようになっていった。
そして、脈々と受け継がれた血筋の第41代目こそが、まさに今俺にクビを宣告した勇者だった。俺は視線を勇者レオンの隣へと滑らせた。
「ヘス。お前の術でどうにかならないか?」
「ごめんなさい。イゴール。貴方に掛けられているのは命を費やした呪いなのです。私に解けるのは魔力を用いた術のみ。それでも、簡単な呪いならどうにかなったかもしれませんが、相手は魔王軍大幹部、四大魔将の一席ですからね」
「諦めろ。雑魚の面倒見てられるほど、俺達の旅は簡単じゃないんだよ」
伸びっぱなしの茶髪を強引に後ろに束ねた男は嘲笑を込めて俺を見下した。
俺はこめかみをかきながら次の言葉を探す。
「……まあ、今までそこそこ役に立ってくれたからな。コイツらの耳はキサマにやろう。餞別だ」
皮袋が飛んできて、ドサっと俺の足元に落ちた。袋の口が緩んで、中身が少しこちらを覗く。
魔物の耳だ。数こそ多いが、どれも低級の魔物ばかり、換金したところで銀貨1枚になるかどうか……。つまり、俺の働きはその程度って事か。
頭の奥で、何かが切れた気がして、その直後には俺は考える暇もなく声を上げていた。
「そこそこ? てめぇ、本気で言ってんのか?」
「いつから冗談を言い合える仲になった?」
レオンは大袈裟に両手を広げて皮肉げに口を歪める。俺は我慢出来ずに奴の胸ぐらを掴んだ。
「いけませんよ。フフ、喧嘩は……」
俺とレオンの間にヘスがやんわりと割り込んだ。長旅の中で大した手入れも出来ていない筈なのに、一振りの名剣の様に輝く銀髪がふわりと舞う。
勇者に付き従う聖女は代々の血によって浮世離れした美貌を持つ。にも関わらず銀眼と、薄く淡い色の唇はニタニタと薄ら笑いを浮かべ、折角の美貌も台無しだった。
こう言う時、ヘスに仲裁を期待しても仕方がない事を俺は長年の経験から知っていた。
「とにかく、だ。この汚い手を退けてさっさと尻尾巻いて来た道を戻れ」
「てめぇ!」
俺の拳がレオンの頬にめり込む。心地の良い反動が腕を伝って肩から抜けていく。ヘスがわざとらしい悲鳴を上げた。
「まあまあ、幼馴染になんて事を」
棒読みの叱責が場の緊迫感を削ぐ。
「退いていろヘス……言っておくがキサマが余計な事をしなきゃ、もう少し優しくしてやれた。俺を、恨むなよッ!」
レオンはヘスを押し除け立ち上がると、俺を殴り返した。反撃しようとするも俺の体は思う様に動かない。俺が奴を1回殴る間に、奴は俺を10回殴った。
「ぐ、ふ」
血と折れた歯の混ざった物を吐き出し、尻餅をついた。レオンの顔にはアザが幾つか付いているが俺の顔はその比じゃないだろう。
「イゴール」
ヘスがニヤニヤしながら俺の顔に手を翳した。仄かな光が灯り、顔から熱が引いていくのを感じる。
「ヘス。キサマは勇者パーティの1人だ。部外者より先に俺を治療しろ」
「まあ」
レオンがそう言うとヘスは嬉しそうに踵を返した。再び俺の顔がジンジンと火照る。
「……十分だ。行くぞヘス」
「あらあら」
治療を終えるとレオンはヘスの右腕を掴み、ズカズカと木立の奥に消えていった。
俺は膝をついたまま、空を見上げた。視界がほとんど木々に遮られて、それから自分のいる場所がどれだけ薄暗いかに気づいた。
「はあ、これからどうすっかなあ」
俺が視線を落とすと、道から少し逸れた所にキラリと輝く何かが見えた。
期待と共に下生えを掻き分けると、輝きの正体は泉の水面だった。
泉を覗き込むと、そこには黒髪を短く切り揃えた色男の顔が映っていた。まあ、今はちょっとだけ凸凹してるが。
俺は両手で水を掬い喉を潤す。
「ふぅ」
それから、3日間森を歩いた。弱くなった体を慣らす為、魔物を狩りながら。
「きゃあああっ!」
「何だ……?」
3日目の昼下がり、出し抜けに女の悲鳴が響いた。
