第十四話 水 着 回
―――暑い…いや、熱いよ……。
ジュージュワワァァーと、熱された鉄板の上で肉と野菜が舞い踊る。そこへソースをかけ、さらに炒める……。ソースの香りが食欲をそそる頃合いで、手を止めた。
「……よし、こんなものかな?」
焼きそばを紙皿にのせると、ビーチパラソルで優雅に寝転んでいるアオの元へと持って行く。
「アオ、出来たよ」
「優斗……たこ焼きも食べたい……」
「たこ焼き?う~ん、材料はあるけど、作ったことないよ……とりあえず食べて」
「……うん……あーん」
アオの口元へ焼きそばを近づけると、モグモグと両頬を膨らまして食べた。
「どう?美味しい?」
「……美味」
遠くでキャッホーイ!と大声を上げ、クロとモモが遊んでいる。アオの隣にはミドリが大人しく座っていて、もう一つのパラソルの奥の方で、オペ子とキイは何か喋っているようだ。
―――そう、ここは無人島のビーチ海岸。
何故こんな事になったのか……それはクロのくだらない提案から始まる。
今からさかのぼる事、3時間前―――
「DM軍よ、よく聞けえ! ワシらはこれより、海水浴へ向かう事にする!」
「クロ司令、どういうことですか?今からですか?」
「オペ子よ! よくぞ聞いてくれた! 水着回、水着回じゃ! アニメでは水着回は鉄板じゃけえの! ワシらもそのビッグウェーブに乗っかろうぞ!」
「……一人で行ってください。私は敵の分析などで忙しいので」
「ダメじゃダメじゃ! 全員で行くぞ! 水着回のないアニメなんぞ、ゴミじゃ! クズじゃ! カレーライスのカレーのないライスのようなものじゃ!」
「司令! 全世界の水着回の無い、アニメや漫画に謝罪してください!」
「ええから行くぞ! 準備せえ! キイ、途中で優斗とミドリを回収せよ!」
「御意」
―――と言うわけで、僕たちは登校途中に襲われ、ヘリでビーチへと到着した。
……たこ焼きか。挑戦してみるかな? プレートもあるし。その前に焼きそばをみんなに食べてもらおう。
「ミドリ、焼きそばだよ? 食べる?」
〈……た……べる……ザー〉
焼きそばを口元へ差し出すと、ミドリはパクンと紙皿ごと食べた。
「どう?美味しい?」
〈ザー……うま……う……ま〉
食べさせ終えると、オペ子とキイのパラソルへ行く。
「……だなオペ子、新型兵器の開発状況はどうだ?」
「ええ、バンダイには要望は送ってるのですが、現代の科学では無理な所もあるようです。うちの技術開発班からも……」
「ねえ、キイ、オペ子。焼きそば作ったんだ。食べない?」
「片山優斗か。邪魔をするな」
「優斗さん、ありがとうございます。頂きますね」
オペ子は焼きそばを手に取り食べ始める。
「美味しい!キイさんも食べましょうよ!美味しいですよ?」
「……毒など盛ってないだろうな?」
「そんなの盛ってないよ!」
僕の焼きそばは、意外と好評みたいで、余る事なく完食となった。
「ぷひゃー! 遊んだのう! 遊んだのう! モモ! 少し休憩するけえ!」
「はわわ~疲れたヨ~」
浮き輪とシュノーケルをひっさげたクロと、ピンクの水着を着たモモが、パラソルへと戻ってくる。
「ぬ?なんじゃ?この匂いは?」
「クロ、焼きそばを作ったんだ。次はたこ焼きに挑戦するから食べてよ」
「ふ、ふ、ふじゃけんじゃぁあー! 優斗よ!焼きそばじゃと? 焼きそば作るならお好み焼き作れや!」
「……作り方わかんないよ」
「ワシのカアチャン直伝! 広島のお好み焼きじゃけえ! 見とれや!」
……クロは頭にタオルを巻いて、お好み焼きを作り始める。
僕も負けじと初めてのたこ焼きを作る事にする。
ええと、生地って小麦粉だっけ? 薄力粉だっけ……?
携帯で作り方を探し、不器用な手付きで何度か失敗しながら、なんとか完成した。
……少し形が変だけど……美味しいかな?
軽くソースをかけて試食してみる。外はパリパリで中はしっとり、口の中でタコの歯ごたえがとても美味しい。
「出来た……たこ焼き完成!」
「ワシも出来たぞ!肉玉そばW!トッピングにイカ天とエビ、チーズを添えて…じゃ!グハハハハ!見よ! この素晴らしき料理を! グルメの雄山もビックリじゃけえ!」
「へー、これが広島風お好み焼きかあ。美味しそうだね」
「優斗よ、勘違いするでない、〝広島風〟ではない、〝広島の〟じゃけえ。覚えとけ!」
どうでもいいし、どっちでもいい……。ともかく、みんなに食べてもらおう。
「みなの者! 集合せよ! これから宴を始めるけえの!」
「あ……クロ、アオはこないと思うから、先にたこ焼きを持って行くよ?」
「ほうか、お好み焼きも持って行くがええ。それと、どっちが美味いか聞いとけ」
「……え? なんで?」
「そりゃ、グルメ対決は鉄板中の鉄板じゃろうが! 優斗が負けた場合、一週間ブンドドに付き合ってもらうけえの!」
……そんなの、いつもやってる事じゃないか。
「でさ、僕が勝ったら?」
「そうじゃのう……。モモと一緒にお風呂に入れる券と、ミドリと一日デート券を進呈しよう。無論、その日は有給じゃけえ、しっぽりと楽しむがええ!」
なんだって? ミドリと一日デート? これは負けるわけにはいかない! ミドリとデートかあ……考えただけでもワクワクする!モモの券は使わないけどね。
「クロ!絶対に負けないよ! アオの所に行ってくる!」
僕はたこ焼きとお好み焼きを持って、アオの居るパラソルへと向かった。
「ふはっ! ワシの実家は、広島で一番美味いと呼ばれておるお好み焼き屋じゃけえの。負ける理由などないわ!グハハハハ!」
すぴー……すぴー……。アオ、寝てるし!
