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蜜美の泣き顔を見た日。
あの日以来、すこしずつギターに触る時間が増えている。
ベッドに腰かけ、アルペジオをつま弾いて響はため息を零した。
頭によぎるのは蜜美のことばかり。
ぼんやりと蜜美を考えながら、オリジナルの音色を奏でている。
作曲には、いつもそのとき、そのときの響の心が反映された。
好きな女の子のこと。
友達のこと。
なにか大きな出来事があると、それは曲に色濃くどろっと溢れる。
いま、指先が作り出しているどことなく切なくて悲しげなメロディーは、蜜美を想いながらのもの。
(さみしげで、儚くて。小さな身体で)
それなのに強がって、折れぬようにと気を吐いている。
(本当は弱いのに)
見せられた涙。
吐かれた激情。
カフェに来る少年たちに虐められていたのとは関係なしに、いま思うと、蜜美ははじめからどこかおかしかった。
母親が籍を入れるときに、紹介がてら家族で食事会をした夜を思いだす。
蜜美は中学三年生で、あの同級生たちとはまだ知りあってもいない。
それなのに、やっぱりつんけんしていて、とっつきにくかった。
最初は初対面だから人見知りしているのかと思ったものだ。
しかし、響が実家に戻ってきてこうして同居生活をはじめても、いっこうに態度は軟化しない。
響だけでなく、両親にもそうだし、学校でもあんな調子だとは。
だれに対しても、頑ななのだ。
「心を開いてほしい……君にどうか……笑ってほしくて——……」
響の想いは歌詞となり紡がれた。
まだ誰も聞いていない、響だけしか知らない曲の。
(でも、俺は……兄弟だからそう思うんじゃなくて)
弦へと腕を振りおろしながら、響の表情はすこしばかり歪む。
義兄として蜜美に望んでいるというよりも個人的に望んでいる。
蜜美という強張ってさみしげな一輪花が、ほころぶことを。
(あんな泣き顔見せられたら。たまんねえ)
いや。
きっと最初から惹かれていた。
母親に紹介されたときから。
可愛い顔だちをしているくせに、可愛げのない態度。
少女のように小さい背丈。
決して合わせてくれない目線。
笑えばきっと華やかなのに、いつもツンとしてゆるむことのない表情。
凛々しいのに、切なそうで。
蜜美という危うげな存在に一目惚れし、心を射止められてしまったはずだ。
母親の再婚後すぐに、バンドのことでゴタゴタがはじまり、蜜美のことなど考えているひまも余裕もなくなってしまったけれど。
いまはっきりとわかった。
一目惚れしていたんだと、気づいた。
「君に……恋をしている——」
歌詞に乗せる気持ち。
くちびるを閉じて、シャラン、と最後にかき鳴らして演奏をやめたとき。