俺は反射的に剣を抜いて走り出す。すると、視線の先で巨大な獅子の魔物がへたり込む少女に立ちはだかっていた。
あれは、ミルメクス。Bランクの魔物で、胴体は柔らかな毛皮に覆われている。そのせいで並の技量では傷一つつけられない。
「“岩絡”」
俺は瞬時に間合いを詰め、剣を振るった。
「グルルァッ!」
獅子は凄まじい迫力で吠えた。しかし、吠えた直後にその首が落ち。首の断面から血が滴る。“岩絡”は切断に特化した剣技だ。剣を押すのではなく、引く事で、柔らかく斬りづらい物さえ斬る。崩れ落ちたミルメクスを無視して俺は少女を振り返った。
「ひっ」
少女は頭を抱えて震えていた。
銅色の髪を編み込み、左右から垂らしている。少女が顔を上げると、黒い瞳が涙で潤んでいた。余程怖かったらしい。黒いローブが全身を覆い隠しているが、歳は精々12歳か、13歳ってとこだろう。
「大丈夫か? お前みたいな子供がどうしてこんなところに?」
「そ、その、私魔物の討伐に来て」
「討伐? って事はお前ミリシアなのか?」
ミリシアは魔物と戦う人類の守護者だ。加護は人間にとって後天的な才能の様なもので、それさえあれば、子供であっても魔物と渡り合える様になる。
少女は怯えながらも俺の問いにこっくりと頷く。俺は思わず顎に手を添えて考え込んだ。
俺が初めて魔物と戦ったのも、確かこの少女と同じくらいの頃だった。
「ところでお前1人か?」
「いえ、4人で1班を組んできたんですが……」
少女は言葉を濁すと獅子の死骸に目線を走らせた。俺はその所作で事情を察して、獅子の腹を斬り裂く。
「あの、何してるんですか?」
「体の一部でも見つかれば弔ってやれる」
ミリシアは魔物と戦う都合上、死体が残らない事も多い。けど、キチンと弔ってやらないと次の人生に生まれ変わることが出来無くなる。
「わ、私も手伝います」
俺が獅子の腹の中に潜り込むのを少女も真似た。俺達は血に染まりながらも何とか右腕を3本取り出す。同じ部位を揃えれば、抜けはまず無いだろう。
「さて、こんな所か。次はえっと」
「あ、私アミリアって言います。遅くなりましたけど、助けて頂いてありがとうございます」
「アミリアか。俺はイゴール。一先ず街へ戻りたい所だが、こんな格好でうろついてたら要らない誤解を招くかもしれねえ。あっちに泉があるから、体を洗って来い」
俺が指さすとアミリアはそそくさと泉に向かっていった。バシャバシャと言う水音を聞き流しながら背後に質問を投げる。
「なあ、お前達はどの街で依頼を受けたんだ?」
「……分からないです。皆んなと出会ったのはつい最近でその時には依頼を受けていたから、詳しい事は聞いてないんです」
俺は人知れず眉根をしかめた。確かに既存のパーティが一時的に他のミリシアを雇い入れる事はよくある話だ。現に勇者パーティにも頻繁に雇うミリシアがいる。しかし、それはかなり経験を積んだパーティがやる事だ。4人がかりであの程度の魔物に遅れをとる低位のパーティがやる事とは思えない。
「お前、ランクは?」
俺は一旦アミリアに話を合わせ、次の質問を投げる。
ミリシアはF 〜Sまででランク分けされ。受けられる任務や入るパーティなどが決まってくる。例えば勇者パーティは最低でもSランクでなければ加入出来ないと言った具合だ。
「Fランクです。駆け出しなので……」
アミリアは硬い声で返した。
「そうか」
それを聞いて、俺は更に思考に沈んだ。
ミリシアになるには幾つかの手続きが必要だった。まずは洗礼を受け加護を得る。それから、能力値を測定し、受けた加護と能力のランクを伝えられ、訓練生として経験を積み、初めて独り立ちが許される。
「あの、3人の事。私、どうしたら良いか。分からなくて」
「ん、ああ、そうだな。これも何かの縁だ。手伝ってやるよ」
