んー、リザルトスコアで言うならBランク
本日二話目です。
感想、ポイント、ブクマありがとうございます。
やはり反応があるととても励みになります。
俺は、誰かを抱えていた。
何かを叫び、必死に抱きしめていた。
泣き叫ぶ俺の手の中から、サラサラと銀色をした命がこぼれていく。
あぁ、だめだ。救えない……。
キュリ……いや、これは……
「あきら……」
そこで、目が覚めた。
夢……か。
そうか俺はあのまま寝てしまって――
……なんだ?
起きようと思い目を開けようとすると、まるで膠で張り付けたかのように瞼が開かなかった。
え、何? 何? あ、そゆこと?
「ん……」
少し力を入れれば、ぺりぺりと目尻から張り付いた瞼がはがれていく。
比喩なんかじゃない。
文字通り、俺の瞼は固まってしまっていたらしい。
体を動かせば、バリバリと言うなにか薄い煎餅のようなものを割った時のような音と感触がした。
どうやら俺は、ドロドロの血や粘液が固まるほどの長時間寝ていたようだ。
「う……あぁ……体が痛てぇ……」
若返った体だというのに、口からはおっさんのような言葉が漏れる。
固い床で寝ていたせいでバキバキに固まってしまった体を解しながら、俺はしばらくボーっとしていた。
薄暗い中、まだどこかから鐘の音のようなものがずっと響いているように聞こえる。
耳鳴りがしているのだろうか。
そんな部屋に座り込み、カリカリとこびり付いた汚れを剥がしながら自分の体を確かめていく。
うーん。今のところ、どこも不調は見当たらないようだ。
扉を見れば、死肉の浸食は見られない。
まだしばらくは安全そうだが……。
ただ、何度見渡してもその場には俺一人しかいない。
「……また、一人か……」
やっと目が覚めてきた。
色んな意味で、だ。
……はぁ、でもまぁなんか思いのほか平気そうだな。
もっと凹んでるのかと自分で思ってたけど、ぶっちゃけ何も考えてないんじゃねってくらい普段通りだ。
キュリ達のことを考えてもそれほど心を痛めていない自分に、ちょっとだけショックを受けた。
色々経験しすぎて図太くなったのかもしれない。
もしくは、号泣したことで何かのスイッチが切り替わったのだろうか。
状況が過酷になればなるほど、過去の自分を失う代わりに動じない心へと入れ替わっている気がする。
それはどちらかと言えば、いい傾向なんだろう。
いつまでもうじうじ引きずったり恐怖に固まっててこの世界を生きていける気がしない。
ただ、それだけ人を思いやる気持ちが薄れているのは、日本での自分を失っているようで気持ちが悪い。
……絶対に、晶は救って見せる。
それが、姿が変わった俺が、前世の俺でいるための目標だと思っておこう。
森で鍛えたメンタルの調子が出てきた気がするな。そういう意味でも目が覚めたって感じだ。
「こんな世界だ、受け入れて行かなきゃいけないんだろうけどな……。よしっ! とりあえず自分が死なないことを考えるか」
こんな時、とげぞうが居ればきっと慰めてくれたのにな。
どこいっちまったんだよとげぞう。あぁ、お前に会いたい……。どこかで元気にしてくれているだろうか。
そんなことを思いながら、俺は自分の膝を叩き気持ちを切り替えると肩掛けのボディバッグの金具を外した。
あの最狂の宴に巻き込まれたのも、キュリ達と関わってしまったのも全てはこれを取りに行ってから始まったんだ。
まずはこれをチェックしないと何も始まらない。
とにかく俺は生き延びたんだ。
素直にこれを喜び、次につなげよう。
「頼むぞ……。何か入っていてくれよ」
俺は祈るようにしてバッグを開いた。
あぁ、この気分。何かに似てると思ったらわかったぞ。
ドキドキワクワクの、リザルト画面って奴だ。
「んー……」
バッグを奪われた時にチラリと見えたように、中身はそれほど大して変わっていない。
各種の種や塩、大王ダンゴムシの甲殻など色々とガラクタのように見えるものがパンパンに入っている。
今となっては懐かしい、太古の森での大事な戦利品たち。
そういえば、牙の槍は平原に落としてきてしまったんだろうか。ユニコーンの角やジョセフィーヌの髭も無い。
あと無くなったものと言えば、熊肉の干し肉に、緑の宝石、それに地雷栗だ。
最後の地雷栗が上手くいって本当に助かったが、あれで使い切ってしまった。あの手が今後使えないのは痛い。
「どこかで補給できればって、よく考えたらあのおっさんの武器もバッグの近くにあったんじゃ……うわー、マジ失敗した」
せめてあの剣があれば、最悪自分の身は守ることが――出来ないか。
武器でどうこう出来る化け物じゃないだろう。
万が一にでもどうこう出来るといえば、せいぜいゾンビっぽいあの化物たちくらいのものか。
……結構でかいな。だが手に入らなかったものは仕方ない。
「ああいうのがSランク報酬って奴?」
ゲームで色々失敗したから報酬減っていくってこういう事なんだろうな。
キュリ達救えてたら、また違ったんかな?