僕はアオの肩を軽く掴み、身体を揺する。気持ちよさそうに寝てるから、起こすのも気が引けるけど。
「アオ、アオ? 起きて。たこ焼き出来たよ?」
たこ焼きに反応したらしい、パチリと目が開く。
「あ……あ~ん」
僕はたこ焼きをアオの口へと運ぶ。少し食べたところで、
「……あふい……あふい」
アオは注射を我慢している子供のように、涙目で訴える。
僕はたこ焼きを冷ますため、フーフーと息をかけた。
「アオ、ごめんね。これで大丈夫だと思うよ?」
パクリとたこ焼きを食べたアオは「……美味……美味」と幸せそうに答え、たこ焼きをまた催促し、すべて食べてしまった。
……そうだ、クロのお好み焼きも食べるかな?
「アオ、お好み焼きがあるんだけど、食べる?」
「優斗……お腹いっぱい……オレンジ……」
「飲み物だね。持ってくるよ」
お好み焼きはここに置いておこう。お腹が空いたから僕が食べてもいいよね。
ジュースを取りに行くと、たこ焼きとお好み焼きは全部無くなっていた。
「おお! 優斗か! どうじゃったかの? アオの感想は!」
「う、うん。とても美味しかったって言ってたよ?」
「ほうか! やはり広島のお好み焼きは世界一じゃのう! む、そうじゃ! 世界各、DM支部の主食にしてやろうかの?グハハハハ!」
「それで……勝負はどうなったの?」
「ワシの圧勝じゃあ!ぬははは!」
クロは、満悦な笑みでふんぞり返る。
「……3対2でギリギリですよね? 私はたこ焼きの方が美味しかったんですけど?」
「オペ子! だまっとれや!」
口論が長引きそうなので、早々とアオの元へとジュースを運んだ。
のんびりしているアオを見ながら、僕はクロのお好み焼きを一口食べた……美味しい! とても美味しい! あっという間に全部食べてしまった。
お好み焼き、美味しかった。僕はクロに一票入れよう……クロ、君の勝ちだよ。
―――DM軍は昼食を終えた頃。クロは目を輝かせ、遊びのお題を出してきた。
「アオとモモはイカロス砂浜バージョンを作れ! ワシと優斗は、VS剣道スイカ割り対決をする! 終了後、みんなでピンポン玉ビーチバレーで遊ぶぞ!」
VS剣道スイカ割り対決ってなんだよ……。ピンポン玉?
「うむ、それではキイよ、スイカをここに設置せよ」
「御意」
キイはスイカを砂浜へ置くと、どこかへ行ってしまった。
「それでは優斗よ、これを持て!」
剣道の竹刀を持たされ、僕は途方に暮れる。
「ねえ、クロ。目隠しして、スイカを割るんじゃないの?」
「そんな無防備な事出来るわけなかろう!よいか、優斗よ。目隠しなんぞエロすぎじゃけえの! 堂々と騎士道精神に乗っ取り、スイカをどちらが速く割るか勝負じゃ! 一子相伝の奥義! この、幻影ソードを見よ!」
……たんなる竹刀じゃないか。よし、決めた。さっさと終わらせよう。
「よし! 一瞬が勝負じゃけえの! 構えよ!」
僕は竹刀を振り上げ「えいっ」とクロが構える前に、思い切り竹刀を振り下ろした。
パーンッと……スイカはあらぬ方向へ粉々に飛び散った。
「わっ!」
「ぬわあああぁ! ……ふう、み、見たか! 優斗よ! これが幻影ソードのなせる技じゃ!」
はあ…びっくりした……。今、クロもびっくりしてたよね? まあ、いいか。
「クロの勝ちでいいよ。でも、これじゃスイカ食べれないじゃない」
―――後方80メートル。
「片山優斗め! フライングとは卑劣なヤツめ! 次こそは必ず仕留めてやる!」
ケースにライフルを収めると、キイは草むらの中に消えた。
「クロ司令ー! お砂のイカロス作るの、手伝ってくださいヨー!」
「まだ完成しとらんかったんか! しゃーないの。ワシも手伝ってやるけえ!」
クロは両手を突き上げ「よっしゃー!」と雄叫びを上げ、手を振るモモの元へと行ってしまった。