俺達は体や服の血を洗い落とし、マインツに向かう事にした。
マインツは、このブカの森を縦断する街道を北上して最初にある街だった。
森を出ると、街までは半日も掛からなかった。
この街は元々修道士の集まりから発展した街だった。その名残で中央に教会があり、それを囲んで商業区がある。 そして、更にそれを肥沃な農地が囲んでいた。
商業区と農地に挟まれる形で人家が円を描いており、昼休憩に戻っていく農家を尻目に俺達は教会に直進した。
「おや、どうされましたかな?」
俺達が教会の敷地に踏み入ると、1人の老爺が声をかけて来た。老爺は厳粛な聖衣に身を纏っている。かなり高位の聖職者の様だ。転生の加護は死んだ魂に、生前愛した者に再会できる運命を与え、転生させる事が出来る。
だから、その加護を受け取った者は教会に務める。商売に利用されない為のお計らい、と聞いた事がある。
「俺達はミリシアだ。死んだ仲間を弔って欲しい」
手短に要件を伝えて、布に包んだ3本の腕を取り出した。
「おお、何と痛ましい。この者達の名前は分かりますか?」
「アミリア?」
「……あ、あのド忘れしちゃいました。出会って間もなかったので、ごめんなさい」
アミリアは伏し目がちに指を突き合わせる。
「忘れた、だと?」
……忘れた、ね。初めての仕事仲間の名前を忘れるか、普通。
「いえいえ、構いませんよ。民兵協会に行けば記録が残っている筈です。恐れ入りますが、聞いて来て頂けますか?」
老爺はそう言うと聖衣の裾を翻し教会に入っていった。多分、弔いの準備をしてくれるんだろう。いずれにせよ民兵協会には行かないといけなかったし、丁度いいな。
「アミリア。流石に3人が授けられた加護が何かは分かるよな?」
「は、はい。それなら分かります」
アミリアに確認を取り、俺達は民兵協会に向かった。
白いブロックを使って建てられた協会は商業区の北東にあった。
大型の魔物の査定にも対応できる様、巨大な搬入口を備えており、スレート葺きの屋根は周囲の建物と比べて、瀟洒な雰囲気を放っている。
周囲には風呂屋が立ち並び、石鹸の匂いが立ち込めていた。協会に入り浸る荒くれ者を、客引きするには格好の立地だからだ。
そんな店々を庇護するかの様に協会はどっしりと構えている。
不意にアミリアを見下ろすと鼻に手を当て眉を顰めていた。
「苦手なのか? ここの匂い」
「い、いえ。ただ慣れなくて」
俺が気遣うとアミリアはニコリと笑い返す。
「よし、入るぞ」
「はい」
俺達が中に入ると沢山のミリシアでごった返していた。みんな、今日の仕事を探しに来たんだろう。特に中堅以下のミリシアは、金が足りなくなったら日銭を稼ぎ、しばらく遊び、また稼ぐ。
俺は入り口の壁に掛けられた木札を取り、刻まれた数字を確認した。それから、木札を半分に割って受付に渡す。
渡した札の番号が呼ばれるまで、アミリアはスツールに腰掛けて落ち空かずに膝をつついていた。
「大変お待たせしました。ご用件お伺いします」
受付の女が愛想のいい笑みを浮かべる。
「ああ、幾つかあるんだが。ブカの森で魔物に殺されたミリシアが居てな。そいつらの照会を頼みたい。腹の中から引きずり出したんで、そいつらのライセンスも無いんだが」
「はい。持っていた加護の種類は分かりますか?」
「戦の加護2名、癒しの加護1名のパーティです」
「お調べ致します」
そう言うと受付嬢は実務机に戻って紙の束をめくる。3冊目の束に手を付けたところで顔をあげ窓口に戻って来た。
「ブカの森に任務に向かった該当のパーティは1つだけでした。戦の加護、ミトン・カルベリとカイン・フルスグリ。癒しの加護、アイラ・ベリルです」
「は、はい! その3人だと思います」
「回収した体は先に教会に引き渡してあるんだが……」