「いや、その理論で言えばおっさんとあそこで死別した時点でルート分岐か……。ってなんでゲーム思考なんだよ」
ついつい、ファンタジー世界に居ると思うと考え方の基準がゲームになってしまうな。
どっちかっていうとホラゲーか?
まぁそれもいいだろう。考え方の基準としてはある意味正しいのかもしれない。
人間、理解できないものと出会ってしまえばそれに近い物で物事を考えてしまうもんだ。
ハロウィンとお盆、鬼と悪魔、魔法と祭事、宇宙人と外国人、UMAとお化け、なまことう○こ。etc……
人類の進化ってのは、概念の拡大だという事だね。
少しずつスライドして考えて行けば、柔軟に考えれるもんだ。
獣を人型にスライド→化け物になった→よし女の子にしよう。戦艦→人型→あれ、ロボットじゃね?→よし女の子にしよう。城→人型→もうよくわからんけど女の子にしよう。
最後に行きつく先が、大抵女の子な日本人の闇の深さよ……。最近じゃもはや名前が一致するだけで特徴ゼロでも納得してしまうレベルだしな。
概念スライド恐るべし。
そういう意味では、対応力の高さで言えば日本人最強説……?
おっと、思考が逸脱してしまったようだ。
次に取り出したのは、問題のメモ帳。
このメモ帳は、バッグの中でも特に水にぬれても大丈夫なようにしてたから血で濡れるようなこともなかったようだ。
あの男がチェックした後に乱雑ながらももう一度包み直してくれていて助かった。
中身をぱらぱらとめくれば、汚い手書きの文字で太古の森でのサバイバル生活のメモが書きなぐられている。
なつかしいな。雑草食って体がしびれた時の話とか書いてあるわ。
そしてその、終わりの方。
「……見たことない文字だけど、読めるな」
ビンゴだった。
手帳に、俺の書いた記憶の無いものが載っている。
それほど多くない文字で、じっと見つめるとよくわからない文字の上に翻訳の文字が浮き出てくる。
いつか太古の森で見たあの日記と同じ現象だ。
よし、よしよしよし。
これで何かが少しでもわかるかもしれない。
自然と、俺は拳を握りしめて小さくガッツポーズを作っていた。
「えーっと……」
『ゲンへ。これを読んでいるという事は、あなたが目を覚ましたという事でしょう。そこに居る者に、全てを話してあるはずですが、念のために此処にあなたへのメモを残しておきます。時間が無いので細かい話は割愛しますが、あなたの左腕は、粘筋と同じ性質を持っています。つまり、あなたの左腕ならば彷獄獣の核を壊すことが出来る筈です。アウラの吸収が出来ない危険極まりない場所ですが、その腕が私たちの希望。どうか、私たちを救ってください。そこに居る者が、あなたを教会まで導いてくれます』
…………。
「誰よ?」
え、これ俺宛だよね?
あ、一番最初にゲンへって書いてあるわ。
いや、いろんな意味で誰よ? そこに居る者って誰? そして、手紙書いたのも誰?
これがちゃんとした手紙だったら、差出人不明で返送されるぞこんなもん。
「ふー……ん……」
まぁ、色々情報としては読み取れるか?