「かしこまりました。それでは残りの手続きは私共が引き継ぎます」
俺は短く礼を言い、懐から葉っぱの形の鋳物を取り出した。
「それから、ミリシアのライセンスを更新したい。俺とコイツの2人分だ」
更新とは能力の測り直しの事だ。呪いを受けた俺は勿論の事、ある疑いから少女の測定も見届けておきたかった。
俺の杞憂だといいんだが……。
受付嬢は俺からライセンスを受け取るとアミリアに視線を移した。
「あ、私ですね! えっと、ちょっと待って下さい」
少女は慌てた様子で体のあちこちを弄り始め、終いにはポーチを床に広げて何とか目当ての品を探し当てる。
「えっと、お名前は?」
「……あ、アミリアです。アミリア・シェカ」
「俺はイゴール・スミス」
アミリアからもライセンスを受け取り、受付嬢が記録を確認して頷く。
「坩堝の加護、イゴールさん。炎の加護、アミリアさんですね? それでは準備が出来次第お呼びします。お掛けになってお待ち下さい」
1つ頷いて、俺達は元いた席に戻る。
「なあ、答えたく無かったら別に良いんだが、一体何があったんだ?」
アミリアは瞳に水滴を浮かべて説明し始めた。
「3人とはこの町で出会ったんです。それで、遠距離攻撃出来るミリシアを探していると言う事で、私も参加できるパーティを探してて……」
「それで、臨時で組んだと」
アミリアは控えめに首肯した。
「森にゴブリンの群れが移動してきて危険だからって、討伐に向かったんですけど、全然見つからなかったんです」
ああ、多分3日前俺達が倒した奴等の事か。
「それで、成果無しじゃ帰れないからって森を探し回っていたら、かなり深い所まで入ってしまって、それで……」
「ミルメクスと出会ったってか」
「はいぃ、」
「ちなみに杖はどうした?」
魔力を主体に戦う加護は、癒しの加護、偏重の加護、炎の加護の3種類。そして、大抵その加護を持つミリシアは杖を持っている。
「逃げてる最中に落としてしまいました。でも、大丈夫です。杖が無くても魔法は使えますから」
「そうか」
一連の話を聞いて、言っては何だが新人にありがちなミスだ、と俺は思った。別に特筆すべき事は無い。ただその一方で、出来過ぎてる、と言う疑念を消せずにいた。
森で喧嘩別れした俺の前に、追い詰められた少女が1人。それを助けた俺は、その少女と行動を共にする事になる。
「あの、それで1つお願いがあるんですけど」
「ん、何だ?」
「私、イゴールさんについて行っても良いですか?」
やっぱりか。
アミリアは上目遣いに俺を見て、体を寄せて来た。貧相な体を俺の右腕に擦り付ける。
俺はどこか惨めな気持ちになり、居た堪れないものを見る様にアミリアを見下ろした。
「俺は里帰りするつもりだから、着いてきても何も無いぞ」
「構いません! それまで私を鍛えて欲しいんです。もう2度と、あんな危険な思いはしたくないので」
少女が口を開く度に猜疑心は膨れ上がっていく。
「はあ、好きにしろ」
「ありがとうございます。イゴールさん!」
が、敢えてその誘いを受ける事にした。アミリアに裏が無いんなら、ただ後進の育成をするだけだし。もし裏がある様なら、身近に置いておいた方が都合が良い。
「イゴールさん、アミリアさん、準備が出来ました。どうぞ、こちらへ」
受付嬢がやってきて俺達に声を掛けた。案内に従い受付の奥の扉に入ると、広々とした裏庭に通じていた。
能力の再測定はここで行う。具体的に言えば、俺は運動能力を、アミリアは魔力を見られる。
「イゴールさんはここでお待ち下さい。アミリアさんはこちらへ」
俺は軽く顎を引いてアミリア達を見送った。
「おお、イゴールか。久しぶりだな」
「ああ、今回の立会人はお前だったのか、トール」
「聞いたぞイゴール。四大魔将を倒したって?」
その男は、半裸で筋骨隆々の上半身をこれ見よがしに強調して来る。
トールは俺達がミリシアになった時に色々教えてくれた、平たく言えば先輩だ。
「ああ、けど奴の呪いを受けたせいで今じゃ加護を使えないんだ。おかげで勇者パーティもクビになった」
「はあ? クビ?」
トールは2つに割れた顎を摩りながら、明後日の方を見た。
「……まあ、お前らも色々あるんだろうなあ。そうだ! 今、スカーレットもこの街にいるんだ。呼ばせようか?」
「いや、別に良い」
「何だ、お前ら喧嘩でもしたのか!? 仲直りは早い方がいいぞ! 先輩からの忠告だ」
トールは一々大きな身振りで、ビシッと俺に人差し指を突きつける。
俺とレオンとヘスは隠者の里と言うところで一緒に育った幼馴染だった。レオンが勇者に選ばれ、俺達が加護を受け取りに行った時、偶然居合わせたのがスカーレットだ。それ以来、何度か仕事を一緒にこなした仲だが、今は無闇に知り合いに会いたくは無い。
「言われなくても分かってる。でも、先にやらなきゃいけない事が沢山あるんだ。ほっといてくれ」
トールは嘆息を吐くと短髪の頭をボサボサと掻いた。
「全く、頑固な奴だ。さて、それじゃあボチボチ、テストを始めるか」
その後、短距離走、跳躍、槍投げ、スパーリングをこなした。それをトールが事細かに評価して羊皮紙に書き込む。
最後に持久力のテストで、俺は限界まで裏庭の外周を走り回った。力を使い果たし、地面に倒れ込むとトールがノシノシと歩み寄って来る。
「テストはこれで終了だ。それにしても本当に弱くなったんだな。レオンがお前をクビにするのも無理はない」
「ハァ、ハァ、るっせーよ。記録見せてくれ」
トールは呆れつつも羊皮紙を俺に差し出した。
短距離走:B
跳躍:B
槍投げ:C
スパーリング:A
持久力:B
総合ランク:B
「ハァ、ハァ。まじかよ」
俺は一言だけどうにか絞り出した。呪いを受ける前までは、全ての項目でSランクだった。実際に戦ってもレオンより強い自信もあった。しかし、今はこのザマか。
「まずは呪いを解いた方がいいんじゃねえか? ミリシアとしちゃ中堅の上位レベルってところだが、四大魔将とやり合うにはまるで足りてない」
「解きたいのは山々だけどな、ヘスですら手も足も出ないらしい」
「何だと!? 全く! 敵ながら天晴れな奴だな、ジグ何某とやら」
「はあ、はあ、どう言う意味だよ……?」
俺は渾身の力を込めて、上半身を持ち上げた。トールが大笑いしながら口を開こうとした時、その背後で爆発が起こった。
「なんだ!?」
飄々としていたトールも言葉を失う。煙が立ち上っているのは、確かアミリア達が入っていた部屋だ。
立ち尽くす巨漢の視線の先で、咳き込みながら少女と受付嬢が広場に逃げ出して来た。
「おい! 大丈夫か? 何があった」
トールは2人に駆け寄り、部屋から距離を取らせ尋ねる。
「そ、そのアミリアさんの魔力を測定していたんですが、測定器が爆発して……」
それを聞いて再び俺とトールは言葉を詰まらせた。
測定器の故障……? それとも、アミリアは……。
俺は何とか立ち上がり、3人にヨロヨロと近付いた。
「測定の結果は?」
おずおずと差し出された受付嬢の手から羊皮紙を受け取り、俺はその結果に目を剥く。
知識:B
魔力量:F
魔力操作:F
魔力純度:
総合ランク:
魔力純度が空欄と言う事は、爆発はコイツを測定してる時に起こったんだろう。受付嬢は座りが悪そうに肩を縮めていた。
「トール、やっぱり気が変わった。スカーレットに会わせてくれ」
俺は明らかに異常な結果を記した羊皮紙から視線を外さずに、口だけを動かした。
面白いと思ってもらえたら、感想など欲しいです。
励みになります。
24種の言語で、ありがとう、って言います。