どこの誰かしらんが、物まねしてたら晶に「すごいや日本の古畑任○郎だよ!」と呼ばれた俺への挑戦状として受け取ってやろう。
「えー、つまり、俺が起きた時に説明役が居るはずだった。……おっさんか? いや、でもおっさんそんな雰囲気なかったし……あの白骨死体? まぁ、どちらにしろ情報は聞けてないからここはスルーでいいだろう。とりあえず俺は捨てられたわけじゃないらしい。はい、次」
いきなり左腕の話になってる。
つまり重要なのはここか?
「左腕……そういえば、死肉を枯らす力があるのも左腕だ。この手が……?」
あの死肉が枯れていく現象って一体何なんだ?
最初の部屋から出るときも、屋根から降りるときも腕が熱くなって急に枯れるようにして死肉が干からびて行ったんだよな。
だから、なんか自然に出来るもんだと思い込んでここの扉も開けたわけだけど……それもおかしな話だな?
緊急事態だからって、そんな意味の分からない現象自分で起こしてるなんて思うか?
そもそも、なんでそんな力が俺に?
だいたい、俺の左腕無くならなかったっけ?
なんで生えてんの?
「わからん。なんか気持ち悪いけど、とりあえず置いておくか。はい、次」
粘菌……粘筋か。ってなんだよ。左腕の話から推理すると、死肉の事か?
んで彷獄獣ってのは、キュリが言ってた獄夢に住む化け物のことだったっけ……核?
やべぇ全然わからんけど、とりあえず俺の左腕があればあの化物を殺すことが出来るって事? どうやって?
「うーん……結局、教会に向かわないとダメだって事なんかな……」
結局さっぱりわからん。割愛しすぎて全く情報が足りてねぇよ。
救ってくださいってのは、ピンチなのか?
むしろ俺の方がピンチなんだけど?
全然わからんことだらけだよ。
そもそも、転生で声質変ってるせいで最初の「えー、」の時点で物まね失敗してたわ。
そりゃ推理もうまくいく訳ねぇ。
「それにしても、一番大事な情報が無いってどういうことだよ。ってか文章書けるならもうちょっと情報のこせってんだよ」
まぁ、その情報を持ってるはずの人間が居ない、もしくは死んでることが想定外なのかもしれんが……。
残念ながら、いくらページをめくってみても、それ以外に書かれていることは何もなかった。
最近のゲームのうっすい説明書の方がまだ情報載ってるぞ。ほとんどが説明書っていうより広告みたいなもんだけどな。
WEBにあとは載ってるからって言われても、あんなもんWEBで見ようと思わないし。
会社の方もいい加減見られてねぇなと気づいたのか、最近じゃチュートリアルがくっそながかったりして本末転倒なことになってるけど。
「とにかくだ……。俺はここを生き抜いていかなきゃならんのだろうな」
得られた情報を、整理しよう。
1、化け物に汚染された街に、一人で放り出された。めちゃくちゃヤバいところらしい。時々人が降ってくるが、そこは危険。
2、助けは期待できない。なんか俺に助け求めてきてるし。
3、体は弱体化し、あんな化け物と戦える気はしない。腕ほっそい。
4、せめてもの救いとして、一応何かしらの力はあるらしい。力の検証が必要だ。
5、アウラの吸収が出来ないらしい。確か身体強化に必要な奴だよな? この世界で強化できないとか終わってね?
6、目的地は教会だが、化物に囲まれている。そこまで向かう方法を見つけなければならない。案内人は、おそらく死んでる。
7、腹が減ってきた。部屋の片隅に湧き水っぽいのはある。
それは、第二のサバイバルの始まりを予感する物だった。
もしものリザルト一覧
Sランク:おっさんを一対一で打ち負かし、主導権を取れ。そのままキュリ達を救い教会へ到達だ。
(報酬:おっさんのグレートソード)
Aランク:キュリ達を救い、拠点へ逃げ込め。二人の生存が条件だ。
(報酬:キュリの髪飾り)
Bランク:生存して拠点へ逃げ込め。
(報酬:ボディバッグ共通)
Cランク:死んだら何か話は進んだかもしれないが、もちろんほとんどバッドエンドルートだぞっ。
(報酬:称号何もなせない男)
恐らくこんな感じ。
出典:大丈夫?○通の攻略本だよ?